Fate/Dancing night   作:faker00

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ー4日目ーー3ー 常闇と鍛練と 月下の告白

「はああ!!」

 

 気合いの咆哮と共に一直線上に飛び込んでくる影、しかしそのスピードは到底早いとは言えない。

 

「甘い!!」

 

 軽くステップしその剣戟から逃れる、それと同時に竹刀を横凪に一閃。

 相手自身の勢いも相まってカウンターとなった私の一撃は見事にその胴を撃ち抜きそのまま相手を数m先まで吹き飛ばした。

 

「がっ!……いてて…本当に容赦ないなエリヤは。」

 

「当然。私だって必死よ。」

 

 壁に直撃し呻き声を上げた影……士郎はぶつけたのであろう後頭部をさすりながら抗議の声をあげる。

 こんなことの繰り返しをこの2時間、帰ってきて夕食を食べてからひたすら続けてもう何度目のKOかわからない。

 

 

「本当よくやるわね。もしも痛覚共有解き忘れてたりしたらと思うとぞっとするわ。」

 

 そんな事を言う凛だけど、見学したいだのなんだの言って興味を示していたわりに今はもうつまらなそうに腕を組んで壁に寄りかかりしまいにはあくびをもらし始める始末で瞼もちょっと重くなりはじめている。

 

 ……どうも昨日の保険とやらは士郎との痛覚共有でそれによってあれだけ早く駆けつけられたらしい。因みに士郎の腕にライダーの釘が刺さると同時に感じた痛みは彼女曰わく今までの人生で感じてきたストレスの総量に匹敵する、とのことである。

 

「それにね、私結構怒ってるのよ?」

 

「エ、エリヤ……?顔と言ってることが真逆になってるぞ……?」

 

 

 それは作り笑いでも浮かべておかないと怒りに任せて暴走しちゃいそうだからだ。

 夕食前に済ませたかった鍛錬が今日のアクシデントで夕食後になっしまいもうお腹が減りはじめてしまった……ということもないわけではないけど一番の理由はそうじゃない。

 

 なんだか結局無事だったからということでうやむやになりそうだったけど今日の士郎のやったことはマスターとして最低も最低だ。

 釣れとは言ったが釣られろなんて一言も言ってないし明らかな罠に飛び込めなんてもっと言ってない。

 知ってはいたがいざ目の当たりにするとじれったくてもどかしくなる。なぜ人のことには気が利くのに自分のことになるとここまで注意やら何やらが薄くなるのか……

 

 

「いや、その……反省はしてるんだ。ほんとに!」

 

 冷や汗をかきながら士郎は必死に弁解する。

 

 その言葉に嘘は無いんだろうけどまたどうせ色々繰り返すのは目に見えてるかなあ……とりあえず今は。

 

 

「さあ?とにかく無茶する人には身体で覚えてもらわなきゃね♪」

 

 

 出来る限り実戦経験をつんでもらわないとね。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……折れた、これ絶対折れただろ。」

 

「ごめん……」

 

 

 完全にやりすぎました。

 

 包帯でぐるぐる巻きの左腕を凛に預けながら恨みがましくこっちをじーっと見てくる士郎にどこか居心地が悪くなる。

 確かにちょーっと力が入りすぎて綺麗に急所に打ち込んじゃったのは悪かったけどさ。

 

 

「大丈夫よ、別に折れちゃいないから。これでも塗っとけば明日には元通りよ。」

 

 丁寧に手当てをしていた凛だけど何やら怪しげな軟膏を塗り終えると最後にパーンっと左腕を叩いて立ち上がる。

 うわっ……士郎涙目で悶絶してる。あれ絶対痛いよ……

 

 

「それでエリヤ、今夜はこれで終わりでいいのよね?」

 

「え、う、うん。さすがにこれ以上は無理だと思う。」

 

「りょーかい。それじゃあ今日の作戦会議はここでやっちゃいましょうか。わざわざ向こうに戻るのも面倒でしょう?士郎は動くのも億劫だろうし。」

 

 

 凛がアーチャー、と呼ぶと数秒してから屋上で見張りをしていたのであろう彼がスーッと姿を表す。

 もちろん相変わらずの仏頂面。

 

「……」

 

 その姿を認めると同時に士郎の表情がにわかにきつくなる。

 本当に嫌いというかその存在自体が気に食わないのだろう。それ自体は仕方ないっちゃあ仕方ないけど毎度毎度こうにらみ合われるのはあまりいい気分ではない。

 特に私にとっては、だ。

 

 

 

「はいはい2人ともそんな不機嫌オーラ出さないの、全く。しばらくは仲間だってのにそんなんでどうするつもりよ。」

 

「凛、私はそもそもこんな協定など認めていない。こんな素人マスターと組んだところで利点などないと言っているだろう?」

 

「んだと!」

 

「アーチャー!」

 

「士郎!」

 

 ほぼ同時にお互いのパートナーを一喝して無理矢理座らせる。

 ほんと男ってのはどうしてこう揃いも揃ってガキなのか。

 

「まずは……こっちからの報告は後にして、アーチャー?貴方は何か今日1日街を回ってみて何か変わったこととかあった?」

 

「無論だ。とりあえず、色々回ってみたのだがここ最近街の生気が吸われている一件。やはりあれは柳洞寺に間違いないだろうという確証がとれた。あそこ以外に今まで流れていった魔力を溜められるような場所は存在しなかった。」

 

 

「ちょっと待った。それ前に私も言ったわよね?」

 

 記憶違い出なければそのことは私がこの間柳洞寺に行ったときに話したはずだ。

 

「確かにそんなようなことを聞いたかもしれん。だが私の貴様に対する信頼はそこらのゴシップ記事に等しい。完全に信じるというほうが無理だろう。」

 

「へえー……そう言うこと言うんだ。」

 

 前言撤回。どうやら私もガキみたいだ。

 この堅物とはここで白黒はっきりつけてやらないと気が済みそうにない。

 

「あんた達2人まで喧嘩しないの!ふうん……やっぱりそうか。エリヤの話だとあそこはキャスターの根城みたいだしまあ当たり前っちゃあ当たり前なんだけど。」

 

「ち、ちょっと待て!街の生気が吸い取られてるってどういうことだよ!」

 

 士郎が血相を変えて立ち上がる。

 ああ、そっか。前に凛に説教食らったとき士郎は避難してて聞いてなかったんだっけ?そりゃ驚くわけだ。

 

「士郎、最近新都で大量昏睡事件が多発しているのは知っているでしょ?あんな事件が偶然に連続するわけないじゃない。あれはサーヴァントの仕業よ。今でこそまだ死人は出てないけど今後もそうとは限らない。」

 

「なっ……新都の事件ってもう被害は数百人単位だろ?そんな数の一般人に手を出してるマスターがいるっていうのか!?」

 

「それ以上かもね。網はどんどん広がっている。そのうちこっちにまで広がってきてもおかしくはないわ。」

 

 信じられないという表情を浮かべたあとギリッと拳を握った士郎に凛はただ淡々と事実だけを告げていく。

 

「学校も含めると都合数千人の命がサーヴァントによって握られている……と言っても過言ではないわ。衛宮君、これが聖杯戦争よ。もういい加減分かってると思うけど貴方の常識は通用しないわ。」

 

 

 凛はそう言うと一呼吸置き、士郎も士郎で渋い顔ながらこの現状を受け入れようとしていた。

 

 

「ありがとうアーチャー、それじゃあ今度はこっちの番……と言いたいところだけど結局貴方も来たものね。学校でライダーと交戦した。それだけよ。」

 

「学校にサーヴァントがいると分かっただけでも収穫だがな。恐らく学校の結界もそのライダーが張ったものとみて間違いないだろう。……だがそれ以上に気になるのはだ。」

 

「ライダーのマスターが凛に嫉妬している、ってとこね。」

 

 

 少なくとも私の顔見知りの誰かって可能性が高いってことか、と私と彼の言葉を聞いて凛は考え込むように腕を組む。

 

「けどそんなやつ心当たりないんだけどな。だいたい学校に魔術師なんて他にいないし。」

 

「ん?けど遠坂は俺が魔術師だってことに気づかなかったじゃないか?」

 

 士郎が不思議そうにそう聞き返す。

 

 士郎……その疑問は分かるけど貴方には完全な地雷のような……

 

 

「なに?言っていいの?」

 

「あー……いや、遠慮しとく。なんとなく分かった。」

 

「そう?ならいいわ。また知りたくなったら言ってね、1から100まできっちりかっきり説明してあげるから。」

 

 

 邪悪な顔に大体を察したのか士郎が引き下がる。

 うん、賢明な判断だ。こんなところで心を折られる必要は皆無だし。

 

「まあ凛は我がマスターながら嫉妬を受けやすい人間なのは確かだ。特定できないのも無理はない。」

 

「ちょっと、それどういう意味よ。」

 

「それについてはあまり気にしないほうがいいだろう。いずれ尻尾を出さざるを得なくなるだろうからな。」

 

 凛の抗議の声をまるで聞こえていないかのように受け流す彼。

 

「そうね……だからこそライダーを差し向けたんだろうし。」

 

「君の同意は求めていないがまあその通りだ。」

 

 本当にかわいげがない。

 

「はあ……まあいいわ。そうなると決めたいのは今後の方針だけど。」

 

 なんか意見ある?と凛がグルッと私達3人を見回す。

  

 うーん……とりあえず急を要することが2つあるっていうのがきついけど……

 

「私は学校の方をどうにかしたいかな。やっぱりいつ爆発するか分からないしあっちも焦ってるみたいだし。」

 

 それに柳洞寺はどうもおかしいのだ。何というか変なプレッシャー……それも具体的な制約としての力が働いているような気配、結界かなにかと思わしいものをあの山からは感じるのだ。

 ただでさえアサシンとキャスターの2枚構えだと言うのに下手に突っ込めば私とアーチャーでもやられかねないと思う。

 

「私も同感だ。どうもあの山はおかしい……それに現状死者は出ていないのだろう?そのキャスターがどれほどの魔術師なのかは分からないがキャスターのクラスで呼び出される栄雄だ。そんな魔術師が魂を集めているというなら皆殺しでもおかしくない。そうなっていないのにはなにかしら理由があるということだ。」

 

 彼も私と同意見のようだ。

 キャスターが魂食いを続行して戦力をあげるということに不安があるのは確かだけどそれ以上に情報が少ないのも間違いない。

 アサシンの存在があるからそれはなおさらだ。

 今の所ではあるけど命があるのはなにか理由があるって考えるのは妥当な推測だと思うしまあ当然の帰結だ。

 

「うん……やっぱりそうなるわよね。一応確認とってみたけど私も特にそれで異論ないの。当然キャスターのやってることも見過ごすことも出来ないし早いうちに叩く。けどそれは学校の相手をどうにかしてから……士郎?どうかしたの?顔色悪いけど?」

 

 私達の意見に頷いて結論を出そうとした凛だけど不意にその言葉が止まる。

 その視線の先にはあぐらをかいたまま腕をきつく組み難しい表情をしている士郎がいた。

 

「いや……何でもないんだ、俺のことはおいといていいから続けてくれ。」

 

 結局士郎が言葉を発したのはこれっきりだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ーーーーー

 

 

 そのまま3人の意見が一致したということで作戦会議は学校、ひいてはライダーを優先して叩くということで終了した。

 そして遅めの夕飯を済ませて彼は再び屋上の見張りへ、凛は士郎の魔術鍛錬の準備ということで自室へと行ってしまった。ということで私は完全に暇である。のでお風呂を済ませて外の空気に当たって身体を冷やそうと思ったんだけど……

 

 

「先客がいるわね。」

 

 縁側にはなにかぼーっと空を見上げている士郎がいた。

 

「おーい……」

 

「……」

 

 ちょっと近づいて見たけど反応はなし。

 鍛錬の時は集中するあまり聞こえてないって感じだったけど今度は真逆、心ここにあらずって感じだ。

 ……なんだろう。すっごいいたずらしたい。

 

「えいっ。」

 

「のわあっ!なにこれ冷た!……ってタオル?」

 

「はっはっはー、数分前エリヤちゃんの身体を拭いた使用済みタオルなのだー!……他の人だと恥ずかしいけど士郎なら臭い嗅いだり吸ったりしてもいいよ……?」

 

「バ、バカ!するかそんなこと!エリヤも女の子なんだからもうちょい恥じらいをだな……」

 

 冷えてきたバスタオルを投げると顔を真っ赤にして士郎は飛び退く。

 ほんとに初々しいし本人に言ったら怒られるだろうけど可愛いと思う。これがあんなのになってしまうのだから時間というものは恐ろしい。ほんとに。

 

 

「それで、一体どしたの?こんなところで。凛の所に行くまではもう少し時間があると思うけど。」

 

 凛は士郎に10時に部屋に来いと言っていた。

 現在の時刻は9時半なのであと30分ほどあるはずだ。

 

「え、うーんと……ちょっと考え事をな。」

 

「……聞かせてもらっても良いかな?」

 

 

 ああ、と言うと士郎は再び縁側に座り私もそれにならって隣に腰を下ろす。

 ……星が綺麗だなあ。

 

「さっきの作戦会議なんだけどさ……エリヤも遠坂も、そんでもってアーチャーも。みんな言ってる事は正しいのに、なんだかそれに違和感があってさ。」

 

「違和感?」

 

 

 ポツリポツリと士郎が語り出す。

 思い返して見れば士郎はあの時から様子がおかしかったような気がするしなにか懸念があるのなら早いうちに払拭しておきたい。

 

 

「ああ、ちゃんと3人とも解決しようとしてるし理にも適ってると思う。けど……何というか冷静すぎてな。」

 

「冷静って……ああ、そう言うこと。」

 

「それが当然といえば当然なんだけどな。3人とも割り切りが良すぎて俺には真似できないかなって。」

 

「士郎はみんなを守りたいんだよね。だから正しいとは分かっていても選ばれなかったほう……今回でいうと街の人達か、その人達のことは運任せ、になっちゃうのを簡単に私達が割り切って許容した事に違和感がでちゃったんだ。」

 

 士郎のその言葉を聞いて、なんだかとっても安心した。

 

「……まあそんなところだけど。別に納得してないわけじゃないんだ!ただいろいろと……」

 

「いいと思うよ。」

 

「……え?ちょっとエリヤ!?」

 

 どんな世界でもやっぱり士郎は士郎なんだ。

 そう思ったら、いつの間にか後ろから士郎を抱き締めていた。

 

「いいよ。士郎はそのままでいい。いくら難しくてもいい。悩んだっていい。他の人と違ってもいい。あなたの理想は……決して間違ってないんだから。」

 

 思いの丈をぶつける。一度は放してしまったものをもう一度掴みにいくように。

 今の士郎の背中は、私にはだぶって2人分の背中に見えた。

 

「エリヤ……」

 

「それが貴方のお父さん……切継が士郎に生涯をかけて見せたもので士郎がたどり着きたい場所なんでしょ?なら貫き通しなさい。何があっても。大丈夫、例えどんなに苦しい道でも……応援してくれる人がいるはずだから。少なくとも私はそうよ?」

 

 最後に一際強く抱きしめてから背中を離れる。

 この聖杯戦争の間か、はたまたまだまだ後か、それは分からないけどいつか理想の壁にぶつかるときがくる。

 その時私は隣にいてあげられないけど、この言葉は覚えていてほしいなあ……っていう思いを込めて。

 

 

「さ、そろそろ行きましょう?凛が待ってるわ。」

 

「そうだな……ってエリヤも来るのか!?」

 

「当然!私だって多少は魔術の心得あるんだからね。マスターの実力ぐらいは把握しておかないと。」

 

「うげ……」

 

 

 士郎にくっついて2人歩き出す。

 あとどれだけあるかは分からないけど、この時間は忘れたくない。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




どうもです!

怒涛の連続更新(当社比)中のfaker00です。

と言うのも突如お気に入りがグイッと増えたのでなんだかスマホをタップする手にブーストがかかった感じです。笑
やっぱり良い評価の投票が入って日刊に食い込んだりしてこういうことが時折起こるのは作者のモチベーションからするとほんとに有り難いことです。

と、作者のモチベーション云々はおいといてこの話は最初期からやりたいなと思っていた話なのでやれてよかったなと。有名な月下の誓い、アチャ子verです。アチャ子はどうしようもなく士郎、というか守護者アーチャー大好きかつ色んな思いがあると思うのでだと思うので完全な自己満ですがせめてこれくらいは……ね?
ちょっと士郎のキャラが微妙なような気もしないことはないですし読者様の中にも微妙と思う人もいるかもしれませんが後悔はしてません!

それではまた!よろしかったら評価、投票、お気に入り登録宜しくお願いします!
※つきの投票、もしくは感想は直接作者に見えるし心に響くので特に大歓迎です!
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