戦士の壺(パチモン)   作:棘棘生命

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目的

 指遺跡を通過し、大教会に開けた穴まで「柱」を使って移動する。あくまで直線移動であるので、どこに移動するかの判断は逐一必要な技術だ。しかし、これで移動時間の問題は解決できた。大いなる意志の分け身は万能である。

 光柱から姿を現した俺たちを、待っていたユミル卿が驚きながらも迎える。

 

 

「その光は…戦士の壺さんが出したものだったのですか…。」

「ユミル卿、少々複雑なことが起こった。紙を用意してくれないだろうか。褪せ人殿、話しておきたいことがある。こちらに来てくれ。」

 

 

 俺は壺巫女も招き、俺を含めた四人で話し合うことにする。ヨラーンとアンナは、あくまで護衛に従事すると言い、大教会の影に潜んでいる。

 俺は説明した。指の母がどうなったのか、光の柱は何だったのか。そして俺が得た力と、今後のことについて。

 

 皆は口を挟まず、じっと話を聞いてくれた。俺が話し終えると、ユミル卿が呟く。

 

 

「大いなる意志は、もうこの地を見ることはないのですね…。しかし、貴方に力を渡した。」

「ああ。指の母を治したことへの報酬だろう。皆喜んでくれ、褪せ人殿には少し話したが…残された力はこの地が抱える病を治すことにも使えるのだ。律も、腐敗も、狂い火も。おそらくだが…角人の蠅化も治せるはずだ。」

「では、指の母によって、壊された導きも…。」

「ああ、直すことができるだろう。大いなる意志によるものではなく、人が望む理へと変えていける。」

 

 

 俺は理について、簡単に紙に書き起こす。詳しく書けば百枚でも足りないのだが、表面的なことは説明できるだろう。

 ユミル卿は天を仰ぎ、口角を上げた。彼は言った。妄執の中であっても引っかかっていた部分がありました。それは大いなる意志からの愛。研究と調査をしていて考えたのですと。

 私が母に成り替わっても、大いなる意志が「指の母」を愛していたのだとしたら。その前提をおけば、私が準備してきた計画は崩れ去ることになる。その仮定が正しかったと分かった今、別の道が拓けたことに喜びを感じているのですと笑顔を向けて言った。

 ユミル卿は俺の手を握って言う。曇りのない真剣な瞳だ。

 

 

「戦士の壺さん…変えてください。このどうしようもなく壊された地の行く末を、どうか。」

「望むところだ。褪せ人殿…協力を願いたい。王となる、貴殿が必要なのだ。」

 

 

 褪せ人は、ラニの王になるにあたって、その後のことを考えていたと言った。ラニの、星と月、冷たい夜の律は、この地から遠ざけられるという。つまり王になれば、狭間の地から長らく離れることになる。自分は良いが、この地を生き続ける貴公らに対して何もできなくなるのは悩みどころだったのだ。

 この地をより良くできるのなら、協力する。褪せ人は真っすぐに俺を見て、手を差し出した。俺はその手を握り返す。

 ユミル卿は、褪せ人が魔女ラニの王になる、という話に目を見張っていた。デミゴッドを全て倒し尽くせる力を持っていて、デミゴッドの伴侶となる約束を交わした人物だとは、想像もつかなかったらしい。

 ユミル卿はユビムシを撫でながら呟く。

 

 

「ここが、新しい歴史の始まりなのかもしれませんね…ユーリ。」

 

 

 話し合いが終わり、褪せ人に話す。詳しい今後の動向だ。狂い火について、焼き溶かす性質の対策は目途がついている。性質を変えた上で、弱い火を増幅し、火種を作る方法も。あとは褪せ人とメリナがどう考えるかだ。

 

 

「褪せ人殿、話していなかったが、火種の準備は出来そうだ。奈落の森に潜む、狂い火。これを使う。貴殿が助けたい方は、忌避するかもしれない。しかしこれは、過ちではない。同行をお願いできるか。」

 

 

 褪せ人は俺の言葉に頷く。そして言った。自分は狭間の地で一時の受領を考えたこともあった。メリナにひどく戒められたため、狂い火の恐ろしさは身に染みて理解していると。

 褪せ人はだがと続けた。その貴公の話、信じてみるのも悪くない。狂えば、自分が介錯する。それで良いだろう?

 俺は力強く頷いた。黄金と狂い火。同じく外なる神の権能だ。そして知の部分では、大いなる意志に軍配が上がるだろうと、俺は確信している。俺は、メリナに話を通してみると言って手を振り、祝福に向かう褪せ人を見送る。交渉が上手く行くと良いのだがと、俺は祈った。

 

 壺巫女が俺の体に触り、話しかけてくる。その顔はひどく不安げだ。

 

 

「私にはそういった…大きなことは分からなかったのですが…。戦士の壺様。私や村の皆と、これからも時間を共にしてくださいますよね?」

「それは勿論だ。だが、影の地のみならず、狭間の地全体のことも考えたい。多くを救える力が手に入ったならば、それを有効に使いたいのだ。」

「ああ、良かった。戦士の壺様の手は、どこまでも伸ばすことができるのですね…。」

 

 

 大いなる意志からの力は凄まじく、いきなり俺の視野が広がったため、壺巫女は気になっていたようだ。俺たちはもう仲間だ。共に生きる家族だ。伸ばせる手が長くなっても、それは変わらない。

 

 

――――――――――――――

 

 褪せ人が祝福に座ると、影の地では初めてメリナと顔を合わせた。狂い火の話を聞いて、メリナも言いたいことがあるのだろう。褪せ人は、メリナを燃やしたくないと言った。

 

 

「…貴方。狂い火のおそろしさは、話したでしょう。例え火種が弱かろうと、全ての生と、その思いを喰らう混沌であることに変わりはない。」

 

 

 褪せ人はメリナの叱りを受けながら、続ける。狂い火の性質を変える方法を、あの戦士の壺は手に入れた。メリナも近くで見ていたのではないか。

 メリナはため息をつき、言葉を返す。

 

 

「…はあ。貴方が、どのような王になるつもりかは分かっている。道を踏み外すことはない。そう思っているけれど…。」

 

 

 褪せ人は押し切るチャンスだと思い、話す。当然、狂い火の王になるつもりはない。このような絶好の機会を逃したら後悔する。貴公は仲間だ。だから、使命に縛られ過ぎてほしくない。自分が道が違わないよう近くで見守っていてくれと。

 そして褪せ人は、駄々をこねる子どものように、メリナが燃えてほしくないと連呼し、教会の床を転げまわる。メリナは褪せ人の醜態を見て、眉を寄せそしてゆっくり頷いた。

 

 

「…分かった。また私と旅をしましょう。この使命がどうあるとしても、短い旅を。」

 

 

 褪せ人は両腕を天に掲げ、大げさなジェスチャーをもって喜びを表現する。何故なら、気持ちは言葉だけでは伝わらない。メリナを燃やしたくないという思いを、行動をもって形にするのだ。

 

―――――――――――――――

 

 俺は小さな指の母をどうしようか考えていた。ユビムシたちの遊戯には混ざらず、未だ俺の上にしがみついたままだ。俺が手に取り、抱きかかえると小さな指の母は、頭指をうつ向かせていた。言葉を介さずとも推測できる。この指の母は、本体から分かたれてしまった存在だ。故に、大いなる意志に観測されず、置いていかれた。彼女は小さい体を震わせて、悲しんでいるのだ。

 俺は、小さな指の母に話しかける。元は同じ存在なら、知っているだろう。二本指や三本指、ユビムシを自らが産んだことを。

 

 

「指の母よ。俺たちと共に行こう。そして、母としてやり直さないか。」

 

 

 指の母は、俺の言葉にぴくりと頭指を動かし、じっと俺を見る。俺に振動が来る。それは、やり直せるのかという疑問と、おそれであった。

 ユミル卿が俺の話に気づいたようで、微笑みながらこちらに言う。

 

 

「ユーリたちは私が産みましたが、貴女をユーリたちの母として、いつでも歓迎いたしますよ。」

「ユミル殿、ありがとう。…同じ、母を目指すユミル殿もこう言っているのだ。指の母よ、生んだ子に愛を伝えにいこう。親の愛とは直接会うことで渡せるものだ。」

 

 

 指の母は、しばらくして頭指を縦に曲げた。共に行きたいと波動が来る。

 褪せ人の協力があれば、狭間の地にいる指たちの場所も分かるだろう。円卓がどこにあるのかは褪せ人にしか分からないだろうから、場合によっては褪せ人と共に行動してもらうのも良いかもしれない。俺は小さな指の母を、再び壺の蓋に乗せる。

 

 

 しばらくして褪せ人が戻ってきた。メリナに話は付けられたそうだ。

 俺はメリナの許可に対して、意外でありながらどこか納得していた。メリナは、この褪せ人の思いに少なからず絆されたのだろう。祝福で話す二人を、遠くから視認していて思った。二人には、確かに友情があると。

 

 

「褪せ人殿、協力に感謝する。では急ごう。痛ましき狂い火を、輝かしい未来の足掛かりにするために。」

 

 

 俺は壺巫女と褪せ人の手を握り、ユミル卿に会釈した。ユミル卿にヨラーン、アンナ、ユビムシたちは俺たちの出立を見送ってくれた。

 大教会から出て、「金色の柱」を展開する。まだ見ぬ暗がりの森へと、俺たちは跳んだ。

 




指の母を、褪せ人に預けた場合の表記

「小さな指の母」(腕装備)…

メーテールの一部、指輪指から蘇生した、小さな指の母
父からの愛を求め、忘れられたもう一体の娘
その、愛への渇望は、生んだ子らに再び向けられる

ロックオンをした敵に白き光線を放ち、戦いを支援する
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