戦士の壺(パチモン)   作:棘棘生命

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明日で狭間の地の話が終わり、
明後日に番外編全ての更新が終わります。最後までよろしくお願いいたします。


ある悪霊の嘆き

 戻ってすぐに、俺は召喚し直されることとなる。

 短い待機時間だったが、その間に皆へ驚かれた部分がある。鍛冶師ヒューグに鍛えてもらった部分だ。意識が戻ると突然頑丈になり、光沢を増していたからだろう。

 またミケラたちに、巨大針を沢山渡された。腐敗の神性相手に使った針の複製だ。効くか分からないが、ティエリエたちの作った緑の炎も、針先に付与されている。

 外なる神が嫌いなミケラは、私の代わりに倒せと一言、幼子らしい命令をしてきた。俺は頷いた。

 ミケラの命令に従うわけではない。皆のために、世界を焼き溶かす火を無力化するのだ。

 

 

 召喚された場所は忌み捨ての大聖堂、その最奥部であった。褪せ人の隣にはメリナが姿を現しており、重く閉ざされた扉の先を、憎々しげに見つめている。

 褪せ人は、扉の先とその手前、目を包帯で覆った女性を示す。あれがハイータだろう。褪せ人が彼女のことを細かく話してくれる。

 俺は状況を確認すると、褪せ人たちに針を見せた。両手いっぱいに抱え、頭の上にも乗せられた針の束を地面に下ろす。小さな指の母も、荷ほどきに協力してくれる。

 

 狂い火は魂をも焼き尽くす。そのため、霊体のメリナには対応が難しい可能性があるが、二人に訴えかける。

 

 

「褪せ人殿に、メリナ殿。この先に狂い火があるのだろう。もし火が解き放たれたら…この針を使って、押しとどめてくれないか。」

「…分かった。私も協力する。」

「ありがとう。貴殿がいれば、心強いよ。」

 

 

 メリナは巨大針を眺めると、その一つを握った。褪せ人が、メリナに対して喜びの声を上げる。

 彼女は生きることの素晴らしさを知っており、それを望んでいる。危険を顧みず戦ってくれるメリナに、俺も感謝を告げた。

 

 準備を終えた俺たちは、座り込んでいる女性の元に向かう。ハイータは狂い、彼方の灯、つまり橙色の火を導きと感じるようになった女性だ。いや、元々そうあるために生まれた存在なのかもしれない。

 ハイータは褪せ人が近くに来たのを感じ、嬉しそうに言葉を紡ぐ。狂い火の王になることを期待しているのだ。

 

 

「…ああ、貴方も、ここに至ったのですね。…話す度に感じていました。私は巫女、そして貴方はきっと、王になると。」

 

 

 褪せ人が、ハイータの言葉を中断させる。そして言った。自分は魔女ラニの王となる。狂い火の王などにはならない。

 ハイータは、褪せ人が放った拒絶の言葉に表情を一変させ、悲し気に呟く。褪せ人が俺に向かって頷いた。粒子を使うときだ。

 

 

「え…それでは、私は…。」

「お嬢さん、少し触れるぞ。」

「あ…温かい。…これも灯なのですか…うっ。」

 

 

 ハイータの表情が和らぎ、一瞬で青ざめる。体が正常になったからか、精神が正常に戻ったからか。俺たちが、じっと見つめていると、彼女の口からすさまじい量の丸い物が吐き出された。ブドウと呼称されていた、人の目だ。粒子によってそれは、蕩けておらず肥大化もしていない、ただの眼球になっている。消化されずに、腹に溜まっていたのだろう。

 えずく彼女の背を、褪せ人が撫でる。こんなに食べさせられていたのかと、若干の恐れを口にしながら。メリナは、そのおぞましい儀式に対してか、両手で袖を擦っている。

 

 全て体内から吐き出した彼女は、ぐったりしながら俺たちに言う。彼女の瞳は、粒子ですでに治り俺たちの姿を視認できている。

 

 

「貴方が、私を治してくださったのですね…ありがとう、ございました。」

「いいや。意識ははっきりしているか。」

「はい…。しかし、不思議なのです。私の記憶は、私自身のもの以外…ある女性のものも混ざっているようなのです。イレーナという女性をご存じですか。」

 

 

 褪せ人は頷く。イレーナは、モーン砦の前で亡くなり、そしてまた蘇っている。今はストームヴィル城の主の元にいると。

 ハイータは混乱していた。

 

 

「私は、イレーナではないのですね…。では私は、何者なのでしょうか。」

「…その問答に、答えは出せない。だが、これから自分を探すこともできるだろう。」

 

 

 俺は褪せ人に視界を向ける。戦いの後、ハイータを連れて行ってもらえるよう、言外に潜ませる。褪せ人は、ここへハイータを置いていくつもりはないと言った。

 

 

「己を探したいのであれば、俺も協力するぞ。村に来てもらえば、喜んで歓迎しよう。」

「…ありがとうございます。お優しい方々。」

 

 

 ここに留まれば、狂い火に焼かれる可能性が高い。ハイータを一旦上に俺が連れていき、聖堂内で待っていてもらうことにした。

 再び一番下へと、蛇綱を駆使して戻り、褪せ人の横に並ぶ。

 

 移動中、ハイータは俺に言った。すべてを脱ぎ捨てれば、扉を開くことができると。俺はそれを知っていたが、あえて褪せ人には教えず、扉を破ることにした。一つたりとも、狂い火の思い通りにはさせない。

 

 

 これまで得た力全てを拳に集め、扉を穿つ。あらゆる属性を固めたその一撃は隙だらけであり、実戦では扱えないほど時間がかかるが、動くことのない物に対しては効果覿面だ。

 拳の形をした大穴が開き、中にいた三本指が暗がりに見える。

 

 

「行くぞ、二人とも!指の母よ、対話は任せたぞ…!」

 

 

 俺が壁役となり、三本指に向かってずんずん進む。狂い火で橙に光り始めた三本指に触れ、金色の粒子を炎状にして放つ。灼けて細くなったそれの姿が、二本指のように太く戻っていく。特徴的な毛も生えてきた。

 あらゆる方向に指を伸ばし、絶望の念を撒き散らす三本指に、指の母は念を発する。愛を忘れたことはない。自分が生んだ子らのことを、過ちとするはずがない。

 三本指は蠢くのを止め、俺の上に乗った指の母に意識を向けた。母が目の前にいる。自身を捨てたはずの母が。

 指の母は三本指に飛びつき、愛をただ伝えた。三本指はだんだんと大人しくなっていき、指の母の念波を聞くだけとなった。

 

 三本指は、狂い火を受領した時点で姿を消す。だがそれが覆されたことで、その身は部屋の中に残り続けていた。

 こんな簡単に狂い火が消えるのか。疑念を抱きながら、指同士の再会を見ていると、地下に声が響いた。蕩けたような狂った男の声だ。

 

 

『ああ…褪せ人よ。王となる気が無いばかりか、狂い火を消そうとまで…。危険な方々です。』

『もう、野放しにはできません。貴方たちを、焼き溶かしましょう。混沌の火よ、貴方様がお願いいたします。』

 

 

 シャブリリの、どんどんと低くなっていく声が宣言した瞬間。聖堂内に火が上がった。橙色の火が一室を覆っていく。俺は三本指を引き抜き、指の母と共に担いだ。褪せ人に彼らを避難させてもらう。

 橙色の火は瞬く間に部屋全体を焼き、巨大な火が、上から降りて来る。それは、ミドラーや選択を誤った褪せ人の頭の様相と酷似していた。

 これが狂い火の本体。俺は巨大針を背から取り出し、狂い火に向かって飛んだ。

 

――――――――――――

 

 隠し道を開き、火の及ばない場所へ指たちを避難させた褪せ人。聖堂内に戻ってくると、そこは火の海であった。戦士の壺が大元を抑え込んでいるようだが、足元から発狂の火が上ってきて、全身を燃やそうとしてくる。

 褪せ人は戦士の壺から受け取った針を、床に向かって突き刺した。それが白き結界のようになり、狂い火を消失させる。

 

 針の効果は長く持たない。褪せ人は次の針を取り出し、内部に戻っていく。すると、褪せ人の背後から何者かが襲い掛かってきた。褪せ人は暗月の大剣を取り出して、攻撃を受け止める。

 

 

『貴方たちのせいで…混沌が消されようとしています。私シャブリリと、狂い火が、それを許しません…!』

 

 

 放浪の民の体を奪ったシャブリリが、褪せ人に覆いかぶさろうとしてくる。狂い火で全身を燃やし、発狂させる攻撃だ。褪せ人はそれを避け、すれ違いざまに胴を切った。ばたりと倒れる放浪の民の体。

 シャブリリはそれでは終わらず、放浪の民の遺体に次々乗り移り、褪せ人や戦士の壺を妨害しようとする。褪せ人は戦士の壺の元へ、シャブリリを向かわせないよう、操られた遺体たちを処理していった。

 

 

「ねぇ、貴方。この世界の…修復のために。もう少しよ。」

 

 

 ミケラの巨大な針は、一室から漏れ出る狂い火を消し、シャブリリの操る遺体も動きを止めさせる。

 褪せ人はメリナと共に、シャブリリの攻撃を防ぎ、逃げようとする狂い火の欠片を完全に消していった。

 

 抗戦を長らく続けていると、シャブリリの乗り移っていた体が、突然大声を上げて苦しみ始めた。同じように下へ降りてきていた放浪の民の遺体も、糸が切れたように倒れていく。

 

 

『ああ、あああ…火が、変わってしまう。混沌を忘れるなど…あってはならないのに…。』

 

 

 シャブリリの響く声が弱弱しくなっていき、やがて掻き消えた。褪せ人とメリナは、戦士の壺の方を見る。

 戦士の壺の手には、金色の火が爛々と光り輝いていた。

 

―――――――――

 

 巨大針を鞘に戻し、狂い火だったそれを俺の中に入れる。大元の火であったためか、ミドラーから手に入れた火よりも燃え上がり、俺の中身を激しく照らす。

 そして、大いなる意志の知見を集め構想していた、新しい律のピースが揃った。全てを焼き溶かす火が性質を変え、全てを結び接着する要の火へと。

 金色の律。神人が掲げる律を繋げるための、主なき律が今、俺の内に見出された。

 

 俺は二人に、狂い火を変えられたことを伝えると、指の母の元へ皆で向かった。そして、三本指には一時の別れを告げて、指の母を蓋に乗せ村へと帰還する。

 

 戻ったら、すぐにまた出立せねばならない。今度は、生身で相見えよう。

 神人たちと、修復ルーンを見出した者たちが集結する、王城ローデイルで。




ボス:シャブリリ

混沌の火を守るために、放浪の民の遺体を操り攻撃してくる。
時間経過で倒すことのできる、特殊なボス。

操られた遺体の一人一人はすぐ倒せるが、扉の向こうへ行かせてしまうと、時間が加算されてしまう。
メリナと協力して、敵の波を押しとどめるのが攻略の鍵。
足場に広がる狂い火の消化を「ミケラの巨大な針」で行わないと、体力がすぐ削られるため、そちらも留意点である。

協力NPC…メリナ
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