「どう?アーチャー……はいはい分かったわよ。ダメッてことね。勝手に出てきちゃだめよ。そんな激しく動けないんだから。……うっさい。出て来たら令呪使ってでも引っ込めるからね!」
大声で端から見たら訳の分からない独り言を呟く凛。そんな彼女を士郎はただ唖然として見つめ、私は自分でもよくわからない複雑な感情で見守っていた。
そりゃあわかってるわよ?霊体化した彼と話してるんだって。けどなあ…この絵はかなり残念だよ。こんな寒空の中虚空に話しかける凜なんて見たくない…今まで積み重ねてきたイメージが崩れていく音がする。
「ああごめんなさい、衛宮君とそのサーヴァントさん。それで、何もしないってことは見逃してくれるってことかしら?」
「……」
「……ほら士郎、ちゃんと答えて!怒ると怖いわよ、彼女」
「あ、ああ」
今の光景に不抜けてしまってる士郎に返事するように促す。
確かに気持ちはよくわかるんだよ?昔彼もよく言ってたし。「完璧美少女だった遠坂凜のイメージは2週間……いや、3日で瓦解した」って。
その話をする彼の目はどこか懐かしそうな悲しそうな顔をしていたし多分本当にショックだったんだろう。
そして今この衛宮士郎はその感覚を味わっている。どれだけショックかは考えるまでもないよね……にしてもここで中途半端な対応すると更に痛い目見るのを私はよく分かってるからそんな感傷に浸る時間はあげないけど。
「えっと……遠坂だよな、遠坂凜」
「はい?」
何でそうなるの!?
「いったあい……」
「大丈夫かエリヤ!?」
「士郎のせいよ!」
お約束のように思わずすっころんでしまった。
それにしてもこの士郎……うぶすぎると言うかチキンと言うか……
「あのねえ!そんな分かりきってること聞いてどうすんのよ!もっと他に聞くべきことがあるでしょうがバカ士郎!」
とりあえず気の向くままにガーッ!と士郎をまくし立てる。
確かに昔もすぐに凛のおもちゃにされるわ、セイバーと打ち合ってる最中にドキドキするわ、身体的には10代前半の私にすり寄られる度に真っ赤になるとか様々な女性免疫の耐性の無さを披露してくれた士郎とはいえこれはないだろう。
「わ、分かってる!分かってるから!えーと……こうなってるってことは遠坂も魔術師……ってことなんだよな……?」
「ええそうよ……寧ろ私としては衛宮君が魔術師だってことのほうが驚きなんだけど……まあそれは置いといて良いわね」
凛の言葉にうんうんと心の中で同意する。はっきり言ってこの士郎、魔術師感がほぼ0だ。
腕が未熟だとかそういうのもあるし何より魔術師なら体に残る筈の魔力残滓……とにかく残る匂いのようなものも全くないのだ。
私も知識、記憶が無ければ彼のことをマスターではなく一般人として助けていた可能性は十分にある。
「それで、あなた現状を把握してるの?」
「……!」
士郎の身体が強張ったのを感じる。うわ……これは士郎じゃなくてもこうなるわ。
遠坂凛と言う魔術師は元来天才だ。それこそ訳の分からない平均的なレベルの奴らなら何人束になってかかろうが、何人協力して研究に勤しもうが、その努力などないも同然と一息で吹いて消し飛ばせるような。
そんな圧倒的な才能だけで当世に君臨し続けることが出来るほどの実力がある。
今でこそまだ完成されていないために粗もあるし、どことなく未熟な所も見えるけど感じる風格、そしてこれが一番重要なのだけどどこか深くから湧いてくる底知れない「威圧感」優秀であればあるほどに強くなるそれを凛は現時点でも片鱗として見せている。
士郎のようなへっぽこではその正体が何かすら分からずに気圧されるのが落ちだろう。実際そうなってるし。
「いや……正直なところサッパリだ……突然人外としか言えない存在に殺されかかるわ、そうかと思えば同じレベルのエリヤに助けられるわマスターとか呼ばれるわ……」
頭を掻きながら今日、正確に言えばここ1,2時間で起こったジェットコースターのような出来事を必死に整理しようとしている士郎。
今まで平穏無事に表の世界で暮らしてきたのに突然こんな裏の世界に引きずり込まれたらそりゃそう簡単には纏められないだろう、しかも密かに憧れていた少女は自分と同じ、しかも段違いにレベルの高い魔術師だった。
これはショックだと思う。
ところで今私をあのランサーと同じ化け物扱いしたわよね?これは憤懣やるかたない。そんなことする悪い子にはどうやってお仕置きしてあげようかなあ……
「はあ……だと思った……それじゃあ上がらせてもらうわね。」
片手で頭を抱えながらそう言うと凛はスタスタと門をくぐって衛宮家の敷地へと入っていく。
家主の士郎はというと最初「へっ?」というような何とも間抜けな顔をして突っ立っていたが早めに我に返ったのか急いでその後を追い掛けて呼び止める。
「おいまて遠坂!上がるっていったいどういう……!」
「どうもこうもないわよ。いいから案内なさい。色々と教えてあげるから。今晩おこったことも、その痣のことも、そんであそこで悠然と構えてるサーヴァントのことも」
おっ、初めて私と目があった。……まあ好かれてるなんてことはないと思ってたけどさ。うん、ほんとだよ?期待なんかしてないから!
自分のサーヴァントをKOしたばかりである私に向けられた彼女の視線は寂しくなるくらい冷ややかなものだった。
そして最後に凛は士郎に
「知らなくてもいいっていうならいい。けどそうなったらあなた……明日には死んでるわよ」
と士郎からすれば目を背けたくなる、信じたくない現実を真っ直ぐに告げて今度こそ家の中に入っていった。
ーーーーーーー
「わ~」
もうほとんど思い出すことも出来なかったけどいざ見ると一気に思い出が蘇ってくる。
これまた日本特有の床、色彩鮮やかな緑と夏はひんやり、冬はあったかな保温性が魅力の畳。最大だと7~8人分の料理が所狭しとおかれ、皆でワイワイと騒いだ低いテーブル。懐かしのブラウン管仕様の奥行きを無駄にとるテレビ。そして 衛宮士郎という人間が一番楽しそうに見えた台所。
衛宮邸の客間、そこは私の思い出と変わらず懐かしい姿のままだった。
「飲み物出すけどどっちがいい?コーヒーか日本茶!」
「私はコーヒーで。ミルクがあるならそれも頂戴」
「私は日本茶ー苦いのは苦手なんだー」
「遠坂はコーヒーミルク付きでエリヤは日本茶……と。分かった!」
台所の奥から士郎の声とガチャガチャと物音がする。
お腹も空いてるだろうからついでになにか軽く作ってくると部屋に入るなり台所に駆け込んだ士郎だけど、実際は凛と部屋にいて気まずいのがいやなのも半分くらいはあると思う。もう半分は言うまでもなく緊張。
そうして数分もたつと士郎はコーヒーの入ったコップと日本茶の入った急須を2つ、そして今作ったのであろう焼いた鶏肉を器用に一つのトレイに載せて運んできた。
「……」
「ん?エリヤ?涎垂れてるぞ。そんなにお腹減ってたのか?」
「そ、そんなことないもん!」
「いいぞ先に食べて。また足りなくなったら作ってやるから」
「いただきまーす!!」
まともなご飯なんてもう何年食べてないか分からない。そして出て来たのが士郎の手料理だ。涎が出ていたというレディーにあるまじき醜態を晒したなんてことは断固として認めないけど今は全力で堪能するとしよう。
士郎は士郎でハイペースでもぐもぐしてる私を嬉しそうに見てるしこれで皆幸せなのだ。
「かなり人間味が強いわねこの娘……まあ元を正せば人間なのには間違いないんだけどさ。こんなのが英雄なのかしらほんと」
「英雄?」
そんな私を見てボソッと凛が呟いた言葉に士郎が目ざとく反応する。
これはいきなり本題に入りそうな雰囲気……しっかりと聞いておいて士郎のフォローが出来るようにしておこう。
手は止めないけど。
「そうよ。なにも知らないようだから最初に言っておいてあげる。この少女も、さっきの槍使いも、とっくの昔に死んでる……その時代に様々な功績を残して。それこそ士郎でも知ってるような……有名どころだとギリシャ神話のヘラクレスとか、史実だと大帝国を築き上げた征服王イスカンダルやアーサー王伝説で有名なアーサー王とかと同じように後世に名を残して、ね」
「ちょっと待て!言ってることが!」
「黙って聞きなさい。それでその英雄達がある力によって現代に呼び出されてる。ある儀式に参戦するために。」
「儀式って……?」
「万能の願望機……どんな願いでもかなえると言われる聖杯を求めてあなたや私と同じように英雄を使役した7組のペアがそれを手に入れるために争う。聖杯戦争、それがあなたの巻き込まれた儀式と言う名の殺し合いよ。」
聖杯戦争……これも懐かしい響きだなあと耳を傾ける。
計5回行われたその闘争はその後一度も行われなかったのだから。
どうしてかは知らない。その記憶について誰も語ろうとはしなかったし私も知ろうとも思わなかったからだ。
あんなものよりも日常のほうがよほど大事であったし。
それにしても凛はよくもここまで簡潔に纏めたものだと私は心底感心していた。
あまりにも大きな話だから1から10まで話そうとすれば何時間かかるか分からない。かと言って変な省き方をすれば即死に直結する勘違い、知識不足を生む。
そんな中とにかくどうしても知っておかなければならない要点だけ先に持ってきて説明、後は知りたければ知っても良いし知りたくなければそれで良い。例を挙げればどうせ令呪のことは士郎から勝手に聞くから必要ない、とかそういうスタンスを取ったのは大正解だと思う。
とにかく余程のバカじゃなきゃこの聖杯戦争が、サーヴァントが、どれだけ命に直結するかはこの説明だけで嫌と言うほど伝わったはずだ。まずはそれで十分。
……分かった。多分私の時もこんな風に凛が説明したんだ。あのアーサー王がこんなに説明上手とは思えないし。それなら納得納得。
「殺し合い……だって?そんなバカな……何だって俺がそんなもんに……」
「魔術師だからじゃない?聖杯はどうあろうと7人のマスターを選ぶ。最初は由緒ある魔術師の家系の人とかが優先されるんだけど、期限が迫ってくるとだんだんとその選び方も適当になっていくのよ。以前の聖杯戦争ではただの一般人がマスターになっちゃった、ってケースもあるみたいだし」
私を置いて話は進んでいく。
身も蓋もない答えだけどその通りなんだよねこれが。
理不尽な話だけど士郎が魔術師である以上こうなるのは必然だった。いくら泣こうが喚こうが変えられない事実。
「ついでに説明しちゃうけどその痣、それは令呪って言ってマスターの証よ。それと同時に拘束具でもあるけど」
「拘束?」
ビクッと士郎の眉が動く。
こんな言い方されたらその反応も頷ける。間違いはないけど。
「そっ、だってよく考えてもみなさい?衛宮君はサーヴァントの戦いを見てるんでしょ。それならもしもこの娘があなたに反抗したらどうなるか、わかるでしょ?」
「瞬殺だろうな」
もしも今の士郎に一太刀でもいなされたら私は自己嫌悪で自殺すると思う。
「さすがにそれは分かってるわよね。だとしたら何かない限りサーヴァントを使役するなんて出来やしない。その何かがこの令呪、これに念じるとサーヴァントに3回だけ自分の思った通りの行動をさせることが出来るの……だ、だめよ!3回だけだから!こんなとこで試し打ちはダメ!」
「わ、わかってるよ!ちょっと見ただけだろ!?」
「なら良いんだけど……本当に危なっかしい。それを使えば最悪の場合サーヴァントを自決されることも出来るわ。これで分かった?」
士郎はハッとしたような顔をしている。
そう、これが令呪の最大の効能にして、私達サーヴァントに取っては最大の足枷。
いくらサーヴァントが強くてもマスターがその気になれば一瞬で殺せるのだ。だからこそサーヴァントは多少不満があろうともマスターに従うのだ。
私は士郎に不満はないからそんな必要はないけど。
「それに他にも色々な使い方が出来るわ……けどそれは自分で考えることね。それでもあえて1つ例を挙げるなら……」
凛がニヤッと何やら邪悪な笑みを浮かべて私の方を見る。
ん……?あの顔は何か嫌な予感……
「もしも、もしもよ?士郎がロリコンでその娘と変なことしたくなっちゃったとかあってもその令呪があれば一発で屈服、SMだろうが猫耳プレイだろうがドンと……」
「誰がそんなことするか!」
「士郎はそんな変態じゃないもん!!」
こんのバカ凛!!!決めた!真っ先にぶっ倒してやるんだから!!
しかも自分で言っといてちょっと赤くなってりゃ世話ないわよこの●女!!16年彼氏なし!!
「アハハ!すっごい慌てようよ2人とも……もう息ぴったりだし心配なさそうね。そしたら今度はあなたの事教えてもらえないかな!」
「私?」
そう言えば私に話が振られるのはこれがはじめてかもしれない。
「そう。別に真名を教えろとは言わない。そのエリヤって言うのも偽名でしょうし。けどクラスくらいは教えてくれない?」
むむ……良いのかな?
「それくらいなら良いんじゃないか?俺もよく分かってないし説明してくれるならありがたい。」
士郎を見ると返ってきた反応はこんな感じだ。
まあ良いか。言った所で減るもんじゃないしね。
「私は……セイバーのクラスよ。凛、後セイバーとは呼ばずにエリヤって呼んで。こっちの方が好みだから。」
「あっちゃー……そうじゃないかと思ってたけど何であんたみたいなのがよりにもよってセイバーのサーヴァントを引くのよもう……分かったわエリヤ。」
露骨に落胆の表情を見せがっくりと肩を落とす凛。
そう言えばセイバーが引きたかったとかなんとか……一般的に見ると最優のサーヴァントとか何とかいわれてるしね。
士郎は何のことだか分からずおろおろしてるけど。
「よし。それじゃあ行きましょうか」
「行くってどこに?もう1時だぞ?」
そこからしばし雑談に興じた後凛が立ち上がる。雑談と言ってもその節々に士郎を、そして私の内側を読み取ろうという意図が見える心理戦のようなものだったが。
それに士郎じゃないけどこんな時間にどこに行くというのか……
そんな私の疑問はいやな方向にすぐ解決する事になった。
「教会よ。あそこにこの聖杯戦争を仕切る監督役がいるの。詳しくはあいつに会ってから聞きなさい。」
「うげ……」
私の呻きは誰に聞かれることもなく消えていった。
今まで記憶の奥底に封印していたけど教会という言葉と共に思い出したくもない記憶が蘇る。
言峰綺礼……私あいつのこと嫌いなんだよなあ……
ーーーーー
冬木の冬は比較的あったかい、と士郎はよく言っていた。
けど今は2月でしかも真夜中だ、どうやっても寒い。
そんな中、懐かしい坂道を下り住宅街を抜けて、真っ赤で大きな橋を渡る。
大体おおよそ30分は歩いているか。いつもの私なら不機嫌になってもおかしくないところだけど今日の私はご機嫌だった。
「士郎の上着あったかーい」
「衛宮君、どうやって手懐けたのあれ?どっからどうみてもお兄ちゃんに甘えるブラコンこじらせた妹よ」
「俺に聞くなよ……」
ヘソ出しの服で外に出るのを躊躇ってみたら予想通り士郎は上着を持ってきてくれた。
む ふふ……ナイスだ私!今は周りの目はどうでも良い。士郎の匂いをいっぱい吸い込んでおこう。どうせ見る人もいないんだしね!
「まさかもう奴隷にでも……」
「だからするわけないだろ!バカ!」
それにしても凛ってこんなんだったっけ?本質は変わらないけどもうちょっとそう言う話題にはおっかなびっくりって感じだったと思うんだけどやっぱり平行世界の差異が生じてるのか……
「分かってるわよ。あー面白い……衛宮君からかってると時間たつの早いわ…ほら、もう着いたしね」
空気が澱んだのを感じて私も士郎の服から意識を離す。
まだまだ足りないけど今は我慢するとしよう。
「ここが……」
「……」
神に祈る場としては異様に重く、付きまとうような空気、まるでここの主の人間性をそのまま表しているかのような嫌悪感。
無駄に綺麗な外観との対比でその異質具合がより際だっている。
やっぱりここは嫌いだ。
「それじゃあ私と士郎はここの神父に会ってくるけど……エリヤはどうする?行きたくなかったらここで待ってても良いけど。」
「…行く。」
実際問題行きたくないけど士郎があの神父に会うその場に居れないのは論外だ。凛がいるから直截なにをされるということはないとは思うけれど何を吹き込まれるか分かったもんじゃない。余計なことを言おうものなら殺してでも止めてやる。
そう、と頷いた凛、そして士郎の後を歩く。
……士郎のことは私が守る。
「綺礼!いるんでしょ?ちょっと出て来なさいよ。話があるから」
ギイイという音とともに扉が開かれる。
中にひろがっているのは普通にイメージ通りの教会。ただ空気が重たい以外は何の変哲もない。
隣の士郎がなんだかそわそわしているのはこの異常を無意識に感じ取っているからだろうか?
やっぱりついてきて正解だった。
人の姿は見えないけれど凛は確信を持って目的の人を呼ぶ。
「何だね凛?お前が訪ねてくるとは珍しい。マスター承認の件なら既に問題ないが」
……出来ることなら留守にしていてくれても良いのに。そうすれば顔を合わせなくて良くなるから。
そんな淡い期待を抱き始めたその時だった。
この教会の主、底抜けの悪意の塊である神父が奥から慇懃な声とともに姿を見せたのは。
「ええ。今回は私の事じゃないの……ちょっとイレギュラーなマスターがまぎれこんじゃってね。色々教えてあげて欲しいのよ」
「ほう……」
神父が私と士郎を舐めるように見回す。
その目は何を見ているのか、まるで内側をじっくりと吟味されているかのようで私は強い不快感で身体がブルッと震えるのを感じた。
「分かった。監督役としての責務の一つでもあるからな。お前の言うとおり教えるとしよう、凛。……まずは自己紹介といこうか。私の名は言峰綺礼、此度の聖杯戦争の管理人、そしてこの教会の神父を努めている」
知ってるよこの悪魔。
私はありったけの侮蔑の念とともにその悪を睨み付けた。
なかなか進まないな…(^o^;
とりあえず現在ルートはごちゃ混ぜのifで行く予定。UBW色強くなるかもしれませんがあまり全パクリはしない方向です。
それではまた!
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