日本の学校にはどこにも七不思議というものがあるらしい。その内容は場所によってまちまちだが大まかな内容は似ている。
体育館やプールや理科室と言った施設に妖怪や思いを残した生徒の霊が残り注目を集めるために時々その存在をアピールするかのようにその姿を現すのだ。
今の私からすれば幽霊が出たところでなにかと言った感じなのだけれどそんなロマンの無いことは絶対に言わない。
「……ンバア!!!」
「ヒャッ!?……って待ちなさいエリヤ!!いらないことばっかりして!!」
「凛かーわーいーいー。ヒャッ!?だって~」
「こんの~!!!」
人間であり、魔術師であることとあくまであることを覗いては普通の女子高生の凛には効果抜群みたいだし。
時刻は午前4時すぎ肝試しにしては遅すぎる時間に遠坂凛との誰もいない廊下で鬼ごっこを繰り広げるのだった。
「ごめんなさい……もうしません……」
「ふんっ、分かればいいのよ分かれば。」
いくら怒ったからってガンド連発、備品ぶっ壊してバリゲート作るのは反則だと思う。
頭に出来た大きなタンコブをさするとまだヒリヒリするのを感じながら不機嫌全開な凛の後ろを歩くが普通に痛い。
強化を施してるのかは知らないがもしもしてないのなら凛は今すぐ格闘技に転向すれば魔術に困らないだけのお金を稼げるのではないだろうか?
「ところで……どうよ。今の追いかけっこの内に学校の大半は回ったと思うけど?」
そんなくだらないことを考えてながら歩いていると長い廊下の途中でクルッと振り向いた凛の表情は先程までと違い真剣そのもの。その声も士郎が聞いたら気圧されてしまうような冷たいものに替わっていた。
「そうね……凛。結論から言うと当たりよ、ここ。私達と同種の何かがいた痕跡がある。こんなに堂々としてるのはいずれここで何かやらかすつもりなのか、それとも単なるバカなのか、そこまではわからないけど。」
ひとまず回ってみて率直に感じたことをそのまま話す。
凛が私に確かめてほしいと頼んだ学校におけるサーヴァントの是非。答えは黒だ。
「やっぱりそうか……うすうす分かってはいたけど気に食わないわ。」
腕組みしながらムムッと凛は顔をしかめる。
彼女から話を振ってきた以上この結論は予測出来ていたことなのだろうがそれでも彼女の不快感は目に見えていた。
「こいつに関して目星は付いてないの?」
少しでも情報があるならばそれに越したことはない。
「残念ながら、ね。そもそも私が予想できたのは学校に私以外のマスターがいるってとこまでだけでサーヴァントの細かい痕跡の確証は掴めなかったもの。」
だけど凛の返答はあまり芳しいものではなかった。
それは当然なのかもしれない。凛の性格ならば自分の庭ともいえる学校に何か不穏な気配を感じて、その出所が分かっているならばそれを見逃すはずがない。だというのに両者健在だということはまだ尻尾をつかみきれていないということにほかならない。
「へえ~学校にもう1人のマスターが……ってちょっと待ちなさい凛。」
突然の新事実に一瞬驚いたが1つ忘れているような気がして凛に待ったをかける。
「それって士郎のことじゃないの?士郎はヘッポコだから自分がマスターになる兆候にすら気づかなかったみたいだけど本来令呪の兆しってのはサーヴァントの召喚以前からでてるはずだし。」
そもそも凛以外のマスターが学校にいるなんて今は謎でもなんでもないのだ。ただ自覚がなかっただけで今はそいつが私のマスターなのは凛もよく知っているはずなのだから。
「そう、それを確かめたくて今日貴女を呼んだの。もしも同盟を結んだ相手が実は自分の庭を荒らしてるやつだったーなんて事だったらどうしようもないじゃない?」
「……?」
何だか含みのある気にかかる言い回し。それを理解しきる前に状況は突然動いた。
「わからない?私は貴女達も疑ってるの」
そう言うと同時に凛はポケットに手を突っ込み素早くその中から大量に光るものを空中へとぶちまけた。
「凛……貴女何を考えて……!」
突然の事に一瞬反応が遅れるがその光るものの正体は直ぐに見当がついた。
宝石。遠坂の得意魔術にして凛最強の武器。今重力に従い降下を始めた大量それは特大の魔力を帯びて術者の命があれはわすぐさまその暴力的なまでの威力を発揮できるような状況にあった。
「さあ本性を表しなさい!この学校を食い物にしてるサーヴァントめ!!この宝石であんたの動きを止めたらアーチャーの弓でドカンと消し飛ばしてやるんだから!!!」
「えっ?ええ!?ちょっ!違うよ!!!」
少しの乱れも感じられない純粋な敵意と殺意。
自分には全く身に覚えのないことでそれが向けられていることを悟った。
力ずくで止める?今ならまだ間に合う。
サーヴァントである私を押しとどめようという威力の宝石ならば詠唱が必要なはず。この距離なら凛が何か言葉を発する前に止めることができる!
「……!」
だが身体が動くことはなかった。
余りにも近すぎるのだ。止めるには全力を出さざるを得ない。しかし私が全力で動けば瞬間的に放たれる質量は人間の耐えられるそれを遥かに超える。上手く調節出来なければそのまま凛を殺しかねない。
「あっ……」
その躊躇のうちに時間切れだと本能が告げる。
周りの世界がゆっくりと動いていくような感覚。一字一句なにを言っているのかわかるほどゆっくりと動く凛の唇をただ眺めることしか出来なかった。
ーーーinterlude
「……んんっ」
まどろみの中で寝返りを1つ。いつもならそこからもう一度深い眠りの中へと戻れるのだが今日は別だった。
「まだ4時前じゃないか……」
いくらなんでもこれは早すぎるぞ。
士郎は目を覚ましてしまった事を後悔した。
当たり前のことだが空はまだ真っ暗。普段から早起きを心掛けているとはいえここまで早いと時間を持て余してしまう。
「仕方ないか。」
暖かい布団の誘惑をはねのけて廊下を歩き洗面所へとむかう。
こうなればもうやけだ。うんと手間をかけて新しい領域の朝食にチャレンジでもするとしよう。
衛宮士郎の料理好きとしての好奇心が刺激されていくのを士郎は感じていた。
「エリヤも遠坂も肉好きだからな……特に遠坂、女の子に肉を勧めるなんて良くないとかいいつつなんだかんだ食卓によって上がると一番食べるしな。エリヤはおいしそうに食べてくれるから良し。」
新たに増えた食い扶持2人のことを士郎は考える。
昨日の尋問に近い追求の後無事エリヤの滞在が認められ……なにをどうしたか知らないがいつのまにか遠坂まで藤ねえを言いくるめ家に泊まることになっていた。
そのため2人分作る食事量が増えたのだが傾向はまあお察しだ。
「桜も大会近くて疲れてるからかこっそりおにぎりとか作ってるみたいだしボリュームがあって損はないだろ。藤あねはなんでも食べる。」
決まりだ。と士郎は心の中で呟く。
表面上文句を言うかもしれないが食いっぷりを見れば本音はすぐわかる、と昨日の夕方に買っておいた豚バラを目当てに冷凍庫へ手を伸ばす。
「あれ……?」
料理のことを考えて頭が一気に回転したからか。目覚めた時に比べると随分クリアになった頭が家屋の異変を察知した。
「誰もいない……?」
一人暮らしを続けていればわかるのだが家に誰かいるときと一人のときではなんとなく家の空気が違うものなのだ。最近は常に誰かしら家にいたので久し振りの感覚だったが間違いない。
「エリヤ!……やっぱり!」
客間の襖を開けるがそこはもぬけの殻、きちんと畳まれた布団のみ。
ここにくる前に遠坂の部屋に行ったがそこも同じ、屋上で見張りをしていた筈のアーチャーの姿もない。
「一体どこへ。」
こんな夜更けに偶然どちらもいない、ということはないだろう。
となると聖杯戦争に関わることに違いない。
「学校か!」
昨日そんなことを2人が話しているのを聞いた気がする。
そんな光景を思い出すと士郎は上着を着るとすぐに自転車に飛び乗った。
ーーinterludeout
「あー良かった。」
「えっ?」
ジャラジャラッという音と共に大量の宝石が私の周りに転がる。
開放されるはずだった魔力はその威力を示すことなくなりを潜め凶器からただの石ころへと戻っていた。
もちろん私に危害はない。
「あちゃ~……随分あっちこっち散らばっちゃったわね。エリヤ、貴女も拾うの手伝ってくれない?一個一個がそんなに高価って訳じゃないけどそれでも数十万はする代物だから。」
割り切って一撃防ぐしかない。説得はその後だ。と、言うことで全身に魔力を通わせて集中していたのだけどどうやら杞憂だったみたい。
早くしてよねと急かす凛を見て理解する。
「いや、それよりも先に説明しなさいよ?」
「なにがよ?」
「なにがじゃないわよ、今のよ今の!」
けど生憎それに従うつもりもないし聞きたいこともある。
今は影も形もないが投げた宝石に籠もっていた魔力も、向けてきた殺気も本物だった。何を思ってかは知らないけど曖昧に済ませていいことじゃない。
「え、ああ……だから確認よ。確認。」
「はあ!?」
それはいったいどういうことなのか。
「だからもう1人のマスターと、この学校の異変を起こしてるサーヴァントについてのよ。」
「要するに……」
かまをかけたと言うことか。もしも私が学校に細工を仕掛けたサーヴァントならば凛が宝石を投げた時点で凛を殺しにかかるはず。
動きを止めたら殺す、ここまで言われてそれをしなかったということで私が容疑者から外れたということか。
「疑ったのは謝るわ。けど何とかして後の憂いは絶っておきたかったのよ。」
しゃがんで宝石を拾いながらごめんごめんと謝る凛。
反省しているのかどうかはわからない。
「なんで私だったのかしら?疑われるようなことはしてないはずだけど。」
「実はね、サーヴァントの痕跡を掴んだのがほんとに昨日なのよ。マスターがいるってのは分かってたんだけど。」
「なるほど、それでタイミングとして丁度いい私を疑ったわけか。」
「そう言うこと。衛宮君がそんなことをする人には見えなかったけどあいつヘッポコだからねー、最悪あなたに支配されてる可能性も捨て切れなかったわけよ。」
「それは……うん……」
否定できない。疑われたことには不快感があるのは間違いないしイラッとしないこともないけど疑う理由として否定できないのだ。
もしも私が本気で士郎を支配しようとすれば多分できる。暗示なんて専門外なのもいいところだけど一般人と大差ない士郎なら話は別だ。
士郎の人柄を認めてもそれが本当に士郎によるものなのかはわからないということか。
「まあエリヤもセイバーのクラスってこと以外は謎しかないサーヴァントだし。だいたいサーヴァントなんてそれぞれにその英雄をたらしめる逸話があるじゃない?武器とか戦い方見りゃわかるやつもいるわけよ。けどエリヤに関しては全く調べようがない。」
そりゃ本体はこの時代に生きているのだからいくら調べても出てくるはずがない。
「それは私のアーチャーも同じなんだけどね……あいつももしかしたら~なんて言うから深く疑っちゃったわ。」
「そう」
どうやら彼は私を潰すチャンスがあれば嘘でもそれを最大限に活用する気でいるらしい。
「けどこれで一安心かなー。それじゃあそろそろ引き上げましょうか。目的は果たしたし、これで私達以外のサーヴァントのペアが学校にいて、そいつらが何かしようとしてるってことが分かっただけ収穫よ。」
来たときと同じように階段を下り廊下を歩く。
凛からすれば有意義な早朝だったかもしれないが私からするとただひたすら心労がたまるだけだった1日の朝は終わりを告げたのだ。
「そうねえ……とりあえず凛がどんだけ腹黒いか分かっただけでよしとするか。」
「そんなにへそ曲げないでよ。さっきのは悪かったと思ってるから。……あれ?」
「いたっ!もーう急に止まらないでよ……!って士郎!?」
そう簡単にはいかないみたいだ。
まだ暗い校庭を弓道場のそばまで歩くと凛の足が止まる。
弓道場を見るとその壁に張り付き何かを吸い寄せられるかのように見つめている士郎の姿があった。
「ふむ……どうやらただの無能というわけでもないようだ。」
「アーチャー!?」
どこから出て来たのか。恐らく霊体化していたのだろうが突然彼が凛の隣に現れる。
「どういうことよ、あれ、なんか意味あるの?」
「ああ、今はまだ普通の魔術師に感知されるほどの魔力が貯まっていないがあそこには結界の起点がある。君の話を聞いて先に調べておいたのだがここに手を出しているサーヴァント、私の見立てが正しければ生徒全員を人質にとるつもりだぞ。」
どうもです!
原作だと凛とぶつかるのは士郎ですがそこの役割をエリヤに。あまりにも凛の警戒解けるの早くないか?と個人的に思ったので今回の話を。
こっからはドンドンオリ展かなー。
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