戦士の壺(パチモン)   作:棘棘生命

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王朝復興

 俺は村に戻って早速、アレキサンダーから受け取った壺頭を、生き小壺にしようと思い立った。遠く離れたところに行っていても、物はそのまま持ち帰ってこれるのが、霊体の不思議なところだ。

 その壺頭は、まだ人が被るための穴が開けられておらず、蓋には狭間の地の刻印がしっかりと付けられている。アレキサンダーは、あんなに手がごつごつしているのに壺を作れるのは、やはり技量の高さ故なのだろうか。

 

 尊敬する彼からもらったそれを、色々な角度から見て楽しんでいると、村の皆が俺に近づいてきた。生き小壺の幾つかは、俺の持つ壺頭を見て、指を一本正面に当て横に体を傾けている。刻印の違う壺に興味を示しているようだ。

 一人の巫子が俺に尋ねてくる。

 

 

「壺様、それは持ち帰ってこられたものでしょうか?」

「ああ巫子よ、その通りだ。そしてこれは、なんと!前々から褪せ人殿に話をしてもらっていた、鉄拳アレキサンダー殿本人から頂いた物なのだ!」

「おお!外の土地にいらっしゃる戦士様の!いやー嬉しいことですね!」

 

 

 そうだろうと俺が言葉を返そうとすると、彼女は他の巫子たちに引っ張られ、遠くに行ってしまった。もごもごと押さえられた口を動かしながら、その巫子はサムズアップで祝ってくれていた。俺も低い位置でサムズアップをする。

 その場に残った壺巫女に、壺頭の処遇について話す。

 

 

「壺巫女殿、折角だからこの壺を同胞にしたい。ここから同胞が生まれ出たら、高みを目指し続ける真の戦士に成長すると思うのだ。」

「戦士の壺様がとても嬉しそうで、私も何よりでございます。それでは、あちらの焼き場へ共に向かいましょう。」

 

 

 壺巫女はにこやかに俺へ返してくれる。そして彼女は、空いている俺の手を引き、多くの同胞が鍛錬を行う壺焼き場へと歩を進めた。

 

 壺焼き場の中は、以前使用したとき以上にぎゅうぎゅうで、もはや寿司詰め状態であった。刻印無しの生き小壺の、特に勇ましき者が、元々いた影の地の生き壺と一緒に体を鍛えているからである。

 俺は生き壺たちに道を開けてもらい、熱せられた金色の液体を入れるための穴へたどり着く。壺焼き場の外で、壺巫女が待っており、金色の大壺から採った液体を注ぐ準備をしているのだ。これは一種の儀式であり、生命の誕生を祝福している。

 

 

「戦士の壺様!流しますよ!」

「よし、来てくれ!」

 

 

 炎で音が届きづらいことを理解している壺巫女は、珍しく声を張り上げる。俺も大きめな声で、その声が届いていることを伝える。

 しばらくして、肉の身では一瞬で黒焦げになる温度の室内に、灼熱の液体が垂らされる。俺は壺頭の蓋を開け、それを受け取った。じゅうと壺の内部が焼ける音がして、壺頭の中は満ちていき、最後の一滴が垂れた後、俺は蓋を閉めた。

 

 俺は壺に向かって祈る。器よ。我が同胞となり、共に高みを目指さん。

 すると、壺頭であったものが細かに震え始める。壺の側面から長い岩の腕が、底からは愛らしい小さな足が生えていく。

 それは生き小壺として今、生を受けたのだ。

 

 その生き小壺は、元気がすさまじく、俺の手から離れると腕を組み、幼い声で俺に宣言してきた。生まれてすぐ言葉を発するなど、今まで無かったことだ。俺は流石アレキサンダーの作った壺だと感嘆する。

 

 

「われは、せんしのつぼ!祖よ、しれんをのぞむ!」

「素晴らしい心意気だ!無理のない範囲から、鍛練に望んでみてくれ。」

「わかった!それでは、またあおう!はっはっはー!」

 

 

 生き小壺は、豪快に笑いながら、壺焼き場を去っていく。大壺の元に向かうのだろう。想像以上の勇ましさだ。俺は幼きその壺を応援し、後を追うように壺焼き場を出た。

 

 時間が経った。今は、焼き物を加工して作ったボードゲームの類いを、巫子や生き小壺、ミケラと付き合わされているレダが遊んでいるのを見ながら過ごしている。

 

 トリーナが望んでいたゴッドウィンの復活については、情報が整理できた。死衾の乙女、フィアが攻撃された際に、怨霊が呼ばれた事例。そこを深掘って知見を漁ってみたら、すぐだった。

 運命の死とは、魂の雲散である。本来狭間の地では黄金樹に魂が回収されるが、死のルーンを使うと、黄金樹以前の死と同じことが起きる。

 しかしフィアを守る力から、デミゴッドはその死に抵抗力を持つことも明らかになった。微量であるが、ゴッドウィンの体にはまだ魂の欠片が残っているのだ。その欠片を起点に、生命エネルギーを補えば、また彼は復活することができる。

 

 この事実をトリーナに伝えたところ、彼女はぴょんぴょんとその場で飛び跳ね、喜びを露にしていた。そのとき、木の陰でティエリエが布を噛んでいるのは、見ないようにした。

 

 鍛練も合間に行って、今は一段落ついて休息中だ。平穏を享受していると、褪せ人からお呼びがかかる。俺は、脇に置いておいた巨大な針を、背中からかけた布の鞘で固定する。そして狭間の地へと、意識を飛ばした。

 

 

 呼ばれた場所は、血の赤で染まった場所であった。偽りの星空との対比が、グロテスクさを際立たせている。

 呼び出した褪せ人が、説明してくれた。ここはモーグウィン王朝。モーグが統治する地下世界であると。

 

 俺は褪せ人の案内に従い、遺跡の中を進んでいく。道中で遭遇する第二世代のしろがね人は、こちらを攻撃せず、寧ろ友好的に接してくれた。

 ただ、行く先々でしろがねの凝血を褪せ人に手渡しているのが、真実の母を信仰している団体であることを強く意識させられる。

 

 体を破裂させる人の群れを治療しながら、坂を上り、暗闇を抜け、ようやくモーグの玉座の前へとたどり着いた。昇降機を上がると大広間があり、その奥にモーグが座っているのが見える。その横には、もう二人。アンスバッハと、少し離れたところに白面のヴァレーが立っている。

 褪せ人はヴァレーを倒していなかったようだ。彼は三人に向かって、手を振りながら歩いていく。

 

 

「おお、褪せ人殿に戦士の壺殿。モーグ様と、いらっしゃるのを待っていました。」

 

 

 モーグはアンスバッハの言葉に頷き、よくぞ来てくれたと角交じりで厳つい顔を和らげる。

 ヴァレーは白面で隠れているのにも関わらず、動揺が手に取るように分かる口ぶりで尋ねる。

 

 

「…モーグ様にアンスバッハ殿、この巫女無しを知っておられたのですか…!?」

「ヴァレー殿、そのような言葉は失礼にあたります。慎むように。」

「は、はい…。」

 

 

 アンスバッハが仮面の下から、鋭い視線をヴァレーに向ける。

 通常ならば、嫌味な態度を崩さないヴァレーも、身を縮ませて黙りこくる。流石のヴァレーも、モーグに古くから仕える純血騎士には形無しのようだ。

 褪せ人は、ヴァレーに対し、主君が正気に戻って良かったではないかと言って肩を叩く。ヴァレーには散々罵倒されてきたからか、褪せ人は兜を取って良い笑顔を見せている。

 

 

「私を見下すなど…巫女無しめ…。」

 

 

 モーグは、怒りのままぶつぶつと呟く彼に向かってか、言葉を発する。

 巫女がいまいが、些末な問題に過ぎない。この褪せ人は、あの恐ろしきミケラと、将軍ラダーンを討ち取った強者だ。純血騎士として彼を引き入れられたのはヴァレーの手柄だ、誇れと。

 

 

「くっ…モーグ様がそうおっしゃるならば…。」

「…落ち着いただろうか。改めて、俺は戦士の壺。血の君主モーグ殿、再びお会いできて光栄だ。」

 

 

 モーグは威厳に満ちた表情のまま、俺の名乗りをじっと聞いていてくれた。そして、しばし待てと手を前に突き出し、俺たちの後ろを見て手招くジェスチャーを行った。

 しばらくすると、赤いフードを被ったしろがね人と血の貴族が混合した集団がやってくる。先頭の血の貴族が、何やら箱を両手で持っており、俺の前でそれを開けた。

 

 

「モーグ殿、これは…。もしや俺に?」

 

 

 モーグは頷き、箱の中を指し示す。高級感のある布地の上に置かれたそれは、純血騎士褒章であった。

 モーグは言う。王朝の開闢は、既に行った。貴公を純血騎士として、影の地との親交の証として、褒章を授与したい。受け取ってくれるか。

 儀礼を以て迎え入れてくれるとは。俺は壺を上下に振った。

 

 

「なんとありがたいことか。謹んで、頂戴いたす。」

 

 

 俺は、純血騎士褒章を血の貴族から受け取り、ミケラの巨大針を収納している鞘に固定する。この友好の証、壺身離さず持っておこう。 

 

 その後俺たちは、モーグやアンスバッハと談話を楽しんだ。王朝を始めるに至って大変だったことや、モーグが真実の母に見えたときの話、そしてモーグが王朝を開こうと思った真の理由についてを聞いた。

 そしてこちらからは、村の様子だったり、同志たちやミケラが良い方向に進んでいることだったり、デミゴッドたちを復活させていることだったりを話す。特に、ミケラが幼子特有の傲慢さが抜け始めていることと、デミゴッドを五体満足で復活させていることはモーグたちに驚かれた。

 俺はモーグたちに巨大針を見せる。これはマレニアだけでなく、他者のことを想ってミケラが作った、鎮めの針であると説明した。

 デミゴッドの復活については、アンスバッハが言葉を交える。

 

 

「しかし、モーグ様。ローデイルに向かった際、貴方様の兄上に効果がありましたでしょう。将軍やミケラの刃たちの復活も、不思議ではありません。」

 

 

 モーグはアンスバッハの説明を聞き、確かにその通りだと同意していた。

 彼らが言うには、アンスバッハがミケラとの戦いの際に敢えて余らせておいた金色の壺を、王座の前で倒れていたモーゴットに使ったらしい。効果は覿面であり、モーゴットは傷もない状態で、再びローデイルを統治しているそうだ。

 

 ヴァレーの見下し癖は厄介だった。しかし、褪せ人がどれだけ強いのかを証明する戦の話や、デミゴッドである魔女ラニの伴侶となることなどを聞かせていくと、見下せる相手ではないことを感じ始めたようで、刺々しさは次第に隠されていった。

 

 衝撃的だった話はモーゴットについて以外に、もう一つあった。血の繭についてだ。

 モーグはその繭を、台座にしていた巨大な骨盤ごと広間の端から持ってくる。そして、よいと声を上げて、床に下ろした。

 これはミケラが入っているとされていたが、繭から突き出たそれは萎びており、どうみても幼子ではない長い手をしている。

 そしてアンスバッハが、俺に頼みごとをしてきた。

 

 

「丁度、戦士の壺殿が来てくれたことです。この繭は、モーグ様がミケラ様に魅了されてしまった後の産物。放置するわけにもいきません。貴公の力で、何が生まれ出るのか。試していただけませんかな?」

「ああ、やってみよう。吉が出るか、凶が出るか…。」

 

 

 俺は念の為、褪せ人たちに武器を構えてもらう。神人眠りの繭に、金色の粒子を展開してから触れる。すると繭から捧げていた血が零れ出て、辺りに鉄の匂いが充満した。褪せ人たちはそれぞれ、その濃厚な匂いを嗅がぬように、腕を顔にやっている。

 粒子を留めることなく使っていくと、その繭が震え始める。次第に繭は崩壊していき、中からは一人の幼子が現れた。黒と金が混じった長い頭髪で、体のところどころに角が混じっている。そしてそれは、男でも女でもなかった。

 

 

「この幼子は何者…。いや…神人ミケラと、トリーナにも似た顔だ。」

 

 

 彼ら二人を丁度足して二で割ったような相貌をしている。

 しかし、ミケラと相対したときのように、皆の様子がおかしくなっていない。あの厄介極まりない権能は、持ってないようだ。じっと幼子を視界に入れていると、その目からじんわりと血のような赤い涙を流し、泣き始めた。その泣き声は、生まれて間もない赤子のようであった。

 

 俺たち五人は話し合う。この幼子は何者であるのか。

 この繭の中身が何で構成されているかを挙げ、長い議論の末に俺たちは、幼子の正体を結論付けた。

 

 

「ミケラ様の肉体の一部に、モーグ様の血を入れ込み…。混ざり合った存在のようです。モーグ様のご子息と、位置付けてしまうのはいかがでしょう。」

 

 

 モーグはアンスバッハの言葉を受け入れた。モーグは君主として厳格でありながら、どこまでも寛容だ。

 育児は分からないが、立派に育てられるように努力しようとモーグは言い、泣く幼子を自身の羽織で包んであやしている。

 干からび、老人のようだった繭の中身は、ただ蛹であり目覚めるのを待っていたのか。ああ、これも新たな生命の誕生だ。俺は幼子を祝福した。生まれは特殊であっても、教えを吸収して成長し、何れモーグに代わる君主にならんことを。

 

 俺はモーグウィン王朝との友好を宣言した。そして、何かあればいつでも参じることを話し、五人と一時との別れを告げその場を去った。




神人眠りの繭、その中…
DLCを経ても、レダに枯れた腕と言及されたこと以外に情報は増えず、謎のままだった。
本作品では、繭の中にミケラの一部と、モーグが行った儀式「血の閨」で捧げられた彼の血が入っているとし、完成したらミケラではない全く別の人物が生まれると解釈した。
繭が不完全な状態のまま、大いなる意志の力で正常な生命にしようとしたため、性別がなく、角や髪の色などが入り混じった幼子が生まれた。
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