戦士の壺(パチモン)   作:棘棘生命

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壺村

 狭間の地を隈なく見て、歩いた。そして多くの約束をつけ、それを果たして回った。

 気づけば、褪せ人と狭間の地を旅するのは、次で最後になった。次の召喚が終われば、本格的にこの地のシステムに手を加えるため、狂い火を排除し、支配権限を持つ二本指を諦めさせる。為すことを為す作業が始まるだろう。

 最後の召喚の地は、壺村。ゲーム上の旅路で、最もむごい虐殺が起きた村だ。

 俺は生き壺となった。もう傍観者ではない。同胞たちのため、絶対に食い止める。

 

 俺は、巫子の村にいる生き壺たちを招集し、宣言した。彼ら生き壺は、焼き具合で様々な色味になっており、表面につく小さなキズさえ、全く同じ者はいない。

 

 

「同胞たちよ!自身の描く道へ進んでいること、嬉しく思う。だが今ばかりは、皆戦士となろう。これから、褪せ人殿の協力の元、遠い地の同胞を守りに行く!俺に掴まり、同胞を必ずや、平穏に過ごせる道へと導くのだ!」

 

 

 俺が拳を振り上げると、全ての生き壺が勇ましき声を上げる。声をまだ出せない生き小壺もジェスチャーでその闘志を見せつける。そして、円陣を組むように俺を中心にして、一人一人俺に触れてくる。総勢六十体以上の生き壺が、鍛錬の成果を見せる。今このときのために。

 生き壺の上には巫子らが乗り、平穏の祈祷を教えるために俺たちと共に向かう。村を仕切る立場の壺巫女も参加し、今俺の蓋の上で頷いている。

 俺はうずく指に祈りを込め、褪せ人の呼びかけに応じた。

 

 

 湖のリエーニエ。崖の下にひっそりとある壺村。生き壺が家屋で暮らす、唯一の村に俺は足を踏み入れた。

 円陣を組んだまま召喚された俺たちに、褪せ人はこんなに来るとは思わなかったと笑いながら言った。

 

 褪せ人は俺と探索しているとき、壺村に来るのを、旅の最後の思い出にしたいと言っていた。不思議と落ち着く場所で、星の外へ向かう前に穏やかな光景を目に焼き付けたいと。

 俺は敢えて、壺村での惨劇について言っていなかった。起こる悲劇は防げばいい。楽しげな褪せ人の気分を、不安でつぶす必要はないと思ったのだ。

 

 褪せ人は、壺村の各所を示す。つるつるの小壺と、奥にあるボロ屋だ。

 そして褪せ人は、気分が良さそうに俺たちへ話してくれた。前来た時と違って、知り合いが一人、村の一員として加わっている。それはディアロスという男で、失意の果てにここへたどり着いたらしい。本人からそう聞いた。

 貴公らも話してみるといい。力はないが、心優しい男だ。褪せ人はそう続けた。

 

 俺は壺巫女を下ろし、壺を少し動かすことで伝える。作戦の通りに行く。

 

 

「その方が、戦士の壺様がおっしゃっていた…。かしこまりました。貴女たち、ディアロスという方の元へ向かいましょう!」

 

 

 壺巫女は、連れて来た巫子らを集め、ボロ屋へとぞろぞろと歩いていった。ディアロスとは、悲劇を回避できた後にでも話そう。褪せ人は、それにしても大人数だなと呟いていた。

 生き壺たちは、村の同胞と交流を深めるため向かい、俺と褪せ人は、石レンガの上からこちらに見ている小壺の元へ向かう。

 

 小壺は、近付いてくる俺たちに愛らしい声で言う。俺は実際に会えた感動と、これから起こる戦いのことでいっぱいいっぱいだった。辛うじて、小壺に言葉を返す。

 

 

「わあ…!皆、お兄ちゃんのお友達なんだね!村の外に、こんなに壺がいたなんて…!」

「ああ、皆俺の家族だ。そして褪せ人殿と俺は、友だと、そう思っている。」

「いっぱい家族がいるんだ…。おじちゃん、お名前は?すごい、金ぴかだね。」

「俺は、戦士の壺。褪せ人殿と肩を並べて戦ったぞ。褪せ人殿は正に英雄。戦った相手は、強敵ばかりだ!」

「戦士の壺…本名を言わないのもかっこいいな!お兄ちゃんに戦士のおじちゃん。外のお話に冒険のお話、聞かせてよ!」

 

 

 褪せ人は深く頷き、影の地での冒険に、今行っている最後の旅路を語り始める。手に汗握るような語り口に、小壺のテンションは高まり、実際に同行していた俺も拳を作るほど話に夢中になっていた。

 

 褪せ人の物語は長く、都度休憩を挟みながら、小壺と俺は座って彼の話を聞く。いつまでも飽きない語り口に、俺と小壺は、楽しいという感情で心を通じ合わせられた気がした。

 気がつけば壺村の同胞たちや、俺の家族も褪せ人の話を聞きに集まってきていた。巫子の集団の内に、鎧を着た男性ディアロスの姿も見える。彼は壺師となって、思いつめたような表情はなくなり、ただ穏やかな日々を望んでいるのが分かった。

 長い長い英雄の旅路は、夜が明けるまで続いた。

 

 

 もう少し滞在したい。その褪せ人の要望は、壺村の皆に喜ばれた。楽しそうに過ごす家族を視界に入れながら、壺巫女に話しかける。

 

 

「壺巫女殿、どうだ。祈祷は伝えられたか。」

「ええ、しっかりと。やはり、狙われる身であるためでしょうか。警戒心を持っていらっしゃる壺の方々は、すぐ覚えて下さりました。ディアロス様は…覚えが遅いですが、滞在中には覚えられるはずです。今はあの小さな壺の方に教えております。」

「詳細な情報、感謝する。あとは…密猟者どもを叩きのめすだけだな。」

 

 

 壺巫女が眉を顰める。壺巫女も、生き壺を大切に思ってくれているのだろう。ひそひそと俺に言葉を返してくる。

 

 

「戦士の壺様、よろしいのですか。そのような野蛮な、密猟などをする方は…また繰り返します。」

「問題ない。人の時代に遺恨は残すつもりがないからな。」

「戦士の壺様…やはり貴方は、お優しい方ですね…。」

「…それに、もし秘密裏に処理したとしても、また狙われよう。同胞が大手を振って、この地を歩けるようにするには、大々的に知らしめる必要がある。」

 

 

 俺は崖の上を向いた。木々の陰で、ローデイルの君主軍に待機してもらっているのだ。密猟者の集団がここを襲いに来たら、捕縛してもらうように。モーゴット様様である。まだ会えていないのだが。恩が返せないまま、どんどんと積もっているため、早くローデイルのために身を粉にしたいところだ。

 密猟者の捕縛と共に、俺たちは喧伝する。我ら生き壺は、物でなく、人として時代に加わることを。

 密猟者たちよ。来るならば、相応の覚悟を持つがいい。俺は拳を固く握り、その時を待った。

 

 

 夜が深くなった頃。複数の、衣類が擦れる音がした。夜の闇に、下手人の刃が光る。

 ついに密猟者がやってきたのだ。唐突な襲撃に、壺村の生き壺たちは怯え始める。

 生き小壺を手入れしていたディアロスが、震える手で鞭を持ち、襲撃者に立ち向かおうとする。

 

 

「密猟者ども…もしや私が呼び寄せたのか…。やるしか、ない。二度と、手からこぼしはしない…!うおぉぉぉぉぉ!」

「その闘志、確かに響いたぞ。同胞たちよ!今こそ、鍛錬の成果を見せるときだ!」

 

 

 俺は家族たちに向かって声を響かせた。すると眠ったふりをしていた同胞が、むくりと起き上がる。戦いの記憶の中で、輝石魔術の模倣を得た生き壺たちが、一斉に「星灯り」を使用した。

 暗い夜の闇が、一瞬で昼のごとき明るさへ変わる。目くらましを受けた密猟者たちは、顔を隠し、得物を雑に振り回す。その間に同胞たちが、壺村の生き壺を誘導し、完璧な守りを実現した。

 

 密猟者たちに対し、同胞が果敢に攻めていく。ある壺は嵐を呼び、ある壺は竜の雷を投げる。破砕戦争で鍛錬を積んだ生き小壺は、貴腐騎士の槍の幻影を高い技量で操る。あのアレキサンダーの手作り壺であった彼は燃え上がる拳を叩きつけた。

 

 

「せんしになれぬ、ひきょうものどもめ。このせんしのつぼ、ようしゃはせぬ!」

 

 

 密猟者から受けるキズも、後方にいる巫子と、大人しい生き壺たちが祈りを捧げることで回復する。儲けるチャンスだとでも思ったのか、次々に現れる密猟者たち。それを、褪せ人と俺、そして同胞たちが蹴散らしていく。

 殺しはしない。ただ死ぬよりも恐ろしい目に遭わせてやる。恐怖のまま二度目の死を味わった、生き壺たちのために。

 今代の王となる褪せ人の強大なる力が、敵を打ち倒す。

 嵐が舞い、冷気が吹き、雷が降り注ぐ。溶岩のごとき火が辺りを更に照らし、青白い輝石が無数に飛ぶ。多種多様の道を進んだ生き壺の戦士たちが、密猟者たちを倒す。

 そして密猟者たちが皆、瀕死の状態で意識を失ったとき、夜は明けていた。

 

 すさまじい量の密猟者を厳重に縛り、ローデイル兵に渡す。

 これで思い知っただろう。生き壺は狩られるだけの存在ではない。敵意を向ければ、必ず仕留めると。

 

 

 しばらく交流を楽しんだ俺たちは、褪せ人の出立に合わせて、村に戻ることになった。褪せ人はもう、彼らと会うことはないだろう。ディアロスと褪せ人は最後の話をしている。

 小壺は後ろに控える同胞を一人一人見ながら、俺に言った。

 

 

「皆、すごく強かったよ!助けてくれてありがとう!」

「守れて、本当に良かったよ。…しばしのお別れだ。」

「うん。実は…お兄ちゃんには言ったんだけど、僕も戦士の壺なんだ。僕も、皆みたいに強くなれるかな?」

 

 

 もじもじとしながら小壺は、俺や同胞に話した。もちろんだと、同胞たちは小壺に向かって壺を傾ける。

 俺も小壺に言った。

 

 

「戦士とは、高みを目指す心を持つ者だ。だから、貴殿は絶対になれる。戦士の壺、その中の英雄へと。」

「ありがとう、戦士のおじちゃん。僕はきっとなるよ、みんなを守れる英雄に。高みを目指す戦士に!」

 

 

 俺は小壺と握手をした。小さい岩の手は、それでも力強く確かな熱を感じた。

 この壺村には、金色の結界を張った。必ず守ろう。彼らが村を出て、自分の生きたい道を行ける時まで。

 

 人の時代の始まりは、すぐそこだ。壺村を守り抜くこと、狭間の地で最も行いたかったことを終え、最後の戦いに向けて思考を切り替えた。

 

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