「やられた……これで何個目よ。」
「18個目かな、まだまだ序の口って感じなのが恐ろしいわね……次、ほら士郎、頑張って!」
「すまん……」
ランプのガラスが割れる音が響き渡る。
言ってしまうと不快な音。
けどそれにももう慣れてきてしまった。なにせこの数十分間ひっきりなしに続くこの音が部屋を支配し続けているのだから。
「ほんとにセンスないのね……いや、そもそもなんでこんなデタラメなやり方で魔力を生成出来るのか、そっちの方が気になるわ。」
うーん、と困ったように……半ば怒ったように、腕を組みながら凛は集中して強化をランプに施す士郎を見る。
その気持ちはよくわかる。端から見ても出来る気配がないのだ……ってバカ!そんな闇雲に魔力をこめたら!
「……っ!」
またもや大きな音が鳴り渡る。
あーあ、間に合わなかった。
なんとか事前に防ごうと思ったけどその言葉が喉元までせり上がってきた時には既に手遅れ。
だんだん眉間に皺がよっていく凛と悔しそうに残骸を見つめる士郎という今日何度目かわからない光景の出来上がり。
「……」
「……」
気まずい空気が流れる。
うう……なんかこっちまで気まずくなってきたよ……これを昨日は2人でこれをやったとか私だったら耐えられそうもない。
……士郎はともかく凛に不審がられるのは面倒だからあまり踏み込む気はなかったけど仕方ないか。これ以上放っておいても好転しそうにないし。
「士郎、貴方普段どうやって魔術を使ってるの?1から説明してみて。ちゃんと凛に伝わるように。」
その言葉に凛は、は?なに言ってるの?といわんばかりの表情になる。
そりゃまあそうなるわよね。魔術は使う属性や種類こそ千差万別だけどその前段階……魔力回路の起動、魔力の生成という肯定は基本一つなのだ。ミスだとかなんだとかはその後に起こるもの。しっかりと基本から抑えている凛にとって私の指摘は全くの徒労にしかならない正に無駄に見えるのだろう。
けど……士郎は別だ。ごめんね士郎。これが凛の逆鱗に触れたら私のせいだ。
「えっと……まず魔術回路を作って……」
「作る?ですって?」
心の中で謝るのとほぼ同時に空気が凍り付いた。
「ええっと。それじゃあなに?衛宮君は私が来るまで1から魔術回路を生成してそこから強化の魔術を行うための魔力を通そうなんてバカで自殺願望丸出しなことを続けてたってわけ?それも足掛け8年毎日毎日?」
うわあ、と凛が呆れ半分怒り半分震えながら士郎を睨み付ける。
ちなみに子犬のように凛とは別の意味で震えている士郎は正座だ。理由は言うまでもないだろう。
どっちもしょうがないか。今の凛は士郎じゃなくても私だって距離置きたいくらい怖いし、凛の気持ちもわかるから。
「そんなやり方教えた貴方のお父さんに怒鳴り散らしたい気分よ。貴方は息子を殺す気か!ってね。それと同時に衛宮君には……もう言うことないわ。そんな毎日死の危険と隣り合わせ、それも全く効果のないこと続けるなんてね。普通どこかで気づくと思うものだけどねー、ほんと。」
「仕方ないだろ、俺はそれ以外知らなかったんだから。あと遠坂、親父のことは悪く言うな。悪いのは上手く出来なかった俺なんだから。」
「うっさいバカ!あーもう……なんなのよあんたは一体……使えるのは強化だけとか言っといて実は更にマイナーな投影も出来るとか言ったと思ったら今度は魔術回路を1から作る!?つついたらまだまだ出てきそうで恐ろしいわほんと!」
士郎精一杯の抗議は怒りの気炎を上げる凛の前に完封される……というか蹴散らされた。
どっちが正論かと言われれば確実に凛の方だから擁護のしようがないのがまた難しい。
「あーはいはい。凛が怒るのは当然、それは分かってるからここで一度やめにしましょ?このままだとせっかくの時間がお説教で終わっちゃうわ。」
「ん……そうね。言いたいことは山ほどあるけど言ってもしょうがないわね。さて……となるとやり方を変えないと……」
ガサゴソとベッドの横に置いてある鞄をあさりはじめた凛を見て思わず安堵の溜め息がでた。
とばっちりがくるんじゃないかとヒヤヒヤしたわ、ほんとに。
「すまないなエリヤ。鍛錬というかただの説教になっちゃって」
「気にしないでいいわ。こっから覚えていってくれれば何の問題もないから。」
かと言って士郎に文句を言うのも酷だ。なんで続けたのかという点はともかく他に魔術との接点がなかったのだから。
「あ、あったあった。うん、念のためと思って色々なものを持ってきておいた正解だったみたい。」
お目当てのものを見つけたのか満足気な表情を浮かべて振り返ると凛は手に持った何かを士郎に手渡す。
「ん?遠坂。なんだ、これ?」
「何って……まあ飲めばわかるからグイッと言っちゃいなさい、グイッと。」
なんか胡散臭い……士郎はなんも疑わず飲んじゃったけど……あのサイズだと飴かな?
「うげっ……なんだこれ。なんも味しないぞ……」
「そりゃそうよ。それ、宝石だもの。」
しれっと告げる凛に士郎の顔がさっと青くなる。多分、私も同じ。
ちょっと待って、宝石飲ませるっていったいどういうことよ!?
「はあっ!?お前いったいなに考えて!」
「すぐわかるわ。それよりも集中しとかないと……意識飛ぶわよ?」
「……!?」
数秒も経たない内に士郎の身体がバランスを崩しグラリと倒れる。
いつもならば駆け寄っているところだけど今はしなかった。別のものが見えていたから。
魔力が異常な勢いで生成されてる!?
表現するならば周りが冷えて真っ青ななか一部分だけ発熱して真っ赤になっているサーモグラフィを見ているような感じ。
士郎の周りとその他の空間はもはや別空間だ。
「ちょっと凛!?どういうつもり!」
「落ち着きなさいエリヤ。別に危害を加えたわけじゃないわ。」
もはや殺気に近いものが出ているはずだけど凛は動じることなく私を見据えている。
だけどこれは説明してもらえなければ納得できない。
「ちょっとスイッチを付けただけ。一回目がきついのはしょうがないわ。」
「スイッチ?」
「貴女も魔術に心得があるからわかると思うけど魔術回路っていうのは一度出来てさえしまえば後はオンとオフを切り替えるだけで使えるものでしょ。だってのに士郎はいちいち1から作ってるうえにその使ったものはなくなるものだと勘違いしてる。」
「……そういうこと。」
「ええ、分かってくれたみたいでなによりよ。とりあえず今の宝石で一回その神経を起こしたから今ちょっと暴走気味なだけ。後は士郎の身体が本能的に抑えて適応してくれるのを待つだけ。ま、しばらく気絶するくらいは折り込み済み……「おい……そういうことはもっと早く言え……」って嘘でしょ!?」
ここにきて初めて凛が素っ頓狂な声を挙げる。
正直私も驚いた。凛の見立てでは数時間ほど気絶するだろうという見込みだった士郎は額に大量の脂汗をにじませ四つん這いになるのが精一杯ながらも徐々に動けるようになってきていたのだから。
「驚いた……なに?貴方外に出す魔力のコントロールはへったくそなのに内側のコントロールは上手いのね。」
「……ある意味毎日が……自分との、戦い、だったからな」
「…………」
改めて士郎の身体を凝視する。
徐々にではあるけども士郎の身体は平常時に戻りつつあった。
……これなら問題ないかな。
「これで少なくともあのアホみたいな鍛錬はしなくていいってわけね。ま、私としてもマスターが夜な夜な自殺すれすれのことをしなくなるのは喜ばしいことだわ。ありがとう凛。」
「まあ私もいつまでもパートナーが弱いまんまじゃ困るから。それだけよ、それだけ。」
そう言いながらも途中でプイッと背けた凛の顔は赤くなっていた。
全く……素直じゃないんだから。まあそういうところも可愛いんだけど。
「それじゃあ。」
「??」
その間にも回復し落ち着けるようにあぐらをかいている士郎の前にまたもやランプが置かれる。
はてな?とそれを不思議そうに見つめている士郎に凛は
「それじゃあもうちょい強化、あとついでに投影も見せてもらいましょうか。大丈夫、もうここからは体調はよくなる一方だから疲れも感じないはずよ。」
極上の笑顔でそう告げて授業の続行を宣言した。
「センスなし。100点満点中2点から5点ってところね。」
数十分後、ガラス散らばる部屋の中で鬼の凛コーチが告げた本日の採点結果は士郎の心をへし折るに充分なものだったと思う。
結局あの後もひたすら士郎はガラスを割り続け成功例は一度もなし、諦めて投影に移ったところ一度だけ成功したのでその分の点ということなのだろう。
ただし完成度は最低クラス、と凛は評価していたけど。
「もう今日はいいわ。とりあえずスイッチが分かっただけよしとしましょうか。」
「あ、ああ。それじゃあ部屋に戻ってもう寝ることにするよ。」
凛が終了を告げると疲労困憊の士郎が立ち上がる。
「それじゃあエリヤ、士郎を頼むわね。私はここの片付けをしなきゃいけないから。」
「はーい。」
足元のおぼつかない士郎に肩を貸して立ち上がる。
私と大差ない……は言い過ぎかもしれないけどそんなに大きな身体でもないくせになかなか重たい。筋肉質ってやつかしら?
なんてことを思っていると士郎がちょっと待ってと言うと最後の最後に投影に成功したランプを手に取った。
「どうしたのよ?そんな投影品なんて持って。」
「いや、せめて自分が作ったものくらい自分でどうにかしないとな。こんなもの、いつまでも置いてあったら遠坂も困るだろう?」
凛の問いに士郎は当然のように答える。
この瞬間、凛の瞳の奥がカッと開いたのを士郎は気づかなかったと思う。
ーーーーー
「エリヤ、ちょっといい。」
「大丈夫よ。凛。来ると思ってたから。」
士郎を部屋まで送り届けまた空を眺めていると片付けを終えたのであろう凛が声をかけてくる。
言葉遣いこそいつも通りだけど、そこに込められているのは敵意、そして警戒心。
……まあしょうがないか。あの場面は致命的だったし。
投影品と本物にはどうしようもない差がある。それは魔術師ならば常識だ。士郎でもわかるくらいに。
けれども士郎はあっさりとそのラインを無視した。そしてそれを平然と見ていた私に聞きたいことがあるのは当然のことだ。
「そう。じゃあ貴女は気付いてたんだ。」
「ええ、外に土蔵があるでしょ?昨日士郎の鍛錬を見物しにいったけど、あそこには今日のランプと
「それは貴女がくる前から今までずっとあった……と。」
「そしてあのランプも未だ残っているわ。まるで最初からそこにあったみたいにね。」
そう、というと凛はきつく拳を握りしめて声を絞り出す。
「あいつ……一体何者よ!?こんなん魔術師のできることじゃない!エリヤ、貴女他にも何か知ってるんじゃないの!」
色々な感情が入り混じってはいるんだろうけど真剣に問いかけてくる凛。
……けどごめんね、凛。私はそれには答えられないや。答えてしまったら、間違いなくこの関係は終わってしまうし、彼にもバレてしまうだろうから……貴女に嘘をつくことを許してください。
「知らないわ、凛。恐らく貴女の見立て以上のものは私にもわからない。士郎はただの魔術師じゃない。根っこにもっと深い何かがある。けどそこから先は何にもわからないわ。」
久しぶりについた嘘、震えそうな声をなんとか押し止めることは出来たと思う。
「そう……分かったわ。あって3日やそこらで何かわかるような話でもない、か。ごめんなさい興奮しちゃって。」
「別にいいわよ。あんなのは私だって見たことないもの。動揺して当たり前よ。」
しばらく睨みあった後凛はいつものように柔らかい表情に戻って謝罪すると、疲れたから私も寝るわ、と言って部屋に帰って行った。
そして残されたのは今度こそ私1人だけ。
「疲れたなあ……今日は。」
士郎にとっても、そして私達にとっても、今日は大きな1日だった。
だけど少しだけこれでよかったのかな?という後悔に似たような気持ちもある。
これに士郎が気づいた頃には……もう士郎は今までのようには戻れないと思うから。
ーーーーー interlude
「お、おい!どういうつもりだ桜!!!れ、令呪が!!」
薄暗い、下を見ればおぞましい蟲が際限なく蠢くその場所に少年の悲痛な叫びが響きわたる。
その少年……間桐慎二……彼からしてみればその手に持った本が燃えているという事はどんな償いや快楽をもってしても埋められない、痛恨の事実であった。
「……」
そんな慎二を桜、と呼ばれた少女はまるで汚いものを見るかのように見下ろしている。その姿に普段少女がとある少年に見せる柔らかさは微塵も感じられない。
「もう兄さんに任せるつもりはない、と言ったんです。兄さん?何を勘違いしてるのか知らないですけど兄さんは魔術師じゃないし一生なれない。例えどんなことをしても。」
「なっ……」
声を失う。慎二の心は完全に折れていた。
だというのに……彼女の攻撃は止まらない。
「ほら、今だって私にやめてくださいって懇願してる。自分じゃライダーを留めることすら出来ないなんて悲しいですね。けどそれが事実なんです。これ以上私の手を煩わせないでください。」
「ああ……」
「いや、少し待つが良い桜。」
「おじいさま……」
そんな慎二にとっての生き地獄は突然の救いによって一応の終わりを迎える。
間桐の当主は彼がここ数百年浮かべたことがないような笑みを浮かべていた。
「慎二、お前にもう一度だけチャンスをやろう。もちろん事は迅速に、じゃがの。」
どうもです!
いろいろ動き始めた本編ですが恐らくアニメ開始くらい前までは今回の更新が最後になると思います。何故かというと……ちょっと作品全体のクリーニング作業を行おうと思うのです。
元々勢いで書き始め気の向くまま気ままに書いてきたこの作品ですが書き溜めもなく好きなときにガーッと書けるだけ書いてそのまま更新というスタイルも災いしかなり誤字脱字謎の改行がありその他も多数いたらないところがあると思います。
正直作者自身読みにくいわこれ、と思うところもあるので一度見やすいように全体を整理しようかなと思います。
整理したところで最新話くらいの見やすさまでもってくるのがせいぜいですが多少はましになるはず!
と言うわけでしばらくお時間いただくと思います。
終わる頃には少しは小説っぽくなることを信じて作者も頑張りますのでご了承願います。
その際に細かい表現など変わるかも知れませんが全体図は変えないのでそこはご安心ください。
それではまた!
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