もしも『アイ』ではなく『アクアとルビー』が殺されていたら… 作:あえch
「…ねぇ、アクア…」
赤い髪の少女…
青い初恋に囚われる少女…
彼女は、前を向いて…青い檻に触れて…
「あんたが大好き…この気持ちは変わらないけれど…」
忘れるわけじゃない…いや、寧ろ忘れることなんて出来ない…だけど、歩み続けなければいけないから…
「星野アクアを後世に残したい…私は、未来を歩むことにするわ…」
この物語…星野アイとは違うもう一つの復讐…
彼女の決断に、文句なんて言わせない…
「だからね?私は、星野アイを…」
苦しんで、苦しんで…
辛くて、踠き続けて…
痛いほど才能に打ちのめされて…
だけど、その度に立ち上がった…
「あんたが救おうとした…星野アイを…」
彼女の言葉が、風に消える…
赤黒かった瞳が、白く…綺麗に輝く瞬間…
「…かなちゃん?話ってどうしたの?」
「…」
黒川あかねと有馬かな…
二人きりで言葉を交わす…
「…黒川あかね、刀鬼の演技…凄かったじゃない…」
「…いや、あれは…かなちゃんの方が…」
二人でスタジオ近くのベンチに腰掛けて…
夜空が、一番星が私たちを照らしてる…
「謙虚で、可愛い…アクアが生きてたら…卑屈な私なんかじゃなくて、アンタを選んだんでしょうね…」
「…かなちゃん…」
黒川あかね…若き天才の演技を肌で感じた赤い少女の分析…
「…あれ、二重演技でしょ?」
「うん…」
二重演技とは、一体…
「自分からあまりにも遠い役柄を演じる時に使う技…今回のアンタは、完璧だった…」
この言葉と共に、かなちゃんの頬が上がる…
苦笑いか、嬉しさか…その真意は分からないけれど…
「…刀鬼を演じる前に何かを経由してた…黒川あかねと刀鬼の間に…」
黒川あかね→ある男の子→刀鬼…
これが、彼女の…天才の演技の正体…
そして、その男の子とは…
「…本当は色々聞きたかったんだけどね…まぁ、良いわ…」
赤い髪を揺らして…
恋をする…宝石よりも輝く瞳が天才を貫く…
「…なんで、星野アクアを選んだのよ…」
「…」
「これだけ知りたいの…私が、未来を歩むために…」
有馬かなが受け取った救いは、一番星への残り火…
非情だが、これが現実…
黒川あかねが真実を言うのは…憧れた元天才子役じゃない…
「かなちゃん、ごめん…言えない…」
「…」
演技自体を隠すことは出来ないだろう…
姫川大輝、鳴嶋メルト…才能が溢れる男の子はたくさん居た…
その中でも星野アクアという青い宝石を選んだ理由…言えるわけがない…
「…かなちゃん、アクアくんは…私なんて好きにならないと思う…」
俯く有馬かなを救うため…
いや…ここまでは、単なる真実…
「嘘吐かなくて良いわよ…私なんて…」
「そうだね…かなちゃんは、卑屈で…アイさんにもすぐに怒って…自分勝手…」
メイクも何もしてない…
だけど…そのはずなのに…暗い夜でも分かる金色の髪…
「…そして、世界一努力家だ…皆を明るくする…そんな太陽みたいな笑顔…」
恋は、もう実らない…
そんな不可能な恋…辛い現実を、フィクションへ…
「アクア…私…」
「俺は、笑顔の有馬が好きだ…だから…復讐に身を焦がす有馬は…見たくない…」
星野アクアはこんなこと言わないだろう…
きっと、恥ずかしがって『好きだ』なんて言わない…
だけど…良いんだ…フィクションとは、都合の良い物語なのだから…
「うん…アクア…私、辞める…」
10秒で泣ける天才子役…初恋をした、悲しい少女…
彼女の大炎…復讐は、大きな海に呑み込まれる…
「復讐なんて辞めて、アンタを想って…」
赤い星から溢れる海の雫…
見られたくなくて、抱き付く…
そんな震える背中に乗る、一台のカメラ…
「アイは人殺しなんかじゃない…これが証拠だ…奇跡の上に成り立つ…本物の真実だ…」
そのカメラに残るのは…10年以上前の映像…
星野アクアが生きることを信じた…一番星の結晶…
「…これって…」
病院で、力強く握った…
生きている双子に見せると誓った…
『ドーム公演の直前練習』
「ニノさん、お久しぶりです…」
「かなちゃん、舞台公演お疲れ様…」
有馬かなと新野冬子…
狂った信者は、情報を共有してくれると信じて疑わなかった…
「それで、かなちゃん…アイについて何か分かった?」
「…ニノさん、私は…復讐なんて辞めます…」
「…?」
新野冬子と星野アイ…
嘘吐きとして格上だったのは…
「…どうしたの?ビビった?かなちゃんの想いはそんなもの?」
「…騙してたくせに…」
星野アイと黒川あかね…そして、初恋に救われた少女は強い…
「星野アイから貰ったんです…この映像…」
「それは…」
舞台公演の直前練習…星野アイと新野冬子が映った映像…
そして、日時は…
「アクアの死亡推定時刻に重なってる…ニノさんも映ってますよね…どうして…協力してくれると思ったのに…」
「…」
押し黙ることしか出来ない…
弱る信者、畳み掛ける赤い髪…
「理由は知らないし聞きたくない…私は、あなたのことを信用しない…」
この言葉を残して、立ち去る有馬かな…
そんな彼女に向かって、狂信者は…
「かなちゃん…最後に聞かせて…」
か細い声が、希望に満ちる少女の耳へ…
「アイは…星野アイは舞台でどんな感じだった?」
少女の答えは、決まってる…
「星野アイは完璧超人…皆と仲良くして、いつも中心に居る天才でした…」
嘘吐きな、あなたと違って…
有馬かなは、力強く踏み出す…新たな一歩が…太陽よりも輝く…
新野冬子という闇が…絶望に満ちる…
狂信者が絶望した理由…それは、自身を否定されたからではなかった…
「アイは…星野アイは一人じゃなきゃいけないの…」
相手の演技を受けて…恩返しなんて有り得ない…
そんなの、星野アイじゃない…
「あなたは…友達なんて作っちゃいけない…」
狂信者は認めない…引き立て役Bの星野アイなんて、絶対に…
「でも、安心して…私が、元に戻してあげるから…」
全員が希望へ…そんな未来は有り得ない…
恐ろしいほど上がった口角が、新たな絶望を奏で始める…