【悲報】一般無能転生者さん、帝国からの独立を謳うテロ組織の黒幕に仕立て上げられてしまう 作:IRA
「えー、どれにしよっかなぁー。悩むー」
俺は今、ベールランド行き帝国大艦隊を構成するイッセア高速鉄艦へ持っていく荷物を吟味していた。元は儀礼用だが護身に貰ったパーカッションロック式ピストル一丁と弾四発は確定として、800×400mmの木箱に全ての荷物を収める必要が有る。
「服は三セットぐらい欲しいなぁ。畳める奴で、潮風も大丈夫で……。化粧品やエッチに使うのも要るよね。それとちょっとした生活用品を……」
参った。ディルドがギリギリ入らない。仕方無い、弾を二発減らそう。困ったら、最悪鹵獲か自軍からの拝借だ。
「暫く豪華なご飯は食べられないだろうから。今日は綺麗なドレスでケーキとステーキ食べに行こーっと」
◇
「おねがいしまーす」
「…………え゛?」
「どうかしました? テオドリックスさん」
「な、なんでミッシェルちゃんが……この艦に……?」
「ヘンリー様に着いて来ちゃいました!」
「えぇ……」
「まぁまぁ、私だって生まれは男ですから! それに……いっぱい、お世話してあげますよ?」
「ぅ゛っ……」
俺は艦に乗り込み、挨拶回りの後に艦長室ことヘンリー様の部屋に乗り込みベッドに転がる。普段のヘンリー様の寝具と比べれば、明らかにグレードは落ちている。しかしまぁ、戦艦とはそういうものである。
「そう言えば、船ってもう三年振り? 大抵のことはグレースランドで全部解決するし、ウィットランドやサーレウは同じ島だしなぁ。楽しかったなぁ、ビタロス観光」
フィッシュアンドチップス以外カスみたいな帝国の郷土料理とは違い、美味しい料理ばかりだった。なんだよ、スターゲイジーパイって。同じ鰯でも、ベッカフィーコとは大違い過ぎる。グレースランドの一流料理人が殆どビタロスかヘネシス出身なのも納得。
「……緊張感が無いな、ミッシェル」
「あっ、ヘンリー様!」
艦長室の扉が開かれ、ヘンリー様が入室する。立派な帝国将校服に身を包まれたお姿は、実にダンディー。
「ふふっ、ジャガイモ飢饉やヘンリー様に拾っていただく前のベールランド防衛大隊性奴隷時代の方がよっぽど死の危険が有りましたから。貴方のお側に居られる内は、安心以外ありません」
「まったく……戦場には、あまり連れて来たくはなかったのだがな」
「はい、存じ上げておりますっ!」
「はぁ…………まぁ、良い。私は会議に行ってくる」
「いってらっしゃい、ヘンリー様」
一応言っておくが、俺はノンケである。性自認も男である。間違い無い。そうに決まっている。当たり前田のなんとやらである。
さて、俺も俺の仕事をするか。男娼としてストレス解消を請け負うのも立派な仕事だが、最大限ヘンリー様の役に立ちたいっていうメス根性が昼の仕事を求めているのである。
俺が戦場をそこまで恐れていないのは前世の影響が大きい。また、前世の仕事の経験で俺はこの世界なら医療従事者として通用することも最近は分かってきた。なので、女装ナースさんが昼の仕事である。
グレースランドから出発したばかりの今は殆ど仕事も無いが……ベールランドに着けば、大忙しになるだろう。俺の乗るイッセア高速鉄艦は四隻からなる私有艦隊の旗艦、重傷者は医療設備が断トツで一番整っているここに運ばれるからな。
「メリオーラさん! よろしくおねがいしまーす!」
「はーい、よろしくねー。ハイコレ、制服。可愛いっしょ、ウチ等二人用にカスタムしたから」
「わっ、露出スゴ……」
「重傷者用に実用性特化ダサ白衣も有るから安心してね。っぱ、ヘンリー様へのご奉仕最優先だからね。イッセアの家臣たる者」
メリオーラさんはヘンリー様の乳母の末娘。帝国軍には所属しておらず、あくまでも四騎士ヘンリー・スタオーン・イッセアの家臣としてここに居る。大学を卒業しており、イッセア家の内科医である。
今では純血はおろかハーフすら殆ど絶滅したと言われる精霊種を曾祖母に持っており、38歳ながら俺クラスの若々しさに包まれている。後、おっぱいがデカい。すっごくデカい。だが、何故だろうか。メリオーラさんにムラついたこと無いんだよな……。
「おーい、ちょっとデブネコ見てくれねぇか」
「はいはーい」
「餌を飲み込まねぇんだよ、つまみ食いの形跡も無いのに」
皮鎧の剣士が、一匹の動物の首を掴んで医務室へ運んできた。動物の名はデブネコ、種族はグレートグレース北ゴタルカライオン。極めて温厚かつ人懐っこい種で、金色に輝く長毛も相まって貴族からの人気が高い。
元々はシンプルに北ゴタルカライオンという名前だったが、個体数の七割がグレースランド貴族の飼育下と言われているのでグレートグレースの名を冠するようになった。
ヘンリー様のペットであり、アニマルセラピー兼塹壕掘りを業務としている。その名の通りデブであり、一日10kgの解凍生肉を食べる。
「ミャゥ……」
「やーん、可愛いねー♡ 痩せろデブ」
「心音異常無ーし、怪我とかも無さそうかな? 人間専門だから詳しくは分かんないけど。はい、口開けてねー。あーん」
「あ、喉に炎症ありませんか?」
「だね。ただ、それ以外に症状は見当たらない。取り敢えず、猫科に禁忌じゃない消炎出しとくねー」
「診てくれてありがとね。ほら、デブネコ。撫でられてないで行くぞ」
「お大事にー」
◇
ベールランド防衛大隊投降の報せが届いた。ガーリン港も近付いて来た頃の話だ。
あのクソ大尉が死んでそうなのは少しばかり嬉しいが、ヘンリー様の男娼としては凶報である。どうせ墜ちるモノとは分かっていたが。防衛大隊の通信魔術師は生きてこそいるが、厳重に監視されている捕虜である為連絡は出来ない。
『諸君、時は近いぞ』
帝国大艦隊提督が、総司令旗艦からクソデカ拡声魔道具を使う。
『所詮、敵はベイリッシュの革命勢力。しかし、正体はかのマイケル商会を主軸とする連合軍。侮った者から死んでいくだろう。だが、我等帝国大艦隊が最強であることには変わり無く、装備格差もマルビに比べれば遥かに小さい。さぁ、マルビ敗戦への復讐の時だ!』
え? 帝国ってマイケル商会に一回負けてたの? そりゃ、辺境の田舎小国に本気なんて出してなかったんだろうけど……コレ、思ったより優勢でも無かったりする? い、いやいやっ……所詮はベイリッシュよ。偉大なる帝国大艦隊とヘンリー様の足元には到底及ばんよ。
『大砲射程圏は近い。砲の角度を再度細かく調整しろ』
甲板の上で、ヘンリー様と状況を窺う。この世界の基準なら最新鋭と大型の名を冠するであろう、十隻からなる艦隊がガーリン港を背景に向かってきているのが遠くから見える。
『聞こえているかな? 帝国大艦隊。僕こそがドミニク、貴殿等にとっての敵軍総司令だ』
『久し振りだな、ドミニク君。以前、マイケル銃を帝国圏発販売しに来た時に私が商談担当をしたことを覚えているかね?』
『勿論だ、オナラブル』
『砲を交える前に、確認しておきたいことが有る。帝国軍は、君が革命を前提としてマイケル商会を立ち上げたと認識している。では、何故マイケル銃を我々に売った?』
『簡単な話だ。教えてやろう』
あれ? なんか、マイケル商会の大砲変じゃね? やけに細長いような…………
「ッ!?」
最前列の艦が、一瞬で大破した!? 馬鹿な……完全装甲の超大型船だぞ。幾ら集中砲火とは言え、こっちにとっては大砲を撃とうとしないレベルのロングレンジ。それに、あの連射速度。明らかに、俺の知っているこの世界の技術力を凌駕している。まるで、機関砲……いや、機関砲そのものだ。
……足りるのか? 五十七の鉄船と三十八の木船で。
『どうだい? 提督閣下。これが、帝国軍通常装備一新にて得た利益を武器開発に注ぎ込んだ結果だ。投降は、受け入れるぞ』
『……全速前進! 怯むな! 我等には、格闘を挑むしかない! 数の利を活かせ! ドミニクを、必ずここで捕らえるぞ! 奴を逃がすことは、帝国の落日と知れ! 必ず、奴はランロンを侵攻し我等が家族と王室の尊厳を破壊する!』
「ミッシェル」
「んっ……」
ヘンリー様は俺の顎を持ち上げ、キスをする。きつく躰抱き締め合い、二人目を閉じる。離れがたいこの温もりが、一瞬のモノだと知りながら。
「カポックを、しっかり着ておくのだぞ」
「…………。」
邪魔はしないと、決めたから。獅子を象った金色の鎧を纏うヘンリー様は俺から離れ、槍を手に取る。
『''竜狩り''殿、火力支援を要請する』