もしも『アイ』ではなく『アクアとルビー』が殺されていたら… 作:あえch
「アイさん…台本と原作で鞘姫のキャラ結構変わってますよね…」
刀鬼役の私がアイさんに問い掛ける…
返ってきた言葉は…
「…あかねちゃん…」
アイさんは首を傾げて…
「何処らへん?」
この言葉に思わずズッコケて…
少し大きめな声…
「めちゃくちゃ変わってますよ!原作と違って台本は凄く好戦的だし…」
目を瞑りながら、思い出すように喋る黒川あかね…
隣で聞いている筈の鞘姫は…
「あれ?アイさん?」
いつのまにか居なくなっている。
何処に居るか見渡すと…
「有馬…この漢字ってなんて読むんだ?」
姫川大輝が指差す文字は『防人』有馬かなが口を開く前に聞こえてくるのは…
「ふふふ…ここは10年先輩の私が答えてあげよーう!」
黒川あかねの隣から消えていた天才の姿が…
「これはね…」
指を指す『防人』の文字…
「『ぼうびと』っていうんだよ…棒人間の親戚みたいな感じ!」
この言葉に私は2度目のズッコケ…
「あ、アイさん!それ『さきもり』です!」
このやり取りに笑うララライの人達…
間違えたアイさんもあははーと笑っている…
かなちゃんだけは舌打ちしてたけど…
「あかねちゃん、やっぱり頭良くて凄いなぁ…」
アイさんは私に近寄りながらこんな言葉…
周囲を見渡しながら現状を確認する。
東ブレの稽古場はいくつかのグループに分かれています…
①主演グループ
②ララライ&ちょい役グループ
基本はこんな感じなんだけれど…
「かなちゃーん!さっきの防人読めてた〜?」
「チッ…だからあんたのこと嫌いって言ってんでしょ!」
こんな感じでアイさんが渡り鳥のように色んな所に話しかけてます…
でも、独立してるのはアイさんだけじゃなくて…
「かなちゃん…?」
私はアイさんと立ち替わりで話しかける…
「…何よ…またアクアのこと聞きたいの?」
(…かなちゃん不機嫌だなぁ…)
さっきアイさんと話したからかな?
不機嫌そうな彼女に疑問をぶつける。
「…あれってメルト君だよね?…ずっと一人で居るから…かなちゃんと同じ新宿クラスタでしょ?」
演技の天才が見つめる先には顔だけ良いと言われる男の子…
「…メルトが居たところで星野アイに勝てるとは思えないけど…分かったわよ」
かなちゃんはそう言うとメルト君の目の前に…
「ほら、演技教えてあげる…一緒にやるわよ」
私にもあれぐらい優しくしてくれれば…そんな嫉妬をしてしまいそうなぐらい優しく右手を差し出して…
下を向いて座るメルト君の反応は…
「うるせぇよ…」
ボソッとした言葉…かなちゃんと私にギリギリ聞こえそうなぐらい…
「…何処がうるさいのよ…」
右手に一瞬力を入れるかなちゃん…
メルト君は立ち上がると見下して…
「今日甘で好き勝手にやってたお前が俺に指導なんて100年早いんだよ!」
メルトが踏み抜くのは正に地雷…
かなちゃんは右手を下ろして…
「あっそ…じゃあ勝手にしなさい…終わったら気付くわよ。誰が無様なピエロだったかって…」
「ピエロだと?それはてめぇだろ!」
白熱する口論…
あたふたする私の横を通るのは…
「ほらぁー、かなちゃんもメルト君も喧嘩しない!」
誰も近付けなかった所に一目散に…
子供っぽくても流石は主演の中で最年長…
「…そうね、喧嘩してる時間なんて私には無かったわ」
かなちゃんは後ろを向いてメルト君から離れていく。
ここで終わると思った喧嘩は…
「…顔も、演技も…全部持ってるお前に俺の気持ちが分かる訳ねぇだろ…」
きっとメルトも勢いだったのだろう…
今日甘の勘違いが正されず、練習もせず…自身を囲むのは、一流の役者達。
目の前には天才と呼ぶに相応しい輝きを放つ女性…
「碌に努力なんてせずに演技出来るやつが…俺のことどうせ見下してんだろ?黙っとけよ!」
怒鳴り声に星野アイは笑う…その気持ち、真意は分からない…彼女はこの程度で怒ったりしない…
しかし、天才に助けられた少女は違う…
「アイさんが努力してない…?」
勝手に動く身体…
あれだけ苦労して嘘を吐いて、演技だってあんなに…
「メルト君?アイさんの何を知ってるの?」
私は涙が止まらなかった…
プロファイリング、かなちゃんの話を聞いて…
憧れが止まらなかった…
世界で一番努力家なアイさんに…
「あかねちゃん!?私は怒ってないから落ち着いて!」
いつのまにか憎むべき顔が目の前にあった…
黒川あかねは無意識に鳴嶋メルトに飛び付いたのである…
荒れた現場に降り注ぐ怒声…
「おい、静かにしろ!脚本家が来てんだぞ!」
席を外していた金田一さんが人を連れて来た…
脚本家のGOAさん…
「…あかねちゃん?…大丈夫だから…ありがとね?」
現場を乱してしまった…周りを見渡したら全員が私を見てる…
アイさんも疲れてるのに無駄な仕事を…
「…なんで怒んだよ…どうせ努力してないだろ…」
この捨て台詞と同時に扉が開く。
こんなアクシデントなんて生温いと感じる程のハプニングが…
「…みんなぁ!原作のアビコ先生いらっしゃったよぉ!」
「付き添いの吉祥寺です!」
喧嘩の残骸が残る最悪の空気…
雷田さんもこの空気を感じて…
「あ、あれ?今まずかった?」
…泣いている子と不機嫌そうな子…
明らかに良い雰囲気とはいえない…
どうしようと困惑の中で…
「鞘姫役を務めさせてもらいます!星野アイです!」
アビコ先生の死角から一気に近付いて…
自分も悪口を言われたのにこの対応力…
「うわぁ…めっちゃ可愛い…」
続いて有馬かなも…
「吉祥寺先生お久しぶりです!」
「有馬さんお久しぶりです!」
何とか良くなる雰囲気…
安堵するように息を吐いた雷田さんは…
「では先生!ゆっくり見学なさってください!」
流石は黒川あかね…この短い時間で刀鬼に入り込んでいる…
始まる東ブレ、全員にとっての試練はここから…
………
……
…
「どうですか?アビコ先生…」
「凄い…皆、演技上手…」
感動したように、満足そうに微笑んだアビコ先生…
しかし、雲行きが怪しくなる言葉が…
「脚本って今からでも変えられますか?」
ある者は驚愕し、ある者は申し訳なさそうに…
「もちろんですが…どの辺りを…?」
始まってしまう…賢い男の子が居ないちゃぶ台返し…
「えーっと何処っていうか…」
そして、燃え盛る…復讐という大炎…
「全部…」
不可能を可能にするのは、天才ではなく凡人と素人…
「忘れ物しちまった…」
暗がりの中、稽古場に戻るのは…
「あれ?開いてる…」
まだ努力も知らぬ素人…
「あそこで練習してるのって…」
彼は気付くことになる。黒川あかねが言っていた言葉の意味を…
「えーっと、鞘姫の役柄は…」
努力してない、そう決め付けた本人を目の前に…拳を握り締めて、下を向いて…
「…俺はなんてこと言っちまったんだ…」
涙が溢れて止まらなかった…悔しさと申し訳なさで…
この時は誰も信じていない…
この雫が、東京ブレイドを救うことになると…