もしも『アイ』ではなく『アクアとルビー』が殺されていたら…   作:あえch

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いざ、全てが眠る地へ
過去の清算 未来への糧


 

 

 

 

 

 

 

兄は、妹にこんな言葉を残した…

 

「アイは…泣いたりしない…」

 

 

狂信者は、天才にこんな言葉を残した…

 

「私が虐めても…アイは落ち込んだりしない…」

 

 

我が子、狂信者…全てを魅了した『星野アイ』という偶像…

弱くて、普通の女の子…そんな彼女の嘘で作った偶像が終わりを迎える瞬間…

 

「社長〜!私、言いたいことある〜」

 

「…分かった、分かった。どうせ、アイス食いたいとかだろ?ミヤコと一緒に買ってこい」

 

「違うから!…まぁ、そのぐらいのことなのかな〜」

 

作り出せば、いつかは壊れる…

それは…完璧で究極のアイドルも例外ではない…

 

「引退する!」

 

「…は?」

 

斎藤ミヤコ、五反田泰志、黒川あかね…

多くの人に涙を見せてしまった天才の決断…

天才は乗せる。復讐、愛情をこの言葉に…

 

「うん、私…アイドル引退する!」

 

「…はぁぁぁぁぁぁ!?」

 

終わりは、始まりの合図…

さぁ、始めよう…真実が詰まった本当の復讐…星野アイの断罪を…

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「…それで『こんなこと』になってるんですね…」

 

コラボの為、苺プロに足を運んだMEMちょ…

彼女の言う『こんなこと』とは…

 

「社長、副社長…皆さん大慌てで色々してるぅ…」

 

引退発表の日時、星野アイの次期センターを誰にするのか等々…やることはたくさんある。

そんな忙しい空気を切り裂く元気な声…

 

「MEMちゃん、久しぶり!…コラボしよっか!」

 

「あ、お久しぶりです…コラボは嬉しいんですけど…皆さん忙しそうなので後日でも全然…」

 

「大丈夫、大丈夫!…私、そんなにやることないんだよね〜」

 

能天気な星野アイ…そんな天才の背後に立つのは…

 

「おい、無いわけねぇだろ!…お前も手伝え!」

 

サングラスをかけた男…一護社長。

彼に襟元を掴まれて移動する星野アイ…

社長はその状態のままMEMちょに語りかける。

 

「悪いな…せっかく来てもらったけどコラボは無理そうだ…会社として聞かれたらマズいこともあるしな…」

 

「…MEMちゃんごめん…私が連絡しておけば良かった…」

 

謝罪するアイドルにファンは…

 

「全然大丈夫です!…引退までにアイさんの曲聴きまくります!」

 

MEMちょにとって星野アイの引退はショックだっただろう…

それを表に出さない彼女…人としても、ファンとしても素晴らしい…

空元気を見せたMEMちょ…後ろを向いて…ドアノブを握りしめて、俯いた時だった…

 

「アイ…このままじゃ引退出来ないわよ…」

 

「…え!ミヤコさんなんで!?」

 

気まぐれか、将又運命か…

MEMちょの足が止まる…

 

「引退する時は時間が掛かる物から準備するのが定石、それは分かるでしょ?」

 

「へ、へぇ…そうなんだ…」

 

天才の言葉にミヤコはため息…

時間がかかる物…それは、もちろん…

 

「色々準備することはあるんだけどね…その中でもMV撮影が一番時間かかるのよ…」

 

星野アイの引退…そのためのMV撮影…

現場に行って、撮影して、編集する…

確かに時間がかかる…ならば、早めに始めなければならない。しかし…ここで問題点が…

 

「いつもMV撮影をお願いしてる会社の社長さんが放心状態らしいのよ…星野アイが引退するって言った瞬間現実逃避してるらしくて…」

 

ファンを狂わせるほどの才能…星野アイは本当に凄い。

しかし、今回は才能が裏目に出てしまった。

 

「…えぇ!そんなことある!?…とりあえず私が電話する?」

 

「…うぅーん、どうしようかしら…直接話すのも少し危険でしょうし…」

 

復讐のため、時間を作るため…一刻も早く引退しようと焦る星野アイ。

そんなアイドルにファンが…MEMちょが重い口を開く。

 

「…あのぉ…良ければ私、MV撮影してくれる人知ってるんですけど…」

 

MEMちょには迷いがあった。

それは…自分が見て見ぬふりをして、何も言わなければ星野アイが引退しなくて済むのではないかという迷い…

ファンとして、まだ星野アイという天才アイドルを推せるのではないかという迷い…

しかし…彼女が選んだのは、推しではなく人として…

星野アイという一人の人間に幸せを掴んでもらうことだった…

 

「アネモネさんっていう人で…地方に行かなきゃなんですけど…」

 

本当に不思議だ…

同じファンでも、手を貸す者も居れば…気に食わないと排除する者も居る…

そして、愛する対象を平気で殺す奴も居る…

そんな世界を憎むならば、向かわなければならない…

 

「…MEMちゃん、ありがと!…地方って何処かな?」

 

アイドルに赤子を産ませた…最高のファンが眠る地へ…

 

「…宮崎です」

 

「…」

 

この場で誰よりも速く声を発したのは…

スケジュールを管理するミヤコでも、社長である一護でも無い…

紫色の髪に、迷いなんて無かった…

 

「宮崎…行こう!絶対!!!」

 

周りから見れば旅行を楽しみにする可愛いアイドルにしか見えないだろう…

しかし、彼女の脳内はそんな優しいものじゃない…

 

「おい、スケジュールの確認とか…って聞いてねぇし」

 

赤くて生臭い…そんな光景が広がる天才の脳内。

苦しみを乗せて、飛行機は今日も飛び立つ…

 

「…アクア、ルビー…そろそろ迎えに行けるかな…」

 

涙よりも澄んだ青空…天才の言葉が一面の青に広がっていく…

 

 

 

 

 

「宮崎…着いたぁ!」

 

…緑に広がる元気な声…

この言葉が始まりとなり、続々とバスから出てくるB子町メンバー…そして、最後に出てきたのは…

 

「…アイさん、私…来てよかったんですかね…?」

 

星野アイの戦友、黒川あかね。

恥ずかしそうにモジモジする彼女…天才は、彼女に『あれ』を話していないのだろうか…

 

「大丈夫!…社長には許可取ってるから!」

 

天才は言葉を放ち、携帯を手に取る…

言葉はダミー…本物は連絡で…

 

『あかねちゃん、宮崎は色々あるから…復讐も進むと思う』

 

そう、本当に色々…天才自身も知らないものまで。

連絡を見たあかねはモジモジした態度を辞めて…

 

『分かりました、撮影終わるまで待ってます!』

 

連絡を終えて、星野アイは振り返る…

すると、そこに居たのは…

 

「星野さん、こんばんは〜…MV撮影担当するアネモネです」

 

「あ!スマホ触っててごめんなさい!…」

 

「いやいや、ぜーんぜん!MEMの言ってた通り誠実な人でびっくりです〜」

 

せ、誠実?…アイさんは良い人だけど少し違うような…

そんな疑問と共に、MV撮影は始まっていく…

 

「いやぁ、30歳で肌ピチピチ!…まだまだアイドルやれそうだけどね〜」

 

「ふふふ、それほどでもあるかな〜」

 

軽い雑談、星野アイの最後のMV撮影…

凄さを実感するのはここから…

 

 

 

 

 

 

「なるほどね〜、これが星野アイかぁ…」

 

踊りの前に日常生活の撮影…

商業クリエイターから見た星野アイは…

 

「一挙手、一投足が桁違い…歩いているだけなのに目で追ってしまう存在感…」

 

アネモネは、カメラを見つめて…

 

「…いつのまにか容量いっぱい…3時間ぐらいのMVにしたーい!」

 

少し大きな声…

この言葉を聞いた天才は…

 

「…アネモネさん!いっぱい撮れた?」

 

「うん、撮れたけど…星野さんどうかした?」

 

「実は…」

 

彼女の願い…それは…

 

「宮崎観光したくて…」

 

星野アイはなるべく小声で…

その理由は、社長に聞かれてしまうと面倒くさいから…

 

「宮崎は神様とかも多いからね〜、星野さん深夜に撮影出来るし行っちゃえば?」

 

社長さんに許可を取ってから…

アネモネが言葉を発した時、紫色の髪は消えていた…

 

「あかねちゃん!着いてきて!」

 

「え、えぇ!?…撮影終わってないですよ!?」

 

「大体終わったから大丈夫!抜け出しちゃお!」

 

「…抜け出すって言っちゃってるし…」

 

天才と戦友…二人が歩む旅路…

アイドルが母になった日…愛情を産んだ思い出の地へ…

 

 

 

 

 

 

 

 

「アイさーん、何処向かってる感じですか?…まさか…逃げるために適当に歩いてるんじゃ…」

 

「…私、信用されてないなぁ…周りに人居ないよね?話せるかな?」

 

誰かに聞かれてはいけない…嘘を守ろうとするアイドルは辺りを見渡して…ゆっくりと話し始める。

 

「向かってるのは『せんせー』の所…あかねちゃん言ってたでしょ?出産した所は行っておいた方が良いって」

 

「…アイさんの出産場所…宮崎だったんですね…」

 

向かっているのは病院…それは理解出来た。

しかし、黒川あかねが気になっていることがもう一つ…

 

「先生…ですか?どんな人だったんですか?」

 

先生、雨宮五郎は…星野アイにとって…

 

「うぅーん、どんな人…難しいなぁ。凄く良い人だったよ?ファンだったのに…私の出産に全力で取り掛かってくれた…」

 

噛み締めるように、感謝を込めて…

天才は、世界一のファンが生きていることを疑わない…

 

「着いたぁ…ちょっと聞いてくるね?」

 

長い坂を登って、病院に着いた二人…

少し緊張する天才…しかし、彼女の緊張は裏切られることになる。

 

「…雨宮五郎という医師は、随分前に居なくなっています」

 

「え?…居なくなった…辞めた感じですか?」

 

「いや、、、突然連絡が付かなくなって…失踪に近い形です…」

 

天才は、雨宮五郎という名前を迷いなく放った…

15年前に会った人のフルネームを迷いなく…それだけで、彼女にとってどれだけ特別な存在だったかが分かるだろう。

それほどの存在が失踪…彼女は知っている、人が居なくなる…大切な人が居なくなる、この感覚…

 

「…そうしたら、自宅とかは…」

 

「…すみません、外部の人にそのようなことは…」

 

「…」

 

ここに来て八方塞がり…

少し俯いて、病院の自動ドアから外へ出る…

 

「…アイさん、大丈夫です!…東京みたいに都会じゃないですし周りに聞いてみれば…」

 

「うん、そうだね…疲れたしベンチ座ろっか」

 

妊娠中に座ったベンチ…

懐かしさを超えた複雑な感情…俯いた視線を上げると、そこに居たのは…

 

「…こんにちは…」

 

黒いカラスに囲まれる白色の髪…

天才の瞳に映る…不気味な笑み…

 

「雨宮五郎の自宅…知りたい?」

 

幼女から放たれた言葉…

子供のイタズラかもしれないのに…しかし、彼女には妙な説得力があった…

 

「ふふっ、星野アイ…教えてあげる…」

 

名はツクヨミ。

まだ誰も導いていない神…

 

「自宅だけじゃない…時が来たら…全てをね…」

 

天才の背中を見つめて…

幼女の原動力は『怒り』

 

「…私が怒っているのは…」

 

歯車は狂った…後は、怒りに身を任せて…

 

「…神木ヒカルだけじゃないよ…」

 

恩人に捧げる物語…

神の頬が、大きく上がった…

 

 

 

 

 

 

 

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