もしも『アイ』ではなく『アクアとルビー』が殺されていたら… 作:あえch
傑物との勝負 対局の才能
この世界は理不尽で溢れてる…
「刀鬼…」
三十歳で鞘姫役…
私が負ける訳無い、私にはアクアを思う気持ちだって…
「何よ、、、これ…」
天才によって作り出された美しい静寂…
美しい星を見て、掘り起こされる記憶…
「…僕がアイ君の2.5次元をプロデュースしていいのかな?」
「…はい、あっさり引き受けてくれるんですね…」
鏑木Pと有馬かな…
余裕のある瞳と真っ暗な瞳が対峙する…
「そりゃあそうさ。星野アイを2.5次元に引っ張り出した第一人者…こんな名誉は中々手に出来る物じゃない…」
流石は長い芸能界を生きてきた一流のプロデューサー。
聞いた瞬間理解する判断力…
「…アイ君とあかね君の仲が良いという情報提供…その上で彼女を2.5次元の舞台に立たせる為の計画…君は最初に『ビジネス』がしたいと言ったね?」
「…はい…」
「ビジネスに必要な物は『対価』…君の情報と計画に僕は何を返せば良いのかな?」
スムーズに進む話し会い…
狂信者と少女が立てた計画を一瞬で理解する頭の回転…
「…まず鏑木Pが知ってる『星野アイ』について全て話して下さい…」
この言葉に彼は目を見開いて…
「…何故そんなこと…いや、深くは聞かないさ。これも『ビジネス』だからね…」
半笑いで簡潔に…
彼は本気でこのビジネスに着手している。分かりやすさと短さを両立した素晴らしい仕事…
「…僕が知ってるアイ君はこんな所かな?」
「そうですか…」
素晴らしい話だった。高校生がすんなりと理解出来る程には…しかし、それ故に有馬かなは失望する。
何故なら分かったことは…
『星野アイがララライで恋をしていた』
本当は大切なこと…忘れれば、大事にしなければ取り返しが付かなくなること…
しかし、彼女にとっては人殺しの恋愛話なんて胸糞が悪いだけ…
「…後は星野アイを鞘姫役にして下さい…」
この言葉に、何故か鏑木Pは少しだけ笑って…
「なるほど…理由は分からないけどアイ君に余程勝ちたいみたいだね…」
「…」
慣れない2.5次元の舞台、三十歳で演じる鞘姫役…
不利な要因としては十分過ぎる。
そして、この状況を作ったのは…
『有馬かな』
バレた…アイのプロデュースを受けてもらえないと考えた少女は少し焦って…
「…じゃ、じゃあ他の役でも…」
この言葉にお酒を一口だけ含んだ鏑木P…
「勘違いしちゃダメだなぁ…演技力が必要な2.5次元、年齢と合わない役…確かに不利だけどね…」
「…」
赤い瞳には確信した顔が映る…
「星野アイは…」
鏑木Pが並べた言葉は、たった二文字…
『天才』
これだけに全てが詰まっている…
「よし、星野も黒川も一旦休憩だ」
東京ブレイドの稽古。
侮っていた有馬かなの度肝を抜いた星野アイは…
「へへーん!あかねちゃん、私の鞘姫の演技どうだった?」
「凄かったです!私も頑張らないと…」
「あかねちゃんの刀鬼役もめちゃくちゃカッコよかった!…これはアイあかの時代来ちゃうのでは?」
「…アイあかって何ですか…」
二人の後ろ姿を見つめてざわつく役者達…
「あれが星野アイの演技…」
「すげぇ…」
憧れの眼差しを向ける中、一人だけ絶望する少女…
「…なによ…なんで、あんな演技…」
気付いてしまった…私が相手にしていたのは正に怪物…
苦手でも、役柄が合ってなくても関係無く自信を引き裂いてくる化け物…
「雷田、星野の演技見てどう思った?」
全体を眺める金田一が質問を放つ…
「そりゃあ凄いなーって思ったけど…」
この答えに金田一はため息。
「雷田…お前浅いな…」
仕方なく解説するララライの演技指南…
「星野の演技は正に異質。黒川も異質だがそれとは別物…一言で言うならば『解説不可』な演技…」
興味深そうに頷く雷田プロデューサー…
「あいつの演技はバラエティやアイドルで鍛えられた副産物…その方向で勝てる奴はこの世に居ない…」
「えぇ!?そしたら今回の舞台、彼女の無双確定ってこと!?」
驚いた雷田に金田一は…
「俺は『その方向』では勝てないと言ったんだ…」
絶望する有馬かなの後ろに居たのは…
「根暗で、だらしなくて…バラエティなんて無縁な男。全ての仕事は演技力でぶん取ってくる…」
「それって…」
まだ負けていない、それどころか自信満々な表情で…
「星野アイとは対極の男…そいつの名前は…」
『姫川大輝』
「あぁ、有馬だっけ?早く演技するぞ…」
「…あんた見てなかったの?私達が頑張った所で…」
この言葉を遮るように、切り裂くように目の前の男…いや、ブレイドが…
「どうした!降参するか!?」
一流の役者なら、演技で語り合って…演技で希望を繋ぐことが出来る…
「は、はは…」
弱い彼女では、愛する男の子が居ない壊れかけた元天才だけでは無理だっただろう…しかし、一人ではなく二人でなら…
「まだまだぁ!」
本物の天才も倒すことが出来る…
………
……
…
ガシャン、ガシャン…
筋トレの音が響く…
(アイさんの足は引っ張れない…)
女と男…刀鬼役をこなす為、肉体から変えようとする真面目な女の子の帰り道…
「星野アイ…流石、アクアが憧れた天才ね…」
独り言…この声は…
「かなちゃん?」
汗を拭きながらライバルに話しかける…
「…何よ?」
案の定不機嫌な表情と声色…きっと話してくれない。
そう思ったのに…
「アクアって誰?」
この名前を出した途端、眩しい笑顔で私に寄ってきて…
「アクアのこと聞きたいの?しょうがないわね〜…」
わざわざ近くにあった自動販売機でジュースを買ったかなちゃんが私に渡してくれる。
これは相当長くなるな…
「アクアは私が子供の時に共演した天才子役でね!」
キラキラと光った目で…
しかし、雲行きが怪しくなる言葉が…
「…でもアクアって名前聞かないね…今も役者さんしてるの?」
私の質問に笑顔だったかなちゃんは…
「死んだわ…殺されたの…」
泣きそうな顔で、愛おしそうな顔で…
「かなちゃんごめん!私が聞いたから…」
かなちゃんとはライバルだけど…そんな顔をされたら私も悲しくなってしまう…
「別に良いわよ…アクアは私の中で永遠に…」
思い出すように瞳を閉じた彼女は急に真っ赤な顔で沸騰してしまった…
そんな彼女に私は質問…
「一回だけ共演したんでしょ?なんて作品?」
「それが始まりって作品よ…」
何気ない会話…しかし、ここに真実があることを天才は見逃さない…
「アイさんの初主演の映画…」
ここから、私の疑問は加速していく…
「…さっき、アクア君?がアイさんに憧れてるって言ってたよね…何でそう思ったの?」
「簡単な話よ…アクアの名前『星野』アクアだったの…あ、芸名だから勘違いしちゃダメよ?」
「…おかしい…」
「あんた星野アイの隣に居るのに初主演の映画見たことないわけ?」
「…」
そこじゃない…アイさんの初主演はプロファイリングの時に目に穴が開くほど見てる…
そうじゃなくて…
「私が見たDVD版の映画で流れてた名前は…」
映画やアニメで最後に流れるスタッフロール。そこに記載されていたのは…
『星野』なんて無くてアクアだけだった…
(意図的に隠してる?なんで…)
「…ねぇ、かなちゃん…最後に質問していい?」
「…何よ…アクアに興味あるわけ?」
「良いからっ!」
ビクッと震えたかなちゃんが静かになる…
「ニュースで言ってた死亡日時っていつだった?」
忘れる訳ない、泣きながら彼女が放った日時は…
「その日って…」
星野アイが一番輝いた…
『ドーム公演の日』
逆だ、逆だったんだ…
アクア君がアイさんの苗字を取ったんじゃない。
アイさんがアクア君の苗字を…
不自然だった。
アイは苗字を公表していない筈なのに…天才と天才が共演した日…あの時、周りは星野さんと呼んでいた…
(アイさんが苗字を、芸名を変えたのは…)
ここまで来れば、天才じゃなくても分かるだろう…
そう、変えたのは…
10年前…
「ねぇ!社長!私復帰前に芸名変えたーい!」
「はぁ?なんでそんな面倒くさいこと…まぁ、良いか。言ってみろ…」
途端に黒くなる瞳…
「アイじゃなくてね…」
二人の意思を受け継ぐ…愛した意思を受け継ぐ、そんな名前…
「星野アイ…」
リスクを冒してでも伝えたかったのは…
『愛情』それだけだった…
〈補足〉
映画は調べた所…
初上映→DVD発売→地上波放送という順番になるそうです。
映画によっては放映権を利用した上映などもありますが今回は上映の時だけアクアではなく星野アクア明記になっていたと思って読んでいただけると幸いです。