もしも『アイ』ではなく『アクアとルビー』が殺されていたら…   作:あえch

16 / 28
才能の構築、新たな輝き

 

 

 

 

 

 

変更された脚本…

生半可な覚悟と演技力では潰れてしまう脚本…

全力で取り組む役者達の反応は…

 

 

 

「うん、この刀鬼なら私の全てをぶつけられる…」

 

刀鬼を演じる女の子は満足した表情で…

 

「…まぁ、今までの脚本じゃ物足りなかったぐらいだしな…」

 

ブレイドを演じる天才は一切の動揺を見せず…

 

「よし、稽古始めるぞ」

 

金田一の言葉から始まるのは…

嘘の天才を追い詰める稽古という名の試練…

 

 

………

 

……

 

 

 

 

「よぉーし、休憩だ」

 

役者とアイドル…対局の才能は今まで互角に戦ってきた。

しかし、今日の稽古を見ているとその戦況は…

 

「…うーん、調子悪いのかな…」

 

雷田の視線には今まで圧巻の演技を見せてくれた天才の姿が…

この言葉に答える金田一。

 

「…いや、そうじゃない…」

 

「え、でも…」

 

星野アイが今まで2.5次元に出演しなかった理由が明らかになる瞬間…

 

「雷田、ドラマと舞台の違いはなんだ?」

 

「えーっと…場面転換が比較的楽とか?後は…映したい子をアップにして目立たせやすいとか?」

 

ここに答えは隠されている…

 

「そうだ、要するに『編集』が出来るってことだ…そうするとどうなる?」

 

思考を巡らせて、答えに辿り着いた勢いで…

 

「…そうか!難しい場面や演技も一発撮りじゃなくて良いのか!」

 

ララライで数々の演技を見てきた男は腕を組みながら…

 

「…ドラマに必要なのはカメラの奥に魅力を届かせる強い役柄…だが、2.5次元は演技力。一発で原作ファン、観客を納得させる演技が必要不可欠…」

 

…この脚本と前の脚本の決定的な違いは…

 

「説明口調が削られて演技力が一層求められる…」

 

「…前の脚本よりも演技力が必要になって、他の能力で補えなくなった結果がこれだ」

 

星野アイも下手ではない…しかし、相手は姫川大輝…

ララライの最強役者…

しょうがないさ…ここは2.5次元、アイドルの舞台じゃない…誰も責めるなんてことしない…

しかし、心配する雷田の隣で金田一は…

 

 

(…輝けない理由としては十分…そうなんだが…)

 

 

15年以上前なのに、頭から離れない衝撃…

 

 

(ここで、アイツが…星野が負けるのか?)

 

 

理由も確証も無い…しかし、数々の役者を育ててきた男の有り得ない筈の予想は…

 

 

『星野アイの覚醒』

 

 

 

 

 

 

 

「…アイさん?ゆっくりで大丈夫だと思います…初めての舞台ですし…」

 

「あかねちゃん…足引っ張っちゃってごめんね?」

 

私は珍しく落ち込んでいるアイさんに声を掛ける。

こういう時、、、なんて言えばいいのかな…

 

(うぅーん…偉そうになってもダメだし…でも何も言わないのは…)

 

私を元気付けてくれたアイさんは凄かったんだ…

改めて実感させられる。

しかし、そんな恩人を貶す存在が…

 

「…星野アイにとっては絶望の脚本変更かしら?」

 

「…」

 

赤い髪の少女は今日一番の笑顔で…

 

「…あんたのせいで舞台はぐちゃぐちゃね…」

 

その笑顔は酷く歪んでいて…

私は思わず…

 

「かなちゃん!アイさんは頑張ってるんだから…」

 

「あんたは黙ってなさい!」

 

私もアイさんに恩があるのに…

かなちゃんの圧に負けてしまって…

 

「…あーあ、アクアなら余裕で演じきるのにね〜」

 

過去の亡霊に囚われる少女の言葉…この言葉に反応を見せる天才アイドル…

 

「…アクア?」

 

「そうよ…アクア…あんたなんかより百倍凄い人間よ!」

 

この名前が出た途端、落ち込んでいた天才の蝋燭に火が…

 

「ふふっ…」

 

この状況で笑うアイドルの絵面は…不気味という言葉でしか表せない…

 

「…脚本変更は絶望なんかじゃないよ?寧ろ、私からしたら幸せ…」

 

それは…鞘姫の最後が…

 

「…あんたが幸せになるなんて私が許さない…」

 

奥歯を噛み締めて睨むのは本気で恨みを向ける少女…

星野アイは戦うのではなく、のらりくらりと躱して…

 

「一緒に良い舞台にしようね…」

 

「…」

 

私は痛感する、アイさんの強さを…

そして、見惚れてしまう…笑顔を含めた全てに…

 

「あかねちゃん?ちょっと付いてきてくれる?」

 

「はい、行きます!」

 

星野アイは嘘を吐きながら冷静に計画を立てて…

その計画を実行に移す一歩目…

 

「あかねちゃん…私、絶対勝つからね…」

 

「…」

 

愛する双子のために…

始まる、逆転の一手…

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「…アイさん遅いわね…」

 

(急遽仕事入ったから迎えに来たんだけれど…)

 

夕焼けの空気に溶ける独り言…

苺プロ社長の妻として運営を手掛ける彼女の目に止まった物は…

 

「あのぉ…少しお時間大丈夫ですか?」

 

外に出ていた鳴嶋メルト。

彼はこの声に反応して…

 

「大丈夫っすよ、どうしたんですか?」

 

「…実は苺プロ所属の星野アイを迎えに来まして…外で待ってたんですが中々出てこず、連絡も繋がらなくて…」

 

不安そうに話す斎藤ミヤコ。星野アイへの愛情を乗せた不安…それはアイドルの一人として…否、それ以上の…

 

「俺は居残りで演技させてもらってるだけなんで…星野さんいつも残ってるけど見なかったな…ちょっと探してきますよ!」

 

「すみません、ありがとうございます」

 

再度室内へと戻っていく努力家。

星野アイは一体何処に…

 

「アイさんがこの舞台にかける思い…」

 

ミヤコは知っている、天才と呼ばれるアイドルの原点を…

そして、偶に見せるあの時のような…15年前の暗い瞳が何かを射抜く時、嫌な予感が止まらない…

 

 

不安を募らせる彼女に話しかけるのは…

 

 

「君、誰かの出待ち?」

 

何にでも手を出す男…しかし、まさか…

 

「いや、そういうのじゃなくて…」

 

「へぇ〜、じゃあ役者の子?可愛いもんね」

 

…まさか、口説こうとしてるのでは…

 

「…は、はぁ…それ以上言うと後悔すると思うので辞めておいた方が…」

 

斎藤ミヤコは確かに若々しいけれど…

 

「えぇ〜、後悔なんてしないって〜…何処の事務所出身?」

 

「…事務所…強いて言うなら苺プロ?」

 

役者ではないけれど…一応運営しているし…

 

「あぁ!分かった!星野さん関係でしょ!俺、結構演技褒めてもらってるから〜」

 

「…」

 

(これは無視が一番ね…)

 

両者の幸せの為に無視しようと試みる既婚者…

 

「ちょっと!ラインだけでも良いから交換してよ〜」

 

思いの外食い下がる鴨志田、この男を止めるのは…

 

「鴨志田さん!金田一さんが呼んでましたよ、緊急招集!」

 

「え!?マジ?」

 

仕方がない。いや、真実を知らなくて良かったのかもしれない…

自分の口説いた相手の女性が何歳かと知ったら彼は…

色々な意味で安堵するミヤコから離れていく鴨志田。

男同士の戦いが波に乗り始める瞬間…

 

 

 

 

 

 

 

 

「なんだよ、誰も居ねぇじゃん…」

 

稽古場には人影は疎か、物音すら聞こえない静寂が…

この静寂を切り裂くのは…

 

「まぁ、嘘だし…あの人星野さんの付き添い。手出したらまずいでしょ?」

 

「なんだよ、そんな理由で邪魔したのかよ…」

 

メルトは視線を持ち上げて…

 

「大事なことだろ?仕事に支障が出る相手はダメじゃね?」

 

注意を受けた鴨志田は笑いながら…

 

「ビビリすぎ〜、支障なんて出ねぇよ」

 

「分かんねぇだろ…俺たちは『プロ』なんだし…」

 

この言葉に、納得する所か更に小馬鹿にするよう微笑んで…

 

「プロじゃねぇのはお前だろ?片手間に舞台の仕事しちゃってさ〜」

 

「…」

 

ある種の正論…

悔しい…俺は、俺だって…

 

「気付いてる?お前が作品の質落としてんだけど?…おーっと、才能がねぇとか言うんじゃねぇぞ。星野さんにあれだけ文句垂れてたのにさ…あの人より練習してねぇだろ?」

 

「…くそっ…」

 

目を見開いて…イラついて…

分かってる、アイツにキレてるんじゃない…情けない自分自身にキレてんだ…

 

「まぁ、その星野アイも姫川さんには勝てねぇけどな…」

 

「…あの人は…星野さんはこんな所で終わる人じゃねぇよ…」

 

自分のことは言われても許せる。だけど…星野さんを馬鹿にするのは許せねぇ…

 

「はっ、実力のねぇお前じゃ演技の質も上手さも分からねぇよな?」

 

俺のせいで星野さんが馬鹿にされる…

俺が、下手だから…

 

「…鴨志田さん、一つだけ言っといてあげますよ…」

 

今の彼では何も言えない。

しかし、偶然にも今出来る細やかな復讐が…

 

「これ、さっきあなたが口説いてた女の人です…」

 

取り出したのは斎藤ミヤコと書かれた名刺…

 

「あ?それがどうしたんだよ…」

 

「あの人、苺プロ社長の奥さんなんだよ…」

 

鴨志田の額に浮き出る冷や汗…

 

「な、なんだよ!既婚者口説いたから犯罪ってことか?」

 

「…そんな小さなことじゃねぇよ…」

 

これよりも大きい、一体何が待ち受けているのか…

 

「…あの人、35歳超えてんだよ…あれ、鴨志田さんの性癖ってもしかして…」

 

「…」

 

細やかな復讐、その意図が伝わる瞬間…

 

「…勘違いすんなよ!あの人見た目若かったから…」

 

「…鴨志田さん、婚約してない熟女探すの頑張ってくださいね…」

 

「おまっ…だからちげぇって!」

 

ミヤコは空気を読んで伝えなかったのに…

細やかな復讐が完遂する瞬間…

小さな復讐の次は、絶望が詰まる大きな復讐…

 

 

 

 

 

 

 

 

「ママさーん!監督いる?」

 

「アイちゃん、あかねちゃんいらっしゃーい!あの子なら自室に居るわよ〜」

 

星野アイと黒川あかね…劣勢の役者が向かった先は…

 

「…五反田監督のお家…アイさん何しようとしてるんだろう…」

 

独り言のつもりだったけれど…

前を歩く彼女の耳に届いてしまって…

 

「…まぁ、困ったら監督の家にレッツゴー!って感じだからそんなに気にしなくて大丈夫!」

 

「…」

 

(アイさん無計画には見えなかったけど…)

 

稽古場からのアイさんの足取りに迷いは無くて…

何かあるんじゃないのかな…

 

「おう、ガキが二人でどうした?」

 

「30歳は子供どころか中年でしょ!」

 

「…アイさん…アイドルなんですから中年とか言わない方が…」

 

挨拶代わりのちょっとした言い争い…

この先も、三人でこうやって言い争って…そんな幸せがあったなら…

 

「…それで本題なんだけどね…これ見てくれない?」

 

一通り笑い終えたアイさんが取り出した物は…

 

「東京ブレイド…2.5次元の台本か」

 

監督と導き出す答え…

その答えならば…確かに勝てるかもしれない。しかし、あまりにも…

 

「…アイさん、それは流石に…」

 

星野アイを研究し、知り尽くした女の子でさえ…

世界一の才能が本物なのか…

復讐が入り混じる混沌の中へ…

 

 

 

 

 

 

 

 

「…なるほどな、確かにお前の演技じゃ厳しいな…」

 

「やっぱりそうだよね…」

 

星野アイは天井に声を広げていく。

がむしゃらに練習するしかない…そう考えていた時…

 

「…だが、鞘姫が目立つ所は幸い多くねぇな…」

 

「…目立つ?」

 

解説を始める五反田監督…

 

「没入型と適応型…お前はどっちだ?」

 

「…えーっと、それ演じ方だよね?」

 

没入型は言い換えれば憑依のような…この役ならこうするよね?という演技…

逆に適応型は周りの演技を引き出すような…自我を残して作品全体をワンランク上に引き上げるような演技…

星野アイは…

 

「アイさんは…どちらでもない…」

 

「え!?私、役者失格!?」

 

あかねちゃんからの唐突な発言…

この言葉の意図は…

 

「…アイさんが下手とかそういう意味じゃなくて…アイさんの演技って没入型に似てるけど少し違くて…」

 

星野アイの演技は特殊である。

没入型に近いが何処か違う…

役を憑依するわけじゃなくて星野アイを見せるような…

例えるならば、太陽のような…私を見て欲しいと願う眩しい演技…

 

「要するに良い意味でも悪い意味でもお前の演技は目立つんだよ。じゃあ目立たなくするにはどうする?」

 

「…演技を上手くしろってこと?」

 

「…お前話聞いてたか…?」

 

混乱状態で目を回す星野アイ。

長い話は難しそうだ…

 

「鞘姫の大事な場面は大きく分けて三つだ。そこに練習のほとんどを費やせ」

 

「ちょっ!監督何言ってんの!?」

 

ただでさえ上手くないのに…

そんな練習方法じゃ…

 

「…舞台、私が壊しちゃう…」

 

「周りに居るのは全員上手い役者なんだろ?それならとっておきの手があるじゃねぇか…」

 

そう、これこそが逆転の一手…

 

「50点で良い、適応型で受けてみろ…」

 

星野アイの眩しい演技と適応型、光と影の使い分け…

希望という言葉が頭に浮かんで、アイドルは真剣な眼差しを向ける。

 

「よし、あかねちゃん!早速指導お願い!」

 

「…アイさん、言いにくいんですが…」

 

適応型を学ぶため、懇願する星野アイ…

しかし、懇願…願いとは、必ずしも叶えられるとは限らない…

 

「私、没入型です…だから適応型は…」

 

「…あ、そうだよね…」

 

黒川あかねは没入型のスペシャリスト。

出来ないことはないだろうが…指導が出来る程では…

 

「…せっかく解決策出たのに…」

 

適応型のスペシャリストが居れば…

星野アイの悩みも…

 

「…おい、居るじゃねぇか…」

 

五反田監督が口にするのは…よりにもよって…

 

「受けが上手い役者…有馬かなが居るじゃねぇか」

 

「…かなちゃんは、無理なんです…」

 

「…?」

 

星野アイを一番嫌っていると言っても過言ではない少女…

話すことすら出来ないのに指導なんて…

 

「…いや、一つだけ方法あるよ?」

 

方法…こんな絶望を破壊出来る方法なんて…

星野アイが有馬かなに持ち寄るのはビジネス。

ビジネスとは報酬と対価で成り立つ物…

適応型を得るために、支払う対価は…

 

 

 

 

「かなちゃん?こんばんは…」

 

夕暮れ、紫色の髪を揺らしながら赤い少女の目の前に…

 

「チッ…目障りだから消えなさいよ…」

 

嫌われて、下手をしたら口さえ聞いてくれない…

 

「…星野アクア…」

 

この名前に通り過ぎようとしていた少女は足を止めて…

 

「…黒川あかねから聞いたのね…あんたがその名前を言うと虫唾が走る…」

 

少女の言う黒川あかねから聞いたこと…それは星野アイと有馬かなの共通点…

 

「…かなちゃん、アクアの好きな食べ物知りたくない?」

 

「アクアの…好きな食べ物?」

 

対価はお金とは限らない…

暗かった赤い瞳が一瞬明るくなって…

天才と不器用な女の子の共通点は…

 

 

 

『アクアのことが好き』…そんな揺るがぬ感情…

 

 

 

 

 

 

「監督さん、少しお話があって…」

 

「…どうした?」

 

星野アイを救おうとする優しい女の子は…

 

「借りたいDVDがあるんです…」

 

「あぁ、俺が持ってるやつなら何でも良いぞ?」

 

刀鬼に全てを乗せると誓った天才…

 

「その子は幼い男の子で、15年前に亡くなっていて…」

 

「…」

 

監督が愛した、有馬かなを狂わせた…そして星野アイが生命を宿した…

 

「星野アクア…アイさんの息子…」

 

「…」

 

監督は、震えた手でDVDを握ると…

 

「…俺の口から真実を言うことは出来ねぇ…だけどな、これだけは言わせてくれ…」

 

母親の死というきっかけが無かったから、片手で握れる量の筈なのに…

監督は両手で、大切に握りしめて…

 

「…頼む、救ってやってくれ…」

 

幸せな星野家を…ルビーとアクアが笑って、それを微笑みながら眺める星野アイの光景を…

少し、ほんの少しで良いから…

 

復讐、真実…そして愛情。

『愛してる』この言葉をまた笑顔で言えるように…そんな儚き願いを込めて…

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。