巫子の村では、赤獅子フレイヤが俺たちが来るのを待っていた。彼女は俺たちを見るなり立ち上がり、気さくな様子で話しかけてくる。
「褪せ人に、戦士の壺。お前たちは、あの大壺で鍛錬を積んでいるらしいな。丁度いい、私の記憶にも入ってみろ。本当のラダーン将軍には足りぬが、中々よくできているぞ?」
「ああ、フレイヤ殿。少し経ったら、貴殿の記憶も活用させてもらおうと思っていたところだ。」
褪せ人は俺の言葉に頷く。先ほどの戦いでは、遠距離攻撃の応酬で少し物足りなかったところだ。褪せ人も肩を回して、気合いの入れようを示している。フレイヤは豪快に笑い、大壺を指さす。
「その意気や良し!…私も共に行こう。腕が鈍っているようでな、再現に負け続きなんだ。これではラダーン将軍に示しがつかん。」
フレイヤは自身の湾曲した大剣を担ぎ、大壺の前へと歩いていく。
俺と褪せ人は面を向かい合わせると、フレイヤの後に続く。魔力の弾幕は確かにキズを多く負わせてきたが、休憩するほどでもない。存分に暴れさせてもらおう。
大壺に祈りを捧げ、準備の一室へ入り込む。フレイヤの記憶であるから、おそらく彼女の似姿を呼び出すサインが書かれているのだろうが、本人がいるからそれは見当たらない。
代わりに、生き壺のサインがあった。たくさん書かれているが、出現しては消えを繰り返している。フレイヤがそれを見て言う。
「村の壺たちがせがむものでな。ラダーン将軍の戦いぶりを話してやったのだ。だから、将軍と共に戦いたい壺が多く入っているのだろう。」
「ラダーン将軍と、不敗のマレニア。双璧をなす英雄だからな…同胞の鍛錬の士気は上がったはずだ。フレイヤ殿、感謝する。」
快活かつ確かな力を持つ彼女だからこそ、生き壺たちは慕うのだろう。破砕戦争の体験を惜しみなく話してくれるのは、あまりにも貴重だ。俺はフレイヤに壺を下げた。
褪せ人が、戦場に揉まれた生き壺を召喚してみたいと言い、サインの一つに触れる。しばらくして出現した生き小壺には、体の幅より長い貴腐騎士の槍が何本も突き刺さっていた。丁度戦いの最中だったようだ。生き小壺は戦いが中断されたのに関わらず、特に気にしていないようだ。寧ろまた早く戦いたいとうずうずしており、槍を引き抜いてそれを掲げた。
「ハハハッ!お前は勇猛だな。赤獅子にふさわしい!よし、今日からお前は暫定赤獅子の壺だ。ラダーン将軍が復活した暁には、加えてもらわねばな!」
フレイヤがびしりと生き小壺を指さして言う。その小さな体に秘めた闘志をフレイヤは気に入ったようだ。嬉しそうに拳を振り上げる生き小壺。まだ刻印はないが、そういった道もあるだろう。俺はひっそりと心の中で生き小壺を応援した。
雑談を終え、俺たちは和やかな雰囲気を、張りつめた戦いの空気へと切り替える。そして霧をくぐり、乾いた戦場の土を踏みしめた。
破砕戦争、最後の戦い。現在は朱い腐敗の沼に沈む、この再現された土地は、エオニアといった。砂丘に近いこの場所で、赤獅子の軍勢とマレニアの配下である貴腐騎士たちが乱戦を繰り広げている。俺たちは、貴腐騎士に向かって攻撃を仕掛けた。
褪せ人は、聖樹の支え、エブレフェールにて貴腐騎士と何度も戦ってきた故か、対処に困らず受け流しとバックスタブなど急所を抉る戦法で彼女らをなぎ倒していく。俺がスクリーン上で見た時よりも動きは素早いが、一人一人丁寧に戦っていけば苦戦することもない。生き小壺も俺が援護すれば、善戦できている。
フレイヤは鋭い声を上げて、貴腐騎士を殴殺していた。俺たちの戦いぶりを見て、彼女は息を吐きながら笑い、言う。
「やるな!ラダーン将軍と戦ってきただけある。…見ろ、あの勇ましき姿を!」
「なんと…!」
俺は貴腐騎士を跳ね飛ばした後、背後を見た。あの、ミケラとの戦いの最後に見た眼。知性を携えながらも、武人としての険しさ、雄々しさを兼ね備えた相貌と肉体。かつてのラダーン将軍の姿がそこにはあった。痩せ馬もしっかりと彼を支えている。
やはり、ラダーン将軍には痩せ馬がいなければ。俺は一人頷く。ミケラと戦った時に欠けていたピースの中で、最も大きな要素だと思う。
フレイヤの記憶であるのに、プレッシャーをひしひしと感じる。史上最強のデミゴッドである彼がついているのだから、配下の赤獅子たちはさぞ士気が高かっただろう。俺は背後に絶対的な安心感を抱きながら、敵を倒していく。
貴腐騎士はラダーン将軍を主に狙い、彼の体に無数の槍と剣が突き刺さる。死に際の馬鹿力を使った、渾身の一撃だからこそ、騎士たちの得物は将軍に刺さった。貴腐騎士の軍勢は数が多く、手薄にならない。倒しても倒しても別の敵が舞い込んでくる状況である。
そんな中、意匠の違う鎧を身に纏った戦士が俺たちの元へ向かってくる。俺は拳を、褪せ人は暗月の大剣をその戦士の刃と嚙み合わせ、威力を殺す。
俺の記憶の中にしかと刻み込まれた戦士だ。
ミケラの刃、マレニア。不敗と呼ばれた彼女は、まだ腐っていない体を機敏に動かし、攻撃を仕掛けてきた。
生き小壺がマレニアの一振りを食らい、割れる。やはり最強の一角は手厳しい。また挑戦するという意思を、生き小壺はサムズアップにて示し、その場から消え去った。
褪せ人は焦った調子で、マレニアの攻撃を回避していく。褪せ人の追憶にあるマレニアと比べ、格段に動きが素早いため、対処が追い付かないのだ。
確かに現代におけるマレニアは、腐敗の性質を解放しきったことで、技量と厄介さを併せ持っていたため、総合的な強さでは上かもしれない。しかし、腐敗を抑えていたかつての彼女は、流水の技を磨き続け刃を研ぎ澄ませていたはずだ。純粋な技量の面では、昔に軍配が上がるだろう。視界に収めきれない速さに、切る度体力を回復する技。これもまた、厄介この上ない。
俺たちは貴腐騎士を相手取りながら、紛れて奇襲を仕掛けてくるマレニアも対処することになった。ダメージを与えても、影に隠れたマレニアを追えず、隙を狩られ体を刻まれる。当然貴腐騎士を束にしても尚強いため、死角から手痛い反撃を食らうことになり、じわじわと追い詰められていく。
赤獅子の面々も、被害は大きくなっている。見かねたラダーン将軍が大きく動いた。重力の技、星呼びにて周囲の貴腐騎士を引き込み、そして力を解放することで吹き飛ばしたのだ。
自然に、戦いはラダーン将軍とマレニアの一騎打ちになる。マレニアはラダーン将軍の猛攻で大きくダメージを受けたらしく、義手を押さえ息を整えている。ラダーン将軍は大剣を地に突き刺し、その姿をじっと見て待つ。
この光景に見覚えがある。俺はフレイヤを視界に収めた。彼女は息を荒げながらも、顎で彼らの方を示す。
始まる。この地を沈める悲劇が。
マレニアは義手刀をラダーン将軍に定め、彼の首元に跳んだ。ラダーン将軍の剣で義手が叩き切られるが、左手に刀を持ち換え、それを突き刺した。
そして彼女は将軍に囁きかける。小さく、前後がはっきりと聞こえないがこう言っていた。
…が待っている 約束の…
朱い花が咲く。大きく、エオニアを腐敗の沼へと変える花が。赤獅子と貴腐騎士は皆一様に腐敗を受け、体を蝕まれながら地に伏せる。沢山の者が死んだ。僅かに残った戦士も、腐敗と戦い続けることになる。
誰も勝つことはなく、悲惨な結末を迎えた戦争。彼らの戦いに、今からでも報いることを俺は誓う。腐敗を変え、根本から打ち勝つ。往生際の悪い腐敗の神に、人の時代を伝えるのだ。
―――ボス情報―――
ボス:不敗のマレニア
「赤獅子の記憶」で戦える。貴腐騎士との複数戦となる。本編における前半戦のマレニアに似ているが、動きが更に速くなっている。リゲイン量も多い。まともに戦わず、NPCとの協力が推奨される。
協力NPC…赤獅子の軍勢、赤獅子フレイヤ、星砕きの英雄ラダーン
――――――――――――――――
―――アイテム情報―――
「エオニアの戦いの追憶」
金色の大壺に刻まれた
フレイヤの、破砕戦争最後の追憶
使用することで、かつての戦いにおける
力を得ることができる
最も強かった二人が最後に戦い、遂に誰も勝たなかった
策略と悲劇の戦争
(戦灰「水鳥乱舞」、戦灰「星呼び」のどちらかを選択し入手)