「マス……ター?」
「知識もないか。こんなのが7人目とはな。」
「はいはい、細かいことは後で説明するからとりあえず今は下がっててねマスター。」
とりあえず今はこの場を乗り切らなければ。
ようやく士郎に会えたのにこんないきなりDEADENDなんてそれこそ永遠に後悔し続けることになるだろう。
……そんなのは絶対にごめんだ。
士郎の前に立つと目の前の敵は殺気を消し私のことを観察してくる。
……第一印象、取りあえずこの男、できる。
実戦経験は彼くらいしかない。けどだからこそ分かるのだ。
守護者である彼に匹敵、もしくはそれ以上の滲み出るオーラ、これで弱いなんてことはありえない。
「お嬢ちゃん、なんのサーヴァントだい?まあまともに喋れてるのを見るとバーサーカーはねえ、それに正面からくるってことはキャスターでも無さそうだな。」
「ええ、その通りよランサー。」
これで間違っていたら赤っ恥も良いところだけどまずそれはないだろう。
本当にぼんやりとしか覚えていないがあの槍には見覚えがある。
確か……クーフーリンとかそんな英雄だったと思う。ケルト神話最強だとかなんとか……
こんなことなら定期的に昔のことを思い出したりしてれば良かった。
そうしたら少しくらい磨耗を抑えられたかも知れないのに。
「……?どうかしたかい」
「いえ、こっちの話。ちょ~と自分のバカさ加減に眩暈がしちゃって」
そう言うとランサーは、そうかいそうかい!と豪快に笑い始めた。
……なんだろう、子供に見られてる感じがしてムカつく。
私を子供扱いしてもいいのは彼、衛宮士郎だけであり他の人からそんな扱いをされるのは心外でしかない。
かつてはある少女にも許したような気がしないでもないがそれは本当に例外なのだ。
「いやすまんな、こんな状況でも堂々としてる女はなかなかいねえからな。つい気にいっちまったんだわ。……あんたみたいなのがマスターだったら俺ももっと楽しかったんだろうけどな。」
「それなら今からでも私と組まない?戦力は大いに越したことはないもの。」
私の言葉にランサーはもう目をパチクリさせている。
なんとも忙しい人だ。私も人のことを言えたものじゃないがこれは桁違いだ。
「……本当に気にいったわあんた……うし、それじゃあいっちょやるか!」
「何で今の流れでそうなるの!?」
……どう考えてもこうはならないでしょ!?なんというかこう…もうワンクッションおくべきだと思うのだけど……
心の中でもやる気満々のランサーに突っ込みを入れる。
実際の口でいったそれに比べて2倍増しくらいの勢いで。
これくらいは言っても文句はないだろう。本当にそう思うくらいこの槍兵の言っていること、やっていることはむちゃくちゃだ。
「やっぱり認めたやつとは本気で剣を交えないとな。そうして更に互いのことがわかるってもんだ。」
「潔いくらい戦闘が好きなのねあなたは。」
やっぱり正規の英雄とやらはぶっ飛んでいる。
確かに私もある意味飛んでいると思うけどベクトルは全く違う。
「ま、いいか。どっちにしろいずれ戦らなきゃいけない訳だし。」
「おお、分かってるねえ……それじゃあ構えろよ。」
「そんなに焦らないでよ……じゃあ行くわよ。」
もうこうなってしまった以上仕方ない。まるで最高のおもちゃを見つけたと言わんばかりに目を輝かせているランサーとはどうあっても戦闘になるだろうし。断ったところでそれはそれで無抵抗で殺されるだけだろう。
あの目はそういう目だ。それならばさっさと受け入れてその上で何とかすればいい。
投影……開始ーー魔術回路全開、今度はチャンス一回の真剣勝負。
……負けたらなにもかも終わり、今までで最高の干将・漠那を作ってみせる!!
「……お前は!」
「勘違いしないでね?私は誰かさんとは別人だから。私は…」
私の剣を見たランサーの目が変わる。
だいたい分かってはいるけど彼もここにいて、私と同じこの剣をこの槍兵も見たということだろう。
けど今はそんなことを考えるよりもやることがある。
……まずは士郎からこいつを遠ざけないと!
「ふっ!」
全速力で踏みこむ。それと同時に落ち着いた頭に情報が流れ込んでくる。
うん!スピードは上々、パラメータで表すならBかAのどちらなのは間違いない。なかなかのスペックだ。
聖杯戦争に巻き込まれたサーヴァント、自分自身でそう自覚を持ったところから自分のクラスやステータスが頭の中に流れ込んでいる。
そうそう負けるはずがない。なんたって私は……
「セイバーのサーヴァントなんだから!!!」
叩きつけた剣は甲高い金属音と共に弾かれる。
その音は今まで聞いたことがない音、今私にとって初めての彼以外との戦いが始まる!!
ーーーーー
「なんだこれは……」
今日見る「二度目の」戦いに懲りもせずに目を丸くする。
衛宮士郎はまたもや自分の常識が全く通用しないどこかに放り込まれたことを否が応でも思い知らされた。
士郎の目の前で繰り広げられる戦いはまたも常人のものとは全く違う、それこそ神の領域に踏み込むものだった。
もはや視認することすら困難、高速で二本の刀を操る彼女が自らを貫いた青い槍兵に踏み込むと更にそれ以上の神速の槍裁きで間合いから押し返す。
その攻防は息をもつかせぬ正に華麗。
あまりの美しさに剣術に対する覚えがない士郎にも1つだけ把握できたことがあった。
ーーーーこの2人は人ではない。
人間である以上これだけの動きを見せることはまず不可能だ。
人の身体では、あれだけ激しい動きに筋肉が耐えられず悲鳴をあげるだろうし、人の脳、神経では、あのスピードを捌ききるなどいくら技量があろうともできるはずがない。
時折実像なのか、残像なのか、それすら区別が付かなくなる攻防の中で士郎に出来ることなど何一つありはせず、ただ自分のことをマスターと呼び、あの男の前に立ちはだかった少女の勝利を信じることしか出来なかった。
「……!一体なにを考えているんだ俺は……」
そう考えた、いや、考えてしまった自分に絶望する。
恐らく自分と変わらない程度、それどころか年下かも知れない女の子にすがることしか出来ないという変えられない事実に怒りさえ覚えた。
衛宮士郎という人間は無力だ。こう世界に現実を突きつけられているような気がして思わず士郎は下を向いた。
「ーーーー」
「ーーーー!」
「あれ?」
不意に鳴り止んだ剣戟の音に顔を上げる。
するとどちらも無傷に関わらず戦闘には一区切りがついた様子でどちらも武器を下ろして話に興じているようだった。
辺りを埋め尽くしていた刺すような殺気もいつの間にか消えて穏やかな冬の空気が戻ってきていた。
「なにしてんだ……」
何やら言い争っているようにも見える2人に士郎は困惑する。
さっきまで全力で殺し合っていた相手とあんなに打ち解けることができるものなのなと思う。
やはり彼等は常識から異なる存在なのかもしれないと士郎は思った。
「ーーーー!」
そんなことを考えているうちに士郎の命を一夜にして二度も奪いにきた槍の主は家の塀を飛び越えて何処かへと消えていく。
それはこの窮地がなんの前触れもなく終わったことを示していた。
「終わった……のか?」
場に残るは自分と、救ってくれた少女だけ。
終わったのなら礼くらいはしなければならないはずだ。
士郎はそう思い彼女のもとへと歩み寄る。
「あの……ありがとう……」
ーーーーー
「やっぱりいいなあんた!ところで一つ提案なんだがここは一つわけってことにしねえか?」
「はあ!?」
数十に及ぶ交差の後一歩引いた相手から出された突然の休戦提案に思わず素の声がでる。
……さっきまでのは一体どこへ行ったのよこの自分勝手!
あまりこういった自由人と絡んだ経験がないので余計にそう思うのかもしれない。
思いつく限り一番の冷ややかな目でランサーのことを見るが当の本人は全く堪えることなくにやにやとしている。
……だめだ。この人には私の常識は通用しないわこれ。
ここは諦めて話を進めることにしよう。私の寿命がイライラで縮み始める前に。
「聞いておくけどなんでよ……」
「俺のマスターは臆病者でな、一度全員と戦って生きて帰ってこいなんてぬかしやがる。だからお世辞にも万全と言える状態じゃなくてな。そんで嬢ちゃんのほうもマスターはあんなだしいろいろ万全じゃねえだろ?俺としてはお互い全力で戦える方が好みでね、どうだい?」
「……別に構わないけど」
……士郎をあんな、なんて表現するな!今すぐにでもあんたのその舌切り落とすわよ!
そう叫びたい衝動を必死に抑えて勤めて冷静に対応する。
よくよく考えればこれは私にとっても喜ばしい提案なのだ。
あんなことを言ってはいるがランサーの強さは本物だ、このまま打ちあい続けたところで勝てる保証なんて欠片もないし、加えて今の士郎はど素人だ。
何かの間違いで塀を壊したりでもしたらその破片にぶつかるとかいうしょうもない理由で死にかねないくらいに。
まともな治癒すら使えないマスターである彼を狙わずに帰ってくれると言うのなら是非帰ってもらうべきだろう。
「よし!それじゃあ決まりだ!また俺と会うときまで死ぬんじゃねえぞ。」
「あなたは死んでも構わないけどね。」
「言うねえ……それじゃあな。セイバー」
満足そうに頷くとランサーは塀を飛び越えて何処かへと立ち去った。
数秒警戒していたが帰ってくる気配も飛び道具を使ってくる気配もない。
本当にやりたい放題やって帰っていったようだ。
……よくわからないやつだったわね……こんなのばっかりだったっけ?聖杯戦争って。
心の中で独り言、というか最後の一言はかなり不用意だったかもしれない。
もしもあれで逆上しやすいタイプだったらせっかく帰ってくれると言っていたのが反故になっていたかもしれない。
取りあえず反省。今後は発言には気をつけたほうが良いかもしれない。
皮肉を言おうがなにをしようが淡々としている彼とは違うのだから。
「あの……」
「うん?……!」
……しまった!これは不意打ちだ!
聞こえた声に振り返る。と同時に背中に電流が走るような感覚。
あの槍兵のせいで今までその存在を失念していたことを私はどうしようもなく後悔した。
いつのまにかここまでやってきていたのは私が出来ることならもう一度会いたいと心の底から願った懐かしい人だった。
「あの……ありがとう……」
「い、いやいや!マスターを守るのはサーヴァントの当然のせきむむよ!」
噛んだ。大事なところで思いっきり噛んだ。
顔が真っ赤になっているのが分かる。英霊になってまでドキドキするなんて私は一体何をしているのかと思ってしまう。
……だ、だめ!士郎がこんな近くいるとおかしくなる!!
けど仕方ないじゃかと思う自分もいるのだ。
こんな風に心臓が高鳴るような人にあうの自体一体いつ以来なのかわからないのだから。
英霊になってからというもの私が目にする人間は大半が屍で、生きていても重傷を負って苦しんでいる人かのどちらかで人間としての自分を殺していなければ直視するのもためらわれることばかりだったから……
「突然なんだけどさ、君は一体……」
目の前の士郎の口が止まる。
それはそうなるのが普通だ。誰だってあんな明らかにおかしいレベルの戦い……そもそも殺し合い自体見ないか……を見せられればこうなるのが普通だ。
消化不良を起こさない方が怖いというものだ。
……お兄ちゃんならなんだかんだで対応しちゃいそうな気がするけどそれはさすがにないよね。う~ん、どこから説明しようか…よし、決めた!
「取りあえず自己紹介よね!私の名前はエリヤ、あなたを守るためにきました!左手に痣があるでしょ?それがあなたが私のマスターであることの証。あなたの名前は?」
自己紹介(嘘)から入ることにする。やはり警戒を解くには自分をさらけ出すところからだろう。
一瞬思わず本名を言ってしまいそうになったが我慢してとっさに偽名を作る。
どこかで必ず士郎は過去の私であるイリヤに出会う。その時名前が一緒で疑われたりしても面倒だ。
名前の由来はイリヤにエミヤを混ぜてエリヤ、本当ならクラス名のセイバーでも良いんだけどそれだとアーサー王が頭に浮かんで個人的に嫌だから…
そんな自己紹介にも疑うことなく士郎は痣をみて驚いている。
「俺は衛宮士郎……本当だ……けどマスターって、あとあいつが言ってたサーヴァントって……」
知ってる知ってる、それに混乱してる士郎も可愛いなあ、なんて考えが頭を過ぎるがイカンイカンと振り払う。
私がいろいろ教えてあげないと士郎はなにも出来ないのだ。困っている彼を放っておくわけにもいかない。
今はサーヴァントとしての責任を果たさないといけない時だ。
「あそうよね。まずはそこを説明しないと…あ、貴方のことは士郎って呼ぶから。私のこともエリヤって呼んでね。」
「ああ、構わない。」
昔通り名前で呼ぶ許可も得たところでどこから話していいかと思案する、するのだが…
……だめだ!聖杯から知識は送られてきてるけど魔術師としての知識0の士郎に教えるにはどれも難しすぎる!
数秒保たず頭を抱える。
一体アーサー王はどうやってこの衛宮士郎という人間に説明したのか?
どうやっても確実に齟齬というか知識不足による疑問点が大量に発生しちゃうはずなのに!
なんだか心配そうに士郎が私を見つめているのが分かるけどほんのちょっとだけ待ってほしい。
何とかいい方法を考えないと……
「……エリヤ?」
「ちょっと待って!もうちょっとだけ……!」
「エリヤ?」
二度目の問いはトーンがずいぶん違った。
それはそうだ。私の表情も大分違うだろうから。
「もう……またサーヴァントがくるなんて……」
「ええ!?」
「待ってて士郎、すぐに片づけてくるから!」
近付く気配。
この世界では桁外れの魔力量の存在が一つ、それには劣るけどそれなりに出来そうな魔力を持ってるのが一つ、恐らくサーヴァント1人、マスター1人か。
こんなに早く感づかれるなんてサーヴァントはしらないがマスターはかなり実力のある人物に違いない。
奇襲でも何でも仕掛けて潰さないと今の士郎には荷が重すぎる。
「よっと!」
塀の上へと登る。
ここから上手くタイミングを合わせれば奇襲を仕掛けることが可能だろう。
息を潜めていると気付かないのかスピードを緩めず近づいてくる気配……3、2、1…今!
「私と士郎の時間の……邪魔をするなー!!!」
心の叫びを声に出して飛びかかる。
面食らったのか二人組は動けない。
よし!気づいてももう遅い!このままぶった切る!!
顔を視認する。最期に顔だけは拝んで……ってこの二人!!
「退いて!アーチャー!!」
「……くっ!」
機転を利かせたのか相手のマスターがサーヴァントを強制的に霊体化させ私の攻撃を致命傷になる前に回避する。
いや、確かに良い判断だが私が敢えて、外したという方が適当だろう。
そのサーヴァントにも理由があるし何よりもマスターにも更に気を取られてしまったのだ。
「エリヤ!……おまえは!?」
屋敷から士郎も駆け出してくる。けどあまりその声すら聞こえない。
1日のうちにこんなびっくりすることが二度、三度と重なればフリーズするのもしょうがないと思う。
茫然と立ち尽くしていると覚悟を決めたのかサーヴァントのマスターが明るい電灯の下まで歩いてくる。
……ああ、やっぱり……
その姿に、士郎を見たときと同じくらい懐かしさで一杯になった。
だって、その人は……
「こんばんわ、衛宮君。まさかあなたがマスターだったなんてね。」
私が唯一心を許した女性、遠坂凛その人だったんだから。
どうもです!
アチャ子のキャラが定まらないな…
ようやく士郎と凛を出せて嬉しい限りです。
評価、感想、お気に入り登録じゃんじゃん待ってます!
それではまた!