戦士の壺(パチモン)   作:棘棘生命

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入城

 俺たちは、草木が豊かに生い茂る坂を下りていく。光源が天から十分に降り注ぐおかげで、辺りの様子がよく見える。炎が燃え盛る人型の兵器はだいぶ遠くにある。わざわざ近づきに行かなければ命の危機に晒されることもないだろう。

 草木の合間を、腕が4本ある兵士が歩いているのを避ける。よく見れば、それらはリエーニエの湖や魔術学院レアルカリアを徘徊していた「人形兵」だ。画面を通して見ていた物が、実物としてあり動いているのは、テンションが上がる。しかしここで気持ちを抑えなければ、十何体いる人形兵が寄ってきて、全身を串刺しにされてしまう。外敵を排除するように作られているのだから、話し合いも通じないのだ。

 

 俺は、前に聳え立つ城を視野に入れる。影樹を背後に「影の城」は建っている。まるで火に焼かれ全てが黒焦げたように、漆黒に染まった外壁だ。

 巫子の村は、隠された地にある。そして隠された地は、影の城を通過する必要があるのだ。影の城の主は、あのメスメル公。メスメル公からは通過する許可と、壺巫女以外の巫子についての情報をいただく予定だ。

 一石二鳥の案だが、皮算用でもある。こちらを受け入れてくれるか、まず話を聞いてくれるかどうかが肝心だ。そこは、巫子の村の住人であった壺巫女に、大きく頼らせてもらおうと思っている。

 

 そういったことを思索しながら、辺りを警戒することを怠らずに歩き、影の城の前にたどり着く。

 途中であった魔術師塔は、ラバスという魔術師からユミル卿が譲り受けたらしく、勝手に入るのは問題だと思い、素通りした。魔術師塔の構造に興味があるので、機会があれば入ってみたいものだ。

 

 

「メスメル公は、どのような人なのだろうな。壺巫女殿、神マリカのことは覚えているか?」

「…マリカお姉さまは、芯の細いお方でしたが、強い心と行動力を持ってらっしゃったと思います。村の花園を元気に走り回ったりですとか、狩りも積極的にしていたはずです。」

「なるほど、豪傑な女性だったのだな。では、その子であるメスメル公も喧嘩っぱやさがあるかもしれん!ハッハッハッ!」

「ふふふ、甥の元気な姿を見たいものです。」

 

 

 長い槍が多く立てかけられ、ところどころ倒れている石レンガの通路を、談笑しながら歩く。壺巫女が足を切らないように、しっかりと壺の蓋に座らせている。

 メスメル公、彼は影の地における最重要人物だ。血脈やトレーラーにおける情報から考えるに、交渉決裂したとき今の俺では何もできずに倒されるだろう。だから今、俺の一生涯において、最も緊張感を味わっている。彼や、彼の配下にこの身を割られるわけにはいかない。俺にはまだやりたいことがあるのだから。

 

 長い通路を歩き終え、階段を上るとそこは水で満たされていた。城の中であるのに、建物の多くが水面下から顔を覗かせる程度である。俺はふと、ソウルシリーズの「小ロンド遺跡」を思い起こしていた。故意に沈められた建物というのは、大抵理由があった。つまり抜いてはいけない理由がある。

 しっかりとした道があるか、周囲を確認したが四角い穴があるのみだった。では屋根を渡るしか方法はない。

 

 

「想定外の状態だが、進んでいこう。壺巫女殿しっかり掴まっていてくれよ…それい!」

「うう…!」

 

 

 壺巫女が落下の衝撃に備えるため、俺の体にしがみつく。

 俺は壺巫女の胴を柔らかく掴み固定すると、目の前にある屋根に飛び降りた。重みで底が抜けないことを、少し祈りながら。

 

 

 

 石レンガが敷き詰められた屋根は、俺の重みでもピクリとも揺るがない。それでも倒壊の恐れはあるため、慎重に足を運ぶ。屋根の上には、小さな蟹が自由に歩き回っている。倒れた遺体を鋏で千切り食べている個体もいた。特にこちらへ興味を持っている様子がないので、蟹たちの合間を縫って進んでいく。

 

 

「戦士の壺様、あそこに向かってくださいませんか。」

「承知した。壺巫女殿もよく見つけるなあ。」

 

 

 夜、朝と何も腹に入れていないためか、やはり食を求めていた。彼女の視覚は凄まじい鋭さで、城の内部に入るためのルート途中で落ちている、食べられそうなものを拾い集めていた。

 蟹たまや、何かの肝を漬けたものが、彼女の腹に入っていく。落ちているものをそのまま食べるのは、腹を壊しそうで不安だが、美味しそうに食べるので問題ないと考えておこう。

 

 石レンガの隙間から這い出てきて爆発する、炎に包まれた人から壺巫女を庇いながら、跳躍を駆使しながら進んでいると、何やら張りつめた殺気を感じる。その方を見ると、人の顔を重ねたような仮面を付けた、赤装束の鎧の人間が立っている。鮮やかな赤は、メスメル公の部下であるという印だろう。いきなり切りかかってこないため、様子見をしているようだ。

 話が通じることを祈りながら、俺は声を張り上げる。

 

 

「貴殿!俺は戦士の壺だ!こちらの巫子殿をメスメル公に会わせたい。ここを通してくれないか!」

 

 

 言葉は返ってこない。しばらく見つめ合ったところで、仮面の赤装束が俺に壺巫女を下ろすようジェスチャーをした。その要求の通り、壺巫女をゆっくりと下ろすと、仮面の赤装束は右手に持った短剣を俺に向ける。なるほど、戦って勝てばここを通すというわけか。

 

 

「仮面の御仁、ありがたい。では参るぞ!」

 

 

 俺は両拳を合わせてから、仮面の赤装束の元へ走る。拳を振り上げるとき光の粒子を纏わせ、そのまま殴った。クリーンヒットしたはずだが、仮面の赤装束は堪える様子はなく、ふわりと体を後ろに動かし、火球を手から這わせた。火球は、彼の頭上を漂うと、俺の体に向かって飛んでくる。俺はそれを掌で受けると、もう一度それを放てないように、両手を組んでハンマー状にし仮面の赤装束に叩きつける。

 これは流石に重い一撃であったようで、仮面の赤装束は体を怯ませる。その隙に俺は体を回すことでラリアットをかまし、多段ヒットを狙う。しかし仮面の赤装束は体勢を立て直すのが早く、俺の体を素早く二回切りつけ、炎を周囲に撒いた。

 

 

「流石に強いな…だが通してもらわねばならん!」

 

 

 俺は間合いを取ると、体全体に光を溜めた。拳に纏っていただけの力を、原点に帰って全身に纏わせたらどうなるか、ものの試しだ。

 俺は眩い光を放出したまま両手を壺の横に組み、勢いをつけ跳んだ。

 

 

「受けてもらおう!」

 

 

 俺の捨て身タックルは、質量と光の力によってダメージを負わせることができたらしく、仮面の赤装束は片膝をつく。戦闘を継続できる様子はない。俺は彼に腕を伸ばした。

 

 

「いい勝負だった。俺も、もっと腕を上げることにしよう。」

 

 

 仮面の赤装束の手を掴み、立ち上がらせた。そして、俺によって傷ついた部分に粒子を纏った状態で触れる。表情は見えないが、驚いた様子でこちらを見る仮面の赤装束に、俺は尋ねた。

 

 

「メスメル公に謁見したい。絶対に損はさせない会談だ。仮面の御仁、大まかな道筋をおしえてもらえるか。」

 

 

 やはり、入城の許可を得ていない者たちに情報を教えるのは、裏切りになるようだ。しかし仮面の赤装束は、言葉少に俺に伝えた。影の城への入り方を。同じくメスメル公に仕える「火の騎士」たちの強大さを。

 望むところだ。俺は試練を前に壺を震わせ、壺巫女を乗せて先を進んだ。

 

 

 水場から突如こちらを攻撃しようとしてきた「爛れた樹霊」に驚きながら、屋根を伝い、梁を下りてようやく建物の中へと入った。ここにも多くの小蟹が動いており、水場から這い出てきたことが伺える。

 仮面の赤装束が大まかにおしえてくれた道順を通りながら、画面上で見覚えがある物を拾っていった。「鉤呼びの指薬」や「ルーンの弧」だ。鉤呼びの指薬はヨラーンを呼ぶのに使えるし、ルーンの弧はエルデンリングが砕けた破片であり、割れば大ルーンを持たなくても体力を増やしてくれるはずだ。しかしこれを褪せ人以外が使えるものだろうか。

 ルーンの弧を持って悩む俺に、壺巫女が話しかけてきた。

 

 

「その黄金、戦士の壺様の力になるのではないでしょうか。ここから厳しい道のりになりそうでございますし、糧にされるのもよろしいと思います。」

「そうだな。壺巫女殿を守るには、少しでも力を高めなければ。」

 

 

 俺はルーンの弧を掲げ、岩の手でぎゅっと力を込めてみた。するとぱりんと破裂音がし、壺の蓋の隙間に黄金の粒子が吸い込まれていく。それと同時に、少しばかり体が軽くなったように感じる。腕を動かしてみると、僅かにキレがいい。壺人であっても、これには効果があるようだ。

 

 

「動きが良くなった。使って損はなかったようだ、ありがとう壺巫女殿。」

「ええ。引き続き目を光らせて、戦士の壺様の利になりそうな物を探していきますね。」

 

 

 両手を合わせて、口元だけを見せ微笑む壺巫女。今更思ったことなのだが、壺巫女と名乗るにしても頭の壺は視界不良になるのではないか?時偶に壺を上げて辺りを見ているようなので、とても壺を気に入っているのだろうが。

 俺もゲーム上の褪せ人には壺を外させることは無かったが、いざ現実で壺を頭に被っている人を見るとどうしても不便そうだ。

 

 

 突き当りの部屋は鍵が閉まっていたため入ることを断念し、水に湿った通路を進む。道中で仮面の赤装束が二人現れたため、屋根上にいた彼の情報を出しながら交渉したが、結局戦うことになった。

 格好が瓜二つであるからか、戦闘行動もよく似ており、段々と彼らとの戦いに慣れていく。壺が短剣によって削られたため、戦闘後には粒子で直すことを忘れない。やはり攻撃を受けることによる衝撃はあっても、痛みを感じないからか無茶しがちになる。割れたら終わりなのだから、その事実を心に留めることを忘れないようにしよう。

 

 俺たちは、水を抜くためのレバーを押すために進み、固まっていた蝙蝠の群れを、仮面の赤装束の援護を受けながら倒した。部外者に手助けするのは裏切りだと言う彼らは、俺がそちらに向き直ると、奥の方に歩いていった。

 

 

「なんとも人が良い御仁たちだ。」

「やはり、言葉が通じて、戦士の壺様の温かさをお知りになられたためですよ。」

「壺巫女殿、そんなことはないぞ。殺し殺されでなく、騎士道精神を持って相対できる方々は違うのだろうな…。」

 

 

 足を滑らせないように梯子を上り、固く締められたレバーを全力で押す。

 すると、みるみる内に水が引き、崩れかけた教会が下に露になった。

 

 

「これで昇降機を使えますね。」

「そうだな。…この下にいるものについて、メスメル公が怒らなければ良いが…。」

「そうであっても、守ってくださいますでしょう?」

「ああ、降りかかる脅威は退けてみせる。」

 

 

 少し虚脱感を覚えながらも、水を抜かなければ上へ向かうことは出来ないのだ。必要なことだったと、自らを納得させる。

 しかしこの時点で分かることもある。メスメル公は良き騎士達に仕えられていることを。

 ならばメスメル公は暴君などではない。きっと会談は成功する。

 俺は梯子を下りると、俺たちを見て見ないふりをする火の騎士たちに壺を下げながらも、昇降機に向かった。

 

 

 




「金色タックル」
戦士の壺(パチモン)の戦技
全身に聖属性の攻撃力を付与し
壺の身を眩く光らせ、体当たりを行う

勇猛さは、捨て身にこそある
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