もしも『アイ』ではなく『アクアとルビー』が殺されていたら… 作:あえch
「誰かを愛してみたい…」
少女には、『夢』があった…
「…アクア、ルビー…私の元に生まれてきてくれてありがとね…」
女の子の『夢』は形に…そして、叶い始める…
そう、あの日までは…順調に…
「なんで…なんでっ!…やだよ、、、ママのこと置いてかないで…」
母親の『夢』は花びらのように散っていく…
二つの屍と鮮血…それが彼女の全て…
「アクア、ルビー…遊園地行ってみたいね〜…違う違う!隠れて行くんじゃなくてさ!…ゆっくりと…待ち時間に手でも繋いでさ…」
三十歳の女性は、お墓に向かって語りかける…
早くやることを終わらせて二人に会いたい…そんな本音を時々溢して…
『後悔』を胸に抱きながら…笑って…
世間から成功者と呼ばれる星野アイ…
そんな彼女の『後悔』とは…
『あの日、私が扉を開いていたらどうなっていただろう…』
毎日のように考える…
私から全てを奪った男…そんな男の前に立って…
「アイ、ドーム公演おめでとう…二人の子供は元気?」
花束で隠されたナイフが肉を裂き、貫く…
私は少しだけ痛くて、後ろに蹌踉けちゃう…
「アイ…アイ!…」
…ごめん、嘘吐いちゃった…やっぱり凄く痛いなぁ…
でも、幸せで胸がいっぱいなのはホントだよ?…
「アクア…怪我しちゃうからね?来ちゃダメだよ…」
私に駆け寄ろうとするアクアを右手で制止して…
こんなふうに守ってあげられたら、どれだけ幸せだっただろう…
「あぁ…これ無理だぁ…」
命を賭して、母親を全うしていたら…
二人に…あんな苦しそうな表情をさせずに済んだのかなぁ…
「…アクア…怪我はない?…」
浅くなる呼吸で、アクアを抱きしめて…
「…ルビー…怖がらせちゃってごめんね?…」
不安で震えるルビーに、扉越しに手の平を合わせて…
そして、生きている二人にこの言葉を呟くの…
「愛してる…」
嘘じゃないって胸を張って…
ボヤける視界で『夢』を叶えられたら…
…二人の為に、命を燃やすことが出来たら…私は…
???「そんなの俺は望んでない…」
真っ白な背景に佇む天才…そして、その背後から声を掛ける…賢くて、愛おしい男の子…
「…アクアは優しいね…私のためにそんな嘘なんて吐かなくて良いんだよ?…」
「…嘘じゃない…」
「…」
「…私は、二人の未来を奪った。愛したいなんていう身勝手な理由で産んで…苦しい思いをさせた…」
…星野アイは俯く…白い背景に浮かぶ水色の雫…
「…アクア、ルビー…ごめんねっ…」
この言葉を聞いた息子は口を開かなかった…その代わり、天才アイドル…いや、母親にそっと近付いて…
金色の綺麗な髪を揺らして…
「アイ…生きててくれてありがとう…」
後ろから、優しく抱きしめた…
「…アクア…怒らなきゃダメだよっ…」
抱きしめたアクアの腕が濡れる…
一瞬で良い…彼女に救いを…
「…俺の演技見ててくれ…」
「…私、見れないよ…」
見れないのは、涙で滲んでるからじゃない…胸を裂かれて、目を瞑っているからじゃない…
今の私に、希望は眩し過ぎるから…
「…じゃあ、見させてやる…」
…これが、俺の恩返しだ…
ボソッと呟くこの言葉が、大きな光を放つ…この瞬間だけ、一番星よりも綺麗に…
「うがぁぁぁぁ!!!」
刀鬼は叫ぶ…
そして、獣のように飛びついた…
「くっ…」
ブレイドが狼狽える程の気迫…
彼には、強い『思い』がある。
それ故に…彼の演技は…
(…黒川…いや、黒川はこんな苦しそうな演技はしない…誰だ、コイツ…)
目を瞑った母に届くように…
苦しそうに、辛そうに…
「アイが居なかったら…俺は…」
彼は世界一のファンとして証明する…
今の現状は、最悪の結果なんかじゃないって…
必死に…運命に抗った結果なんだって…
ブレイドに斬られて、倒れる…彼の思いが、終わってしまう…
流れ星のように儚くて短い。だけど、世界で一番美しくて…愛おしかった…
「戦いは終わりだ!怪我人の治療を…」
「…もう遅いです…何もかも…」
鞘姫の名刀は…支配者の力…
しかし、本当の使い方はきっと…
「…鞘姫はもう助からない…」
優しさが溢れて止まらない。自分よりも家族が生きることを願う人のような…愛情が籠った力なのだろう…
温かい光が、彼らを包み込む…
鞘姫の目が…ゆっくりと開いた…
「…アクア…私、間違ってたね…」
消えかかる我が子を抱き締めて…
「アクアとルビーだけじゃない…私も生きて…家族全員で歩みたかった…」
そんな有り得ない未来を…思いを…今だけは…
「…ふふふっ!二人のお母さんとしてずっと若々しくいなきゃだからねっ!…こんな暗い顔じゃシワ出来ちゃう!」
鞘姫と刀鬼は…一番星の下で…
「…ご飯、食べよっか…」
優しい笑みで、夜空に未来を描いてた…
ずっと、ずーっと…幸せな未来を…
スタジオ 控え室…
「アイさんもあかねもめちゃくちゃ凄かったよ!…」
今ガチの皆が駆けてくる。
目はキラキラと光ってて…
「黒川の演技マジでやばかったわ…俺より男してたもん…」
「アイさんも最初の登場から凄かった…最後とか寝てるだけなのに存在感あったし…」
「「えへへ…」」
私は照れ臭そうに笑ってしまう…
アイさんも隣で笑ってて、声が被っちゃった…
「あかねちゃんの刀鬼ほんと良かった!…鞘姫として、一番近くで見てたから特にね…」
「…そんな、私なんて…姫川さんとかもきっと合わせてくれてたと思うし…かなちゃんみたいに、凄い演技出来なかったし…それに…」
私はアイさんを裏切ってしまった…
自分の口から言わせて欲しいという言葉を…私は踏み躙ってしまった…
「…アイさん、少し二人で話したくて…」
興奮状態から質問と称賛が止まらない今ガチ組…
ゆきやMemちょとも話していたいけれど…
今は、アイさんと話さなければいけない…そんな気がする…
「…オッケー、あかねちゃん任せて?」
アイさんは、私の耳元で囁くと…
「刀鬼…キスするから…」
「…えっ!?ちょっ…アイさん!?」
イケボで呟いたと思ったら…
おでこに優しい温もり…
「ふふっ、ファンサービス!」
「おぉ…」
響めく今ガチ組…
静かになった瞬間、Memちょが口を開いた。
「まぁまぁ、アイさんもあかねもお疲れだろうからこの辺にしとこ〜」
「そっか!そうだよね…アイさんもあかねも疲れてるのにごめんなさい!…」
「ううん!全然大丈夫!…だけど、流石にちょっと休もっかな〜」
そのまま去っていくゆき達…
やっぱり…こういう技量は、アイさんの足元にも及ばない…
…静かになる控え室…
私は口を開かなかった…いや、怖くて開けなかった…
重い静寂…切り裂くのは…
「黒川あかね…話あるからちょっと来なさい…」
赤い髪を揺らす私のライバル…
「かなちゃん!?…えーっと、行けるんだけど…その…なんていうか…」
(アイさんと話せないならかなちゃんと…うぅーん、でも…アイさんにせっかく話せる場作ってもらったのに…)
演技の方がたくさん話せるという不思議な人種…
そんな黒川あかねの悩みに、天才は…
「…あかねちゃんの言いたいことは大体分かってるから大丈夫…」
大人びた笑顔で安心させると…
「同年代の方が話も合うだろうし!…それに、かなちゃんに渡して欲しい物もあるから…」
この言葉と共にアイさんに渡された物…
「…これ、カメラですか?…」
「そう!…これをかなちゃんに渡してあげて?…それに、私には先客が居るみたいだから…」
「…先客?」
ファンの人だろうか…私がそんな思いで振り向くと…そこに居たのは…
「…姫川さん!?」
「…黒川、お疲れ…今、星野さんって暇ですか?」
彼にしては力強い声色…
真剣な眼差しに、無言で頷く星野アイ…
「…いや、まぁ…すぐ終わるんすけど…」
星野アイと姫川大輝…
二人で空き部屋へと移動して…
「…星野さんって、俺のこと…」
物語は新たな始まりへ…
天才に、休む暇なんて与えられない…
「共演NGにしてますよね?…」
この言葉が、双子とは違う愛情を思い浮かばせる…
黒い眼鏡の奥には、大炎が静かに燃えていた…