戦士の壺(パチモン)   作:棘棘生命

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蘇生

 俺は、ユミル卿が石レンガに腰かけるのを確認すると、話し始めた。これまで起こったこと、そして目指す標を。

 隠すのは良くないし、元々俺は腹の探り合いは得意でないのだ。会ったばかりである先ほどはまだしも、ユミル卿に怪しさは感じない。自らの子を亡くした悲しみから立ち直れていない、一人の親というだけに思った。

 まずは俺から彼に心を開き、ユミル卿からも話してもらおう。そう考えている。

 一通り話し終えると、ユミル卿は相槌を打つ首を止めて、言葉を発した。

 

 

「そのようなことがあったのですね…。とても一日で起こったこととは思えない。…そしてあなたが使う癒し。正に奇跡です。」

「信頼のために、実演してみせたいところだが…。ユミル殿、そのユビムシのユーリ、一時だけ俺に触らせてくれないだろうか。」

 

 

 俺は、小さな墓石を視野に入れる。今まで振り返ってきて、少し思ったのだ。俺の中にある光は、傷を癒すだけではなかった。ならば、俺が考えていることの他にも、効果があるのではないか?

 またユビムシの生態もよく分からないため、動けなくなっただけでまだ治癒できるかもしれないとも考えた。

 

 

「ええ、お願いします。話された通りその力を、戦士の壺さんが持っておられるなら…私のユーリを癒やしてあげてください。」

「感謝する。」

 

 

 ユミル卿の了承を得たため、俺は頷くと、小さな墓石の前に移動する。そして地面に手をおいて、岩の手に金色の粒子を纏わせた。

 しばらくすると、地面がもぞもぞと動き始めた。そして、ぼこりと地面を突き破り、俺の掌に収まるほど小さなユビムシが出てくる。どうやら成功したらしい。

 俺はユミル卿の様子を見るため、体を動かす。地面から手を離そうとすると、またもぞもぞと地面が動く。もしや、まだ?

 

 俺の予想は当たった。十数匹のユビムシが、地面に空いた穴からどんどん飛び出してくる。あまりに勢いが良いものだから、俺の表面にまで跳躍する個体もおり、ぶつからないように上体を起こす。

 一連の流れを手を組んで見守っていたユミル卿が、声を裏返しながら叫んだ。

 

 

「なんと…なんと!このような奇跡が、本当にあるなんて…!ユーリ、ユーリ、私はここにいるわ…。」

 

 

 元気よく動き出したユビムシたち。地面から這い出てくる姿に不気味さを感じたが、ユミル卿の足元でぴょんぴょんと小さく跳ねる様子を見ると、案外愛らしいじゃないかと思った。

 俺は壺推しではあるが、「Bloodborne」の上位者などのクリーチャーも好きなのだ。ソウルシリーズであるという色眼鏡も少なからずあるだろうが。

 俺は夜の光を反射する、彼のこぼれる涙を見ながら話しかける。

 

 

「ユミル殿、期待通りの結果になったと思うが、どうだろうか。」

「…ありがとうございます。私のかわいい子らを救ってくれて。こちらからもお返ししましょう。私のこと、何故あなたに地図を渡したのか…そして有用な情報を。」

 

 

 たくさんのユビムシに囲まれ、それらを撫でながらユミル卿は話し始めた。

 自身が輝石魔術師であり、中でも根源に迫った研究をしていること。それは、ユビムシや二本指の母、「指の母、メーテール」についての研究であることを。

 俺は、ユビムシと二本指が同じ存在から生まれたという衝撃的な情報に声を発した。

 

 

「なんと!世界の裏側を知った気分だ…!」

「話の腰を折ってしまい、申し訳ない。続きを頼む。」

「無理はありませんよ。この事実は、神人でさえ知っていない者もいるでしょうから。」

 

 

 ユミル卿は、それではと続けた。彼の境遇の話だった。

 実の子が亡くなってから、その悲しみを埋めるために研究に没頭した結果、指の母にたどり着いたと。

 最初は、世界の不条理さを嘆いたことから、二本指やその下僕である神マリカを憎んだが、真理を知ったことから転じた。指たちは被害者だと。それからユミル卿は大いなる意志を憎み、指の母に成り代わろうという考えに染まったそうだ。渡した地図は、指の母を呼ぶための遺跡が描かれているのだそうだ。

 ユビムシを自身が産むたびに、無力さを感じ、野望の火は更に大きくなっていったと。

 

 ふうと息をつき、ユミル卿は一旦話を終える。なるほど、子への愛が歪んでしまった故に、辿り着けた真実とは。

 ならば、人間のユーリも救ってあげたい。俺はぽっかり空いた穴の中を見る。骨も見えない暗い空洞だ。ユミル卿は隣に来て言った。

 

 

「説明不足でしたね。実子であったユーリは、墓石の下に弔うことができなかったのです。」

「そうか…。」

「しかし、戦士の壺さん…私の思考の霧をあなたが晴らしてくれました。産んで、上手くいかずに死なせてしまい、それを繰り返していた、私の愚かさを客観視させてくれたのです。十分すぎるほど、いただきました。」

 

 

 ユミル卿は、どこか張り詰めていた空気を溶かし、俺に礼を言った。俺は腕を振る。

 

 

「信頼してもらうことを望んだ結果だ。それでユミル卿の眼が冴えたなら良かった。」

「やはり…あなたは牢獄で詰められた人の集合ではありませんね。このような神業を使える、罪人も巫子もいませんでした。」

「それは…すまない、濁させてくれ。俺は戦士の壺と認識してくれると。」

「罪人の中に戦士はいませんでしたが…いえ分かりました。」

 

 

 細々とした話の中で、角人と接点を持ち、彼らの風習をよく知っていると彼は話していた。そして、牢獄で生まれた子どもを引き取ったらしい。

 故に元々の中身の境遇を知っているのだろう。俺が外から来たというのは誤魔化している最中だ。あまりに苦しい言い訳すぎるが、自らの状態を正確に把握していないのだから、下手なことは言えない。

 巫子の村の話や、今後寄ると良い場所の情報などを、一頻り話すと教会の中に戻ることにした。俺はふと、聞き逃したことを聞いておくことにした。

 

 

「…関係のないことなのだが、そのユビムシのユーリたちは、いつから産んでいたのだ?」

「何十年も前から…実子のユーリが亡くなってから間もなくでした。」

 

 

 その言葉を聞いて、俺は確信した。この俺の中にある光は、死さえも克服するのだ。癒しには、色々な条件が絡まるのだろうが、壺巫女の植え継がれた肉を剥がす前に、彼女を蘇生したのは間違いないだろう。

 気が遠くなるような時間、食べ物もなく、膿んだ体で長く生きられるとは思えない。稀人故に常人よりは生きたかもしれないが、メスメルの火から、マリカがエルデンリングを壊すという出来事があり、その大きな史実からもしばらく経っている。生きられるはずがない。

 俺は、彼女を死から呼び戻した。責任を取らなければならないのだ。

 教会に入ると、壺巫女の近くに何やら黒い鎧を着た人が立っている。そして、なんと刀を彼女の首元へ向けているではないか。

 

 

「壺巫女殿…!?そこの貴殿!刀を離してくれ!」

「ヨラーン、おやめなさい。大切な訪問者ですよ。」

「申し訳ございません…ユミル卿。」

 

 

 ヨラーンと呼ばれた鎧の人物は、ユミル卿の通る声を聞くと、すぐさま刀を壺巫女から離し、納刀した。

 返答する声からして女性のようだ。彼女からは気配がほぼ感じられない。もしや、ずっとこの大教会に居たのだろうか。

 壺巫女の言った「潜む者」とは彼女のことだったのか。俺は自身の迂闊さを悔やんだ。

 

 

「戦士の壺様、戻られたのですね…。どうやら、彼女には愛が足りないようです。司祭様の娘であるそうなのに…悲しいことです。」

「貴様!ユミル卿を侮辱するな…!」

 

 

 壺巫女は謳うように俺へ話す。焚きつけるような、今までしてこなかった話し方だ。案の定、その言葉がヨラーンを刺激したらしく、彼女は納刀した得物の柄を力強く握った。

 俺は、自身の壺の縁を触るとユミル卿に言う。

 

 

「ユミル殿…彼女は、先に話してくれた、引き取った子どもの一人なのだろう?彼女も貴方の娘なのだ。無い腹を割って話したからこそ、口出ししてしまうが…愛を偏らせるのは良くないことだと思う。」

 

 

 俺は壺巫女の元に行くと、右の岩の腕で彼女らの間を遮らせる。そしてヨラーンの刃が抜かれないよう、左手で彼女の手をそっと押した。

 ここまで荒れているのは、壺巫女がそうさせたのもあるだろうが、彼女自身ユミル卿の愛に思う部分があるからだ。ユミル卿の話を聞く中で、引き取った子についてはさらりと流されたことから信憑性のある推測だろう。

 

 

「その通りです…私はずっと眼を曇らせていました。ヨラーン、ごめんなさいね。」

「ユミル卿、私は…。」

 

 

 目と目を見て、彼らは話している。新しい家族の始まりの瞬間だ。ユビムシたちが二人の周りを歩いたり、跳ねたりしている。

 彼らの様子を伺いながら、壺巫女の体に傷がないか確認する。壺巫女が被っている壺に、少し傷が増えたくらいのようだ。

 

 

「壺巫女殿の忠告を軽く見ていたようだ。申し訳ない、これからは傍を離れないと誓おう。」

「いえ、私が彼女に言い過ぎた部分もありましたから…。それで司祭様との話は実りあるものでしたか?」

 

 

 砕けた調子で壺巫女が返す。彼女の認識では、危機でもなかったのだろう。俺は壺巫女の言葉に頷く。

 

 

「ああ、とても。巫子の村についてはユミル殿のおかげでだいぶ進展したし、メスメル公の居場所も分かった。…ここまでしてくれたのだ。俺は、ユミル殿に協力しようと思う。」

「司祭様である以上、この地域に詳しいのですね。…確かに、戦士の壺様と話した後の司祭様は、怪しい雰囲気が無くなっています。貴方がそう考えられるのでしたら、私も協力いたします。」

「ありがたい!あくまでも、俺たちの目的に重なったときではある、安心してくれ。」

 

 

 壺巫女と小話をしていると、ユミル卿とヨラーン、そしてユビムシたちがこちらに連れ立って来る。

 やはり、集団でわきわきしていると、不気味さが勝る。

 ユミル卿は口を開いた。

 

 

「ヨラーンとお話したのですが…巫子の村に行かれるとき、彼女を協力者としてお供させてくださいませんか。牢獄で生まれた彼女は、やはり外のことを知らず、私の傍に置きすぎました。一時だけでも、あなた達の旅路でこの地を見てほしいのです。」

「壺巫女殿…どうだ?刃を向けられた人間と、旅は難しいだろうか。」

「理解しています。…鈎指を使っていただけるだけで良いのです。難しいお願いですが、お考えくださると…。」

 

 

 こちらに願い出てきたのは、ヨラーンの同行だった。俺は壺巫女に尋ねるが、確実に断るだろうと思っていた。

 しかし、壺巫女からは了承の言葉が発せられた。

 

 

「ええ、共に参りましょう。…ヨラーン様には、色々知ってほしいですから。」

 

 

 

 夜が明けた。壺人ならではの睡眠方法を、試行錯誤の果てに獲得した俺は、すっきりとした目覚めであった。

 ユミル卿と少し話をすると、俺は壺巫女と大教会を出た。ヨラーンは「隠された地」から共に行くらしい。そこに至るには、幾つも手順を踏む必要があるそうだが、問題はない。

 交渉でだめなら、行動で示せば良い。信用とは、行うことで掴み取るものだ。

 

 

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