もしも『アイ』ではなく『アクアとルビー』が殺されていたら… 作:あえch
天才と天才、巡り合うのは偶然か必然か
「アイさん!僕三歳の頃からファンなんです!!!長い間続けてくれて……」
「はい、お時間でーす」
今日は何の変哲も無い握手会、私は握手会を凄く大切にしている。
「スタッフさんもうちょっと良いじゃないですか〜、赤ちゃんの頃から私のファンなんて嬉しいこと言うね〜」
「は、はい!僕が三歳の時にアイさんのドーム公演だったんです!それで今日のために……」
私は少し大人びた笑顔で思い出す。
(あぁ、もうそんなに経つのか)
忘れることの出来ない、ドーム公演からの日々を。
あのドーム公演から色々なことが変わった。
グループのセンターがサプライズ登場するという奇抜な作戦は功を奏し、B小町と、そして星野アイは大きな成長を遂げた。
社長もファンもスタッフも私をもっともっと好きになった。
ミヤコさんだけは偶に悲しそうな顔をするけれど。
そんな変わって行く日々の中で私の生きたいという炎はどんどん激しさを増していく。なぜなら……
『ルビーとアクアを殺した犯人が捕まっていないから』
捜査が進まない理由は色々あったと思う。
あまりに死体がぐちゃぐちゃで凶器の特定が難しかったこと。
認知件数が極端に低かったこと。
犯行動機が分からなかったこと。
(ははは、まぁ全部監督が言ってたことなんだけどね)
でも、私は警察を全く恨んでない。
時効になったとか、なっていないなんてどうでも良い。
だって……
(アクアとルビーを殺した奴が牢で守られるなんて許せない)
大学生で男。アクアが最後に教えてくれた特徴を頭に入れて、今日も私はファンに愛してるって嘘を吐く。
キラキラしていれば、また犯人が私を殺しに来てくれると信じて。
「星野さん、握手会お疲れ様でした」
「皆ばいばーい、またね〜」
あ、そういえば握手会を大事にしてる理由言ってなかったね。
ファンとの交流を深めれば犯人見つけられるかな?なんていう確証の無い理由。今の私は嘘と復讐、そしてたった二人の子供を愛してるって成分で構成されてる。
握手会を終えた私は長い髪を揺らしてその場を離れる。
ここまでは監督と話し合ったこと、週刊誌に撮られてもいいように星野アイのエッセイを書くという形で偶に会って話してる。
ここからは誰にも話していないさらに私の本当の部分。
(本当に復讐したいのは別にいる、それは……)
愛したいなんていう身勝手な理由で産んだのに一度も子供に愛してるなんて言わなかった最低の人間。
そう、星野アイ。私自身だ。
犯人を殺した後、錆びた汚いナイフで苦しみながら自身を刺して痛めつけて、そして流れていく血を見つめながら嘘を吐かずに一生懸命謝って、朽ち果てる。
これが本当の理想。
そんな苦しまなきゃいけない私だけど暇になるとつい無意識にぼやいてしまう。
「二人共、ずっと愛してる」
成長していれば高校生ぐらいかな。
あまりの愛しさに無意識に手を伸ばす。
随分と伸びた身長、だけど愛しさは一向に衰えない。
頬にちゅーして、ルビーは喜ぶかな?アクアは顔赤くしちゃうかな?
想像するだけで幸せ。
しかし、私が夢見た幻想はフラフラと空気になり消えてしまった。
私は二人の死を未だに受け入れられていない、それが本音。
死ぬまで復讐出来なかったらどうしよう。そんな不安で押し潰されそうなのが今の私。
だけど私は足を止めない。
愛してるを殺人に、着替えた私は荷物を持ってドラマの撮影に向かう。
芸能界には才能が集まる、そう痛感することになるドラマの撮影に。
「星野アイさん入られまーす」
現場に響き渡るスタッフさんの声。
それを聞いた役者さん達が私の所に寄ってくる。
「星野さん!お疲れ様です!」
「星野さん、勉強させていただきます!」
役者達が頭を下げて挨拶をする。
星野アイはこのアイドル。否、芸能界で伝説になりつつある。
B小町を最盛期に導き、アイドルの賞は数知れず。
ドラマの撮影も主演という演技以上の何かが無ければ務まらない役を何度もこなしてきた。
「皆ごめんね〜遅れちゃって」
私は挨拶をくれる皆に遅れたことを謝っていると後ろからポンポンと肩を叩かれた。
「アイちゃんよろしく〜」
声の主は今回の作品の監督さん。
私は監督さんに挨拶を返すと見せかけて。
「ちゃん付けって最近セクハラになるらしいですよ……」
監督さんは一瞬目を泳がせて固まる。
すると冷や汗だらだらで苦笑い。
「あはは、アイちゃん……じゃなかった。アイさんにセクハラしたら僕芸能界追放されちゃうよ」
かなり不安そうな顔。
挨拶代わりって感じだったんだけどなぁ。
「しかもおじさんが三十歳のおばさんにちゃん付けしてたらキモいと思いますよ〜」
「三十歳のおばさん……え!?アイちゃん三十歳なの!?」
こんな感じの他愛の無い会話。
星野アイは監督やスタッフ、プロデューサーなど様々な人から好かれる。嫉妬などはもちろん除いて。
案外こんな感じの軽いコミュニケーションが好かれる秘訣なのかもしれない。
「じゃあ助演の子来たら撮影始めるから〜」
今回、私はドラマの主演をやらせてもらう。
主演は私で、助演の子ってそういえば……
「黒川あかねちゃん、でしたっけ?」
今、世間ではかなり有名、少し芸能界に疎い私でも知ってる。
何故なら……
「そうそう、ララライの子でさぁ。めっちゃ頑張ってるけど最近今ガチでめちゃくちゃ炎上しちゃった子なんだよね。あの日から迷惑かけたからっていう理由で自主的に事務所の掃除毎日やってるみたいよ?」
炎上かぁ。
長い間芸能界に居たから分かる。良い子ほど燃えちゃう。
そんな同情と思考を切り裂くように、やつれた顔で現場に来た女の子。
「お願いします!黒川あかねです!こんな時期の私を使っていただいたこと後悔させないように全力で頑張りますっ!」
あかねちゃん。
私の第一印象は可愛くて苦しそうという印象だった。
私も昔ご飯が食べられなかったから分かる、顔は青くて腕は細い、食べ物が喉に通らないあの感じ。
しかし、撮影が始まると私の印象は180度ひっくり返る。
「あなたをここまでコケにするなんて、ムカつく」
あかねちゃんのセリフ。
簡単に言えば今回のドラマは主演の私とその手下の役のあかねちゃんが色々な事件を解決していくというものだ。
青かった顔は白くなり、自信の無さそうだった顔は迷いの無い瞳でかき消されてる。
(これ油断してたら私食われちゃうなぁ)
完全に主演級の傑物。
止まっていた歯車がゆっくりと回り始める。
そう、それは今まで誰も動かせなかった復讐の歯車。
この音と動きに私はまだ気付けていない。
そしてそこに隠れる演技以上の何か……
………
……
…
「あかねちゃんお疲れ様ぁ〜」
「アイさん今日はありがとうございました!凄く勉強になりました!」
ドラマの撮影が終わる。
あかねちゃんのおかげでやり直しも少なく監督さんも文句無し!という感じで満足気だった。
そんな満足だらけの撮影だったけれど、みるみるうちに元気の無い彼女の姿に戻っていくのが少しだけ寂しい。
(高校生、ルビーが生きてたら同じくらいの歳かな?)
高校生のあかねちゃん。
いつもの私なら炎上した彼女を見て可哀想で終わってたと思う。
だけど、今回は少し力になりたい。気まぐれか、ルビーの姿を少し重ねちゃったのか……ふと声をかける。
「あかねちゃん、ご飯食べれてる?良ければ五反田監督っていう人の所にエッセイ書きに行くんだけど一緒に来たりする?」
あかねちゃんの返事は……
「は、はい!アイさんに色々教えてもらえって金田一さんにも言われてたので!」
金田一さん、ララライの関係者。
後に大切になるその名前に今の私は何も引っかからない。
「よし!それじゃあレッツゴー!」
頬が痩せこけているあかねちゃんの手を引いて私は歩き始める。
歩く、歩く。ただただ幸せ、あかねちゃんを大きくなったルビーに重ねて。
(髪の色も何もかも違うんだけどね)
この時、私は彼女を見誤る。
そう、彼女は守る対照ではなく共に戦ってくれる戦友になるのだから。
〈おまけ〉
犯人が見つからなかったのなんで?という疑問出るかもしれないので…
認知件数が少なかったこと→アイや社長が意図的にルビーとアクアを隠していたから
犯行動機が分からない→ルビーとアクアがアイの子供だと世間は知らないから
殺人の時効は1995年4月に廃止されてるみたいです。
一人のキャラに全てやらせるというのは無しで考えてます。