【悲報】一般無能転生者さん、帝国からの独立を謳うテロ組織の黒幕に仕立て上げられてしまう   作:IRA

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入念なシミュレーション

 

 

 ガーリン港に停泊した武装船団から、兵士達がベールランドへ上陸する。白の背景に橙と緑の円、彼等は新たなる旗を高々と掲げラッパを吹く。士気は最高潮、武装は特級、兵士の練度も悪くない。

 

「グレースランドの豚共に見せてやれ! 我等の怒りを!」

「我等が銃に並ぶ武器無し! 槍も弓も魔術もパーカッションも! 全て終わった! 遥か旧世代の遺物よ!」

「抵抗する者は殺す! 撃たれたくなければ背を向けろ!」

 

 港に響き渡るは、一万の歩兵の軍靴と気勢。聴覚保護具を付けずに逃げ惑う市民達は自らの悲鳴すら薄れて聞こえる程。

 

 ケルテンは世界最大の超大国であり、ベールランドも一応は本土である。外交問題こそ有れど、開戦間際では無い。故に、驕っていたのだ。どうせ、暫くは侵攻なんてされない……と。

 

 港に駐在する僅かばかりの軍人は、見張り台の上から狙撃で死んだ。兵士達の闘志と覇気に市民は抵抗を忘れ、固まって立ち竦むか逃げ惑うかの二択。防衛せんと立ち上がる烈士は、存在しなかった。

 

 兵士達は電撃のように迅速に展開し、市街地へ浸透する。宣戦布告を耳にしたベールランド防衛大隊は武器を取り、戦いへ行くが……戦力差は圧倒的であった。

 

 廉価マイケル銃で武装した八百人と、正規のマイケル銃で武装した一万人。士気の差は、戦いが進むごとに深まっていく。そもそも防衛大隊は全てガーリンに居るのでは無く、半分はベールランド各地の農村へ散らばり村長の真似事をしている。

 

 

「マトモに訓練もせず、政治家ごっこに明け暮れ、王も少し人数が多いだけの普通歩兵大隊を一つ配備しただけ。僕達ベイリッシュの蜂起を受け止めるには、荷が重すぎるだろう。褒められるのは、トーマス中佐を置いた程度か」

「蔑視と軽視は、差別のお供ですからね。なまじ今までの反乱全てを無傷で終わらせた成功体験も有り、往年の大敵であるヘネシスとは友好路線、現状最大の仮想敵国たるベスプィカは遠い上に厳格な議会で動きも遅いとなれば……」

「だが、問題は防衛大隊じゃない。本土から来るであろう、帝国本軍からの防衛戦」

 

 防衛大隊が異常なだけであり、ケルテン帝国軍というのは力の象徴。数、練度、装備、愛国心、どれを取っても一級品。総力戦になれば、敗北は確実。

 

 如何にして植民地や本土を防衛する軍人をベールランドに回し、それに機を見た他国の介入を防げるか。帝国の外交手腕とドミニクが用意した戦力の競争、それこそが此度の戦争の肝であった。

 

「銃が弱かった数百年前のように魔術と個人の武勇で戦局を動かす四騎士、ベールランドを包囲し補給を断てる帝国大艦隊、平時でありながら圧倒的国力に基づく総勢百万の職業軍人。まったく……嫌になるほど強大ですね、我等が祖国は」

「反帝国感情を世界中で煽りはしたが、どうなることか。だが、ベールランドを防衛した日数が長ければ長い程他国は野心を剥き出しにする」

 

 

 

 

『こちら、ベールランド防衛大隊長トーマス。貴殿等を一国の軍に比肩する誉れ高き革命家であり、全ての人間への敬意と尊重を有する慈悲深き智勇の士と見て、話がしたい。防衛大隊各員、武装解除を命令する』

「何が誉れ高き智勇の士だ。思ってもないことを。……カハル」

「ハッ」

 

 トーマス中佐が魔道具によって拡げた交渉の誘い。正統性を謳うことによって団結する義勇隊にとって、交渉を断る訳にはいかない。大義名分が、濁ってしまう。

 

 船上にて戦局を見ていたドミニクは魔道具を腹心に用意させ、起動する。

 

『こちら、総司令官ドミニク。トーマス中佐の話を聞こう。総員、銃口を下に向けろ』

『単刀直入に言おう。我々の要求を飲むのであれば、即座に投降する。だが、今回の要求が通らなければ血の一滴すら枯れ切るまで戦い抜く』

『承知した』

『要求は三つ。最大限の死傷者の埋葬と治療・まだ息の有る防衛大隊員は捕虜とし、ベスプィカ議会にて発案されている現時点での捕虜取扱い新法に則った適切で人道的な捕虜の扱いをする・民間人の虐殺及び暴行、並びに不要な略奪の禁止』

『良いだろう。我々は平和と自由の下に団結するベールランドの正当なる解放者にしてベスプィカに仮ながら住まい構える者、条件を飲もう。貴殿等の投降を認める』

 

 認めざるを得ない上、ドミニクとしても素早い投降は願ってもないことだ。だが、全ての兵士がソレを望んでいる訳ではない。確かに兵士達は、ベールランドの独立のために団結し戦いに来た。

 

 しかし、ベールランドの独立と同時にグレースランド人への復讐を望む者は多い。そして、ベールランド人にとって最も因縁深いグレースランド人というのは防衛大隊と中流以上のガーリン市民であった。

 

 防衛大隊がこれ以上戦った所で、奪える命は百を越えないだろう。完全なる復讐の機会を奪い、義勇隊の闘志と団結に濁りを与える。通信魔術師であるトーマスの監視や捕虜の世話、市民への対応。義勇隊への仕事と負担も増やせる。

 

 トーマスは敗れこそしたが自分達が圧倒的不利下でも防衛戦に挑んだという結果を残すことも加えて最大限の保身をしつつ、尚且つ最も国益に繋がる選択肢を取ったのだ。

 

 

 

 尤も、天才ドミニクの技術と発想力、帝国との商売による莫大な利益、反帝国のベスプィカ政府からの支援、これ等が融合した結果がトーマスの想定の範囲内であれば……の、話だが。

 

 

 

 

 

 

 

 防衛大隊の投降から三日強、ドミニクは幹部を総動員させ死傷者リストの作成と防衛陣地の構築に奔走していた。

 

「そこの滑らかな頭をした恰幅の良い男性。早急に離れ、収容所に戻れ。既にそう命令した筈だ」

「へ、へへぇ……!」

 

 ベスプィカ議会の発案している捕虜取扱い新法は、この世界においては極めて人道的な法律だ。

 

 捕虜は軍人のみであり、民間人は責任無き単なる民間人として扱う・一日十時間以上の強制労働の禁止・虐殺及び暴行の禁止・武装及びそれに準ずる物以外の接収の禁止・文化的で最低限度の衣食住の保証。とある異世界の第二次世界大戦までの時代なら人道国家として称賛されるレベルだ。

 

「あ、あのぉ……ドミニク様?」

「どうした」

「わたくし、オーガスト小尉と言うものなんですがね。へへっ、そのっ……コレで、ベールランドから逃げさせて頂くことって……」

「ふざけているのか? グレースランド人の給料一ヶ月分にも満たないような懐中時計一つで、少尉の脱走を見逃せと? こんな時に?」

「いえいえっ、これは大変価値の有る……」

「黙れ。ベスプィカの捕虜取扱い新法でも、非従順な捕虜への体罰は認められている。それと、僕が十三年間商人をやっていたことを忘れたのかな? 懐中時計のブランドすら知らぬ二流専業武器商人とでも思ったか?」

「いやでもっ……」

「くどい、退けろ。これ以上僕の前で口を開くようなら、捕虜では無く戦闘中の帝国軍人として我々への妨害による援軍支援を行っていると捉えるぞ」

「…………。」

 

 オーガスト少尉と名乗った男は顔を青ざめ、固く閉ざした口で走り出す。

 

『報告! グレースランド方向から帝国大艦隊が接近! 繰り返す!』

「……来たか」

「概ねシミュレーション通りの時間。間に合いましたね。潜伏させていた扇動者からも良い報告が届いています」

 

 ドミニクは魔道具を起動し、指示を出す。

 

『これより、歴史に大きく名を刻み込む戦の本番が始まる。ヘネシス革命よりも多くの人間が死傷し、ベールランドは灰になるかもしれない。だが……見せてやろうじゃないか、全ての明日を知らぬ者に。足掻き続けた暗雲の先には、未来が有ると』

 

 

 

 

『海上部隊、40mm機関砲の角度を調整! 敵艦との距離と角度を算出し続けろ! 港部隊、自走多連装ロケット砲のエンジンを起動! 陸上部隊、マイケル重機関銃に弾帯を装着! マイケル突撃銃に弾倉を装着!』

 

 

 

 

 

 

『マイケル商会のトップシークレットにして我等が技術の粋を、思う存分御披露目してやれ! 英雄諸君、世界を変えるぞ!!!』

 

 

 

 

 

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