俺は褪せ人に現状「同志」がどこまで動いているのか聞いてみる。彼が言うにはこうだ。
まず塔の街ベルラートを突破し、エンシスの城砦を迂回したようだ。ベルラートの中には、ミケラの十字があり、彼の左腕が棄てられていたらしい。青海岸という、俺がまだ行ったことのない場所には「迷い」が棄てられ、エンシスの城砦を抜けた先の地には「瞳」が棄てられていたと。
俺は、肉体と感情を棄てていくミケラに恐怖を感じた。それらは、自身を構成する重要なものだ。このまま何もかもを棄てていったら、ミケラには何が残るのだろうか。
また、「同志」たちは火種が必要だと考えている。褪せ人は言う。同志を纏め上げる「針の騎士、レダ」は、十字の近くに文書を残し、ミケラの後を追う方法を次々に探し出しているそうだ。
悠長にしてはいられなさそうだ。俺は、褪せ人の分かりやすい説明に感謝を述べた。
俺は礼として、指遺跡で手に入れたタリスマンと、影の地のルーンを褪せ人に手渡す。そして考え込んだ。ユミル卿がくれた地図にある「奈落の森」に行って、メスメルを助けられるだろうか。想定より動きが早すぎる。やはり隠れてもらい、時間を稼ぐべきか。
うんうんと唸りながら考えていると、俺の体が震える。何かが俺を呼ぶ声がする。いや、俺を通して呼びかけているようだ。厳密に言えば、この大教会の下から。
褪せ人が不思議がっているので話す。不可解な音が俺を揺さぶっていると。そのとき、ユミル卿がこちらに戻ってきた。そして様子のおかしい俺に首をかしげる。俺はユミル卿に、褪せ人と同じ話をする。
「戦士の壺さん、どうされたのですか…?」
「呼ばれている。いや何かに呼びかけているのだ…。ユミル殿…隠していることがあれば、今言ってほしい。この大教会の下に、何がいる?」
「…お二方にお願いしたかったことです。お話しします、指の母について。」
自身が指の母に成り替わる。ユミル卿の執着の果てに辿り着いた目的だ。彼はこの大教会の下に、その指の母に繋がる遺跡を隠していた。俺は納得した。俺の体は、指の母メーテールによって揺さぶられているのだ。
ユミル卿は妄執の霧が晴れた後でも考えていた。やはり、指の母は壊れたままではいけない。そこで思ったのが俺の光だそうだ。メーテールを直せば、大いなる意志からの指令が、再び示される可能性はある。
褪せ人はユミル卿の話を聞きながら、指殺しの刃と、ある武器を思い起こしたらしい。褪せ人はそれを取り出した。指輪指だ。
俺は色物武器と認識していたそれを見て、息をのんだ。そういえばこれは、ユビムシの祖から切り取られたはずだ。メーテールの体の一部である可能性は高い。俺は褪せ人に、それを渡してくれないかと頼む。
褪せ人は必要な物ならと、俺の手に置いた。沢山の指輪によって鬱血しているが、生が少し残っている。俺は指輪を外すと、粒子を纏い掌で触れた。びちびちとそれは蠢き、一つの生命体となる。小さいユビムシに似て、頭のようなものがある。頭に見える部分は、指紋のある指だ。そのぴんと立った指の中心には、小さな粒がある。これは目なのだろうか。
「指の母、ではありませんか…!こんなにも小さい…。ですが、尾がないようです。」
ユミル卿は言葉を詰まらせながら、指輪指だったものの変貌ぶりを観察する。ユミル卿曰く、メーテールには尾指という器官があり、そこが捧げ持っている小宇宙から大いなる意志の波動を受信しているのだそうだ。ならば、この小さい指の母は、最も大事な部分が欠けているということなのだろう。
褪せ人はただの武器が、生物に様変わりしたことに固まっていた。俺も同様だ。俺の粒子と、指の母という存在のどちらもが摩訶不思議にもほどがある。
こう話し込んでいる間にも、俺の体には激しく振動が伝わっている。俺はユミル卿に遺跡への道を開いてもらうように言う。指の母が何を望んでいるのか分からないが、こう体を揺さぶられたら応えるべきだと思うのだ。そこまで時間はかからないだろう。
俺は褪せ人に尋ねる。ラニは二本指の支配を嫌い、殺していたはずだ。それでも協力してくれるのかと。
褪せ人は俺に返す。自分には強い憎しみはない。治すことでデメリットもないため、助けになると話してくれた。
俺は褪せ人の善さに安堵した。褪せ人はその後、ラニから叱りはあるかもしれないと呟いていたが。
「お二方とも…指の母にお気をつけて。そして、癒してください。古い冒涜によって傷つけられた、彼女の苦しみを。」
ユミル卿は、いつも座っている椅子の足元を押す。すると、椅子がスライドし四角い穴が表れた。その下には大きな空洞が広がっている。しかし少し入口が狭いようだ。俺は見送る気になっているユミル卿に体を寄せる。
「ユミル殿、これでは通れないのだが…。少し強引な手を使っても良いだろうか。」
「ああ…。お手柔らかに…お願いしますね。」
俺はベールの炎雷を纏った拳で、椅子の近くを殴りつける。穴は強い衝撃によって不格好に崩落し、通れるほど大きくなった。申し訳ない気持ちでいっぱいだった。
俺は、小さい指の母を壺の蓋に乗せ、下に降りていく。褪せ人も俺に続いた。
地下の指遺跡は、一本道であった。俺たちは並んで、吊り鐘の下へ急ぐ。穴石のネックレスを受け取った褪せ人が、兜を被りながら吊り鐘に顔を近づけ、そして低い音を鳴らした。
ぼうという音が、地下全体に響き渡る。気づけば俺たちは、指を象った石が不規則に水場から生える場所に移動していた。そして奥には、俺が今蓋に乗せている異形にそっくりなものが佇んでいた。
そして、俺たちに気づくと頭部らしき指から光線を放ってくる。意味が分からない。ここに呼んだのは、指の母ではないのか。俺は褪せ人と二手に分かれ、その光線を躱すと、彼女に呼びかけた。二本指は言葉を発しないが、褪せ人を王にしようとしていたため、人の言葉は分かっていただろう。ならその母も、理解できるはず。
「指の母よ!俺は戦士の壺!貴殿がここに俺を呼んだはずだ。何故攻撃する!」
指の母はゆっくりと近づいてくると、胸らしき部分から液体を噴射して飛び跳ね襲い掛かってくる。もしや、言語の判断さえできないほど壊れているのか?
盾を構える褪せ人に謝りながら、俺は腕に粒子を纏わせる。
「すまない、褪せ人殿!何とか凌いでくれ。俺が指の母を直すまで!」
褪せ人はこくりと頷き、黄金樹の大盾を構えた。ヘイトを引き付けてくれるようだ。俺は掌で、メーテールの傷つき黒ずんだ傷跡に触れる。するとそこからは指が生えてきた。もしや切り取られた部分なのだろうか。俺はどんどん傷がある場所を治していく。
しばらくメーテールは、頭指の叩きつけや、光線で攻撃してきたが、俺が傷を負わせず器官を回復させているのが分かったのか、大人しくなる。俺は、体の傷を治し、最後の仕上げとして尾指の再生を行うことにした。粒子を当てると、痛々しい傷が幾つも見られる尾指が元の形を取り戻していく。
治療にはとても時間がかかった。どの傷が彼女の故障に関わっているのか分からないからだ。
しばらくして俺は全ての傷の治療ができたと判断し、メーテールから離れた。すると、俺の体がまた大きく振動する。それに反応してメーテールがこちらを向いた。これは、誰から受けている振動なのだろうか?
この疑問の答えは、天から降ってきた黄金の柱が教えてくれた。指の管が破壊され、その光はメーテールを包む。そしてメーテールはふんわりと浮いていき、どんどんと天に向かっていった。
俺の中に、こちらをねぎらう情が流れ込んでくる。そして俺の掌に眩い光を残し、その光の柱はふっと消えた。俺は手に残る光から、理解した。
ああ、俺がこの影の地に送られてきたのは、このためだったのか。
この癒やしの力も、交信ができなくなったメーテールを治し、指令を伝えた上で連れ帰るためにあった。大いなる意志はこの地を見放したが、愛しい娘だけは回収したかったのだ。
俺はその光を体の中に入れ、その膨大な情報の渦を受け入れる。大いなる意志はもう二度と戻らない。ならばこの、最後に残していった意志の分け身を、有用に使ってやるのだ。この地のために、守りたい者たちのために。
大いなる意志の一部は、俺に途方もない時間の記憶と、世界の枠組みについての情報を与えた。俺の元々持たされていた力についての情報もだ。エルデンリングや律の法則が手に取るように分かっていく。俺はふと、金仮面卿もこのように法則を見出していたのか、と思った。頭の中で律を組み立て、作り直し、最善を探す内に俺は思考が浮上していった。
意識が戻ると、褪せ人と小さな指の母がこちらの様子を伺っていた。褪せ人に話を聞けば、光の柱が消えた後から、俺はずっと動かなくなっていたらしい。俺は先ほどまで情報の渦に囚われていたことを話す。そして、光の柱、つまり大いなる意志から受け取った力は、外なる神に由来するものに有効であると。それは律、腐敗、狂い火。この地の根幹をなすことについてだ。
褪せ人に話しておきたいことは湯水のように湧き上がってくる。しかしまずは、ワープさせられたこの場所から大教会に戻らなくては。俺は褪せ人と小さな指の母を連れ、金色の光で天を穿ち上昇した。
「大いなる意志の金色」…
大いなる意志が零した、己が力の一部
直視できないほどに光り輝いている
決して尽きることのない金色
為したいことを為すといい
この地へ永遠の別れを告げる、餞別の力
「指の母の残影」…
回収された、指の母の残像
本物に限りなく近いそれと、何度も戦うことができる
娘は自身が壊れていることに気づくこともなく、待ち思い続けた
だがその思いは、確かに届いていた
(倒すたびに追憶を入手できる)
戦技「金色の柱」…
戦士の壺(パチモン)専用戦技
光を突き上げることで、長距離を移動できる
大いなる意志が用いる、宇宙を旅する技術の一端