もしも『アイ』ではなく『アクアとルビー』が殺されていたら…   作:あえch

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窮地を越えて、その先には

 

 

 

 

 

 

 

 

とてつもない熱気が鮫島アビコを襲う…

 

(…まるで別世界みたいな…)

 

周りには団扇とサイリウムを振り回す熱狂的なファンが…

最初の感想は…

 

「ちょっと息苦しい…」

 

あまり得意ではなかったようだ…

しかし、先生の瞳に一粒の星が映ると…その感想はたちまち…

 

「…」

 

熱気を作り出す史上最強のアイドルを見て…無意識に取り出す団扇とサイリウム…

 

「みんなぁ!次はこの曲!」

 

アビコ先生はいつのまにか…取り出した物をつま先立ちで、身を乗り出しながら振り回してた…

 

「サインはB!」

 

見た物を魅了する才能、人を笑顔にする才能…

間違いなく…アビコ先生も認めていた…

 

「あの人が鞘姫役の星野アイ…ホントに天才なんだ…」

 

天才と話したい…無意識に踏み出した一歩目。

その足取りはもう作家ではなくファンとして…B子町のセンターに興味がある人間の一歩目だった…

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「あそこ、なんかアイ先輩に会わせて欲しいっていう人居たんですけど…」

 

アイドル公演も終わって汗を拭きながら…

後輩ちゃんが指を向ける先には…

 

「まぁ、とりあえず部外者は立ち入り禁止なんで〜って言っときました!」

 

「…!?ちょっ!何してんの!」

 

後輩の言葉に焦る星野アイ…何故ならそこに居たのは…

 

「アビコ先生だよ!?東京ブレイドの原作者さん!」

 

動揺しながら謝る後輩ちゃんに…慰めてあげたいけど指示も出さなきゃ…

 

「後輩ちゃん!一旦深呼吸!」

 

「は、はい!…すうぅ…………はぁぁー……」

 

「落ち着いた?」

 

「はい!」

 

深呼吸で安心したのか…後輩ちゃんは直立不動で私を見て…

 

「そしたら空き部屋に椅子持って行ってくれる?私はアビコ先生のこと案内するから!」

 

「はい!急ぎます!」

 

背を向けて動き出す後輩ちゃん…よし、私も仕事をしなければ…

 

「アビコ先生!お疲れ様ですっ!…後輩の子が失礼なこと言っちゃったみたいで…すみません!」

 

見た感じそんなに怒ってなさそうだけど…ここはしっかりとした謝罪が大事…

 

「あ、いや…私がいきなり押しかけたので…こちらこそすみません…」

 

私はアビコ先生を先導しながら空き部屋へ…

 

「先生、今日はどうしたんですか?」

 

「えーっと…ちょっと星野さんと話したくて…お忙しかったですか?」

 

この言葉に少し驚いた…先生からしたら私なんて役者の一人だと思っていたし…

 

「いえいえ!私で良ければゆっくり話しましょ〜!」

 

部屋に入った二人は対面するように腰掛けて…

先に口を開くのはアビコ先生…

 

「…やっぱり星野さんってアイドルなんですね…今日の公演も凄くキラキラでした…」

 

「いやぁ〜、褒められると照れちゃいますね〜…アビコ先生も売れっ子漫画家じゃないですか!」

 

周りから見れば二人とも天才…しかし、明確な違いがあるとすれば…

 

「…さっき星野さんが指示出してたのって後輩の子ですか?…迅速な対応でびっくりしちゃって…」

 

「聞こえちゃってました?…恥ずかしいなぁ…」

 

裏の部分を見られて恥ずかしい…見ていたアビコ先生は不快になったのではなく…

 

「…私、アシスタントが居ないんです…コミュ力も無いし…いつも1人…」

 

「…」

 

アビコ先生は根が優しくて能力もある…

しかし、周りに人が集まるのは星野アイ…

 

「もっと人と関わりたいのに…星野さんみたいになるにはどうしたら…」

 

星野アイは微笑んで…その微笑みは思い出すような、優しさが滲み出るような…

 

「…きっとアビコ先生は天才なんですよ…少し、私の昔話をしていいですか?」

 

「昔話?」

 

明るかった空気が少し冷たくなって…

美しい唇からポツポツと…

 

「私は大きな失敗をしちゃって…その失敗の代償は覚悟していたよりも大きくて、一生取り返すことが出来ない…」

 

『愛してる』それを言うために犠牲にした物はあまりにも大きくて…

 

「10年、15年…それだけの年月が経っても後悔が止まらない…」

 

「星野さんが後悔したことって…」

 

私は人に恵まれてた…アクアやルビー…社長やミヤコさん、監督だって居たのに…

 

「なるべく1人で背負い込もうとしちゃった…私は天才なんかじゃなかったのに…」

 

突き放してしまった…愛している男の子が私には居て、もっと頼っていたら…救って、救われていたら…

 

「教える、任せる…それは私にも出来ないんですけどね…だけど、背負い込めない分を…辛くて壊れてしまう部分だけを少しだけ渡して、頼ってみる…コミュニケーションはそこから始まると思ってます…」

 

今の私は…あかねちゃんに頼って、進むことが出来ていると思う…

 

「…頼ってみる…」

 

総評が駄作でも…そこには光り、輝く物がある…

構成、言い回し、キャラ作り…

足りない物を少しだけ…ほんの少しで良いから…

天才漫画家は考えるように口を開いて…

 

「…私に足りない物は…」

 

アビコ先生に足りない物…それは…

 

 

 

『舞台演出』

 

 

 

 

 

 

 

 

駄作だと思っていたら優秀な物だったなんてことは、この世界には良くある…

環境を変えれば、例えば紙の上からステージに…そんな環境の変化があれば…

 

アビコ先生は痛感する…自分には無い物、それを補ってくれる存在が居ること…

 

 

 

「こっちはジジイのち◯この1本や2本しゃぶる覚悟でやってるんです!」

 

必死で…声を荒げて…

 

「ジジイのちっ!?」

 

私は…舞台にここまで本気になれるだろうか…

 

「分かりました…そうしたら…」

 

 

星野アイさん、ありがとうございます…私は大切なことに気付けた…

 

 

「ここも変えちゃいましょ!」

 

「ここも役者さんの演技で何とかなりますね!」

 

 

GOAさんという優秀な人と出会って…脚本も良い物になって…

アビコ先生は良い方向に進んでいく…

 

 

(星野さんには感謝してもしきれない…)

 

 

しかし、この結果は…

 

 

 

 

 

幸せだけでは終わらない…

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「この脚本…とんでもないキラーパスね…」

 

キラーパス…何故そう思うのか…

 

「失敗したら全部役者のせいってわけね…」

 

役者のせい?なんで…

 

「でも、これで私達の勝ち…星野アイの負けね…」

 

均衡が崩れる音…

星野アイと姫川大輝の戦い…少しずつブレイド側に…

 

 

「だって、この脚本に必要なのは…」

 

 

 

芸能界の天才が…不器用な女の子に敗北する瞬間…

 

 

 

「演技力なんだから…」

 

 

 

 

 

 

 

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