もしも『アイ』ではなく『アクアとルビー』が殺されていたら… 作:あえch
…凡人は、天才に喰われる運命…
どんなに『思い』が強くても運命には逆らえない…
「…あんたって、そんなに悪い人じゃないのね…」
引き立て役Bになろうとした星野アイに光を向けて…
目を瞑って、微笑んだ…
「…本当に、良い演技ね…」
天才を一つ上のステージへ…
凡人として、私は使命を全うする…
「ほら、輝きな…」
鞘姫が、綺麗に輝く…
ツルギの潤んだ瞳の中で…
「…あそこ、星野アイに乗っかった方が良かったんじゃないか?」
ブレイドとツルギ…
星野アイと双璧を成す人物による質問…
「…なんで苦手分野で演じなきゃいけないのよ…私が受けて、星野アイが暴れる…これが一番なのよ…」
ブレイド…いや、姫川大輝は期待している…
その証拠に舞台練習でも呟いていた。有馬かなは、星野アイや黒川あかねに引けを取らぬ傑物だと…
「俺は、お前が主役の演技苦手だと思ってないけどな…」
カッコいい声色にセリフ…
しかし、有馬かなが口から放つのは答えではなくツッコミ…
「…メガネと台本持って何してるのよ…」
「エアメガネで台本確認してる。星野アイが調子上げて来てるからな…このままだと喰われるだろ」
「…」
言葉を飲み込み、瞳を落とす…
戦いを諦めた少女と勝とうとする天才…きっと、これが『差』なのだろう…
彼女が質問に答えることはない…次に口にするのは前から気になっていた素朴な疑問…
「…あんたも、結構星野アイに執着してるわよね…」
この場に落ちるのは、雷のような衝撃…
「俺、星野アイに聞きたいことあんだよ…勝った方が聞きやすいだろ?」
「…はぁ!?何それ、初耳なんだけど!」
相棒として、舞台の練習をしていた筈なのに…
彼の質問は一体…
「…ちょっと!その質問って…」
「もう時間だな、アドリブ入れるから頼む」
「…え!?そういうのは事前に…」
姫川大輝は、確かに隠し事をしていたかもしれない。
しかし、今ここにある確かな物は…
「…お前なら、どんなアドリブでも受けられるだろ?」
役者、相棒としての絶大な信頼…
星野アイの作った光…希望に浸された彼女は、胸を張って…
「当たり前でしょ、私を誰だと思ってるの?」
天才の恩返しは、無駄ではなかった…大きな光を受け切ったという自信。そのおかげで、不器用な彼女は…
凡人の運命は天才に喰われることじゃない…
赤い髪を揺らして捧げるのは、賢い男の子への純愛と証明…
ブレイドと刀鬼、最強で最高の戦い…
相反する刀鬼の問い…
「お前に志はあるのか?」
誰にだって『思い』はある。鞘姫、ツルギ…そして、刀鬼と対峙するブレイドにも…
しかし、始まりの天才は言葉には乗せない…
「俺は、口で説明するのは得意じゃねぇんだ…」
ならば、答えは一つ…
「刀で語り合おうぜ!」
鞘から抜いた名刀が光る…
刀に反射したブレイドの表情…楽しそうで、強そうな表情…
「…あかねさん、上手ですね…」
「…え、何が?」
モニター越しに天才達の演技を眺める『みたのりお』と『化野めい』…
刀鬼の賢さに気付いた男が話し始める…
「ブレイドと刀鬼の戦い…大切なのは『躍動感』なんですよ…」
渋谷最強と新宿最強の一戦…
確かに、他の戦いと一緒ではいけない…
「躍動感とはスピード…しかし、スピードを上げれば刀がぶつかり合った時の衝撃も上がる…」
速くすれば、重くなる…
重くなれば、もちろん…
「…そっか、あかねちゃんが体格差で蹌踉けちゃうのか…」
その通り…そうなる筈だ…しかし、モニターに映っている戦いは…
「…あれ?でも普通に速くて躍動感あるけど…」
「そこなんですよ、あかねさんの凄い所は…」
速さについていけてる理由は筋トレと、もう一つ…
「受ける瞬間、手首の力を抜いて衝撃を吸収…そして、引いた分を勢いとして活用し、大きく振り切ることで遠心力を活用した攻撃に転じる…」
舞台として、これ以上ない程の高等技術…
しかし、何かがおかしい…
「…しかも、あかねさんがやってるのは無感情演技…感情剥き出しのブレイドへのカウンターと言えばそれまでですが…」
劇団ララライは、黒川あかねの演技を見てきた。そんな彼らが感じる違和感…
「無感情?…きっとさ、賢い演じ方なんだろうけど…」
この違和感は、勘違いなのだろうか…
化野めいの言葉が、舞台裏に反響する…
「あかねちゃんらしくないね…」
憧れの元天才子役にぶつかり合おうとした天才…しかし、今の刀鬼の演技はまるで真逆…
彼女…否、彼の足元に燃え始める『希望』という名の炎…
消えかかっていた火種が…無感情という冷たい風に吹かれて、激しさを増していく…
感情、高等技術…
最高の一戦に乱入するのは…
「なんなんだあいつ…それに鞘姫の持ってる名刀…他のとは、何か…」
(…そろそろ姫川さんがアドリブ入れるって言ってたシーンだけど…)
絶望から希望へ…
変えられるのは…きっと、あの男の子だけ…
「避けろ!ツルギ!」
ツルギの紐が引っ張られて、初恋と共に飛ばされる…変化する対決、ブレイドと鞘姫。そして、ツルギと…
(ちょっ…こっちに全振りじゃない!…)
適応型の天才は脳をフル回転させて…
支えられる刀鬼の腕の中で、何故か頬を赤くしてしまって…
(黒川あかねにこのレベルのアドリブ対応は出来ない…ここは私が繋げないと…ちょっ!?)
体を包んでいた彼の腕が、火照った私の頬に移動する。
そして、そのまま…降ってきたのは…
「女、遊んでいる場合か…?命を賭して戦うのは男の役目…男に守られなければ戦場に立てないようなら、今すぐこの場を去れ…」
ブレイドの無茶振りをアドリブで返す刀鬼の姿…
適応型の天才が呆気に取られる程の完成度…
「私は戦える!」
…あぁ、楽しい…
私の瞳に映るのは、一時も忘れることが出来なかった男の子…
好きで、好きで、どうしようもなく好きで…頭から離れなかった男の子…
「…なんでこんな所に居るのよ…」
「…俺のこと、覚えてたんだな…」
言葉は無く、動きだけ…
側から見たら勘違いで、ただの思い込みと言われてしまうのかもしれないけど…
「忘れる訳無いでしょ…あんたは、私にとって…」
今度は離したくない…
私を置いて何処かに行くなんて許さない…
「アクアは…私にとって…」
許さないなんて強い言葉を使ったのは、怒っているからじゃない…
寧ろ、狂ってしまう程願った…
「ただ、生きてて欲しかったの…」
隣を歩いて欲しい…そんな贅沢は要らない。
役者を続けて欲しい…そんな私の我儘なんて聞かなくていい…
息を吸って、綺麗な髪を揺らしながら笑っていて欲しかった…
「…有馬、ありがとな…でも、悪い。そろそろ時間だ…」
彼が消えてしまう…
頭では分かってる、きっと本番は私じゃない…
だけど、身体が…心がまだ話していたいと悲鳴を上げる…
その願いを叶える為に、私が出来ることは…
「…お星様まで届けてあげる…」
綺麗な星空に人差し指を向けて…
一番星の先の先…強い光を放つ太陽みたいなメッセージを…彼に…
星野アイを、一番星を喰べちゃうような演技を…彼に…
目が離せなくなるような演技を、初恋の人へ…
「馬鹿にするな!」
空気が変わる…
誰も眼中に無かったツルギ…彼女が捧げる、『愛情』を込めた感情演技…
「これが、有馬かな…」
ブレイドの言葉に偽り無し…
この場の誰よりも光り、輝く…
彼女の進んだ道に花が咲く…花は、太陽のような彼女に向かって伸びていく…
「太陽のような眩しい演技…枯れてなかったのか…」
綺麗な星に届くまで、暴れる…
天才だろうが凡人だろうが関係ない…アクアは…その、あんまり恥ずかしいから言いたくないけれど…
「…私の物なんだから…」
届け、届け…
綺麗な太陽が西に沈んで、夕日になるまで…
「…有馬の演技…見れてよかった…」
「…自分勝手に暴れただけだけどね…」
アクアがそっと指を向ける…
上ばっかり見てて気付けなかった、彼の指の先にあったのは…
「…自分勝手も、偶には良いだろ…?」
「…ふふっ、確かに…偶には悪くないわね…」
綺麗な童顔…降ってきたのは、雨のような拍手…
拍手は鳴り止まなかった。綺麗な夕日が落ちるその時まで…辺りが暗くなって、夜になるまで…
本番は、ここから…
ツルギに押し負けた刀鬼、そこに止めを刺すブレイド…
そして、間に割って入る…復讐に命を賭して来た天才…
胸を割かれる鞘姫…死の間際、彼女の表情は…
「…あぁ、幸せ…」
にっこりと笑って…一番星が見せるのは、太陽とは違う種類の『愛情』…
天才…いや、母としての幸せを掴む瞬間…
「アクア、ルビー…」
生きている二人に、この言葉を呟けたら…
そんな叶わぬ願いを込めて…
「…愛してる…」
この言葉を聞いた二人が元気に生きてくれる…
母として願いは、それだけだよ…