「それにしてもなーんであの娘にあんな情が湧いちゃったのかなあ……特に知り合いに似たような子がいて可愛いがってたー、なんてこともないし……つっぱねる気満々でいたのに顔を見た瞬間にそんなの全部吹っ飛んじゃったよ。」
まるで野生の虎が荒野を一匹闊歩しているかのような無駄に大きな存在感をその全身一杯に体現しながら衛宮家の廊下を進む「歩く冬木の人間爆弾」こと藤村大河は悩んでいた。
いや、悩んでいるというほどの事ではないのかもしれない。強いて言うなら今までにない感覚に戸惑っている、というところか。
元々大河は緻密か大雑把かと言われると色々メーターを振り切って大雑把、理論派、感覚派というグループ分けをしようと心理学を用いるような性格テストを行うと答えを予め知っていてその上で狙ってやっているんじゃないかと言われるほど極端に感覚派方面の答えばかりを導き出し考慮の必要もなくそっちだと診断されるような人間である。
故に彼女は迷わない、自分の判断が正解だろうが間違いだろうがそれが自分の決めたことならとにかくそこへ突っ走る。リスクも裏も関係ない、そんなことを純粋な気持ちで出来る非常に稀な存在なのだ。
だからこそ困っていた。士郎が連れてきたエリヤという少女、その少女の滞在を大河は許した。だがその判断を下したのは自分自身ではない、まるでなにかに引っ張られるかのように気付いたらそう言っていた。
いつも自分の意志で、主体的に動くということを本能的に知り、無意識に実践していた大河がこの一連の流れに戸惑いを覚えたのは当然なのかもしれない。
「本当に不思議な子……」
事実大河の頭の大きな部分を占めていたのは未だにその、今は案内された部屋で休んでいるであろう少女のことであった。ご飯を食べでもお菓子を食べでも離れない、忘れられない。
自らのことを少なくとも一つの事柄を集中してウダウダと考えることが出来る性格ではない。と認識していた大河からするとこんな風に一つの事を3時間、4時間もずっと考えているのは間違いなく人生初だった。
初めて教壇にたつその前日でさえもここまで考え込みはしなかった……なんてことを思ったのも無理がないことなのかもしれない。。
「なんて考えたところで意味はないんだけどねー……オロ?」
広い中庭を一望する縁側にさしかかったところで足が止まる。
聞こえる。その普段はまともな使いどころのない身体能力の1つ、人並みはずれた聴力がなかなか聞き慣れない音をキャッチする。だが聞いたことがないわけではない、むしろ懐かしいもの。だけどここで聞こえる訳がない。
「士郎?」
ちょうど軒先に置いてあったスリッパ(野外用)を履き、音のする方向へと大河は走る。
……これ、竹刀の音だよね?まさか士郎が……けど誰と?
懐かしく嬉しさと、そして困惑と。竹刀特有の弾ける音を聞いて大河が抱いた感情はこの2つが入り混じっていたものだった。士郎が持つのはまあいい。前家主の切継が死んでからというもの、じゃれつくように毎日のように剣の勝負を挑んでいた士郎は一切剣を持たなくなった。それからというものなにも興味を持たず心配していたのが高校に入り弓を持つようになり一安心した……のだがそれも突然辞めてしまった経緯がある。
保護者としての観点からするとあまりクラスメイトとの交流にも積極的とは言い難い士郎がまたなにか夢中になれるものを見つけたのならそれは大河にとっても喜ばしいことであり、それがかつて義父との思い出のつまった剣ならば尚更である。
問題は自分以外に武芸の心得を持ったものがいないこの家で誰と打ち合っているのか、ということだが。
「士郎!?一体誰と……!」
瞬間、大河は言葉を失った。KOされたのか大の字に寝転ぶ士郎にももちろんびっくりしたし心配という感情もわいた。だがそれ以上に彼女の心を支配したのは……
「へっへーん、まだまだね士郎も」
「エリヤ……ちゃん?」
見たことがない、はずなのに知っている。
純粋に楽しそうな、それでいて小悪魔的な魅力も兼ね備えた少女の笑顔だった。
ーーーーー
「まだまだね士郎も……あ」
ーーやばい、完全にやらかした。
私は調子に乗りすぎた事を後悔した。
ーーこれから俺を鍛えてくれないか?
その言葉を私は肯定し、即答した。士郎がどんな心境でその結論に至ったのかは定かではないし私の知るところではないが士郎からそう言ってくれるのなら私としても苦労はない。
いずれ士郎には嫌でも、それこそ凛のようなレベルの魔術師とも対等なレベルで戦えるようになってもらえなければ困る。ならばだ、のんびりしている時間などないに等しい。
「これはその……」
という訳でまずは士郎の現状での力を確認すべくこの道場に赴きとりあえず好きに打ち込みをさせていたのだけど……結果は散々たるものとしか言いようのないものだった。
まず、基礎体力。それなりに鍛えているのはわかる。けどそれだけ。一般人の中でならそれなりかも知れないけど本当にその領域を出ない。筋が悪いとかそういうことではないけれどもサーヴァント相手には50歩100歩、大差ない。そしてそれが突然対抗出来るレベルまで
飛躍的に伸びるかと聞かれると答えはNo、投影を完璧にマスターしたところで苦しい。
次に極限状態に置ける直感、瞬時の対応。これはどちらかと言えばまだまし。過去に何か修羅場をくぐった結果たどり着ける、逆に言えば普通に生活しているだけでは絶対に不可能なくらいのレベルでの対応力を見せてくれた……と言ってもそれもあくまで対一般人の話。常に自らを死地に追い込む、死を覚悟し、受け入れた上で目的に向かう真っ当な魔術師相手にするとなると一歩劣る。
総合すると残念ながら不合格。ただレベルを合わせながらもあまりにズバズバ一本をとれる面白さにはまってしまい、タイガがこっちに向かってきていることに気付かなかった私は更に失格。
「……」
ほら、絶句してるし。
タイガはキョトンとしたようにどや顔している私と大の字になって気絶している士郎を交互に見て混乱している。そしてそれを見ながら私は背中に嫌な汗をかきはじめているのを感じていた。
この光景は、異様だ。私は端からみたらどっからどうみても女子高生、下手したら中学生のような外見だ。そんな私が比較的がっしりとした体つきをしている士郎をKOしているのはあまりに不自然。
「ええーと……」
「……」
助けを求めようにもこの場で唯一頼りになりそうな相手は現在私の足下で絶賛失神中ときた。
「失礼しました。」
「ち、ちょっと待ってよタイガ!誤解!誤解なんだってば!!」
ーーーーーー
「魔力残滓は……ある。なんなのよこれ。市内全域が庭とでもいうつもりかしら?」
時間は過ぎてそろそろ冬の短い陽が西に傾き始めた頃、私は1人背筋に寒いものを感じていた。
「あのビルも……こっちのも……むむむ。」
家から持ち出してきた地図にキュッキュとマジックでしるしをつけていく。作業の具合を考えるに士郎が気絶したのはある意味私にとっては好都合だったのかもしれない。
サーヴァントの闘いは基本的には夜に行われるものである……というのが原則だが相手の領分に自分から踏み入り込んできた場合はまた別問題。何が起ころうと文句は言えない。私が今現在しているのはただのお散歩ではなくサーヴァントの気配、魔力を辿る索敵活動なのだ。何か変なことが起きる可能性も十分に有り得る。その時に何も気にせずガン逃げ出来るというのは意外と大きい。
「にしてもきな臭いなあ……こんなことをするやつなんてまあ察しがつくけど。」
キャスターのサーヴァント。あちらこちらに散見するこの違和感はそいつによってつけられたものと考えてまず間違いないだろう。
断定出来る理由は2つ。その感じる異常があまりにも広範囲だということ。深山町の方から新都心まで、半径十数キロ四方に網をはるなんて所業はいくらサーヴァントだろうとそうそうできやしない。
そしてもうひとつ。このようなやりかたをよしとする英霊は今回他にいそうにないこと。
「昏睡事件のあった場所全てに魔力の痕跡があるってことはこれはもう偶然じゃない。一般人から魂を吸い上げてるってことね。」
魂喰い。その言葉通り私達サーヴァントは人の魂を食べることによって力を蓄えることができ、その効率は普通の食事や睡眠を遥かに上回る。
もちろんそれにはリスクが伴う。魂、すなわち生命力を喰らうということは人の命の一部をかっさらうということ。その量によってはその人間の命そのものを奪いかねないということだ。
今朝たまたま見たニュースになにか違和感を感じ調べたところまだ死人は出ていないようなので本当にギリギリの一線を超えてはいないということになるのだろうけどそれだっていつまで持つかはわかりやしない。
「この町全員が人質でそれを見下ろす悪魔は山頂に。とんだ悪趣味ね。」
ビルの屋上へと登り元凶が潜むであろう地点をありったけの嫌悪感とともに睨みつける。全ての発信地点はあそこだ。ほんの微かな残り香みたいなものだけどあの山頂に向かって流れたものの気配をどこからでも感じる。まあここまで隠匿もせずに大胆なことをするってことは罠か自信か、その2択ってことなんだろうけど。
「よし……行くか。」
どちらにせよ放っておくという選択肢は私にはない。このままだといずれ死人が出るのは火を見るよりも明らか。そしてそんな風に被害が増えるのに比例してキャスターの力は増していく。早めに叩かない理由がない。
最高は撃破、最低はとりあえず相手の戦力、状態の確認。無理は厳禁。
ここから凡そ数分、考えられるパターンは全て考えておこう。
「で、なんで初っぱなから私の想定は意味なくなるのかしらね。」
木陰に身を潜めながら目の前に広がる想定外をじっと観察する、というよりも観察以外何かするのはただの自殺行為でしかない。
魔力回路も全部カット。今の私はどこまでも一般人。
もしも下手に物音でもたてようものなら私はここで離脱必至だ。だからこそここは細心の注意をはらわなければならない。だって私の視界には……
「あら?キャスターじゃないなんているなんてびっくり。けど関係無いかな。」
「随分と余裕綽々だな。その狂人に余程自信があると見える。」
「当然でしょ、サムライ。私のバーサーカーはギリシャ神話最強の英雄ヘラクレスなんだから。」
暫くは会うのは願い下げだと思っていた怪物の姿があった。
お久しぶりです。何故虎目線にいったのかは不明。そしてバサカvsコジロウ、キャストさんもどこまで描写してみるかも不明。