「ーーー■■■!!!」
身長2mを優に超える巨体、それがパワーとスピードを兼ね備えて襲ってくるんだからそれはもうとんでもない迫力だ。だけど私は恐れたりなんかしない。だって今の私にはとっても心強い味方がいるんだから!
「さあかかってきなさいバーサーカー、これでもあんたのことを一番知ってるのは私なんだか「一度凛を連れて離脱する、あとは任せた。」ら…ってはあ!?」
冷静に横に飛び退く彼に思わず突っ込みを入れる。まさか比喩表現抜きで何もすることなく裏切られるなんて思わなかったよ!!!
ほんの数秒前に休戦、そして共闘を申し込んできた彼は一瞬で私に何もかも押し付けていきましたとさ。
「ちょっ!アーチャー!なにやってんの!?あれが化け物なのはわかるでしょ!?」
「だからこそだ。あれを目の前にしてはいくら君でも持ちはしない!」
流石にこの行動にはびっくりしたのか担がれたまま凛が素っ頓狂な声をあげている。元々正々堂々とした勝負を好むタイプである凛にとって信頼したサーヴァントである彼がまさかここまで卑怯というか割り切った存在だとは思っていなかったというのが本当のところだろう。
うん…その気持ちはよくわかる。私もびっくりで怒りなんて全部忘れちゃってるもん。
さあーて状況を整理しましょうか。目の前に迫るはバーサーカー、スペック最高のマスターである過去の私、イリヤによる魔力供給にバーサーカーのクラス特性である凶化を使い戦闘能力は極限まで上乗せされててその素体はギリシャ神話最強のヘラクレスだ……要するに、最強。これこそ非の打ち所もなく。
「逃げなさい士郎!」
「へっ!?」
後ろで惚けている士郎に構逃げるように指示を出し、私の知る限り一番耐久性に優れた剣を投影する。
ーーとにかく一太刀目は全力で受け止める!結局のところなにをするにもこの一発目を受け止めなければどうしようもないわこれ!
爆撃の如き斬撃…言っても技巧もなにもないただのフルスイングだけど…を受け止める。投影した剣はミシミシと軋んでこそいるものの壊れそうな様子はない。
ーーそれにしても重た!!何で特に考えなしの一撃でこんなに押し込まれるの!?
「…開放!」
体内から魔力を派手に放出し一瞬の推進力に変え、押し返す。そうでもしてパワーを上げなければ私はすぐにコンクリに腰まで浸かりミンチに変わるだろう。それくらいどうしようもない、でたらめな相手だ。
聖杯の機能であったイリヤスフィールはそれこそ無限に近い魔力を供給することができ、そしてその能力はクラス特性としてサーヴァントである私に付与されている。
魔力開放。基本スペックで劣る私がセイバーのクラスで喚ばれたのは恐らくこれが主な原因だと思う。竜の因子を持つ本家セイバーと同等のレベルで魔力を引き出すことが出来る、それが私の強み。
「(後はこれもあるんだろうけど…士郎が魔術師として機能がない今はこっちも機能不全か…)」
胸に意識を向ける。確かにある、けどなにも感じない、それは温もりを失ったままだ。
「こんのお!!!」
コンクリに足首まで沈んでいた所から魔力を大量導入して押し返し、その勢いを使って後ろへと飛び退く。……!!もしかしてあそこに行けば少しはやりやすくなる…?
よし、閃いちゃった以上まずはやってみるべき!
そのまま間髪入れずに真っ正面からバーサーカーに飛びかかる。無論何の小細工もなしだ。
「ー■■!!!」
そんなものが奇襲になるわけもなく瞬時にバーサーカーはその斧剣を凪払うように振りきる。
私はそれを受け止め……切れずに遥か彼方へと弾き飛ばされた。
ーーーーー
interlude
「エリヤ!!!」
バーサーカーにまるでピンポン玉のように飛ばされるエリヤを見て思考が焼き切れる。
ーー助けなければ!
心に浮かんだのはそれだけ、そして士郎はそのままに走り出そうとしてそして…
「ちょっと待った!あんた、まさか何も考えずに特攻する気!?」
般若のごとき表情の凛に腕を掴まれた。
「な、なんだよ遠坂!あいつと俺はパートナーなんだ!助けに行くのは当然だろ!?」
「ばかね、何もできない奴はただの足手まといよ。何でエリヤがわざわざあんな中途半端な仕掛けをしたのか考えてもみなさい。」
意味を考えろ…?士郎の思考はその一言で一気に冷や水を被せられたかのように回復した。
「あの娘、多分だけどなんの考えなしに突っ込んだ訳じゃないわよ。私もすぐにアーチャー連れて援護に行くからあんたはどっか避難してなさい。」
「アーチャー…?バカ言うな!あいつはエリヤを…!」
ものの数秒で裏切った相手を信用なんてできるわけないだろう。そう言い掛けるが真剣な表情で見据える凛にその後が続かなくなる。
「大丈夫、確かにあいつは融通利かないところとか、堅物なところとか色々と面倒な所もあるけど根は腐ってない。さっきは私の命を第一優先にしたからああなったけど今はちゃんと敵が誰なのか認識してるはずだから。」
「……場所はわかるのか?」
「恐らく……ね。けど言わないわよ。言ったらあんたはついてくるだろうから。」
そう言うと足に強化を施したのか陸上選手も真っ青なスピードと跳躍で凛が離れている。
そうしてその場に残ったのは士郎1人。
「確かに俺に出来ることは…」
現状ない。あのイリヤスフィールという少女の引き連れていたバーサーカーは怪物だ。そんなものはど素人の自分でもよくわかる。エリヤも、さっきのランサーも人の領域を逸脱した戦士と呼ぶに相応しい存在だ。
だがあの黒い巨人はその2人すら遙かに上回る。純粋な力で全てを押しつぶしてしまえそうな、そんな圧倒的な迫力。そんな未知の存在を相手に衛宮士郎に出来ることなどありはしないだろう。道端の小石以下だ。
「だけどそれは遠坂も一緒のはずだ。」
なら遠坂凛は、自分は死地に赴くと告げながら最後に士郎の身の安全を案じた少女はどうだろうか。彼女は確かに士郎に比べれば遥かに有能な魔術師だ。その能力は才覚に溢れている。
……しかしそれはあくまで人の中、での話だ。
バーサーカーとは比べるまでも、それ以前にイリヤ相手でも本気でやりあえば防戦すら叶わない程度。要するに衛宮士郎と遠坂凛は現在の状況に置いて50歩100歩なのだ。
だというのになんだ?かたや自らの戦力を分かっていて、それでもなお躊躇うことなく飛び出して行った。
そしてもう1人は無様にもそれを見送ることしか出来ずに今ここで守られたという事実にすら呆然として立ち尽くしている。
ーーこの差は一体何なんだ?
悔しさに歯噛みする。恐れている?それとも他の何かか?いや、そんなものはどうでもいい。
「女の子2人に守られて、こんな所でビクビクしてて良い訳がないだろ!」
自分の頬をパーン!っと一回両手で叩いて気合いを入れ直す。
別にブルッた訳じゃない。足も動く、何より心はまだ折れていない…!
こんなのでおっかなびっくりしてて正義の味方になんてなれるわけがないだろう…衛宮士郎!
「けどどっちだ?」
指針は定まった、となると次の問題は決まっている。
「遠坂の奴……言ったら俺が追ってくるって分かってたのか…?」
まあそういうことなのだろう。だから目星がついていても教えてくれなかった。
「自分で考えろってことか…」
残念ながら自分とエリヤの繋がりでは居場所を掴むことなど出来ない。まだ彼女が消えたという感覚がないことから無事であることは分かるがそれ以上はわからない。
早速手詰まりか…と頭を痛めたその時だ。ふと風が吹き抜けたのは。
「風…?うわっ…なんか砂混じってないかこれ!?」
口内に異物が混入したのか反射的に咽せる。この時期の冬木の風は海から乗ってくる冷たい浜風だ。
だから少し海から離れたここいらでもほのかに潮の香りがするのだが今の風には大量の砂のようなものが混じっていて制服も汚れてしまった。
「あれっ…けど今の風は…」
山の方から吹いてこなかったか?
教会のある山からここはとても近い。こんな所で風が生み出される要因などないはずだ。
「…!まさか!」
そう言えばついさっきエリヤが飛ばされていったのもあっちじゃなかったか?
制服にこびりついた砂を手に取る。
…ビンゴ!これは砂じゃない、石の破片だ!
「ここらへんでこんなものが飛び散る場所は…」
教会の外人墓地か!
「…!なんだこれは…」
予想は当たりだった。
普段はあまり人が来ることもなくただ大量の墓石が整然と並び周りを木々に囲まれた教会所有の外人墓地は今や爆撃を受けた跡地の様相を呈していた。
響く轟音と、吹き飛ぶ石片。その場にいる生き物を全て委縮させるかのような唸り声。
ーー間違いない…エリヤもバーサーカーもここにいる!
ここからは迂闊には近づけない。その唸り声に呼応するかのように上空から断続的に大量の矢が降り注いでいる。
恐らくあいつ…遠坂のサーヴァントが援護射撃をしているのだろう。一応だが共闘はしているようで遠坂の言葉に嘘はなかったということになるが…なんだか気に食わない。
士郎の心はなにか掻き回されているようにさざ波立っていた。
「ちょっ!?なんでここにいるのよ?」
「遠坂…」
「ああもう!バカ!何のために教えなかったのか全くわかってないじゃない!ほらもうちょいこっち!そこじゃ巻き添え食らうから!」
「うおっ!あんまり引っ張るなよ!」
暫くの間どうしようかと迷っていると後ろから驚いたような声をかけられる。
引っ張られるがままになっていると見えたのは心底呆れたという表情を浮かべている凛の顔だった。
「もう来ちゃったものはしょうがないけど…手を出すことはないわ。やるわね、あなたのエリヤ。あんな子供みたいな見てくれのくせに随分な策士じゃない。」
「はあ?」
「あっ、衛宮君五感強化も出来ないんだっけ。分かった…」
一人納得すると凛は士郎の額に手を伸ばし何やら呪文を唱える。
すると士郎の視界はどことなくクリアになった気がした。
「遠坂、これは…?」
「視覚強化よ。これならあなたにも見えるんじゃない?」
凛に言われた通りに再び破壊されていく墓地を見る。すると今度はさっき見ることが出来なかった2人の姿が確認できた。
圧倒している。状況は一変していた。その小柄な身体を生かし急加減速を繰り返しヒットアンドアウェイで縦横無尽に駆け巡るイリヤ、その姿はまるで妖精かのように軽やかだ。
対するバーサーカーは…その大き過ぎる身体が災いしたか大量の墓石に動きを阻まれることが多くエリヤのスピードに対応出来ない。それに拍車をかけるように降り注ぐ矢の雨。
響く咆哮は巨人の苛立ちにも見えた。
ーーなんだ、これなら問題ないじゃないか。
ほっと胸を撫で下ろす。この様子ならあまり心配はいらないだろう。
エリヤは全て計算済み、その上でわざわざここを選んだのだ。そしてその目論見通りに事を運んでいる以上負ける訳がない。
「えっ!?どういうこと!離れろって!?」
「どうした!?」
突然の凛の切迫した声に、戦いに見とれていた士郎も顔を動かす。
凛はなにやら言いづらそうにしてからこう告げた。
「ええっと…仕掛けるからとにかくここから離れろって…」
「エリヤ!!!」
直感、その言葉を聞き終わる前に士郎はエリヤに向かって走り出した。
interlude out
ーーーーー
「ほらほらあ!そんなんじゃついてこれないよ!」
「ーーー■■■■ー!!」
怒りの咆哮を上げるバーサーカーの後ろを取り斬りつけ、そして後ろを向くころにはまたその視野の外へ。
吹っ飛ばされた時にドロドロになった分の怒りも込めてドンドンギアを上げていく。
私の目論見は成功したと言っていい。予想通りバーサーカーは障害となる墓石にに動きを封じられ、スピードの面は断然私に傾いた。なんとかこのまま押せるところまで押して何個か奪っておきたい。
「だけど決めにいこうとするとこれが…!っぶない!もう!分かってないとは思うけど本当は狙ってんじゃないこれ!?」
のだがそうそう上手くはいかない。原因となっているのはどこかからされているのであろう彼からの「援護」射撃。
確かに援護するつもりではあると思う。基本的にその矢はバーサーカーの動きを封じ込める手助けとなり一見私の有利を助けているようだ。
しかし問題がある。時折私がバーサーカーにしばらく接近したとしよう。その間はその矢を止めてくれればいい話だ。だというのに彼の矢は規則正しいリズムのまま飛んでくる。ちゃんと狙っているから後は私の知ったこっちゃないと言われているようにさえ感じる。
「(あのひねくれ者…バーサーカー共々私も消そうとしてるんじゃないでしょうね!?)」
多分当たりなんだろうなと思うと悲しくなる、幸い私は彼の矢の軌道はイヤというほど知っている。ただなんの意図もなく無機質に飛んでくるだけならいくらでも避けれる。
ただ大技を繰り出そうとする時にくるとこれがまた面倒なのだが。
「…また!」
攻撃を中断し矢の雨の中を駆けて離脱する。この矢、私には充分な効果があるけど色々桁外れなバーサーカーには大して効果が無いのが更にきつい。援護するというのならこんなチマチマした牽制ではなくもっと効果のあるのをドカンと撃ち込んでこいと言うものだ。
「(まあそれでこのあたり一帯が吹き飛ぶようなのを撃ち込まれたらそれでそれは困るんだけど)」
いくらなんでもそんな無謀なことをすることはないはずだ。そんなことをしたら最悪こっちに駆け付けた凛も吹き飛びかけない。それ以上に一応とは言え共闘をもうしこんできたのはあっちだ。そこまで礼儀知らずだとは……思いたくない。
心に一末の不安が吹き込むがそれは無視する。恐らくこれは考えたら泥沼にはまる類のものだ。そんなことに気を取られていてはいくら鈍っているとはいえバーサーカーに対応するなど出来はしない。自分の体が泥にはまってグシャグシャになるのがオチだ。
「(面倒だな、ふむ…一度仕掛けてみるか。)」
そんな言葉が遥か彼方のどこかから聞こえた気がした。
その後も続く同じような戦闘の繰り返し、バーサーカーに致命傷を負わせることは出来ないがその体に鈍いダメージの蓄積を与えられているだけの手応えは感じていた。
宝具の使用には私にとって莫大な魔力と、そして今までにはない隙を作ることが必要になる。
出来ることならもう少しだけ動きを鈍らせてから…
「…ん!?」
魔力の気配!?
空気の変化を感じて反射的に動きが止まる。バーサーカーはない、勿論私でもない。それなら凛か?いや、いくらなんでも人間の魔力でこれだけの悪寒は感じない。
となるとこれは…
「まさか…」
思い当たる節が1つだけある。
ハッハッハー……やってくれたよ。
異変を感じたことで止まってしまったことを後悔するがもう遅い、魔力の気配はここから数km離れたところから急速に近付いてくるものだ。
その正体は考えるまでもないだろう。それだけの距離から気配を察知出来るだけの魔力量で干渉出来る相手など1人しかいないから…信じたくないけど。
アイアスは愚か他の防具の投影も間に合わない。コンマ何秒か、それだけの時間でここには大魔力をまとった彼の矢が突き刺さるだろう。とんでもない爆風をともなってだけど。
「(本当に撃ち込んでくるとはなあ…なんとか回避仕切れればいいけど着弾してから逃げても…上手くバーサーカーを盾に出来れば…)」
どうやって生き残ろうか?それだけに全神経を集中する。だからその場にいるはずのない人が全力でこちらへ向かって走ってきていることに気がつかなかった。
「エリヤ!!!」
「え!シロウ!?」
そうして響く爆発音の中私の視界は真っ暗になった。
どうもです!とりあえずまだまだ本編から動くことなくバーサーカー戦まで。
次からどんどんエリヤ(アチャ子)独自の物語へと…
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