少女たちのラッシュデュエル・ストーリー   作:高科奈紗

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第1話「はじめてのラッシュデュエル」

 

 薄暗い空間で対峙する2人。

 片方は茶色の髪に前髪が黄色という奇抜な髪型の少年。

 もう片方は怪しげな仮面で顔を覆い、ライトブラウンの長髪を後ろで束ねた少女。

 対峙する2人の左腕には、数字の『7』のような形をした赤色の機械が装着されている。

 

「ライト・ソーサラーとダーク・ソーサラーをリリース!」

 

 少年がそう言うと、眼前に佇んでいた2人の魔道士が姿を消す。

 そして少年は1枚のカードを天高く掲げる。

 

「ゆく手を阻む壁も、山も、惑星も! ロードを切り開いて突き進む!」

 

 少年がカードを機械に設置すると、機械から光の柱が放たれる。

 そして放たれた光の柱から姿を現したのは……

 

「いくぞ! セブンスロード・マジシャン!!」

 

 赤い炎を宿した、小さな魔術師。

 

「あのカードだけは、絶対に……!」

 

 少年は鋭い目付きで唇を噛み締め、そう独りごちる。

 その決意に満ちた目に宿るのは、怒りか、焦りか、それとも……

 

「バトル! セブンスロード・マジシャンで、ヴォイドヴェルグ・レクイエムに攻撃! セブンスマジック!!」

 

 少年が、炎を宿した魔術師……セブンスロード・マジシャンに攻撃を命じる。

 セブンスロード・マジシャンが飛び立ち、剣型の錫杖を天高く振り上げ、そして勢いよく振り下ろし……魔力の波動を放つ。

 その向かった先にいるのは……巨大な異形の怪物。

 

「迎え撃て! アルティマ・レクイエム!!」

 

 異形の怪物……騎士を思わせる龍、ヴォイドヴェルグ・レクイエムが、少女の号令と共に禍々しい光線を放つ。

 

 ぶつかり合う、2体のモンスターの攻撃。

 拮抗した攻撃の余波が周囲に飛び散り、壁や柱を砕く。

 そしてその光景をモニター越しに眺めている1人の少女……

 

「ふっくっく……」

 

 ウサギのぬいぐるみを抱きしめながら、不敵な笑みを浮かべるブロンドヘアの小柄な少女。

 その少女の手に納められている1枚のカード……水色のアンクが描かれた、緑色で縁取られたカード。

 

「このカードさえあれば、ふっくっく……」

 

 少女はそのカードを掲げ、邪悪な笑い声を上げ続けた。

 

 *

 

 清栄中学、1年1組。

 授業とホームルームが終わり、閑散とした教室の中。

 2つの机をくっつけ、対面に座っている2人の少女がいた。

 

「ミク! ちゃんとデッキ持ってきた?」

 

 ライトブラウンの長髪を2つ結びで束ねた少女、遊見(すさみ) 侑芽(ゆめ)がそう言うと、対面に座っていたもう1人の少女がカードの束を取り出しながら口を開く。

 

「無論。そちらこそ抜かりはないな、盟友ユメ?」

 

 白髪ボブヘアの少女、西条(さいじょう) 未来(みく)は机の上にカードの束を置き、挑発的な表情を侑芽に向ける。

 

「もちろん! この通り!」

 

 侑芽もまた、鞄からカードの束を取り出し、未来と同じように机の上に置く。

 

 ラッシュデュエル。

 小・中学生の間で大流行している、カードゲーム。

 そのカードゲームをプレイするのに必要なのが、2人が机の上に置いたカードの束……《デッキ》と呼ばれる物。

 

「よーし、それじゃあ……」

「なにがそれじゃあ、なのかな?」

 

 侑芽と未来の肩がビクッと跳ね上がる。

 2人が声の聞こえた方向……教室の外、廊下に目を向ける。

 

「日が暮れる前に帰りなさいよ」

「はーい、白雪先生」

「心得ております」

 

 2人の担任の先生はそう言って踵を返した。

 カード遊びを咎められるのでは、と思っていた侑芽は安堵の溜息を溢す。

 

「興を削がれたが、気を取り直して……」

「ああああああぁぁぁぁ〜〜〜〜!!!!」

 

 再び2人の肩がビクッと跳ね上がる。

 

「それ! ラッシュデュエル! だよな!?」

「うん、そう……だけど?」

 

 ライムグリーンのベリーショートなボーイッシュ少女が、2人の机の上に肘を置く。

 侑芽は若干、引き攣った表情で……未来は無表情で、突然のニューチャレンジャーを見遣る。

 

「アタイも! ラッシュデュエル! やるんだ〜!」

「へ、へ〜?」

「……………………」

「あっ! 自己紹介がまだだった! アタイは冬川(ふゆかわ) 希菜(きな)! 1-2!」

「私は遊見 侑芽だよ」

「我が名は西条 未来」

「ユメにミクだな! 覚えた覚えた!」

 

 侑芽は苦笑いを浮かべ、内心で「推しが強いなこのヒト……」と思い、それを飲み込んだ。

 未来は無表情のまま。

 

「キナちゃんは、ラッシュデュエル経験者?」

「それはもう!」

 

 えっへん! と胸を張る希菜。

 根拠のない自信なのか、単なる虚勢か……。

 

「どっちも同じじゃないか!」

 

 地の文に突っ込まないでください。

 

「……とにかくとにかく! ラッシュデュエルするならアタイも混ぜてよ!」

「いいけど……私たち、初めてなんだよね」

「ほうほう?」

 

 希菜が、侑芽と未来の顔を交互に眺める。

 それを何度か繰り返し……

 

「だからデュエルディスクも無しにデュエルしようとしてたのか」

「「デュエルディスク?」」

 

 侑芽と未来の言葉が重なり合い、2人同時に首を傾げる。

 希菜は鞄の中をガサゴソと漁り、2つのコンパクトサイズな6角形の機械を差し出す。

 

「これがデュエルディスク! デュエリストのひちゅじゅ……必需品!」

「噛んだ」

「噛んでない!」

「ああ、そういえば姉さんやウラちゃんがこんなの使ってたね」

「然り」

 

 侑芽の言葉に、未来がコクコクと頷く。

 

「将来有望なキミたちに、これを進呈しよう!」

「えっ、いいの!?」

「いいのいいの! ウチ、オモチャ屋だから! 古いタイプの在庫処ぶ……げふんげふっ」

「在庫処分って言った」

「言ってない!」

 

 侑芽と未来はデュエルディスクを受け取り、左腕に装着する。

 

「お〜……見た目通り、すっごく軽い!」

「ふわっふわの洋風卵焼きの如し」

「お腹の空く例えだなぁ!?」

 

 侑芽がデュエルディスクの操作をすると、前方にディスクが展開された。

 青色の3つのカードスロットが現れたのだ。

 

「……G?」

「数字の6じゃないかな?」

「どっちでもいいけど、ここで展開するなって……ほら! せっかくだから広い場所に行くぞ!」

 

 侑芽と未来は、希菜に腕を引かれて教室を後にする。

 そしてたどり着いた場所は……屋上。

 

「ここなら思う存分、デュエルできるだろ〜!」

「教室じゃあ、ダメなの?」

「ダメダメ! NG NG!」

 

 若干、イラッと来るが顔に出さずに飲み込む侑芽。

 未来は2人の事など意に介さず、自分のデッキをデュエルディスクのデッキスロットに装填する。

 

「なんだミク、やる気満々だな〜?」

「当然。さあ盟友ユメ、構えよ」

「えっと……ここに入れればいいんだよね?」

「そうそう」

 

 侑芽もデッキを装填し終え、互いに10mほど距離を取る。

 

「アタイが基本的なルールを説明する!」

「あっ、ディスクからキナちゃんの声がする」

「デュエルディスクに搭載されてる機能の1つ! 音声ネットワークシステム! これで対戦相手やギャラリーの声が届くんだ!」

 

 3人の距離は普通に会話するには離れ過ぎている。

 そこで活躍するのがその機能。

 希菜もデュエルディスクを展開し、そこに内蔵されている内部マイクに向かって声を上げていた。

 ……もっとも、声が大き過ぎてノイズが走っている上に普通に肉声が聞こえているのだが。

 

「最初の手札は4枚!」

 

 2人はデッキから4枚のカードを引き抜き、それを手に持つ。

 

「そして『ラッシュデュエル!』の掛け声でデュエルスタート!」

「なるほどね! それじゃあ……いくよ、ミク!」

「いざ行かん」

「「ラッシュデュエル!」」

 

 侑芽 LP4000 vs 未来 LP4000

 

 掛け声と共に、2人を覆うようにドーム状のホログラムフィールドが展開される。

 これこそが、デュエルディスクの一番の醍醐味。

 

「ライフポイントは4000! 先に0になった方が負けだからな! ……ターンランプはミクのが光ってるから、ミクが先攻! まずはドローフェイズ、カードを1枚ドローするんだ!」

「我のターン、ドロー!」

 

 未来はデッキから1枚のカードを勢いよく引き抜き、引いたカードを手持ちに加える。

 これで未来の手札は5枚になった。

 

「そしてメインフェイズ! モンスターの召喚や魔法の発動、カードのセットを行う!」

 

 未来は自分の手札のカードを凝視する。

 そして希菜の方へ向き直る。

 

「ルンぺルシュティルツヒェン、確か、4つ以下の宿星を持つ者は贄を必要としないのだったな?」

「んっ? んん? るんぺ……? にえ……?」

 

 目を細めて首を傾げる希菜。

 頭上にはハテナマークが3つ並んでいる。

 

「あー……えーっと、『キナちゃん、確かレベル4以下のモンスターは無条件で召喚出来るんだよね?』って言ってるの」

「ちゃんと分かるように言えぇ!! っていうかユメはなんで分かるんだ!」

「まあ、幼馴染だからね〜」

 

 侑芽は軽く笑いながら頭を掻く。

 

「はぁ……レベル4以下はそのまま出せる! レベル5以上のモンスターはリリースが必要!」

「心得た。そしてラッシュデュエルの真髄……それこそが!」

 

 未来は手札から3枚のカードを引き抜き、それぞれをカードスロットに設置する。

 

「スペル・アーチャー! 魔獣ウォルフラム! ダーク・ソーサラー!」

 

 デュエルディスクから3本の光の柱が放たれる。

 そしてその中から……緑色の射手、赤色の獣、暗黒の魔道士が姿を表す。

 

 スペル・アーチャー(星3/ATK 1000)

 魔獣ウォルフラム(星3/ATK 1100)

 ダーク・ソーサラー(星4/ATK 1500)

 

「モンスターが……実体化した!」

「これがデュエルディスクの醍醐味! ソリッドビジョンシステム! まるで本物のような臨場感を味わえるんだ!」

「しかも一気にモンスターが3体も!」

「ラッシュデュエルに召喚数の制限は無いからな! 3つのモンスターゾーンを好きなだけ使えるってわけ!」

 

 意気揚々と解説している希菜を尻目に、未来は残りの手札を全て裏側でデュエルディスクに差し込む。

 

「我はカードを2枚、影に潜ませる」

「カードを2枚セット、って言ってるんだよな?」

「そうだね」

「疲れるわ……! ……次はバトルフェイズだけど、最初のターンは行えない! まだ準備が整ってない相手に攻撃を仕掛けるなんてフェアじゃないからな!」

 

 いわゆる1つの騎士道精神。

 ルールとマナーを守って楽しくデュエルだ! 

 

「最後にエンドフェイズ! ターンエンドの宣言でターンが変わる!」

「我のターンは終わりだ」

「次は私のターンだね!」

 

 侑芽が自分の手札を見遣る。

 インターステライムが2枚、ブライト・センチネルにシャドウ・センチネル……攻め入るには少々、力不足が否めない手札だ。

 

(なら、ドローするカード次第……なにが起きるか分からないワクワク感! これがデュエルの楽しさ?)

 

 心の奥で燻って燃えるナニカ。

 それを侑芽は、本能で感じ取った。

 

「……ドロー!」

 

 侑芽はデッキに指を置き、1枚のカードを引き抜く。

 そしてそのカードに目を向ける。

 

「よし! シャドウ・センチネル、ブライト・センチネルを召喚!」

 

 シャドウ・センチネル(星4/ATK1500)

 ブライト・センチネル(星4/ATK1500)

 

 侑芽のデュエルディスクから放たれた2本の光の柱から飛び出した、黒色の騎士と白色の騎士。

 まるで対になっているかのような容姿と色使い。

 

「へぇ、ユメはギャラクシーデッキ。ミクは魔法使いデッキか」

「そして……!」

 

 侑芽は1枚のカードを掲げ、叩きつけるようにディスクへ置く。

 

「光の刃が天の河を駆ける時、勇者来たりとその名を呼ぶ! トランザム・ライナック!!」

 

 トランザム・ライナック(星4/ATK 1600)

 

 宇宙のように青白く光る銀河の戦士が、侑芽の前に降り立つ。

 その右にブライト・センチネル、左にシャドウ・センチネルが剣を構えて立つ。

 

「おぉ! 召喚口上なんて、やるなユメ!」

「えへへ……姉さんの見よう見まねだけどね」

 

 盤上に揃った3対のモンスター。

 侑芽のモンスターの攻撃力は、未来の従えるモンスターのどれよりも同等以上。

 

「バトル! ブライト・センチネルでスペル・アーチャーを! シャドウ・センチネルで魔獣ウォルフラムを攻撃!」

 

 2体の銀河兵士が、緑色の射手と赤色の獣に襲い掛かる。

 そしてなす術もなく、未来のモンスターは斬り伏せられ……砕け散るように消滅した。

 

「っ……!」

 

 未来:LP 4000→3100

 

「攻撃表示モンスター同士で戦闘を行い、負けた方は超過分のダメージを受ける! これを繰り返して相手のライフポイントを0にしていくんだ!」

「まだ攻撃は終わってないよ! トランザム・ライナックでダーク・ソーサラーを攻撃!」

 

 侑芽の命令を受け、トランザム・ライナックが駆ける。

 

「ウォー・トゥ・ゼン! マニアック・ユウ・ダイ!」

 

 そしてダーク・ソーサラーを一刀両断。

 そのまま爆散して、消滅していった。

 

「くっ……」

 

 未来:LP 3100→3000

 

「えっへっへ〜、ターンエンド。このまま勝っちゃうよ!」

「最初の攻防はユメが制した……けど、なにが起きるか分からないのがラッシュデュエル!」

「我のターン……ドロー!」

 

 未来がデッキからカードを引き抜く。

 そして手持ちのカードを広げる。

 未来が持っているカードの枚数は、5枚。

 

「ラッシュデュエルはドローフェイズに手札が5枚になるようにドローできる! 大量召喚に大量ドロー! これがラッシュデュエル!!」

「……って事は、自分のターンで手札は使い切った方がいい?」

「それがセオリーだな!」

 

 侑芽の今の手札の枚数は2枚。

 つまり次のターンが回って来た時、3枚しかカードを引けない。

 1ターン目の攻防を制し、ライフポイントで優位に立っても……アドバンテージの観点から見たら侑芽が大きく不利。

 

「いでよ、はぐれ使い魔たち!」

 

 はぐれ使い魔(星1/ATK 0)

 

 未来のフィールドに新たに召喚されたのは、可愛らしい黒猫が2匹。

 

「攻撃力0? ミク、大ダメージ受けちゃうよ?」

「我がその程度の落ち手をするなどと思うことなかれ、はぐれ使い魔たちを贄に捧げ……」

 

 召喚されるや否や、超速でリリースされる2体のはぐれ使い魔。

 

「モンスターを墓地に送った……ってことは!」

「ハイドロ・マジシャン! 魔剣士アンサラー!」

 

 ハイドロ・マジシャン(星5/ATK 1700)

 魔剣士アンサラー(星6/ATK2000)

 

 水を操る魔術師と、魔剣を携えた炎魔が、未来の前に立ち並ぶ。

 

「レベル5と6のモンスターは、自分のモンスターを1体墓地へ送らないといけない! その分、レベル4以下よりも強力!」

「そして7つ以上の宿星を持つ者は、更に強大な力を持つ」

 

 未来はデュエルディスクに裏向きで差し込んである2枚のカードの内、1枚を引き抜いて表向きにひっくり返し、そしてまたディスクに差し込んだ。

 

「魔法発動、魔術のカーテン! 我の命を糧とし……手札の魔術師を降臨!」

 

 未来:LP 3000→2000

 

「いでよ、最上級魔術師……ブラック・マジシャン!!」

 

 ブラック・マジシャン(星7/ATK2500)

 

 未来のライフが1000ポイント削られると同時に、突如として現れた赤幕のカーテン。

 そのカーテンが開き、飛び出したのは黒衣を身に纏った魔術師。

 身の丈程の長さがある錫杖を構える。

 

「ブラック・マジシャン……!」

「レベル7以上のモンスターはリリースが2体必要だけど、カード効果による特殊召喚ならリリースは必要無し!」

「……………………」

 

 希菜の言葉に、心ここに在らずといった面持ちでブラック・マジシャンのソリッドビジョンを眺める侑芽と未来。

 

「おーい! デュエル中だぞ! ぼーっとするな〜!」

「はっ!」

「んっ……では、バトル! ハイドロ・マジシャン、シャドウ・センチネルに攻撃!」

 

 ハイドロ・マジシャンの放つ水の魔法を、シャドウ・センチネルは右腕の光波シールドで受け止める。

 しかし、ハイドロ・マジシャンの攻撃を受け止めきれず……シャドウ・センチネルは力尽きると同時に消滅した。

 

「うぅ……シャドウ・センチネル!」

 

 侑芽:LP 4000→3800

 

「魔剣士アンサラー! ブライト・センチネルを切り裂け!」

 

 魔剣士アンサラーがブライト・センチネルに斬りかかる。

 ブライト・センチネルは右腕の剣で受け止め、鍔迫り合いへと持ち込む。

 両者の力は互角、そのまま剣撃が続くと思われた瞬間……魔剣士アンサラーが力一杯に剣を振るい、ブライト・センチネルの体勢を崩す。

 その隙を突く形で魔剣士アンサラーは大きく剣を振りかぶり、ブライト・センチネルを袈裟斬りにした。

 

「ブライト・センチネルまで……!」

 

 侑芽:LP 3800→3300

 

「ブラック・マジシャン! トランザム・ライナックを蹴散らせ! 黒・魔・導(ブラック・マジック)!!」

 

 ブラック・マジシャンが錫杖を鮮やかな手捌きで振り回し、トランザム・ライナックに黒魔法を放つ。

 トランザム・ライナックは回避や防御をする間もなく、ブラック・マジシャンの攻撃の直撃を受けて……消滅した。

 

「うわぁぁっ!」

 

 侑芽:LP 3300→2400

 

「我はこれでターンエンド。盟友ユメ、これで形勢逆転だな?」

 

 クスクスと笑いながら挑発的な表情を向ける。

 ライフポイントに大した差は無い、モンスターの数は負けている、手札のアドバンテージも引き離されている、全てが不利な状況。

 侑芽はそれでも怯まずに、デッキに手を置く。

 

「まさか1ターンでひっくり返されるとは思わなかったよ! でも私だって……ドロー!」

 

 大きく右腕を振り、勢いよく3枚のカードをデッキから引き抜く。

 今の手札にあるカードは、攻撃力1000のインターステライムが2枚。

 未来のフィールドに存在するモンスターには到底、太刀打ちできるカードではない。

 

(このドローに掛かってる……何か役に立つカード、来て!)

 

 恐る恐る、ドローした3枚のカードを見遣る。

 1枚はインターステライム。

 そしてもう2枚のカードは……

 

「……来た! インターステライムを3体召喚!」

 

 インターステライム(星1/ATK 1000)

 

 侑芽が召喚したのは、ほのかにライムの香りが漂うヒトデのような形をしたスライム。

 とても戦闘向きのモンスターとは思えない風貌に違わず、攻撃力はたったの1000ポイント。

 未来のモンスターに攻撃を仕掛けても呆気なく返り討ちに合うのが関の山。

 

「戦闘態勢ではなく、防御態勢で召喚も出来たはず。そのようなモンスターで立ち向かおうなど……」

「私だって、そんな落ち手はしないよ!」

 

 侑芽はそう言うと、手札から1枚のカードを魔法・罠スロットに差し込む。

 

「そっちが魔法カードを使うなら、こっちも魔法カードを使うまで! 魔法カード、ギャラクティカ・フォースを発動!」

「おぉ! あのカードは!」

 

 希菜が大きな歓声をあげる。

 侑芽はニヤリと微笑んで、墓地にある3枚のカード……トランザム・ライナック、ブライト・センチネル、シャドウ・センチネルをデッキに戻した。

 

「墓地にあるギャラクシー族モンスターを3枚デッキに戻して、効果を発動! 私のフィールドにいるギャラクシー族の通常モンスターの攻撃力を、フィールド全域に居る通常モンスターの数×300ポイント上昇させる!」

 

 侑芽のフィールド、未来のフィールド、それぞれに存在するモンスターは全て通常モンスター。

 1体につき、300ポイントの上昇。

 つまり6体分となると……1800ポイント。

 

 3体のインターステライムが蒼白いオーラを放ち始め……

 

 インターステライム(ATK 1000→2800)

 

「攻撃力2800のモンスターが3体……だと!?」

「ミクのモンスターの攻撃力を上回った!」

 

 ターン開始までの余裕な表情は何処へ、未来の顔には焦りが見え始めていた。

 しかし、未来はすぐに安堵の息をつく。

 

(我の潜ませたカードは最強の罠、ダーク・リベレイション……盟友ユメが攻撃を行った瞬間、全滅!)

「えっと……これも使っておいた方がいいよね。魔法カード、ユニヴァーストームを発動!」

「えっ」

 

 侑芽がユニヴァーストームのカードをディスクに差し込む。

 するとオーロラのような輝きを放つ竜巻が、未来のセットしてあるカード目掛けて吹き荒ぶ。

 そして未来がセットしていたカード……ダーク・リベレイションは破壊された。

 

「うわ〜、ダリベなんて伏せてたのか。よかったなユメ、そのまま攻撃してたらオジャンだった!」

「そうなの?」

「デュエルディスクから画面を出して操作すれば、相手のフィールドや墓地のカードを確認出来るからやってみな!」

 

 侑芽はデュエルディスクを操作し、ディスプレイを展開。

 そして画面上に表示されている未来の墓地を指先でタッチする。

 すると、ディスプレイには墓地に送られたカードが並べて表示された。

 

「おぉ〜……これは便利!」

 

 ディスプレイをスライドしていき、1枚のカード……赤色で縁取られた、さっき破壊されたカード……罠カード、ダーク・リベレイションが目に止まる。

 それをタップし、拡大してカードテキストに目を通す。

 

「相手モンスターの攻撃宣言時、相手フィールドの攻撃表示モンスターを全て破壊する……なにこれ!?」

「ヤバいだろ?」

「……………………」

 

 侑芽はディスプレイを閉じ、未来へ向き直る。

 

「でも破壊されちゃったら意味ないね! これで心置きなく攻撃できるよ!」

「くっ……」

 

 未来が一歩、後退りする。

 自身を守る罠は破壊された、そして退路は無い。

 

「いくよ、ミク!」

「……こい、ユメ!」

「バトル! 1体目のインターステライムで、ハイドロ・マジシャンを攻撃!」

 

 インターステライムが猛スピードでハイドロ・マジシャンに体当たりをする。

 受け止めようとするも、ギャラクティカ・フォースの効果でパワーアップしたインターステライムに歯が立たず……押し負け、突進をモロに喰らい消滅した。

 

「ぐぅっ……!」

 

 未来:LP 2000→900

 

「2体目のインターステライムで、魔剣士アンサラーに攻撃!」

 

 2体目のインターステライムが魔剣士アンサラーに突撃する。

 魔剣士アンサラーの一太刀を、身を翻して躱し……ボディへ体当たりをかます。

 

「がぁっ……!」

 

 未来:LP 900→100

 

「これでトドメ! 3体目のインターステライムで、ブラック・マジシャンに攻撃!」

「っ……ブラック・マジシャン!!」

 

 3体目のインターステライムが空高く飛翔し、そこから急降下する。

 ブラック・マジシャンは錫杖で防御の態勢を取るも、その防御をすり抜けて……インターステライムの一撃が炸裂した。

 

「ぐわぁぁぁっ!!」

 

 未来:LP 100→0

 

 インターステライムが放った攻撃の余波が衝撃となり、未来を襲う。

 その衝撃で後方に吹き飛ばされ……未来の装着しているデュエルディスクに表示されているライフカウンターが0を示す。

 侑芽と未来のはじめてのラッシュデュエルは、侑芽の勝利で幕を閉じた。

 

「やった〜! 勝った!」

 

 ホログラムフィールドが解除され、ソリッドビジョンが消失していく。

 満面の笑みを浮かべて飛び回る侑芽。

 屋上のシンダーコンクリートに伏せる未来。

 勝者と敗者、どちらかしか勝利の栄光は掴めない。

 それが……ラッシュデュエルの世界。

 

「……流石、我が盟友」

 

 ゆっくりと未来が立ち上がる。

 侑芽はハッとした表情を浮かべ、デュエルディスクを展開前の状態に戻して未来の元へ駆け寄る。

 

「ミク! 随分と吹き飛ばされてたけど大丈夫!?」

「心配無用、なんとも無い」

「ホログラムフィールド内は安全装置が作動してるし、衝撃も擬似的なものだからな!」

 

 ブレザーやスカートに着いた埃を手で払い、未来もデュエルディスクを仕舞う。

 希菜の言う通り、未来には傷一つ見当たらない。

 

「2人とも、はじめてのラッシュデュエルはどうだった?」

「サイコーだったよ!」

「次こそは勝つ」

 

 そういうと未来は侑芽に向けて右手を差し出す。

 侑芽は未来の意図を汲み取り、力一杯に右手を握る。

 

「次も私が勝つよ!」

「よーし、じゃあ次はアタイと……」

 

 >マルデシンキロウ! テヲノバシテシンキロウ! 

 

「……なに、この曲?」

 

 突然流れ出し、自身の言葉を遮った音楽に怪訝な表情をする希菜。

 未来がスカートのポケットから携帯端末を取り出し、画面をタップする。

 すると音楽がピタリと鳴り止んだ。

 

「すまぬ、我が設定している警報音だ」

「お前のアラームかぁ!!」

「重ねてすまぬが、我はこれにて退散させてもらう。我が住処の門は刻が過ぎると堅牢に閉ざされる故」

「あんだって???」

「えっとね、ミクの家って門限が厳しいんだ。だから早めに帰らないといけないの」

「分かるかぁぁっ!!」

 

 怒号をあげる希菜を意に介さず、未来は腕を振って踵を巡らす。

 

「また、明日」

「うん! またね、ミク!」

「お、おう! またな〜!」

 

 屋上の扉を潜り抜け、未来の姿が見えなくなったところで希菜が侑芽にグイッと近寄る。

 

「さあさあ! 次はアタイと!」

「あー……私もそろそろ帰らないといけなくて」

「なにぃ〜〜〜!?」

「アハハ……ほんとにごめん! 明日やろう! またね、キナちゃん! 今日はほんとにありがとう!」

 

 侑芽は捲し立てるようにそう言うと、駆け足で屋上を後にする。

 背後から大声で何か言ってるのが聞こえるが、聞こえないフリをした。

 

(姉さん……ラッシュデュエルって楽しいね)

 

 少女は駆ける。

 帰り道を……そして、これからのラッシュデュエルの道を。

 

(見ててね、姉さん!)

 

 まだ、少女たちの道は、はじまったばかりなのだから。

 

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