もしも『アイ』ではなく『アクアとルビー』が殺されていたら… 作:あえch
「君の愛する存在を殺したのは、君の愛する存在……」
やめて、やめて、やめて。
「アクアとルビーを殺したのは、あの男」
やめて、やめて、やめろ。
「犯人は神木ヒカル!君が愛した、神木ヒカルだよ!!!」
その言葉を聞いて、私はうずくまる。
膝を着いて、地面に手を着いて、拳を握りしめる。
「あ、あああああああああああ!!!」
「ふふっ、ふふふ」
叫ぶ私、それを笑いながら見下す幼女。
「星野アイ。私は、君を許さない」
もう、私は、立ち止まることなんて出来ない。
「楽になるなんて、許さないよ?」
血涙が、地に落ちる。
もう、私は、嘘なんて吐けなかった。
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「あっ、あああああああああ!!!」
叫んだ。喉が潰れるなんて関係ない。私の喉は、唇は、脳は、気付いたら震えてた。
「あっ、ううう、うあっあああ!!!」
叫んだ、叫んだよ。だって、それしか出来なかったから。
今の私に出来ることなんて、それしかなかったから。
蹲って、叫ぶ。
その肉食動物のような行為に、一人の少女が水を差す。
「うるさいなぁ」
幼女は、うずくまる私の髪を握って、私の頭を強引に持ち上げた。
涙でぐちゃぐちゃの私の顔が、幼女の黒い瞳に映る。
「私はツクヨミ。君のことが世界一嫌いな、君の子供たちのファンさ」
幼女……否、ツクヨミ。彼女と目が合う。
彼女の黒い瞳。何もかも飲み込みそうな黒に、私の身体が吸い込まれそうになる。
終わりのない黒。私には見覚えがあった。
この黒は、そう、まるで……
「憎悪……?」
「正解。君でも、私の今の気持ちぐらいは分かるんだね」
私は、叫ぶのをやめた。
アクアとルビーのファン。この言葉に、憎悪に、確かにこの時、私は気圧された。
ふさっという擬音を立てながら、ツクヨミが私の頭を離す。
そして、彼女は再度笑顔になって、私の顔を見つめた。
「まぁ、君とは違うかな。君よりも、私は二人の古参ファンだからね」
「古参ファン……?」
「そう、私はね、ずっと、ずーっと前から二人のファンなのさ」
私は優しいから真実を教えてあげる。そう言ったツクヨミは、私に一歩近づき、私の瞳を覗き込んだ。
「母親であるはずの君よりも、私の方が古参。この意味が分かるかな?」
ツクヨミは大きく笑って、私を見下す。
そして、その勢いのまま、彼女は言葉を続けた。
「愛情を知りたいと踠き、赤子なら愛せると信じ、産んだ君。そんな君は、スタートラインにすら立っていなかったんだから」
腕を大きく広げて、まるでルビーみたいな姿で、大きな声を挙げる。
たった一つの真実を、私に突きつける。
「双子は転生者だった。君が愛してると本音で言えた者は!その対象は!君の赤子なんかじゃなかったんだよ!!!」
私は、この言葉に、下を向いた。
「皮肉だよね。愛情を知ろうとした母親、星野アイ。そんな君の子供は、本当の子供じゃなかったんだから。そんな我が子、君は、本当の子供じゃない二人を……「愛してる」
私は、ツクヨミの言葉に、食い気味に反応した。
「愛してる、愛してるよ。愛してるに決まってるよ。お腹を痛めて産んだ我が子だからとか関係ない。私が育てたからだとか関係ない。ただ、私は、世界で一番アクアとルビーを……」
嘘だらけの私。そんな私にとっての、たった一つの真実を、この言葉に。
「愛してる」
あぁ、良かった。15年経った今でも変わらない。
この言葉は、絶対に嘘じゃない。
「ふぅーん」
ツクヨミは、つまらなそうに呟いた。
でも、すぐに彼女は、そのつまらなさも笑いに変える。
嘘かな?私みたいな嘘吐きなのかな?そう思って顔を持ち上げた先にあったのは、まだ終わらない、悪寒のするような『真実』だった。
「ふふっ、ふふふ。安心したよ。これで、安心して話を戻せる」
「さっきの、ヒカルが犯人っていう馬鹿げた話?」
「やっぱり、頑なに神木ヒカルが犯人っていうことは認めないんだね。でも、別に良いよ。私が話したいのはそんな生緩い地獄じゃないからね」
嘘という名の鎧。それを剥がされた私は、弱い。
本当の私は、弱い。
一歩、二歩、ツクヨミが私に近づいてくる。そして、彼女は、私の耳元に唇を近付けた。
そして、この言葉を、この真実を私の脳へ解き放つ。
「アクアとルビーを殺したのは、君だよ。人殺し」
私の絶望は、まだ終わってなんかいなかったんだ。
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幼女は言った。私が本当は一番知ってるはずだって。
幼女は言った。神木ヒカルが犯人だって。
幼女は言った。私が、人殺しだって。
本当は、分かってた。私が一番分かってた。
嘘吐きな私は、自分に嘘を吐いてるって、本当は分かってた。
「アクアとルビー。二人の居場所を話したのは、君だよね?星野アイ」
「……」
本当に、私ってクズだなぁ。本当に、本当に。
私って、本当に、ダメな母親だなぁ。
「神木ヒカルに話した星野アイ。君が話したせいで、二人は、あの子たちは……」
ツクヨミが言葉を止める。
彼女が、唇を噛み締めた。
「私は、君を許さない」
彼女の憎悪が、満ちていく。
「斎藤ミヤコはすごいよね。あんな状況でも、誰にも子供が居ることをバレないように動いてた。斎藤一護もすごいよね。子供が居るって分かってても、君を育て上げた」
瞬きすら出来ない。
黒い星を宿した私は、四つん這いで、涙すら流せず、地面だけを見つめてた。
「君さえ居なければ、アクアとルビーは、雨宮五郎と天童子さりなは死ななかった」
「……」
もう、私は、言葉なんて出せなかった。
すごく、すごく重たかった。
私の頭は、すごく重たかった。
私の脳裏には、色んなことが蘇った。
妊娠した時の、優しいせんせーとの日々。
数少ないお出かけで見た、大人びたアクアの無邪気な笑顔。
幼稚園で見た、ルビーの元気なダンスや演技。
あぁ、そうか。そうだったんだ。
私が、壊したんだ。
私が、二人を、愛する子供たちを、殺したんだ。
「殺してよ」
「……は?」
私は、地に肘をついて、醜く願った。
アイドルなんて関係ない。嘘なんて一ミリもない、いつもとは別人の本当の私として、懇願した。
「お願い、私のこと、殺して?」
もう、それしか言えなかった。
嘘なんて吐けない。私は、本音を言葉に乗せて放っていく。
「アクアとルビーのお葬式の日、約束したの。二人を殺した犯人を殺すって。私は、それがリョースケだと思った。私のファンだと思ってた。でも、違う。二人を殺したのは私で、二人を殺した犯人を探すっていう私の目標は、私が自分を許すための嘘だったんだよ」
「……」
「だから、あなたが殺して。二人のファンであるあなたが、私を殺して?お願い、お願いします」
死にたい、私は死ななきゃいけない。
あの世で、二人に謝りたい。
私は、小さな幼女に、醜く土下座した。
彼女は、ぎりっと歯を食いしばる。
そして、さっきよりも力強く、私の髪を掴んだ。
「私を殺して欲しい?甘えないでくれるかな?」
私の視線の先の先。
彼女の瞳は、憎悪と苛立ちに満ちていた。
「君の、くだらない懺悔のために神である私が真実を教えたわけじゃないんだよ。むしろ逆。謝ることなんて許さないよ?謝って楽になる、死んで楽になる。そんなこと、私が許さない」
私は、私は、どうすれば良いの?
「人殺しは一人じゃない。君は言ったよね?我が子を世界一愛してるって」
壊れた私。そんな私の未来は、この時、大きく変わることになるんだ。
「なら、出来るはずだよ。証明してみなよ。母親として、世界一の嘘吐きとして、見せつけてみなよ」
死体のような活力に鞭を打って、もう一度、私は自分に嘘を吐く。
「神木ヒカル。君にとっての愛する人を、君が殺すんだよ!!!」
「……」
絶望は加速する。
私の手は、嘘を吐いて騙し続けてきた身体は、もう、返り血で真っ赤に染まってた。