戦士の壺(パチモン)   作:棘棘生命

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本日はもう一度更新いたします。


古き時代、新しき王

 祝福のある小部屋を抜けると、金の装飾で体を彩った獣。ファルム・アズラの獣人がこちらに気づき、襲い掛かってくる。彼らは人と異なるにしても知恵を持っているはずだが、その目はとても理性を維持しているようには見えない。俺は獣人の、軽やかかつ野生に満ちた斬撃を腕で受け止め、粒子を使ってみる。

 様子は変わらない。外敵を排除しようとする、野生の縄張り意識のみがそこにあった。

 

 褪せ人が、雷を放ちながら高速で接近し、長柄の斧で獣人を吹き飛ばした。その後トリーナが、深紫色の靄を彼らに向かって放つ。動物は権能の影響を受けやすい。元々獣人に睡眠は効いたが、トリーナの力によってすぐさま彼らは眠りこけた。最後に、傷ついた体を俺が粒子で治し、無力化しながら先に進む。

 

 階段を下りると、褪せ人は左に向かうことを選択した。進んだ先には、幅の狭い昇降機がある。主に俺が幅を取り、詰まった状態で下へ向かった。

 

 

 降りたところには大勢のミミズ顔がいる。ミミズ顔たちは、泣いているような笑っているような、不気味な声を発している。

 いたずらに近づけば、呪死は免れない。俺もトリーナも、死の霧を食らったらどうなるか分からないのが、不安を煽る。結果、俺たちは遠距離攻撃で、ミミズ顔を無力化することにした。

 

 褪せ人は直剣を取り出して掲げ、その頂から白い光線を周囲に放った。幼き飛竜は褪せ人の腕から離れ、火炎ブレスを吐き出す。俺は地面に手を付け金色の炎柱を噴出させた。

 ミミズ顔がこちらに気づく前に無力化に成功し、跪くようにして膝を付けるそれに向かって粒子を使う。するとミミズ顔は、その姿を変化させることなく、傷を癒やしてすぐの人と同じように眠り始めた。ミミズ顔の周辺には、金の排泄物が大量に落ちている。おそらく、ミミズ顔の腹の中に入っていたものだ。これを見て、俺は気が付いた。

 ミミズは分解者としての生態を持つ。金の排泄物は死を取り除いた黄金律により、ずっと糞であった。これらは分解されず、ミミズ顔の腹に溜まり続けていたのだろう。あの不気味な声は、分解ができない苦しみの声だったのかもしれない。

 不気味なミミズ顔が途端に哀れに見えてきた。俺は、腐敗の神性を取り込んだことで手に入れた、分解者の力を以て金のそれを、正常へと戻した。

 苦しみの内にあるならば、治していかねば。俺は、皆に対応を変えることを話し、トリーナの権能を活用してミミズ顔たちを眠らせていくことにした。

 

 広い水溜まりで嘆いていた巨大なミミズ顔を最後に、トリーナの力で眠らせ、俺は治療した。排泄物にはしっかりと分解の力を使っておく。

 褪せ人が、近くにあった東屋で鈴玉を入手し、とても喜んでいた。これだけでも彼にとって大きな収穫だろう。俺たちは、腹を下したミミズ顔がいなくなったのを確認してから、上の道へと戻った。

 

 

 建物内の水場を、三人と飛竜一匹の力で突破し、開けた場所で褪せ人が祝福を触るのを待つ。少し進んで、褪せ人がまた鈴玉を見つけたと、嬉しそうに報告してきた。遺体から浮き上がっていたものだ。辿り着いた者が少ないがためか、ファルム・アズラには貴重な物が沢山落ちたままである。

 

 浮いた瓦礫に飛び乗り、道なき道を進む。道中には、ファルム・アズラの獣人、その骨になった者が、俺たちに襲い掛かってくる。トリーナが骨を見て呟く。ゴッドウィン兄様の死がここにも。

 死に生きる者になった獣人たちは、元々埋葬されていた場所から起き上がってきた者たちだ。それか、遺跡内に転がるただの骨が寄り集まっている。

 トリーナは、彼らを眠らせてあげてと、俺と褪せ人に言う。確かに俺から見ても、彼らは無理やり起こされたように見える。副葬品の槍や盾を持ち、意志もなく動いているからだ。死の根の影響が、ただ届いてしまったようだ。これでは、望んで死に生きているとは言えないだろう。

 また新たな生命として生きられるように。俺は金色の粒子を纏い、彼らに拳をぶつけていった。

 

 動かなくなった骨を俺の中に弔い、瓦礫を道にしていくと、再び屋内へと入った。階段を下りれば、故郷を無くし各地を放浪する失地騎士が風を纏って攻撃を行おうとしてきたが、直前で踏みとどまる。そしてじっと俺たちを見てきて、剣を鞘へしまった。失地騎士は、フェイスガードによりくぐもった声で俺たちに言う。古竜から、任を果たした者たちを通すように言われている。

 彼らは竜餐を行っている、古竜側の者たちだ。話が通じるのは助かった。

 俺たちは失地騎士に道を譲ってもらい、頭を下げて通過する。

 

 通りすがる一人の失地騎士に忠告される。この先に、同じ時間を繰り返し、生き続ける者がいると。

 どういうことか聞き返すと、斧槍を持った失地騎士は続けた。ここは停滞した時間の中にある。竜の時代を終わらせた者が、死しても時がたてば復活し、今も尚戦い続けているのだ。

 ここに残っている時点で、時の流れからも取り残されるのだと、俺は理解した。失地騎士の案内に従いながら、弧を描く階段を下り、聖堂に足を踏み入れる。背後から黒い火球が飛んできた。彼らもまた、この地に取り残された者たちなのだ。

 

 

 神肌の使徒に、神肌の貴種。神肌の二人と呼称されていた彼らが、俺たちに得物を向ける。

 お母さまの敵だ。トリーナはその愛らしく幼い声を低めて言い、眉を顰めて彼らに相対する。使徒によって黒い火球が投げ込まれ、貴種が横転しながらこちらに突進してくる。

 

 

「トリーナ殿。今こそ、貴女の力が生きるときだ。」

 

 

 トリーナは頷き、俺の腕から背面へ、よじよじと足を動かし移動していく。攻撃を俺が庇うための構えであるが、奇しくもそれは、ミケラがラダーン将軍の背におぶさったときに似ていた。

 褪せ人を見ると、トリーナの深紫の靄を刃から出した直剣で、神肌を攻撃していた。俺も拳を握り、神肌たちへ突貫する。

 

 トリーナの濃い靄によって、神肌たちはすぐさま眠りにつく。そして褪せ人が眠った彼らを、角の戦士が使っていた大曲剣における疑似的な神降ろしで切り刻む。俺はなるべくトリーナが酔わないよう、動きの少ない大蛇狩りの嵐で突きを行い、各個撃破していく。

 元々眠りやすい彼らは、トリーナと褪せ人の力で、ただのサンドバッグになっていた。使徒が消え、次に貴種が消える。

 もう一度復活してきた同一個体も、もう一度眠らせることで難なく倒すことができた。復活は止まったが、この地の特殊性は掴み切れない。失地騎士が言うように、時が経てばまた彼らは元通りになるのだろう。何の進展もない停滞は、牢獄のような生き地獄だ。俺は敵でありながらも、彼らに向かって祈った。

 

 

 竜の聖堂から外に出た。右側には、マリケスの佇む建物とそこへ至るための道が見える。死角から飛び掛かってくる獣人たちを何とか撃破して、浮いた瓦礫の道を下りていく。

 獣人の群れに気の休まらない探索を続けていると、インプ像によって霧がかかった入口前に辿り着いた。上がるための昇降機が封じられている場所だ。褪せ人は石剣の鍵を気前よく使った。

 

 昇降機を上った先に広がるのは、黄金樹の種子や古竜岩の鍛石など、重要なものが手広く落ちている空間である。死に生きる者と化した獣人の骨を倒しながら、褪せ人は喜びのままにそれらのアイテムを回収していく。

 俺は視界を上げる。ここは、鉄拳アレキサンダー最後の地であった。割れる未来は回避したため、開けたあの空間にアレキサンダーはいなかったが、哀しみが胸を打った。それと同時に、生き残ってくれた喜びも。

 やはり、このような瓦礫の山で戦うことは、彼にふさわしい試練とはならない。これからも、勇ましき戦士の壺が強くなっていけるように、俺は祈った。

 

 

 来た道を引き返して別の道を通り、建物内に入った。

 左側の出口に進む。灰のように崩れ落ちた古竜の前には、坩堝の騎士が佇んでいる。坩堝の騎士は俺たちを見るなり、剣を振るってきた。

 古い黄金樹、死を取り除かれる前のそれを信じる坩堝の騎士は、俺たちの声に何も反応を示さなかった。俺が金色の粒子を使って触れても、何も起こらない。

 繰り返す時の中で精神が摩耗したとしても、それは損傷ではないのだ。肉体と魂どちらもが健在であっても、騎士は動くだけの抜け殻であった。

 

 俺が対応できない存在だと分かると、褪せ人はすぐさま戦い方を切り替えた。坩堝の騎士の斬撃を受け流し、体勢を崩した騎士に致命の一撃を入れる。その後、赤みを帯びた黄金の粒子を出しながら、大槌をぐるぐると回して騎士に叩きつける。

 褪せ人が使う大鎚は、村に来ていた騎士デボニアの得物だ。坩堝には坩堝の力を。坩堝の翼を生やしながら突進してくる坩堝の騎士に、褪せ人は思い切り大鎚をぶつけて迎撃する。地面に全身を押し付けられた状態で、坩堝の騎士は消滅した。

 

 屋根を伝い、下へ降りていくと、大鷹が俺たちの周りを飛び回る。敵対していると判断したが、一向に攻撃してこない辺り、そうではないらしい。しばらくすると、大鷹はトリーナの手に擦りついていった。動物に愛される彼女は、初めて出会った動物さえも懐かせてしまうらしい。トリーナは微笑みながら、大鷹の首を撫でた。

 

 

 大鷹に群がられるようにして俺たちは進んでいき、チャクラムを投げる獣人や、赤雷を降らせる白い獣人を無力化していく。建物の残骸が橋のようになっているのは、やはり足場として信用ならなかったため、蛇綱で皆を運ぶ。

 水場を抜け、昇降機を使って上り、暗い小部屋へとやってくる。上に行けば、竜のツリーガードが。それが守る奥の建物にマリケスがいる。俺は念入りに準備を行っている褪せ人を待つ。

 

 崩れかけの階段を上がり、竜のツリーガードと対面する。異形の鎧を身に纏った彼らは、竜の諸相を浮き上がらせていても、黄金樹を守ろうとする意志は変わらない。運命の死を封じるマリケスの元に行かせないよう、ここを守っているのだろう騎士は、騎乗した馬から火球を放たせる。

 

 

「貴殿!俺たちは、死のルーンを奪いに来たわけではない!ここにいる女王マリカの子を、影従に会わせたいだけだ!」

 

 

 すると竜のツリーガードは、俺の背中にいるトリーナを見る。そして俺にトリーナを降ろすようにジェスチャーにて指示し、戦いを望んだ。

 門番というのは試したがりだ。俺は竜のツリーガードの誉れ高さに感謝すると、拳を振り上げた。

 

 俺と褪せ人は連携して、竜のツリーガードを翻弄する。騎士は大竜爪によって応戦してくるが、振りが遅い。褪せ人が隕鉄で鍛えられた特大剣を取り出し、白い雷と共に素早く突進した。隙が無く、威力も高い技は、竜のツリーガードの馬をダウンさせる。その隙に俺は、馬に向かって蛇綱を伸ばし、鍛えられたミケラの巨大針で二回本体を刻む。外なる神の干渉を防ぎ、昏睡の靄も誂えたこの針は、本来睡眠が効かない竜のツリーガードを一瞬朦朧とさせる。

 大きく隙を作った騎士に対し俺たちは猛攻を続け、彼が持つ得物が手から離れたところで、戦いは終わった。

 

 俺は傷を負った竜のツリーガードをすぐさま治療する。

 竜のツリーガードは、褪せ人の強さが気に入ったらしく、彼の身に着ける鎧と同じものを手渡していた。黄金樹を守るためなら異端こそを受け入れる、手段を選ばない彼らだ。祝福無き褪せ人であっても、中立的な視点で見られるのだろう。

 俺は竜のツリーガードに壺を下げ、建物内へと足を踏み入れる。

 

 

 獣の司祭は、俺たちの訪れにひどく驚いているようだった。褪せ人も見覚えがある司祭の姿に、グラングと一言呟く。

 

 

「褪せ人…何故、お主が…。火は放たれず、黄金樹は燃えていない…。どうやってここへ…。」

「俺と、俺の家族が褪せ人殿を導いた。…貴殿、女王マリカの影従で間違いないな。」

「…何者だ?」

 

 

 俺は庇いながらも、トリーナを前に出す。トリーナは俺の方を向いて、本当にお母さまの影従なのと疑問を口にした。フードを被っているので、正体が掴み切れていないようだ。獣の司祭は、トリーナの姿にまたしても動揺し後退する。

 

 

「マリカの子…!何故だ、何故今ここにやってきた…。」

「トリーナ殿、説明してやってくれ。」

 

 

 トリーナは、獣の司祭に言う。陰謀の夜について知りたい。死のルーンは、何故貴方から盗まれたのか。あとお母さまについて知っていることを話してほしい。そのために来たと。

 獣の司祭はぐるると低く唸り、フードの奥からトリーナを睨みつける。

 

 

「知らぬ…。マリカは、我を裏切った。死のルーンを盗み、エルデンリングを砕いた…。かつて我に命じた任を踏みにじり…掲げた黄金律を、自ら壊したのだ…。」

 

 

 今度はトリーナが目を見張る番だった。お母さまがゴッドウィン兄様を殺すなんて、ありえるはずがない。

 獣の司祭は鼻を鳴らし、被っていたフードを取り除いた。黒き鎧が露になる。

 

 

「真だ…もう、誰にも盗ませはせぬ。運命の死は、我の中にあり。」

 

 

 プレッシャーを増していく彼に向かって、褪せ人が言う。自分は、魔女ラニの王となると。

 陰謀の夜の主犯である彼女の名を挙げた褪せ人に、マリケスは剣を体内から引き抜こうとする。

 それを見て褪せ人は続ける。ただラニは、傀儡となる未来から逃れたかっただけだ。彼女は二本指の言に、従いたくはなかった。

 

 

「ただ、それだけか…?自由のためだけに死を盗み、地を混乱に陥れた…そうとでも言うつもりか。」

「初対面だが、貴殿に話させてくれ。二本指の母、メーテールの存在を知っているか。」

「…それは、なんだ。」

「知らぬならいい。そのメーテールは、二本指に大いなる意志の言葉を伝達していたのにも関わらず、壊れていた。それもだいぶ昔にな。」

 

 

 要領を掴めない言い回しで、マリケスはだんだんと苛立ちを募らせていく。突然やってきて、分からない話だけされても困惑するだけだろう。俺は本題を言った。

 

 

「つまりマリカは、貴殿を本心から裏切ったわけではない。その可能性が高い。」

「…話せ。」

 

 

 俺は推論を言った。神と王を作り出すための手順を。王は死して器となり、神の傀儡にならねばならない。雄弁な二本指はそう説いたのだろう。大いなる意志の傀儡のようであったマリカはそれに従った。

 しかしそのとき既に、指の母は壊れていた。これは、小さな指の母から聞いたことだ。永遠の都の者たちが指殺しの刃で、彼女を傷つけたとき。大いなる意志との交信は、ほぼ途絶えたと。

 そうなれば二本指は推測を口にし、ゴッドウィンは無駄死にだ。ラニに自由のため謀られ、大いなる意志の言も届かない。ラニの謀りだけなら何とかやり直しが効くが、それをやる意味は二本指が独自に考え出したもの。神と王という二人で一つのシステムを、マリカは信じられなくなった。

 トリーナが呟く。その推測が正しければ、ミケラが神になるための手順も、もはや意味を為していなかったのと、震えた声で。

 

 

「大いなる意志は、俺に力を渡し完全に去った。マリカはもう、黄金樹に囚われる必要はない。マリケス殿。彼女を外に出すため、協力してくれないか。」

「…真実は、マリカから聞けばいいと。お主はそう言いたいわけだな。」

「ああ、混乱を生み出したのは大いなる意志だ。貴殿を裏切ったかどうか、すぐに分かる。」

 

 

 マリケスは剣を収めると、赤い欠片を褪せ人と俺に手渡す。マリケスはこれについて説明する。

 

 

「これは…死のルーンの欠片だ。…エルデンリングには、獣が潜む。これで、それを打ち倒し、マリカを救ってくれ。…我はまだ、マリカの影従なのだ。」

 

 

 マリケスは、マリカへの忠誠、あるいは友情を捨てきれていなかったのだ。褪せ人は懐にそれをしまい、俺はミケラの巨大針に死のルーンの欠片を纏わせた。

 エルデの獣を、死へと導く。出自は違えど、エルデの獣と俺は、共に大いなる意志から遣わされた存在だ。だが人の時代を作るには、意志のあるエルデンリングは要らず、律に神は必要ない。獣には、ただの物質になってもらおう。

 

 その後は、マリケスから威圧感が消え、トリーナが以前のマリカについて、事細やかに訊いていた。マリケスはトリーナの質問攻めに困っていたが、在りし日のマリカを語り始めると、雰囲気が和らいだ。マリカの子はやはり、彼にとって可愛く思えるものなのだろう。

 褪せ人はマリケスとの手合わせを望み、黒き剣なしでの純粋な決闘を行う。グラングとしての彼と褪せ人の間には、確かに絆が生まれていた。だから、彼らの決闘は真剣であったが、楽しげでもあった。俺は目の前の光景が、眩しく思えた。

 

 

 マリケスと褪せ人、トリーナの交流は終わり、俺たちは来た道を戻った。マリケスのいた建物から直進し、梯子を下りた先にも向かったが、あの背律者ベルナールには出会うことはなかった。

 ある程度戻ると、開けた場所にてセネサクスと合流した。セネサクスの横には、傷ついた古竜が横たわっており、息も絶え絶えだ。

 セネサクスは俺に念話で頼んできた。この同胞を、治してやってくれないかと。

 頼まれずとも、話の通じる生物である古竜は治すつもりだ。俺は目を閉じている古竜に、手を当てて粒子を放った。刻まれた生傷がじんわりと塞がっていき、少し経つと目立つ損傷はなくなった。苦し気に息を吐いていた古竜は、目を大きく見開くと俺を見た。念話でハスキーな女性の声が響く。

 悠久の傷を治せる者がいるとは。

 

 竜王に仕えるものなら、時の狭間がどこにあるか知っているだろう。俺は古竜に尋ねる。

 

 

「古竜よ。竜王への謁見を、俺たちは望んでいる。場所を教えてくれないか。」

 

 

 古竜は頭を下げ、咆哮をしてから宙をホバリングする。ついて来いと言っているようだ。

 俺たちはセネサクスの背にまたがり、古竜の後を追った。

 

 竜巻の真ん前にある大きな瓦礫に古竜は降り立ち、ここだと首で示す。そこには丁度、骨が埋葬されていない空間があり、人型の窪みが空いている。時の狭間へは、ここに寝そべることで向かうことになるのだ。

 褪せ人はどうすればいいのか首をかしげている。俺が見本になることにした。

 

 

「褪せ人殿に、トリーナ殿。セネサクス殿は行けるか分からないが…。あの古竜が示したように、この窪みに集まり、寝そべってみよう。物は試しだ。」

 

 

 俺が壺を横にすると、褪せ人は両手を組んで窪みに寝転がり、トリーナもそれに続く。土埃で体が汚れるのが嫌なのか、無理やり俺の表面に背中を預けてきた。セネサクスも俺たちを囲うようにして丸くなる。

 しばらくすると、不思議な現象が起きた。時が止まったように周囲の動く者が停止した後、竜巻の回る向きが逆になったのだ。浮いた瓦礫がぴったりとくっつき元の姿を取り戻していく。

 そうして、気づけば俺たちは、円状の神殿、時の狭間へとたどり着いていた。

 これが、ファルム・アズラ最後の場所だ。旅の終わりを感じながら、俺は褪せ人に、竜王の首を取り出すよう頼んだ。

 

 竜王プラキドサクスは宙に浮き、残った二本の首を天に伸ばして静止している。そのシルエットは二本指に似ているが、近付けば全く違う存在だと分かる。

 巨大な頭部を、俺と褪せ人が一つずつ持ち、竜王へと近づいていく。フローサクスは既に召喚され、褪せ人の後ろに付き従うように歩む。

 プラキドサクスが、地に降りて来たタイミングで、フローサクスに宣言してもらう。

 

 

『竜の王、プラキドサクス様。あの暴竜を打ち倒し戦士たちが、私と共に今帰還いたしました!』

 

 

 首をもたげ、俺たちが上に掲げた首をしかと見る。プラキドサクスに言葉はないが、彼からねぎらいの感情が念として漂ってきた。俺はプラキドサクスに近寄る。竜王の体表は、長い年月を巻き戻して耐え凌いでいたためかぼろぼろであり、今にも崩れ落ちそうな見た目をしている。

 俺は少し手刀を前に添えることで断りを入れてから、彼の体に触れる。

 

 

「無礼を許してくれ…!」

 

 

 金色の粒子を彼の体に纏わせる。プラキドサクスは、突然俺が触れてきたことに対し、威嚇を込めた咆哮を行う。しかし、その長い咆哮は、次第に小さくなっていく。ぼろぼろの体が癒えていくからだろう。

 俺は千切れた二つの頭を、プラキドサクスの首に接着し、粒子の放出を多くする。

 金色の癒しの炎で包まれたプラキドサクスはしばらくして、損傷の無い四本首の偉大なる姿を取り戻した。天を掻き鳴らすその咆哮は、喜びであっただろうか。プラキドサクスはその巨体で、神殿の周囲を旋回し、しばらく戻ってこなかった。

 

 再び地に足を付けたプラキドサクスに、俺たちはベール討伐の話や、セネサクスのこと、褪せ人がフローサクスと共にありたいことなど、色々な話をした。古き竜である彼は、同じく古き言語のみを知っているようだ。そのため、フローサクスの念話を通じて俺たちの話す内容を理解し、俺たちにそれに対する回答を行う。

 ベール討伐については、称賛とねぎらいを。セネサクスについては、罪の放免を言い渡す。プラキドサクスにとって、ベール討伐は悲願でありながら二の次であり、竜の神を待つことが第一にあった。またセネサクスは古竜であるからして、元より離反したとしても寛容を示していたようだ。

 彼はこれからも、時の狭間で悠久の時を過ごす。万全の状態になったため、より長く耐え忍ぶことができることを喜んでいると、フローサクスが俺たちに伝える。

 

 そして褪せ人には試練を課した。巫女を連れ出すならば、相応の試練を受けてもらうとのことだ。試練とは、万全になったプラキドサクス自身との戦いである。

 プラキドサクスは、一対一での勝負を行うという。祝福を褪せ人に解放させ、俺たちを元の場所へ帰すようにプラキドサクスは言う。

 体が治った竜王の強さは、想像がつかない。俺はフローサクスに金色の壺を渡し、勝負がついたらこれで竜王を回復するように言った。

 

 褪せ人の燃えるような闘志を間近で見ながら、俺は鼓舞する。新しき時代の王よ、古き王に力を示してくれと。

 次に会ったとき、その激闘について話が聞けることを楽しみにして、俺たちは村へと戻った。




―――ボス情報―――

マリカの影従、マリケス…

黒鉄を金で装飾した獣の鎧を身に纏い、褪せ人から一時的に借り受けたグレートソードで戦う。運命の死を使った攻撃はないが、行動パターンが従来よりも多い。手合わせであり、戦い方に遊びを取り入れられるからだろうか。
得た追憶を金色の大壺に捧げると、本編のマリケスの再現とも戦える。

四本首の竜王、プラキドサクス…

損傷が治り、本来の四本首を取り戻した竜王。体の綻びを気にしなくても良くなったため動きが格段に早くなり、全体攻撃の威力も増している。
試練のため、空中を飛んで攻撃するパターンは減る。大技を思い切り振りかぶれる、爽快な戦いを楽しめるボス。
得た追憶を金色の大壺に捧げると、本編のプラキドサクスの再現とも戦える。
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