焼けるボニ村を背に壺巫女と合流すると、壺巫女はしゃがむのを止めており両手を組んで祈っていた。
そして俺が傍に来ると、囁くように言葉を発した。感情が複雑に混じっている様子であった。
「戦士の壺様、すべて燃えたのですね…。」
「そうだ、もうここには俺たちしか残っていない。共に連れていく彼らは、俺の中に入っているが。壺巫女殿には酷なことだ、すまない。」
「…ああ。戦士の壺様、貴方は濁りをも包み込まれる…。」
俺がボニ村の彼らを詰めたことを、壺巫女は言及しなかった。壺巫女自身、怒りの矛先が簡単に燃えて無くなり、感情の落としどころが分からないのだろう。
俺は、ボニ村の住人たちにおける記憶の欠片を得たことで、理解できたことがある。傍から見ればおぞましい因習に狂っているように見えても、彼らの中ではそれが常識であったのだ。だが、神事を実際に行う大壺師は、自身を騙し騙し生き、やがて感情の麻痺によって肉を断つ歓びのみを思った。
比較する文化が無ければ、それこそが常識になる。これは彼らを弔わなければ分からないことだ。
そして、俺は何より火炎壺師の記憶とともに行きたかった。自身の種族への嫌悪や諦観に沈んでいても、郷愁を捨てきれなかった彼のために、知っておかなければならないことだったのだ。
「為したいことを為しに行こう。」
「…はい。立ち止まっている時も惜しいですから…。巫子の村へ参りましょう。」
詰められた人々の記憶は、ぼんやりとしているか途中で千切れたものばかりだ。しかし、角人たちが巫子の村に向かうとき、どのようなルートを使ったのか、大まかに理解できる。これについて壺巫女に話すと、また複雑な気持ちを出していたが、手掛かりを得られたことに喜びの感情もあった。
そのため、焼ける民家から「ヒビ大壺」を拾い壺巫女に持ってもらうなどしながら、別の吊り橋がかかった場所へと進んでいく。壺巫女が火傷をしないよう、俺の上に乗せながら。そろそろ彼女が袖を通せる衣服を見つけたいところだ。もう少しで夜だ。牢獄ほどではないが、冷え込むことになるだろう。
吊り橋にたどり着くと、丁度左奥の方向に、何やら石像のようなものがあるのを発見した。視覚を狭めると、それは上に向いた矢印のような形をしている。ボニ村からだいぶ離れた場所だが、角人たちが作った物だろうか?
「壺巫女殿、時間が惜しいのは百も承知なのだが…あちらの像のようなものを確認してもいいだろうか。」
「承知いたしました、壺の戦士様。私も、貴方が示している像に感じるものがあるのです。本当に微細なものではありますが…。」
壺巫女の了承も得たことで、像のような物に近づいていく。全貌が明らかになると、それは首が狩り取られた女性の像だった。こう表現したのは、元々頭があったように、不自然な切断面があるからだ。
これも神事の一種なのか、それとも像の元になった女性に恨みがあったのか。記憶にないため分からないが、像の女性は両手を低い位置で固定し、抱擁する前のようなポーズである。
壺巫女を俺から降ろす。壺巫女は、俺と同じくしばらく唸りながら考えを巡らせていたが、像の周囲を回り始めた。
そして首を上に動かすと、小さく声を漏らした。
「あっ…!壺の戦士様、見つけたものがございます。こちらへ来てください。」
「像ではないのか?」
壺巫女は早めた足で、木々が生い茂り影になった草むらを掻き分けながら進む。
壺巫女が指さす物に、俺も声を漏らした。
「蛇の抜け殻か…しかも中々の大きさだぞ。」
「壺の戦士様…メスメル公の名を知っておられますか?」
しゃがみ、蛇の抜け殻の表面を観察している壺巫女が俺に問いかけてきた。
メスメル…知っている。「メスメルの火」という粛清で影の地を焼いた、DLCにおける重要人物だ。そしてマリカの子で、彼の情報を早く得たいという思いでワクワクしていた。
「うわべの情報のみだ。神マリカの子であり、影の地を焼いた人物だと。」
「なるほど…ふふ。私も詳しくは知らないのですが、今話してくださったことを、あの村で聞いたのです。まさかいなくなったマリカお姉さまが無事で、ご子息がこの地を焼きに来るとは…。」
壺巫女は小さく笑うと、衝撃的な文言を放った。俺はうろたえながら、割り込むように尋ねた。
「断片的で、噂であっても嬉しかった…心の底では、この情報があったから祈り続けられたのだと思います。」
「少し質問させてくれ…お姉さまとは、どういうことなのだ?」
「マリカお姉さまは、私が幼い頃巫子の村で共に暮らしていました。ボニ村の存在を知ってから、いなくなった家族は、この儀式のために連れ去られたと思っていたのです。そして、マリカお姉さまはとても昔にいなくなってしまいましたから…もう助からないかと考えていました。」
マリカの故郷は「巫子の村」だった。角人の所業から、メスメルによって影の地を燃やした理由は…。
点と点が繋がる感覚があった。壺巫女は気分が良いようで、饒舌に話し続ける。
「話がそれてしまいましたね。メスメル公、彼は蛇の諸相が見られるそうで、この抜け殻を見て思い出したのです。彼は、マリカお姉さまの子。もしかしたら、他の家族について情報を持っているかもしれません。」
「そうだな…上手くいけば、壺巫女殿の、俺の目的をより果たせるはずだ。」
頭を整理するのはまた後だ。壺巫女が言ったことに頷き、すべき目標に加えることにする。
しかし尋ねることは一つある。
「俺の考えが正しければ…壺巫女殿が牢獄で過ごした時間は、とてつもない長さなのではないか?」
「そうなのでしょうか…。ただ私の時は止まっておりました。壺の戦士様、貴方が再び動かしてくださったのです。」
壺を上げ、綺麗なほほえみを見せる壺巫女。
彼女は、俺では想像もつかない途方もない時間を、寒さと痛みに苦しみながら一人で生きてきたのだ。決意をさらに高める一幕だった。
吊り橋の方に戻ってきて、奈落の広がる下をなるべく見ないように渡る。
ゆっくり慎重に渡り終えると、右にボロ屋が見えたが、何か落ちているようでもない。直線で進み、もう一つの吊り橋を渡った。
出ない汗を拭くように壺の側面に手を走らせる。二度とこのような足場の不安定な場所には、行きたくない。
「壺巫女殿、ここから道なりに進めば着くだろう。メスメル公のいる場所は、聞いたことがあるか?」
「いえ…やはり、ボニ村の住人はメスメル個人の強大さばかり語っていたので…。」
それでは、地道にそちらも探すことになりそうだ。マリカの子であれば、立派なところに住んでいそうなものだが。
俺たちは、道とも言えなくもない砂利が露出した地面を辿るようにして、木々の隙間を抜けていった。
狼や鹿がそこらを走り回っている。こういった自然が残る部分は、俺にとって癒しになる。視覚が目に優しく、歩くのが苦にならない。
しばらくすると、何かが聞こえてくる。聴覚をすませると、それはごうごうと燃える音だ。アーチ状になった岩をくぐろうとすると、地面を揺する振動まで伝わってきた。
「燃え盛る巨人だと…。」
そこには鉄柵を膨大に束ねたような見た目をしていて、体の芯から巨大な炎を出している人型がいた。
これも見覚えがある。トレーラーでの情報だが、おそらくメスメルの所有する兵器だろう。
炎の兵器は、俺たちを視認すると、特大の火球を宙に浮かばせ猛スピードで飛ばしてくる。幾ら壺の身だろうと、食らえば割れるか、炭化して崩れるかの二択だ。俺は岩陰にすぐさま隠れ、あの兵器がこちらを見失うのを待つ。
天変地異はこんなにも簡単に起こせるのだと放心しかけるが、壺巫女が火球をくらうのはまずいと踏みとどまった。ジャイアントキリングは、覚悟を決めた死地でこそ行うものだ。まだ為すべきことがある。共倒れするわけにはいかない。
「壺巫女殿、この窮地を脱するには…嫌がるだろうが案がある。聞いてくれるか。」
「はい。どんなことでも問題ございません。」
壺巫女は言い淀むことなく俺に促した。今はこの信頼がとてもつらい。
だが壺巫女が黒焦げになるよりマシだ。作戦を伝える。
「壺巫女殿には…俺の中に一旦入ってもらう。そして、俺の中に漬けてある大壺師…火炎壺師殿の得物を取り出しておいて奴に投げるのだ。そしてあれが索敵している間に岩陰に沿って全力で移動する。くるくる回るから酔うこと間違いなしだ。…協力してくれるか?」
「はい。また戦士の壺様に包んで頂けるのですから、願ってもないことです。」
躊躇はするだろうと思ったが、様子を変えることもなく壺巫女は返してきた。おかしい。これはユーモアでは片づけられない。
壺巫女が俺の蓋に触れ、ぐいぐいと動かそうとする。まだ包丁が入っているので慌てて止め、赤黒く濡れた包丁を取り出した。
俺は念押しする。
「言い出したのは俺だが、もっと良い案があるかもしれないぞ。」
「戦士の壺様、安全第一でお願いしますね。」
壺巫女は俺の封をずらすと、どろどろの液体の中にするりと入っていく。彼女が良いと言うのだから、問題ない。そう思うことにした。
俺はじっと兵器の顔部分を見つめ、包丁をぐっと構えると勢いよく放つ。
「火炎壺師殿、得物は必ず取り戻す…今を打破する力をくれ!」
びゅんと風切り音を出し、包丁は炎の兵器の顔に命中する。今だ!
俺は、壺人の中で「走る」に当たるだろう、高速回転をもって岩陰を丁寧に縫っていく。
芯に響く轟音を立てながら、俺のことを探す兵器がちらりと見える。この隙に坂を上ってしまおう。
進むべき方向を把握しながら高速移動を行い、これもまた巨大な建物が三つも見えてくる。どこかに入って一先ず休憩したい。
しかし、包丁があまりの高熱で溶け切ってしまったらしい。柄だけでも後に回収せねば。
ついに見つかった。だいぶ離れたというのに、兵器が持つ索敵機能には、無い舌を巻かされる。
炎の兵器は、再び火球を浮かばせ、俺を狙い撃つ。ほとんどが地面に着弾するが、一つが俺の背面を炙り抉った。
「まずい…早く建物へ入らねば!あれは水場!」
表面のダメージを軽減できる、絶好の環境だ。俺は何とか火球の猛攻を避け、水場に着くと水を背中に勢いよくかける。しばらく続けていると、鎮火する音が背面からした。
兵器は高低差からか見えず、追ってもこない。一先ずは安心だ。
「壺巫女殿、何とか逃げ切ったぞ…。」
「…お疲れ様でした…。」
壺巫女を体から出すと、流石に酔ったのだろう、ぐったりとした状態で俺の手にしがみつく。
俺は壺巫女の全身を水場で洗い流すと、目の前の荘厳な建物に入ることにした。もう夜だ、ここで休ませてもらおう。
俺たちは並んで建物の入り口らしき場所から入る。すると、奥の方から柔らかい印象を受ける男性の声が聞こえてきた。
「これはこれは、不思議なお二人ですね。ようこそマヌス・メテルへ。心から歓迎いたしますよ。」
「金色の粒子」
戦士の壺(パチモン)の戦技
遠い宙から呼ばれた彼は、金色の粒子を纏っており、
それによって生きたいという意志のある者に生命を与える
反対に、意志無き生物や、死に向かう者には聖属性のダメージを与える
為すべきを為せるように
大いなる意志に賜った、生きるための力