「久しぶりですね、ノ……おや?」
やはり神。他のポケモンとは違って当然のように話してくる。そして俺という存在が違うということも見抜いたようだ。
ゲーム内での交流がどう変換されているのかは分からんが、なかよし度は最高。ゲーム主人公も俺ではあるしなんとかなると思いたい。
いきなり「誰だお前、死ね!」とはならないはずだ。
内心ヒヤッヒヤだがこのプリティ鉄仮面には微塵も表れない。俺が考えた設定とはいえどうなってんだこの表情筋は……。
アルセウスはそんな俺をジッと見つめてくる。
「……ふむ。私の知る貴女ではないようですが、違う存在ではない。それどころか、私を捕まえた彼と同じ気配も内包する、もっと大きな存在、でしょうか」
「……おお」
神すげえ! 一発でそこまで分かるもんなの!?
これならヤバいことにはならなさそうで一安心かな。ホッと一息吐いているとアルセウスはどこか遠くを見渡す様に首をもたげた。
「……私の、いえ、もっと大きな力の残滓を感じます。本体が直接動いたのでしょう」
「……わかる?」
本体がどうとか分かるんだ?
「ええ。分体とはいえ私も神ですからね。自分の力に類する物ですので感知できます。本体が何か行動を起こし、その結果貴女に異常が発生した、という認識でよろしいですか?」
「……たぶん」
聞いた感じでは多分そうだと思う。
薄々分かってはいたがやっぱり邪神本体の仕業か……。確定したことで次は本体に状況の説明を求めればいいんだろうが、ちゃんと言えるかこれ?
「…………えっと。……アルセウス、交信……」
えーっと、アルセウスは本体と交信して何を仕出かしたのか訊いたりはできる?
ぬわー! やっぱり! 俺の口はポツポツと単語で囁くだけだ。
ええい、長文を喋れないのが恨めしい。他の子なら萌え属性の一つだが、この身となると不便過ぎる。
どう伝えたらいいもんかとまごついていると、アルセウスは俺に視線を合わせてまたもジッと見つめてくる。
「……ふむ。少々お待ち下さい……『これでどうですか?』」
うおっ、頭の中に直接アルセウスの声が!
待つことほんの数秒、するとテレパシーでも使ったのかアルセウスの声が脳に直接響く様に聞こえてくる。
『ああ、聞こえる。こっちの声も聞こえるか?』
『ええ。聞こえますよ。何やら会話に不自由している様子でしたので直接パスを繋がせてもらいました。大丈夫でしたか?』
『ああ大丈夫だ、ありがとう。こんなこともできるんだな……』
『これでも神ですから。それにしても成る程、本来の貴女はその様な口調なのですね』
アルセウスが冗談めかして言うと、次は少し分かりにくいが微笑むような気配が伝わってくる。結構感情豊かなのか?
『内心はベラベラじゃんとか思われたらちょっと恥ずいけど、この身体になってから発言行動に支障が出るらしくてな……。こっちが素なんだ』
『この身体、ですか。何やら問題が生じているのは間違いないのですね。ああ、因みに貴女の思考を丸ごと読んでいる訳ではありませんのでご安心を。此方へ会話の様に送ろうと念じた言葉だけが届く仕様となっています。プライバシーは大事ですからね』
気が利き過ぎてる! 誰だこんな善神を邪神とか言った奴は! 不敬罪でしょっぴいてやる!
『本当にありがとう。助かるわ……』
『いえいえ。……では本題へと移りましょうか。まずは今がどういった事態なのか分かりますか?』
『俺も理解はできてないんだが、こうしたらこうなった、というのはある。それでもいいか?』
『ええ、それで構いません』
ノルンは せつめいを している!▽
『──では纏めると、ポケモンが創作の物語として存在する世界で、ポケモンの世界への転移を望むと、本体と思しき声が聞こえ、貴女が操作していたアバターの姿となり、ポケモンや道具を引き継いだ状態でこの場に居た、と……』
『そうなる。荒唐無稽な話だってのは自覚してるが……』
『いえ、本体ならば、別の世界から人の子を一人連れてくる事など、容易いでしょう。ヒスイでの前例もありますし』
『ああ、確かに……』
あれはゲーム内の話だが、俺がこうしてTS転移しているという事実がある以上、たかがゲーム内の話だと笑うことなんてできない。アルセウス本体は存在し、その能力もまた同じく存在するということになる。
全能の神の存在証明に、俺が生き証人になってるとかマジで理解を拒みたいんだが……。
『そして創造神たる本体にとって、貴女のゲームとやらのデータを元にし、貴女やポケモン達、道具等の再現をする事も容易い、という事になります』
『たった一人の人間の何気ない言葉に対して、何ともスケールのデカい話だ……』
ガクリと肩を落とす。あんな一言にそこまでせんでも……。
アルセウスから苦笑する様な雰囲気が伝わってくる。
『にしても自分がゲームっていう創作から生まれた存在だって知ったのに、動揺も何もないんだな』
『そもそも私は分体です。元々創られた存在ですので、そこに一つ情報が追加された程度で、気にする事はありません』
『割り切りが凄い……!』
それが何か? とばかりにケロッとしている。
俺なら多少は狼狽えるが、これが神の精神性なのか。
『私としてはポケモンが実際に居ない世界、というのも気になりますが……それはまた後にしましょう。……ノルン、と呼んでも?』
『ああ。この身体になった以上、前の名前を名乗るのもおかしいしな』
『ではノルン。私のマスターである貴女が私を呼んだ理由をまだ訊いていませんでしたね。何をお望みですか?』
そこには何故神の分身たる自分を呼んだのか、なんて重苦しい雰囲気はなく、ただ純粋に俺のポケモンとして何をすればいいのか尋ねているだけのようだ。
こちらももう神を呼び出し命令する、といった緊張感はなく、普通に自分のポケモンに接するのと同じ感覚でいられた。
元々俺の神経が太いのか、それともこの身体のせいなのか……。まあもうどっちでもいいことか。
『アルセウスは本体との交信はできるか?』
『少々お待ちを。……可能な様です』
『よし、なら何故こんなことをしたのか、この世界の仕様とストーリーがあるならいつ頃なのか、そして元の世界には帰れるのか……これらを訊いてほしい。現実になった以上ゲームと同じシステムだってのはあり得ないだろうし、バトルのルールも変わってるはずだしな』
バトルが自分も相手もボッ立ちで、すばやさ順で行動してわざが当たるかは運次第、なんてのは現実じゃ絶対にあり得ない。
まあおそらくアニメ方式になってるだろう。
『なるほど、分かりました。引き受けましょう。ではその間はお待ち下さい』
「……ありがとう」
『ありがとう。助かる』
心からの思念だったからか、思わず同時に言葉も出てしまった。
いやぁどうなることかと思ったが、これでどうしてこうなったかの確認はできるな。一歩前進だ。
「…………」
アルセウスはこくりと頷くと、遠くを見つめてじっとしている。今まさに本体と交信しているのだろう。
この間は待つしか……あれ?
「 」
なんか唖然としてる雰囲気がするんだけど……? 大丈夫かね?
「ええ……」
おい困惑が声に出たぞ。マジで何聞かされてるの?
『……終わりました。……ええとですね、その……』
“これどう話すべきなん?” とでも言わんばかりに狼狽えている。
さっきの泰然とした態度はどこへやら、目があちこち泳ぎまくっている。
『ど、どうした? 大丈夫?』
『そのですね……ザッと説明されましたが、自分で説明したいようでして』
『え?』
『今繋がっています』
『は?』
『やっほー! 超絶有能大善神、アルセウスでセウスよー!』
うわ邪神だコレ!!
おお、分体セウス! 分体とはいえやはりセウスは格好いいでセウスねぇ……(うっとり)
……おん? 電話セウスー!
アルセウス(分体)
まじめなせいかく。
アレといっしょにみられるとかかわいそう。
アルセウス(元凶)
やんちゃでわんぱくでようきでむじゃき、のんきなのうてんきでうっかりや、かつきまぐれなせいかく。
てがつけられない。