戻ると、牢獄にいた生き壺たちや、新たに生まれた刻印無しの生き小壺たちが出迎えてくれた。どうやら彼らは、記憶の世界で鍛錬を積んだ帰りであったらしく、岩の腕に出来た力こぶのような盛り上がりを見せてくる。近くにいた巫子によれば、生き壺たちだけで封牢や洞窟にいたボスを撃破できたとのことだ。大物だと、忌み鬼マルギットや、接ぎ木のゴドリック、満月の女王、レナラの再現を複数体で倒したらしい。
彼らは記憶の世界で得た力を、実際に俺たちへ見せてくる。武器の類は手に入らないのだが、ボスの動きや特殊な技能を経験として得ることは出来るので、彼らが討伐した証はしかと確認できた。
「すごいぞ!戦士として旅立てる日も近いな!」
生き小壺たちを代わる代わる抱き上げ、褒める。大きい生き壺には握手だ。大ルーン持ちを撃破できるのは、血のにじむような鍛錬が必要だっただろう。
刻印無しの生き小壺は、俺の言葉に少しかぶりを振っていた。念話を以て聞こえてくる彼らの幼き声は、もっと強くなってからという勇ましき挑戦心や、まだ家族と一緒にいたいという幼子の甘えを話す。
どちらにせよ、自身の力を高めたいという気持ちはずっとあるようだ。未来の大英雄の誕生はすぐそこだ。俺は嬉しがる。
褪せ人にも生き小壺たちは群がっていき、旅のお話を聞かせてとせがむ。褪せ人の顔は見えないが、雰囲気がいつも以上に柔らかくなった。腰を下ろして視線を生き小壺に合わせ、戦いの記憶を彼は話し始める。
是非、鉄拳アレキサンダーのことを教えこんでほしいと、俺は耳打ちした。
俺に寄り添ってくれる生き壺たちと世話を焼いてくれる巫子たちに、精神的な充足を得た。褪せ人の話も切りが良い。俺は再現よりもっと強いであろうレナラと戦ってくるぞと、生き壺たちに宣言した。
休憩を終え、俺たちは記憶の中の第二次リエーニエ戦役へと向かう。
準備を終え霧を潜ると、そこはレアルカリア魔術学院の入り口となる橋の上であった。まだ崩れ落ちず、健在な大橋だ。第一次リエーニエ戦役の際に戦った五名のカーリア騎士に加え、十数名のカーリア騎士、そして凛とした雰囲気のレナラがこちらを相手取っていた。
そして兵としてしろがね人が、大勢彼女らを援護している。第二世代の蛙のような貌をしたしろがね人が壁役兼近接を行っている。そして足先のない、弓持ちのしろがね人が狼にまたがり、雨のような矢を放つ。狼に乗らず、魔術による守りを受けて弓を撃つ者も沢山いた。
手堅い守りを指揮するレナラは、元々持っていた膨大な魔力と強靭な精神力で、魔力の奔流を立て続けに撃ってくる。勢力を総動員しているということは、戦いの終盤なのだろう。
開幕乱戦が始まったため、輝石の波動と無数の矢を諸に受け、俺は一旦建物の陰に身を潜めた。あのまま立っていれば、一瞬にして割られる。実体のある矢は壺の体に弾かれるが、何度も同じ場所を抉られればどうなるか。
褪せ人も、魔力の光波と月の魔術が隙間無く飛び交う戦場にたまらず退避し、俺の向かい側にある家屋を盾にして一息つく。褪せ人の背中と兜には、ヤマアラシのトゲかと錯覚するほどに、矢が大量に突き刺さっている。
「褪せ人殿、こいつは参ったな!戦うまでに行けないじゃないか…!」
褪せ人が身震いしながら返す。無数のしろがね人に、全てのカーリアの騎士たちが集まったら、こんなにも厄介だとは。
俺は、全くその通りだと壺を上下に振る。
どう戦えばいいのだろうと、俺は頭を回転させる。魔力による弾幕が薄くなった場所を狙って、距離を詰めるのがいいのか。それとも、遠距離から投げ物を用い、地道にカーリア騎士を戦闘不能にしていくべきか。
しばらく様子を見る。彼らの魔力は尽きることを知らず、全方位に向かって魔術が放たれている。一人一人が並のデミゴッド以上の強さを持つ黄金樹の戦士たち。攻撃のため盾をもたげ隙を見せた瞬間、矢と輝剣により、まるで紙のごとく体に穴を開けられて次々に倒れ、山のように積み重なっていく。蜂の巣ですまないほどの威力。やはり、近距離戦をしかけるのは無謀だ。
それに、黄金樹の軍勢のものである、大型のバリスタが彼女らに向かって飛んでくるが、魔力の障壁で防がれている。ただの武装では突破できない。待っていても時間の無駄だ。
俺は狂い火由来の金色の火球と、巨人の火を組み合わせて、カーリア騎士に向かって放り投げる。褪せ人は、黄金樹の大盾でカウンターを仕掛けることにしたらしい。黄金の返報を絶えず行って魔力の弾幕を防いでいる。
カーリア騎士たちが、俺たちの遠距離攻撃に気付く。そして何人かが近距離戦に切り替え、黄金樹の戦士たちを撫で斬りにしながらこちらへ攻め込んできた。
俺たちは相手の射撃部隊と、カーリア騎士とを分断するために強引に引っ張る。俺は蛇綱で、褪せ人は星砕きの大剣による星呼びで。俺たちは、それぞれ二人ずつカーリア騎士の相手をする。
「これこそ、巨人の火!」
地面に向かって火を投げつけ、彼らの足元を消えない炎で満たす。盾で自らを庇う騎士たち。足が止まった。
俺は両腕を突き出し、彼らを握り締める。そして掌から炎を噴出させた。巨人の火と金色の炎の併せ技だ。直に炎を当てられた記憶の中のカーリア騎士は悶え、芯から肉体を燃やした。俺は彼らを、竜の力で強化した腕力で放り投げると、大蛇狩りの嵐で突き刺した。強かに背中を打ち付けたためか、騎士たちは体を庇いながら退却する。俺は褪せ人の様子を見た。
褪せ人は、彼らの背後に素早く回り込み、バックスタブを取っている。彼は慈悲の短剣に武器を持ち換えており、戦士よりも暗殺者のような身のこなしだ。足取りは軽やかで、適確に急所を狙っている。褪せ人が相手をしていたカーリア騎士たちもある程度体力が削られたらしく、褪せ人に有効打を与えないままに下がっていく。
メスメルの似姿は、槍を投げることで応戦していたが、状況が変わったことで彼自身の動きも変えた。彼は魔術の隙間を抜けるようにして突っ切っていき、一人の騎士と刃を交えた。その騎士は、カーリア騎士の中でも、一つ頭が抜きん出る身長だ。着ている甲冑に面影がある。あれが、かつてのレラーナなのだろう。
メスメルとレラーナは、橋から飛び降り、湖で戦い始めた。
指示系統も機能しなくなるほどの混戦。その戦いの場に、白いヴェールがかかった。この後の戦いは、メスメルの記憶の内にないためか。
次の瞬間、俺たちの体はメスメルの移動した場所に、吸い寄せられるようにして連れていかれた。大橋から俺たちが姿を消す前、うっすらと英雄ラダゴンらしき姿が、騎士たちに向かっていくのが見えた。
湖で彼らは、踊るように槍と剣を振るう。命の奪い合いであるのに、どこか優雅さを感じさせる。入り込む隙が見当たらないほどに戦いは白熱しており、メスメルの援護をすることしか出来ない。レラーナの持つ双剣は、どちらも輝石の魔術を放つ。メスメルについていくと決めたときから、火を共にしたのだろう。回転しながら周囲に光波を撃つ技は、現在にも通じていた。
褪せ人は周囲に飛び散った魔力を、黄金の返報を以て撃ち返し、俺は隙を見て竜頭にした蛇綱を噛みつかせる。
幾度かに渡るレラーナのダウンの後、低く笛の音が響き渡る。橋の上からだ。
俺たちが一様に橋を見ると、二つの大きな旗が掲げられていた。黄金樹のシンボルと、魔術学院の印が描かれたものだ。俺は、それが休戦を示したものだと理解した。
屍の山の前で、英雄ラダゴンとレナラが見つめ合う。そしてラダゴンが声を響かせた。
女王マリカの命により、この戦いを停戦とす。勝者はなく、このラダゴンが結びによって互いを中立となそう。
ラダゴンは英雄となったことで、大きな発言権を得たらしい。カーリアの騎士たちと黄金樹の戦士たちは、互いを睨みながらもこの戦いの終わりを祝福した。
ここから、結びの教会にて、戦役の終わりが正式に宣言されるのか。マリカはどのタイミングから両陣営の停戦を考えていたのだろう。それはマリカとラダゴンにしか分からないことだ。
戦いの中で絆が芽生えたのか、メスメルとレラーナは目配せしながらも、どこか警戒を緩めている。
やはり純粋に戦うならば、記憶の主の似姿は抜きだと、俺は思った。主役は記憶の主であり、それ故に介入する余地がない。彼女らカーリアの姉妹がこれから味わう幸せと苦悩を考えながら、俺たちは記憶の世界から姿を消した。
―――ボス情報―――
ボス:カーリアの騎士たち、カーリアの王女レラーナ
「メスメルの記憶:第ニ次リエーニエ戦役」で戦える。一つのボス扱いになっており、カーリアの騎士たちが前半戦、レラーナが後半戦相手となる。
協力NPC…黄金律の戦士たち(前半戦のみ)
ボス:英雄ラダゴン、炎の貴公子メスメル
「レラーナの記憶:第ニ次リエーニエ戦役」で戦える。一つのボス扱いになっており、英雄ラダゴンが前半戦、メスメルが後半戦相手となる。
協力NPC…カーリアの騎士たち(前半戦のみ)
――――――――――――――――
―――アイテム情報―――
「第二次リエーニエ戦役の追憶:炎(月)」
金色の大壺に刻まれた
メスメル(レラーナ)の、第二次リエーニエ戦役の追憶
使用することで、かつての戦いにおける
力を得ることができる
黄金と月の戦い、結びによって終わり
束の間の平穏がもたらされた
(炎の場合、戦灰「メスメルの強襲」を入手)(月の場合、戦灰「月の構え」を入手)
戦灰「メスメルの強襲」
武器に戦技と属性を付与できる戦灰
付与戦技は以下、付与属性は「炎術」
戦技の説明は、本編そのままのテキスト
戦灰「月の構え」
武器に戦技と属性を付与できる戦灰
付与戦技は以下、付与属性は「魔力」
カーリアの王女、レラーナの戦技
剣に魔力を込めて構え、魔術に繋げる
通常攻撃で、連続して輝石の光刃を放ち
また強攻撃で、舞うように周囲を輝石の光波で薙ぎ払う