もしも『アイ』ではなく『アクアとルビー』が殺されていたら… 作:あえch
ドーム公演の後急いで病院に向かった…
ついさっき一人の幼い男の子が死んだらしい…
緊急オペをすることも出来ず亡くなってしまったそう…
「最後はアイ…アイ…とうなされていました…そして死ななくて良かったと言いながら…」
私はその言葉を病院の先生から聞かされる…
目の前には温もりが消えたベッド、金髪の綺麗な髪が所々落ちている…
それを聞いた時、ただの事実が私に認めろと囁いてくる。
(アクアもルビーも死んじゃったんだよ…)
私は星野アイが大きく映っているドーム公演の映像を強く、強く握り締める…
ただ現実だけが脳の中で響いてた…
脳に現実だけが響き始めてどのくらいが経っただろう…
長かったような気もするし短かったような気もする。
ぼーっと突っ立つ私の腕を涙目のミヤコさんに掴まれた…
あ、そうだ、私ミヤコさんと一緒に来てたんだ…
脳の情報処理が異様に遅い…だけど木々の揺れや風は鮮明に感じて不思議な感覚…
その日私はホテルに泊まった。
事件現場の家は警察も捜査するし生活どころじゃない。
私の肩をミヤコさんは支えてホテルまで来てくれた…
ずっとミヤコさんも私も黙ってた…
「おやすみなさい…今日はお疲れ様でした…」
「…」
声を掛けてくれたミヤコさん…
ガチャっと扉の閉まる音がする…
何故か足元しか見えない…
その時気付いた、ずっと下を向いていたことに。
重い頭を重力に任せてベッドに乗せる。
あぁ、眠い…私は泥のように眠った…
夢だったら良いのに、そんな甘えた考えで…
チュンチュン…
(朝かぁ…)
朝の準備…
そうだ、顔を洗って歯磨きをして…
化粧をして軽くネイルして…
そして愛する我が子に行ってきます…
行ってきます…いってきます…
昨日の夜からずっと重かった頭を初めて持ち上げる…
そうだ、二人は居ないんだった…
あれ?じゃあなんで…
『死んだから』
それに気付いた時、私は喉が痛くなるほど叫んでた…
後悔とか懺悔とか…
ドーム公演で踊りながら笑っている二人を見つけたかったとか…
二人を約束破りのまま私は死なせてしまったんだとか…
髪をぶちぶちと抜いた…
痛ければ痛いほど罪が抜けてる感覚があって心地良かった…
その一時間後、私は社長とお酒を飲んでいた…
苺プロの扉を開けた瞬間、何かスイッチが入ってて笑ってた。
星野アイという生き物が気持ち悪かった。
「アイ…大丈夫か?」
「え?何がですか?」
「何がってお前…」
「社長変なのぉ〜、初めてのお酒にかんぱーい」
初めてのお酒は不味かった…
口直しに飲んだお水はもっと不味かった…
社長の顔は引き攣ってた、上手い嘘が誰でも分かる強がりになってた。
その日からずっとお酒を飲んだ…
飲み物も食べ物も何も喉に通らなくて、常に頭が痛かった…
お酒以外口に入らなかった…
その日から…星野アイはアクアとルビーの写真を見ることが出来なくなってた…
(あれ、、、なんか体重い…暗い…)
唐突に消える光…
ダンスの練習中、私は笑いながら倒れてた…
………
……
…私は病院に運ばれた…
「栄養失調ですね」
診てくれたお医者さんにそう言われた。
何も食べれてなかったからなぁ…
それを聞いた私は棒のような腕で自身の頭を掻く。
「あはは〜、ダイエットし過ぎちゃった〜」
それを聞いた社長が小さく、心配そうに声を出す。
「ミヤコ呼ぶか?あいつならきっと…」
「大丈夫!私もう二十歳だし!」
私は親指をぐっと上に立てる…
「そうか、、、そしたらガキ共の葬式で待ってるからな…」
「はぁーい」
そうだ、子供達のお葬式…
子供って誰…ダメだ、これ以上考えると頭が痛い…
お酒が飲みたい…考えたくない…入院をしている私の頭はずっとこれだった。
いや、ずっとっていうのはちょっと違うかな…
なぜなら入院中にある出来事が私を変えたから…
「ご飯、食べなきゃ…」
入院してから数日、まだ私は一口もご飯を食べれていない。
今日こそ食べなきゃ、そう思っても箸を持って終わっちゃう…
(…このご飯食べて元気になって、アイドルになってファンに愛してるって言って…)
あの日、二人のおかげで知れた本当の愛してる…
それを私は言えるのか、そもそも二人以外に…
そんな終わりの無い思考の渦、、、切り裂くように扉が開く…
社長か、ミヤコさんか…ふぅ、と深呼吸で切り替えると目に星を宿して扉を向く。
しかしそこに居た人物は私の予想外だった…
「よぉ〜、お見舞い来てやったぞ」
「え!監督!?」
そこに居たのはまさかの五反田監督…
驚き過ぎて病院なのにやつれた顔で大きな声を出してしまった…
監督にうるせーよと言われてしまう。
「腕、棒みたいじゃねーか…栄養失調か?」
そう言うと監督は手に持った籠を置くと椅子に腰掛ける。
「まぁ、そんな感じですね〜。ちょっとダイエットし過ぎちゃって…」
「はっ、嘘だな」
(…え???)
唐突に否定されて頭がこんがらがる…
早く切り返さないとバレちゃう…
「バレちゃいました?実は…」
「はい、嘘だな」
「いや、まだ何も言ってないんだけど…」
私はいじけたように目を細める。
すると監督が笑いながら口を開いた。
「はっ、今のお前マジで分かりやすいぞ?まぁ、俺にはお得意の嘘は通じねぇけどな」
…それもそうか、監督には15年の嘘とかで色々見せちゃったし…
すると監督は私の前にある手付かずのご飯を見ると真面目な顔になる。
「どうせご飯食えないなら付き合えよ。今のお前におすすめの店連れてってやる」
「え、、、監督ってそういう趣味だったんだ…」
「ちげぇよ!付き合うってそういう意味じゃねぇわ!」
大きな声で否定した監督の声が静かな病院を駆け巡る…
すると近くに居た病院の先生が静かにして下さいと監督に注意をしていた。
(締まらないなぁ…)
さらに私の大きな声も監督の物だと勘違いされていたらしくてそれについても怒られてた…
ちょっと面白かった…
久しぶりに笑ったかもしれない。
私は帽子とサングラスを掛けて外出の許可を取ると小さな肺に外の空気を大きく吸い込んだ…
「ほらよ、着いたぞ〜」
「私、病院食が不味くてご飯食べれてなかった訳じゃないですよ…」
監督の着いたという言葉に思わずツッコミを入れてしまう…
だって監督が連れて来たのはカフェだったのだ。
ご飯も飲み物も口に入れられない人が来る所じゃない…
「この店は飯も上手いけどお前にやって欲しいのはそこじゃねぇ、とりあえず入れ」
そう言いながら監督が扉を開ける。
するとそこには何故かヘルメット…
(まさかヘルメット付けないよね…)
なんとそのまさか…
子供用の小さいヘルメットを付けてさらに奥の部屋へ…
「アミューズメントカフェって知ってるか?」
「…?」
扉の前に立った監督がニヤける。
そしてゆっくりと扉が開いた…
そこにあったのは…
「ツルハシ…?」
「まぁ、そんな感じだ。こいつを何に使うか分かるか?」
分からない、いきなりぶん殴ってくることだけは流石に無いだろうけど…
すると監督はツルハシを思いっきり振りかぶって…
「おらよっと!」
バリーン!!!
え?…監督壊れた?
そう思っても仕方ないと思う…だって目の前にあった電子レンジを上から叩き潰したのだから。
「簡単に言えば物壊してストレス発散するとこだ。俺これ以上振り回すと腰やっちまうし…ほらっ、ツルハシやるよ。上手く出来たら今度の映画呼んでやるからよ」
そう言って監督はツルハシを私に渡す…
「…分かりましたよぉ…」
私は遠心力を使ってツルハシを思いっきり横に振り回す。
そして目の前の家具に思いっきりぶつけてみた…
(食べてないから体振り回される…)
カフェという名のストレス発散ルーム…
不思議な部屋だけどちょっと楽しい。
楽しい…楽しい?そんな幸せの感情が巻き起こった瞬間また気持ち悪くなる…
「ゔっ…」
私はあまりの気持ち悪さにツルハシを置くとその場に蹲りながら右手で口元を抑える…
またこれだ…アクアとルビーの苦しそうな顔が頭から離れなくなる…
「やっぱりな…」
監督はそう呟くと落ちたツルハシを拾って私の左手に握らせて…
「さっきの病院の話の続きだ、なんでご飯食えねぇんだ?」
「…」
あまりの気持ち悪さに喋れない…
「じゃあ俺が当ててやるよ、憎いんだろ?後悔してんだろ?そして何より…いや、この後はお前が言え」
憎い…誰が?後悔…何を?
栄養の足りない頭をフル回転させる…
思考の回転が少しだけ遅くなった時、右手は無意識にツルハシを握ってた…
「はっ、20歳のガキがカッコ付けんな!全部言ってみろ!」
その監督の言葉に自分の中で何かがプツンと切れる音がした…
そして、嘘が苦手で何の取り柄も無い本当の私が涙を流しながら空気を思いっきり肺に溜め込む…
「もっと、、、もっと…たくさん愛してるって言いたかった…」
ここまで言ってしまったらもう止まらない…
奥歯にぐっと力を込めて…
「なんで、なんで!!!二人には未来があったのにっ!」
涙を撒き散らしながらみっともなく振り回す…
バラエティ番組なら0点だ…
「ルビーもアクアもあんなに苦しめられて…殺されてっ…ぐちゃぐちゃにしてやる、アクアよりも痛めつけてっ!ルビーよりもぐちゃぐちゃにして!」
はぁ…はぁ…
とにかく振り回した…
息が切れても、足が滑って転んでも…
家具を人に見立てて何度も振り下ろした。
「殺すなら私だよ…二人と離れるなんてやだよ…」
止めどなく溢れる涙を拭うため握ったツルハシをその場に投げ捨てた。
あぁ、アクアごめんね?復讐しないでって心配してくれたのに…ルビーごめんね?もうキラキラしたママじゃなくなっちゃう…
「星野アイ、お前は何がしたい?」
監督にそう聞かれた、もう私の答えは決まってる…
「ルビーとアクアを殺したやつを…」
気持ち悪さが消えて行く…
あぁ、これが私の幸せだ…したいことだ…
「殺したい…」
ヘルメットのつばに隠された瞳は真っ黒…
社長も、ミヤコさんも知らない私の顔…
この日、私は愛されたいという人生の願望、これまで嘘を吐いてきた理由を捨てた…
お葬式の日、ルビーとアクアの写真の前で手を合わせた私は短い言葉を一つだけ…
「お昼寝してちょっとだけ待っててね…ママが後全部やるから…」
その日からアイは死に物狂いでリョースケを探す…
しかし簡単には見つからない、物語が大きく動くのは十数年後、ある人物との出会いが星野アイとこの事件を大きく進展させる…