影の地のヴェールに空いた穴へ、伴って行く。神人としてミケラとトリーナが。この地の根幹に繋がる知識を持つ、指の母とユミル。そして、神人たちの従者となる者たち。護衛に、夜の剣士であるヨラーンとアンナ。
俺も含め九名が向かう。ユミルは場違いではないかという旨を俺に話してきたが、そんなことはない。大いなる意志の端末について自力で真実に辿り着いた、観察眼と頭脳。連れて行かないという手はない。
メスメル兵たちに先導されながら、影の地を出る。ヴェールからは、細くも力強い塔が伸びている。天から垂らされた、救いの糸のように。まだ仮組である、その木製の塔を順番に上ってもらう。俺は皆が無事に上り終えられるよう、最後まで塔の下で待機する。
エブレフェールには、貴腐騎士を通してマレニアに、もう一枚案内を出した。デミゴッドとしての招待状の他に、神人として参加してもらうための手紙である。今頃、王城ローデイルに着いていることだろう。
幼子二人の手を取り、レダとティエリエが送り届けたのを確認した。俺は金色の柱を展開し、黄金の流星となった。
王城ローデイルは灰に塗れず、未だ美しい景観を保ち続けている。スクリーン上では、灰都となったとき、多くの人が亡くなった。円卓が燃え、ギデオンも意味のない死を遂げた。旅路の終わりを振り返れば、知り合い親し気に接してくれた人々は、ほぼ誰も残らなかった。
だがこの世界では、親しくしてくれた皆は生きている。そして意味のある生を謳歌している。これほど嬉しいことがあろうか。俺は改めて、大いなる意志がここへ送り込んでくれたことに感謝した。送り込んだわけが、ただ目的を果たすための駒としてであっても、俺の人生において最高の贈り物だ。
俺たちは、ミケラとトリーナにローデイルの案内をしてもらいながら、最も大きい建物内に入っていく。
正気を取り戻したローデイル兵やローデイル騎士、市民たちが、ミケラに傅き、通りの横で両手を組む。破砕戦争以降、かつての栄華を失ったローデイルに、五体満足のデミゴッドたちが戻ってくる。在りし日の再現に、彼らは口々に奇跡だと呟いていた。
彼らは、デミゴッドたちに救いを求めていた。この、完全に壊れるのを待つだけだった、狭間の地の救済を。
会合の場所は、黄金樹の大聖堂。この場所については、モーゴットが手配してくれた。モーゴットは王座で待っている。ようやく直接お礼が言えそうだと、俺は会うことを心待ちにしていた。
道中、神託の使者たちの吹く笛の音が、次第に強まっていく。神託の使者たちも予期しているのだ。新たな時代の予兆を。新たな王の誕生を。
黄金樹との古い契約を交わした、半ば樹になっている守人たちの横を抜け、黄金樹の根でできた自然の道を歩き終えた。
大聖堂の中へ入ると、そこには十数人が集まっていた。褪せ人は勿論いる。褪せ人の横には魔術師セレンや、おそらく針子のボックが。
神人としてマレニア、その配下の貴腐騎士が数人。修復ルーンを見出した、あるいはこれから見出すことになる、死衾の乙女フィアと金仮面卿。フィアに付き添ってきた死王子ゴッドウィンに、金仮面卿が導く数理の記録者、コリン。百智卿、ギデオン=オーフニールと眠りのドローレスも、この会合に参加していた。
聖堂内では三つの集まりに分かれ、会話をしている。
まず、ゴッドウィンとマレニアが話し込んでいる。エルデンリングが砕かれたことや、その後の破砕戦争について、ゴッドウィンは知らない。栄華を誇った黄金樹の時代が、ここまで落ちぶれた経緯を詳しく知り、寛容の塊であるゴッドウィンであっても眉をしかめていた。
それから、ギデオンと、コリンを通して金仮面卿が、理解している黄金樹や律の仕組みについて話し込んでいる。俺の譲渡によって知識を得たコリンも、話に問題なくついていっている。俺の言葉に言い変えれば、人の世にとって、より良いシステムの構築について議論を交わしているようだ。
最後に褪せ人のところにある集まりだ。フィアやセレンなど、本来確実に顔を合わせることのない人物たちが、雑談している。褪せ人が共通の話題であるためか、少しずつ不穏な空気が流れ始めている。ところかまわず助けるのが、褪せ人の美徳だ。それがこの場では仇になるとは。
褪せ人は遠目から見ても焦っている。所在なさげに視線を迷わせていたので、俺たちにいち早く気付いた。褪せ人が声をかけると、十数人の集まりも俺たちに気づく。
立場はバラバラであるが、皆同じ目的のため集まってくれている。俺はこの不思議な光景を楽しみながら、俺は褪せ人に近づいていった。
近づくなり褪せ人は、俺に二つの遺灰を見せてきた。彼は言う。この霊体は魔女ラニの配下、半狼のブライヴと軍師イジーのものだと。この二人は復活するなり、星を出た後の褪せ人たちに協力するため、自ら霊体となった。死んだわけではなく、あくまで魂として。
入れ物が震えるのを見て、俺は彼らの旅路を、心の中で祝福する。狭間の地で敵対していた者も、褪せ人を通せば中立だ。新天地では遺恨なく、絆を深めてほしい。
ゴッドウィンにミケラとトリーナが近づき、嬉しそうにしているのを視界に入れながら、俺は皆に伝えた。
「皆様方!この場に集ってくれたこと、感謝申し上げる!俺は戦士の壺。俺もまた、人の時代を望む者だ。貴殿らの知恵、持ち得る力全てを駆使し、良き律を、良き時代を作り上げよう!」
皆は、それぞれの仕草で同意を示し、用意されていた席に座った。ここから、形にしよう。俺は褪せ人に最後の一人を呼ぶため、金色の神楽笛を生成し手渡した。
「褪せ人殿、もう一人の主役を呼ぶとしよう。再び、笛を天に響かせるのだ。」
褪せ人は、待っていたと力強く言い、笛を思い切り吹いた。奏でる郷愁が大聖堂内を埋め尽くし、狭間の地全体を漂い、更には天に届いた。
冷たい夜が、大聖堂内を暗闇に包む。次の瞬間、雪のように白いローブを着た、青き人形が姿を現した。同じく白い尖り帽を被った魔女ラニは、大聖堂内の面々を見ると、悠々とした態度を崩した。
「私の王…。聞きたいことが山ほどあるのだが…答えてくれるな?」
デミゴッドたちと、褪せ人の近くにいる者たちの方を交互に見て、魔女ラニは褪せ人に言う。一番に、陰謀の夜で殺されたゴッドウィンが生きていることは、魔女ラニの理解の域を大きく超えたようだ。
俺は腕を組み、頷いた。皆の認識を擦り合わせることは大事だ。存分に尋ね合い、疑問点を無くすと良い。
「揃ったところで、議論を始めよう。」
三日三晩経った。ローデイル兵から物資をもらいながら、思索にふける。
そして重要な情報の出し合いは終わり、ついに形にするところまで来た。コリンやギデオン、加わったユミルなどは話し足りないようだ。この世界に残された仕組みについて、熱烈な談義を行っている。
話し合いの前に、魔女ラニの疑問は全て解けた。ゴッドウィンは暗殺されたというのに、そこまでラニに悪感情を持っていなかった。俺の読み通り、神と王がセットになる仕組みをマリカは指示していた。ゴッドウィンはマリカからその仕組みについて聞かされており、王という器となることは既定路線だったようだ。
器になれば、意思はなくなる。むしろ失敗して良かったと、ゴッドウィンは告げた。彼も心の底では、王になることを望んでいなかったのだろう。
またブライヴとイジーが共に来てくれることに、魔女ラニは顔を覆っていた。下の両手で褪せ人の手を握り、喜びの言葉を漏らしていた。人形の瞳からは何も出ることはない。しかし彼女は確かに、涙を流しているように見えた。
しかし、それはそれだ。浮気に対する怒りを、褪せ人はこの話し合いの間、物理的に受け止めることとなった。褪せ人の嘆願で、何とかセレンを連れていくことになったようだ。
話し合いの終わり、まとめを俺は皆に伝えていく。
俺はまず、魔女ラニの冷気で体に霜を付けた褪せ人に、どういった王になるのかを話してもらう。この星の外、つまりエルデの王ではない存在になるのだが、黄金律と並び中核を担う律をこの地に残していく。ならば、間接的であるが、彼もエルデの王だ。
次に魔女ラニ、マレニア、ミケラの三人が、自身の律について説明を始める。ギデオンが紙にそれを記し、金仮面卿の指が示す見解をコリンが書いていく。
そして俺が考える律についても触れる。
「こちらの金仮面卿、ギデオン殿、コリン殿には細かい仕組みを伝えた。皆にどういったものか、もう一度大まかに説明しておく。」
まず、黄金律と冷たい夜の律を中核に添える。これは、魂やエネルギーの循環を行える律だからだ。
マレニアの元々持っていた腐敗の律では、莫大なエネルギーを生むことは出来るが、滞りなく循環できない。分解者の側面を表在化した、豊穣の律と呼べるものでも性質は同じだ。魂は腐敗の中に停滞し、循環は小規模に収まるだろう。
ミケラの優しい律については、そもそも魂の循環に関する機能がない。感情や思考という精神的な動きを、ミケラを軸にして動かすことは出来るが、根本的には何も解決しない。
このことから、豊穣の律と優しい律は補助として使うべきだと結論付けている。地にエネルギーを生み出せる豊穣の律は、生物の正常な状態を保つ黄金律にはない力である。また優しい律を使えば、洗脳までは行かなくとも、新たに差別や暴力の類が生まれにくくなる。
中核に添えた二つの律は、互いに補い合うようになっている。魂の循環システムを黄金樹と結びつけ、還る先にこちらを望む者や、月を象徴とする者が、月の循環システムに入り込めるようにする。いわば魂のコールドスリープである。新たな生をどう生きたいか、それを生前に選択できるようになっている。
そしてこれら四つの律を、俺が見出した金色の律で接着する。これによって豊穣の律で生まれたエネルギーを、黄金樹に反映できるようにもできる。
話し終え、次は修復ルーンについてだ。俺が促すと、褪せ人がフィアと糞喰いから受け取った修復ルーンを手に取る。金仮面卿が持つルーンは、コリンが取り出した。これをエルデンリングに接着することで、死に生きる者や忌み子の存在を許容できるようになる。
「先生から、これを。この修復ルーンに組み合わせることで、完全な形になります。しろがねの者についても、しっかり先生は追加されています。」
「感謝する、金仮面卿にコリン殿。」
コリンから、修復ルーンを手渡される。褪せ人の持つ修復ルーンも預けてもらい、慎重にそれらを重ね合わせる。敢えて作られた空いた部分にはめ込み、ズレがないか、大いなる意志の知見を以て確認を徹底する。
そうして、修復ルーンが完成したことを皆に告げる。俺は褪せ人に、その修復ルーンを渡した。
「最後の戦いの後、その場に設置してくれ。修復は俺が行っておく。」
戦いに向かえる者の中で、道具の類を安全に収納しておけるのは褪せ人くらいだ。褪せ人は頷くと、修復ルーンを懐にしまった。
そして律についてだ。俺は、魔女ラニに自身の見出した金色の律を移した壺を手渡した。
概念に近い物が無機物に宿る。これは自然には起こらないことである。律が内に見出される過程を、人為的に再現したのだ。接着の要素を強く持つ金色の律は、神人から律を剥がし、自身の周りへと浮かばせる。マレニアやミケラ、魔女ラニの律は、今この瞬間、壺の中に納まった。
「本当に…これで解放されたのか。操られるだけの自由なき、運命とやらから…。」
「魔女ラニ殿。それを、月に持って行ってくれ。エルデンリングに潜む獣、それを打ち倒したとき、黄金律も絡めとるだろう。そうしたら、貴殿は本当の意味で自由だ。」
「フフッ…誇大な言葉ではなかったな。訂正しよう、よくやった。ああ、ブライヴやイジーについてもな。」
魔女ラニは、人形から出た霊体の表情を和らげた。俺と魔女ラニは、最初で最後の握手をする。彼女の手は材質と漂う冷気によって、ひんやりとしていた。
俺は集まって議論を交わしてくれた皆に、改めて礼を言った。新しい時代が始まって、また再会する機会もあるだろう。目的を果たし帰還していく皆を見送り、俺は褪せ人と共に最後の戦いへ向かう。セレンやボックは、褪せ人が星の外へ向かうとき連れていくため、屋外に出て待機するようだ。
大聖堂の上階に黄金樹の根を伝って進み、女王の閨を抜け、エルデの王座へと歩を進めた。
すると王座に至る階段の横には、鉄拳アレキサンダーが腕を組んで待っていた。俺たちに気づくとアレキサンダーは壺を傾けた。
「おお、貴公ら!約束の通り、この鉄拳アレキサンダー、馳せ参じたぞ!」
「アレキサンダー殿、来てくれたこと感謝する…!」
「ワッハッハッハ!貴公らの未来を見据えた戦い、俺も手助けしたいのだ。」
褪せ人も、アレキサンダーと共に戦えることへ意気揚々としている。アレキサンダーは王座を示し、声を潜めて言った。
「それで、貴公ら。俺は王座を見た。あそこにいるのは、間違いない。この狭間の地における最初の王、ゴッドフレイだ。」
「ああ、まさか、あの勇猛なる伝説の強者に会えるとは…。この試練、必ずや乗り越えてみせよう。」
アレキサンダーはうっとりとした様子で言葉を紡いだ。もうゴッドフレイが到着しているのか。
気合いが十分に入った二人の後ろにつき、俺は王座へと足を踏み入れた。
王座には二人の男がいた。一人は全身に角の生えた、忌み王モーゴット。もう一人は白い霊体の獅子を背に噛みつかせた筋肉隆々の男、ゴッドフレイ。褪せ人は追憶の中やローデイルに残された霊体でゴッドフレイのことを何度も見ているため、ようやく会えたと好戦的な調子で呟いた。
ゴッドフレイは大きな声でモーゴットを激励し、モーゴットの背中をばしばしと叩いている。
「モーゴットよ、立派によくやった!父として鼻が高いぞ!」
「…父上。」
モーゴットは、褪せ人に相対したときのような威厳ある表情でなくなっており、何かを堪えるようであった。見ていると、モーゴットはゴッドフレイの背に手を回し、涙を一粒流した。
父が祝福を無くしたとしても、また戻ってきてくれた。その激情が、モーゴットの中に渦巻いているのだろうか。
アレキサンダーが握っていた拳を下げて、困り切った声を漏らす。その声にゴッドフレイが反応し、俺たちに気づいた。
「おおう…お邪魔したか…。」
「戦士たちか。モーゴットが話していた…。よし、やるとしよう。」
ゴッドフレイはモーゴットを離れさせ、大斧を両手で握った。霊体の獅子、宰相セローシュが咆哮する。
「…褪せ人よ、戦士の壺たちよ!我が名はゴッドフレイ!最初のエルデの王として…王となる者の、試練となろう!」
ゴッドフレイは、こちらに向かって地鳴らしで攻撃してくる。まだ本気を出しておらず、小手調べの段階だ。
俺は今のうちに、ゴッドフレイから距離を取ったモーゴットの元へ向かい、話を聞き出す。顔を合わせるのは初めてだが、モーゴットは言い淀むことなく説明してくれた。
「父上は、褪せ人とお前の武勲に興味を示した。エルデの王になるためではなく、ただ戦いを楽しむつもりでおられる。…かつてのように。」
「なるほど!モーゴット殿、説明感謝する。それと、これまでの支援、本当に助かった。恩は倍にして返す!」
「…弟の頼みだ。それに私も、再び豊穣を成す黄金樹が見たい。気にするな。」
目を閉じてモーゴットは答える。その口元は少しばかり上がっていた。
ローデイルの王の在り方に感動を覚えていると、ゴッドフレイの攻撃がこちらにも飛んでくる。俺は戦いに集中することにした。
「存分にかかってこい!」
「ゴッドフレイ殿!その胸、借りさせていただく!」
大斧を振り回すその姿は、正に戦神。だが、それはまだ行儀のよい振りの範疇だ。アレキサンダーの拳と半壊した大斧がぶつかり合い、火花が散る。
俺は大蛇狩りの嵐を拳に纏い、鎧を剥がすように攻撃していった。
褪せ人は暗月の大剣一本で、ゴッドフレイに接近戦を行っている。巧みな技量と、得物を制御しきる筋力で果敢に立ち向かう。
ゴッドフレイはすさまじいタフネスで、俺たちの攻撃にノーガードで大斧を振り回す。あまりダメージを負っている様子はない。俺は大技を使うことにした。
大斧の振り降ろしに合わせて俺は跳び、竜の力を纏った拳でゴッドフレイの胸を強かに打つ。弔った飛竜たちと、竜を狩った戦士たちの力だ。彼らは俺の中で、闘争を望む本能を持ち続けている。
ゴッドフレイは強い衝撃で膝をつき、にやりと口を吊り上げる。小手調べは終わったようだ。ゴッドフレイはローデイルの一部に流通させている金色の壺を懐から取り出し、左手に握った。
「セローシュよ、もうよい。俺は、今から…全力を出そう!」
ゴッドフレイの肩に噛みつくセローシュを、右手の力のみで引きはがす。セローシュが苦悶の声を上げて、血を流していく。ゴッドフレイは金色の壺を割り、剥がされたセローシュに向かって液体をかけた。
そして身に纏った鎧を圧倒的な筋力で剥がし、大斧さえ投げ捨てた。ゴッドフレイの目はぎらぎらと滾り、野生の獣のように本能へ従っている。強き者が頂点に立つ、野生の掟だ。
アレキサンダーが身震いする。俺もそうだ。追憶での体験と、実際に見るのでは大違いだと思い知る。
「行儀のよい振りは、もうやめだ。今より、俺はホーラ・ルー!戦士よ!」
すさまじい速さで、ホーラ・ルーは突進してくる。褪せ人を狙った掴み技だ。反応する暇もなく、褪せ人は宙に放り投げられる。
叩きつけられては、致命傷だ。戦闘は継続できない。俺はホーラ・ルーの掴み技の途中で蛇綱を突き出し、褪せ人を地面に連れ戻した。聖杯瓶を仰ぎ、小さくジェスチャーで感謝を伝えられる。
ホーラ・ルーは、自身の肉体を最大限に使った攻撃で俺たちを一網打尽にしてくる。ホーラ・ルーの投げでアレキサンダーの体にヒビが入る。俺は素早くその部分を直し、ホーラ・ルーの引っかきを受け止める。
ホーラ・ルーの食いしばった歯の隙間から、しゅうしゅうと獣性が漏れ出る。ホーラ・ルーは腕をクロスさせ、俺を宙に吹き飛ばした。そのまますさまじい跳躍力で宙を翔け、俺を地面に叩きつける。鍛えた体だからほぼダメージを受けなかったが、今までの積み重ねが無ければ割れて散らばっていただろう。
俺もホーラ・ルーに対して、渾身の投げ技を放つ。イメージの中の彼をずっと意識して作り上げたものだ。
「蛮地の王よ!これを受けてみろ!」
俺は強化した蛇綱をホーラ・ルーに食い込ませ、それを腕力で引きはがされる前に、体を回転させた。ハンマー投げの要領で打ちあがったホーラ・ルーに向かって、俺は跳躍し、金色タックルにて柱に叩きつけた。その上で、ホーラ・ルーの二の腕をしっかりと掴み、そのまま地面にプレスする。
ホーラ・ルーが血を吐いた。彼に技を返せたことに、俺は心の内から喜びが湧き上がってくる。俺は彼から離れ、体勢を整える。
ホーラ・ルーの地鳴らしは、広範囲にわたって王座の床を砕いた。俺たちは跳躍することでそれを避け、ホーラ・ルーに自らの武器をぶつけていく。
褪せ人の魔術、戦技はどれも火力が高く、アレキサンダーの修行の成果も英雄にふさわしい力だ。とてつもないタフネスのホーラ・ルーも、戦いの果てに吹き飛ばされ、大の字になって倒れた。これで試練は終わりだ。
ホーラ・ルーはセローシュと自身の血で赤一色になっているのにも関わらず、嬉しそうに笑っている。俺はホーラ・ルーに近づき、粒子を使った。
「力こそ、王の故よ…!俺の気は済んだ。さあ、褪せ人よ…王になりに行くがいい!」
宙に拳を振り上げ、ホーラ・ルーは褪せ人を鼓舞する。褪せ人は彼の気持ちを受け取ると回復を行い、黄金樹の前へと歩みを進めた。
アレキサンダーは、褪せ人の背に向かって言う。
「素晴らしい、戦いであった。ここからは貴公の戦いだ。黄金樹に認められた者こそ、先の戦いにふさわしい。俺はまた鍛えるとするよ。褪せ人の英雄よ、さらばだ!」
褪せ人は、アレキサンダーに掌を見せることで返す。戦士はまたいつか、戦いの内で出会う。遠く離れても、その闘志は長い時の果てに巡り合うだろう。
黄金樹の目の前まで来た。拒絶の棘は、金色の種火で焼かれていく。黄金樹は、再び拒絶の棘を生やすことなく、入口を見せている。
王と認めた者だけに、黄金樹は扉を開く。褪せ人は認められたのだ。
俺は彼に、ある物を渡した。それは俺の体の一部。持つだけで褪せ人を俺の霊体が防護し、このミケラの巨大針で反撃する念が籠った壺の欠片だ。
「さあ、褪せ人殿…王となってくれ。そして始めよう、輝かしき人の時代を!」
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褪せ人と、エルデンリングの戦いが終わった。彼は勝ったのだ。
召喚された黄金樹の内部には、壊れかけのマリカと座り込む褪せ人がいた。
俺は、壊れかけのマリカに粒子を使う。そして、置かれた修復ルーンをエルデンリングに使う。
傷が治り倒れ込んでくるマリカとラダゴンから、エルデンリングは外れた。それは、宙に張り付くようにして固定される。
そろそろ魔女ラニが現れる頃だろう。俺は、褪せ人に最後のサムズアップを送る。
褪せ人の更なる旅路が、喜びと絆の元続きますように。困難にも必ず立ち上がる、強い意志がずっと内にあることを、俺は祈った。
二人を抱きかかえる俺の上空を、黄金の月が照らしだす。
黄金樹に溜め込まれた魂たちが空を流れ、やがては再びの生を得る。
好きなように生き、望む路を行くと良い。それをこの地は、実現できる。そうなっていく。
この、黄金月の祝福の元で。