「はっ!」
静かな月夜にそぐわぬ轟音が柳洞寺及び山中全体に響き渡る。
生前叶うことのなかった強者との果たし合い。それが叶うならばこのような不条理を受け入れることもやぶさかではない。そう思いその時を待ち続けたアサシン、佐々木小次郎。彼の願いは今成就したといっても良いだろう。目の前で荒れ狂う怪人は正に強敵だ。それに疑いの余地はない。
「それにしてもこれはまた異質な…… 武人というよりは獣が人の形をもったと言うべきか。まあバーサーカーと名乗る時点で普通の戦闘を望むべくもないのは分かるのだが。」
何度目になるか分からない高速での打ち合いから階段の頂上、山門まで距離をとるとアサシンは深いため息とともにこうもらした。
下から睨み付けるバーサーカーは未だ健在。何度切りつけたかはわからないがほとんどダメージはないと見るのが妥当だとアサシンは判断した。
「拙者の刀もまだまだと言うことか。いやはや、世界は広い。」
愛刀、通常の日本刀とは一線を画す長さを持つそれを再び構え直しながら感嘆の声を挙げる。たった一羽のつばめを打ち取るために捧げた生涯。常に刀を振ることのみを考えてきたがそれでも全く届かない世界があるらしい。
「それにしても珍妙な……手応えがないと言うわけではないのだが。」
一度首を捻る。
それが果たして治癒なのか、それともまたなにか別なものによるものなのかは知るよしもなかったがそこまでを考える余裕はない。なにせ一撃一撃が必殺の威力を持っているのだ。今でこそ紙一重でかわしきっているものの一度でもその直撃を受ければ2度と立ち上がることは出来まい。
故に……アサシンは結論付けた。こちらに出来ることは一瞬として敵に隙を与えることなくこの綱渡りが成就するまでどこまでも攻め続けることのみ、失敗は死、そのもの。
直感的に導きだされたその答えにアサシンは身が震えるのを感じた。これこそが望んでいた命のやりとりである、と。
「面白い……!ならばこの勝負、どこまででも攻めきってみせようぞ!」
再び咆哮を上げその巨体からは想像もつかないスピードでかけ上がってくるバーサーカーを迎え撃つ。一直線に向かってくるその姿は確かに驚異だが対処のしようがないというものではない。その丸太のごとき腕が命を刈り取らんと振り上げられたその瞬間、逆にその胴を今度こそ切り裂いて見せる。
「■■■ーー!!」
「んなっ!?」
だがその思惑は外れることになる。予想よりもほんの数瞬、しかし紙一重の攻防を決するには充分過ぎる差異。
それに気付き咄嗟に体を翻しその身を階段から外れた木々の中に飛び込ませ回避する。
もしも迎え撃つのではなくこちらから向かっていたのなら間違いなく勝負は終わっていた。今しがたやり過ごした光景が脳裏を掠める。その端正な顔に汗を滲ませながらアサシンは立ち上がった。
それまでの打ち合いでバーサーカーのスピードは理解していたはず。それを見越した上で間合いを見極めたはずだった。
ーーだが事実としてやつの動きは私の想像を上回っていた。
それだけは絶対だ。
ここでアサシンの頭の中に3つの可能性が生まれる。1つ。単純なこと、バーサーカーのスピードを単純に見誤ったという可能性。2つ、バーサーカーが手を抜いていたという可能性。
しかしその2つはないだろうとその可能性は浮かんだ瞬間に捨てていた。
まず1つ目、今自分の集中力は生涯最高の時以上に研ぎ澄まされている。その状態でギリギリの競り合いを何度もこなしたのだ。それで敵の力量を見誤る等有り得ない。アサシンは自らの目を疑うことはしなかった。
そして2つの目、いかに優れた技術を持っているといってもあのバーサーカーは「狂って」いるのだ。殺せと命が下った以上その観念に従うのみ。手を抜くことはない、というよりもできないはずだ。
「となるとだ。」
必然的に可能性は3つ目に絞られる。
階段の下で余裕綽々といった笑みを浮かべる少女、イリヤスフィールをアサシンは睨み付ける。
「あら?もう気づいたの?へえ……日本のサムライっていうのは剣を振るのとチュウギ?以外は何の脳もないって聞いてたけどそう言う訳でもないみたいね。」
「生憎拙者には仕える主君もいなかったのでな。」
適当に世辞を聞き流し先を促す。気づいた、という言葉から察するに恐らく当たりだ。しかし確証はない。
「勉強になるわ。……ええ、お気づき通りバーサーカーはまだ全力じゃないわ、と言っても本気を出していないわけじゃない。」
「上限は貴様が抑えているというわけが。なるほど、随分と味な真似をしてくれる。」
「そんなに怒らないでよ。本気のバーサーカーは私でも抑えるのが大変なんだ……そのすきにどこかから攻撃でもされたら困るでしょ?」
アサシンが導きだした3つめの可能性……それはバーサーカーの力そのものをマスターが抑えているというものだった。
バーサーカーはその狂化の具合によって戦闘力が変わる。とある女狐の話だが頭に残しておいてよかったとアサシンは初めて感謝した。
「話は分からんでもない。それでだ、今の狂人は全力なのかな?」
これが一番大事なことだとアサシンは踏み込んだ。確かに面食らいこそしたが今の程度のスピードならばまだ対処できる。十分に対処可能。しかしだ……もしも、もしもまだまだ上がるのだとしたら……
「試してみる?」
そう愉しげに赤く目を光らせてイリヤスフィールが告げた途端、距離を取っていたはずの巨人の威圧感が跳ね上がる。
答えはイエスか。背筋に走る震え、自分の想定を遥かに上回る相手との勝負に対する心からの渇望。これが武者奮いかと実感しながらアサシンは先をの見えない戦いへと一歩を踏み出した。
「そこまで。」
しかしだ。どうやら今世は闘う相手こそいるものの生前のように自由気ままにという訳には行かないらしい。
再びため息、だが今回は失望によるもの。
アサシンは自らの運命を嘆きながら上空を眺める。
そこに浮かぶは眩いばかりに広がる大量の魔方陣、そしてその中心に悠然と構える魔女だった。
「なに?今更出てきてしたりがおってわけ?キャスター。言っておくけれどもその程度じゃ私のバーサーカーは殺れないわよ。」
同じようにそれを眺めながらイリヤスフィールが吐き捨てるように言う。その声には今までのどこか楽しげだった少女の面影はなく、冷淡な魔術師のそれに変わっていた。
「ええ。分かっているわよ。アインツベルンのマスター。恐らく全開にしたところでバーサーカーは倒せない。けれど……貴女を守りきることもできないのではなくて?」
「へえ……そういうこと。」
睨み合う。
これではどちらも露骨に動くことは出来ない。
状況はキャスターの乱入で一気に膠着化した。どちらが動いても両方死ぬ。今出来上がったのはそういう状況だ。
キャスターの魔術が如何に桁外れなものであろうとバーサーカーを突破することは出来ない。たが魔術師のイリヤスフィールにはどうやっても防げない。
かといって下手に動けばイリヤスフィールを倒せたとしても暴走したバーサーカーを止める術はキャスターにはない。逆もまた同じこと。
それが分かっているからこそのこのにらみ合いだ。アサシンとてここで独断専行をするほど浅はかではない。
「それじゃあ望みはなに?交渉のためにわざわざ手の内を晒したんだと思うけど?」
沈黙を破ったのはイリヤスフィールの方だった。何か諦めたように一息つくと肩の力を抜いたように組んでいた腕をだらりと下げる。
「ええ、もちろんそのつもりよ。なにも多くは望まないわ。……とりあえずここは引き分けと言うことで手を打ちましょう。」
その姿勢を見てキャスターもどこか安堵したような笑みを浮かべそう告げた。
「よく時間を稼いでくれましたねアサシン。今回は褒めてあげましょう。」
「随分と機嫌が良いのだな。」
イリヤスフィールとバーサーカーが立ち去りその気配が完全に途絶えた頃、ようやく警戒を解いたキャスターが珍しくアサシンを褒めた。もっとも、その行動がアサシンから見ればあまりにも気持ちが悪いと言うか予想外であり、闘いを邪魔されたということもあり素直に受け止めることはなかったが。
「ええ、あれは恐らくこの闘い最強の怪物ですもの。それに加えて私の相性は最悪。これ以上の結果はまず望めない。」
そんなアサシンの内心など露知らずキャスターは上機嫌のまま続ける。不機嫌よりはずっといいのだがこれはこれであまり見ていたいものではないなとアサシンは心の奥で毒づいた。
「とりあえず次へ向けた対策を練らないと……それでは私は戻ります。アサシン、警戒を怠らないように。」
「分かっている。私はそれだけのための存在だ。」
よろしい、とキャスターが境内に戻っていくのを見送るとアサシンは脱力する。
流石に今日は疲れたと言わざるを得ない。アサシンは今までにない疲労感を覚えていた。
「しかしだ……」
まだやることがあると先程自分が吹き飛びあれ放題になった斜面、そちらへとゆっくり歩いていく。気配はまだ消えてはいない、まだいると見て問題ないはずだ。
「盗み見は感心せんな。貴様もサーヴァントだろう?」
「あっ……」
ーーーーー
「あ……」
やってしまった、と背筋がサァっと寒くなる。まさか隠れていた場所の近くに飛んでくるなんて思わないじゃないの!?
もしやと思ったがやはり気づかれていたみたいだ。
「えーと……こんばんわ。」
なぜこんな時一番最初に出てきたのが挨拶なの自分でも理解できない。それに目前の侍が答えるわけもない。
万事休すか。あんまりな偶然に私は自分の運命を呪った。
「くっ……ははは!なぜそこで挨拶が出てくる!いやはや、緊張も抜けてしまうわ。」
返ってきたのは予想外の爆笑。
殺気もなにもないその姿に私も思わず警戒を忘れてキョトンとしてしまった。
「なに、殺さないの?この間合いなら一息に殺せると思うけど。」
「いやいや。私が任されているのはここの門番だ。この山門を越えるというならそのようにするがそうでないのならわざわざこちらから手を下す気は毛頭ない。何より意外と消耗していてな。万が一初撃をかわされるようなことがあればこちらが危ないのでな。」
「ふーん。」
絶対に嘘だ。そう嘯くアサシンだが本気でそんなことを思っているわけではないだろう。
なぜ私を見逃す気になったのかは定かではないがここに2人サーヴァントがいるということが関係しているのかもしれない。
「それじゃあ私はここを通る気はないわ。このまま帰ってもいいのよね。」
「構わぬ、次に来るときは死ぬ気で来るが良い。そうでなければあの女狐は止められんぞ。」
「そうね。」
やっぱり全部お見通しじゃないか。遊ばれたという釈然としないもやもやを胸に秘めたまま私は衛宮家への家路を急いだ。
「柳洞寺に行ったですって!?」
「ええ凛。貴女だってあそこがおかしいってのは分かってたでしょ?」
「それはそうだけど貴女ねえ……」
「痛い痛い!遠坂!肩に手食い込んでるから!!」
家に帰った私を待っていたのは玄関で仁王立ちする凛の姿だった。
士郎から地図がなくなったという話を聞いてある程度は察していたらしい。因みに時刻は午後9時。今の声量で士郎の悲鳴が続くようなら十分近所迷惑になる時間帯だ。
「私だって様子見のつもりだったからそんなに目くじらたてないでよ。それにあそこにサーヴァントが2体いるって分かったのは収穫でしょ?」
「まあそれはね……」
私が見てきたことをありのままに伝えると凛の怒りも収まったようだ。因みに凛が怒っていた理由はどうやら昼であろうとへっぽこである士郎を一人にするのは有り得ない判断だということだ。ここまで信用がない士郎も士郎だが少し私も軽率だったかもしれないと反省してしまったことからもそれは正しいのだろう。
余談だがアサシンに見つかった件は割愛してある。もちろんだ。
「それじゃあ」
「後はライダーだけね。判明してないのは。」
何はともあれこれで残るサーヴァントはライターのみで他は全て判明したことになる。これはこれで良い兆候なのは間違いない。
「む……そうね……」
「どうしたのよ凛?」
だというのに凛の表情はどこか浮かない。そう言えば怒っていた最初からそうだ。 何か気になることでもあるのだろうか。
「実はね……」
凛がなんだなんだと寄ってくる士郎を追い払って私の耳に口を寄せる。
「どうも学校にサーヴァントっぽい兆候があるのよ。私だけだと色々難しいから明日なんとか学校にこれない?士郎に言うと絶対反対だなんだ煩いから出来る限り内緒で。」
どうもです。なんだかお気に入りが一気に増えてテンパる作者です。
嬉しいことなんですけどね笑
えーとすこし問題が発生しまして。スマホで打ち込んで投稿しているのですが事情があり現在替機なのですが文章の始めに一マス空欄が作れないなぞアクシデントが……携帯が戻り次第修正いたします。
評価、感想、お気に入り登録じゃんじゃん待ってます!
せっかくなんで評価バーオレンジいきたいなあなんて思ったり。仕方ないから入れてやるよってかたいらっしゃいましたら是非!笑感想もよろしくです!
それではまた!