もしも『アイ』ではなく『アクアとルビー』が殺されていたら…   作:あえch

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片割れが居なくとも、あなたならきっと

 

 

 

 

指先のさらに先…小さい筈の『爪』で引っ掻いた情報が少女の脳を大きく揺らす…

その情報は赤色、そして徐々に世界から色を無くしていった…

これから話すのはあり得たかもしれないとある少女の物語。

 

 

 

 

 

 

 

 

私は嘘が苦手だ…

 

「ノブ君は私のだから!」

 

悪女ムーブってこんな感じかな…

 

「ゆきってほんと下品!」

 

思ってもいないこの言葉…

本当は大好き、強くて優しくて…

 

 

私は嘘が嫌いだ。

 

「あ、あぁぁ、、、ゆきの顔、傷付けっ…私がぁ…」

 

ゆきの顔から鮮血が飛ぶ…

大好きな彼女を傷付けてしまった、私の苦手で嫌いな嘘のせいで…

しかし彼女は混乱している私を優しく、強く抱き締めて…

 

「あかね?大丈夫だから…ちょっと焦っちゃっただけだもんね?」

 

私は泣きながら首を縦に振る、そして優しい彼女にありがとう…

ここで私は思い止まる、ありがとうの前に日本人としてこの言葉をゆき、そして世間に言わなければ…

 

3、2、1…

 

『ごめんなさい』

 

 

その日、少女の目から色が消えた…

 

 

 

 

 

炎上なんていつか消える…だって5年、10年前の炎上なんて誰も覚えていない…

 

『頼むから黒川あかね死んでくれ』

 

大丈夫、謝ったしもう言葉の石を投げてくる人なんてきっと居ない…

 

『顔だけでもキモいのに性格も終わってるとかなんで生きてんだよ笑』

 

炎は水で消える…炎上が雨なんかで消える訳無いけれど…

おかしくなった私は一筋の光を求め、台風が吹き荒れる外に足を運ぶ。

色の無い世界で私の目に飛び込んで来たのは…

 

『歩道橋』

 

階段を登って、手すりに手を掛けて…

安全のために付いている手すりに両足を乗せた彼女の下には高速で走る車の数々。

あぁ、落ちてしまう、、、それを止める筈の男の子…

そう、金髪のかっこいい男の子…しかしその男の子の炎はとっくの昔に消えている…

 

両足が宙に浮いて、重力に乗った軽い体が…

 

グシャ…

 

体が壊れる鈍い音。

痛覚、それが最初に戻った感覚だった…

 

 

 

 

 

「んっ…痛っ…」

 

起きたら私は病院に居た、幸か不幸か…私の体は車体の上に落ちて地面には落ちなかったらしい。

地面に落ちたらそのまま車に轢いてもらえたかもしれないのに…

 

そんな思考の私に駆け寄る一人の少女。

 

「あかねっ!なんでっ…」

 

そこに居たのは強くて優しい少女…

彼女はビンタしようと手を持ち上げるが何もせずに下ろしてしまう…

次は包帯だらけの私の体を抱き締めて…

 

「もう、お願いだから死のうとなんてしないで…」

 

彼女の瞳は濡れていた。

こんな私を心配してくれていたんだ…

その言葉に私の瞳も濡れていく…

 

「うんっ、心配かけてごめん…」

 

ゆきの腕を濡らす雫…その雫が一つ、そして二つと落ちる度、私の世界に色が戻っていく…

不思議な物だ…一度目の涙では色が消えたのに二度目の涙では世界にどんどん色が戻っていくのだから。

鼻の啜る音、その間隔が少しずつ長くなっていって…

 

 

 

「あかね大丈夫?ちゃんと傷治してよ?」

 

「あかねは病院で安静にしててな〜」

 

「うん…」

 

優しく言葉を掛けてくれる今ガチのみんな。

私は自らが招いた怪我のせいで皆の隣に居られない…

…いや、これは言い訳…

今の私には今ガチに復帰する勇気が無い…

 

怖くて足がすくんで…

暇になったらスマホを見てまた落ち込んで…

そんな弱い私を肯定してしまうように何も出来ない日々。

怪我を治すことしか出来ない日々…

怪我という言い訳が終わった時にはもう遅くて、、、

テレビでは皆が告白している光景が映ってた…

 

 

 

今ガチは黒川あかねが出ることなく終演を迎えたのである…

 

 

 

 

 

 

「ここもっと綺麗にしないと…」

 

事務所の掃除、退院して一番最初に私が行ったこと…

朝一番に掃除をしているのは綺麗にしたいという思いともう一つ。

マネージャーが怒られる前に私が謝罪しないと…

 

(私のせいなのにまたマネージャーが怒られちゃう…)

 

ガチャッ…

 

ドアが開く音…

入ってきたのはララライの社長さん、今ガチの時と同じ轍は絶対に踏まない。

 

「社長!お騒がせしてすみませんでした!今日から復帰します!」

 

私は片手にちりとりを持って深く頭を下げる。

怒っているであろう社長の反応は…

 

「あかねが怪我治って良かったよ、これからも頼むね?」

 

深く頭を下げる私の肩にぽんと乗った手のひら。

怒られると思っていたのに…

やっぱり優しい、再度頭を下げて感謝の言葉を…

 

「ありがとうございます!」

 

…だけど現実はそんなに甘くない、この言葉は簡単に覆る…

 

 

 

 

数日後…

 

(あれ?社長室誰か居るのかな…)

 

演技の練習を終えて自主的に掃除をしようと試みた時…

ふと社長室の電気が付いていることに気付く。

気になった私は開いた扉の横でそっと聞き耳を立てる…

 

「あかねはもうテレビ出さないよ?次の子用意しといて」

 

(…え?なんで…)

 

社長室にはマネージャーと金田一さん、二人に向かい合うように社長が腰掛けている。

この言葉に最初に反応したのはマネージャー…

 

「え、、、社長、あかねの話だと許して頂けたと…」

 

「ん?あぁ、あかねが謝ってきた時のことか…」

 

そう、その時確かに社長は頼むぞ?という労いの言葉を私に掛けてくれた…

 

「嘘だよ。モチベ下げられたら困るでしょ?」

 

…うそ、だったんだ…

やっぱり嘘は嫌い、全部自分が悪いのに社長を恨んでしまうから…

マネージャーが必死になって説得してくれる…

だけど一向に進まない話、私の絶望の中にあるラストチャンスは金田一さんの口から…

 

「次のドラマ、一回だけ…最後のチャンスで出してやってくれませんか?黒川には才能がある…演技を見てきた俺が保証します」

 

その言葉に一瞬だけ静かになる社長室…

沈黙を切り裂いたのは社長の言葉。

 

「金田一、保証って意味分かるよな?お前のクビが…「構いません」

 

食い気味に発した金田一さんの言葉に苛立つように皺を寄せる社長…

このラストチャンスは嘘吐きな人を好きに、私を嘘吐きにしてくれる正に始まりのスタートライン…

 

 

 

 

今までにない努力、今までにないキャラのプロファイリングと入り込み…

当日、痩せこけた頬で迎えたラストチャンス。

撮影が始まれば緊張は消えて行く、もう私は黒川あかねじゃない…

 

「あなたをここまでコケにするなんて、、、ムカつく…」

 

このドラマをやるまでにも色々な足枷があった。

今ガチ炎上の余韻、怪我による筋力の低下…それでも、そんなハンデがあってもここまでやれる、復活出来るんだと思って発したこの言葉と動きは一人の女性に掻き消される…

 

「ふふっ、まぁ良いじゃん?ゆっくりやっていこ?」

 

たった一つのこの言葉、動きだけで場を支配する天才…

そう、星野アイさん…この動きを見た私は金田一さんの言葉を思い出す…

 

「星野アイは天才だ、学んで来い」

 

負けた、そんな敗北の気持ちではなく見惚れてしまう…

キャラとしてではなく星野アイとしてドラマに君臨するその存在に…常人が何時間、何十時間も努力して手に入れる物を一瞬で覆す天才に…

 

………

 

……

 

 

 

撮影が終わる、結局星野さんのことは何も分からなかった…

後はこのドラマが人気になるように祈るだけ、そのはずだったのに…

 

「五反田監督の所行くけどあかねちゃん一緒に来る?」

 

「行きます!」

 

即答したこの言葉に星野さんは嫌な顔一つせず笑ってくれる。

そして右手を大きく上に持ち上げて…

 

「よし!それじゃあレッツゴー!」

 

そんな天才に手を引かれて歩く大通り。

光に照らされてキラキラする星野さんを見て私は大きな勘違いをする…

 

『苦労なんてしたことないんだろうな…』

 

そう、そんな勘違い…

私は知ることになる、今ガチの炎なんて緩い…そんな風に感じてしまうほど大きな炎が星野さんを燃やし続けていることに…

 

 

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