少女たちのラッシュデュエル・ストーリー   作:高科奈紗

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第2話「データ・タクティクス」

 

「今ここに! ラッシュデュエル部の設立を宣言します!」

 

 侑芽と未来がはじめてのラッシュデュエルを行った次の日の放課後、希菜を含めた3人は教室に集まっていた。

 そしておもむろに椅子の上へ乗り出し、そう声高々に宣った。

 

「はしたないよ、キナちゃん」

「ルンぺルシュティルツヒェン、ラッシュデュエル部とは何ぞ」

「その、るんぺるナントカ……ってアタイの事でいいんだよな?」

 

 コクンと小さく頷く未来。

 怪訝な表情を浮かべる希菜。

 そのやり取りを、呑気に笑いながら眺める侑芽。

 

「普通に呼べよ!?」

「断る」

「なんで!?」

「まあまあ、キナちゃん落ち着いて。ミクを真面目に相手してたら疲れるだけだよ」

 

 ナチュラルに畜生な発言である。

 未来はどこ吹く風と言った面持ちでドヤる。

 

「はぁ……とにかくとにかく! アタイたちはこれから、ラッシュデュエル部として活動する! 部長はもちろんアタイ!」

 

 希菜は椅子から勢いよく飛び降り、胸を張って高笑いをする。

 

「さっきミクも言ってたけど、ラッシュデュエル部ってなに?」

「ラッシュデュエル部はラッシュデュエル部だ!」

「……そんな部活、うちの学校にあったっけ?」

「無いから今、作った!」

 

 つまり、非公式。

 

「……『生徒会規約 第39条 部活動の設立は設備を考慮し、生徒会及び評議会の承認を得なければならない』……だそうだ、ルンぺルシュティルツヒェン」

「うぐっ!」

 

 未来はブレザーの内ポケットから生徒手帳を取り出し、規約要項を読み上げる。

 

「……『部活動の構成員が5人に満たない限り、設立は原則として認めない』『1名以上の顧問を必要とする』……とも記載してあるが」

「うぐぅぅぃっ!!」

 

 今のラッシュデュエル部(仮)には、人員、設備、顧問……必要なものが全て不足しているのが現状だ。

 

「つまり、今の私たちじゃあ部活動としては認められないってことだね。……これ、詰みじゃない? もう5月も半ばだよ、みんな部活動に入ってるって」

 

 精神的ダメージを受けすぎてヨロヨロになっている希菜が、侑芽の肩をガシッと掴む。

 

「ま、まだだ……ユメの友達で誰か、いないのか!?」

「いないね〜、みんな何かしらの部活に入ってる」

「くそぉう!」

「……我には聞かぬのか?」

「あっ、お前は最初からアテにしてない」

「……………………」

 

 遠い目で窓の外を眺める未来。

 その瞳には憂いで満ち溢れていた。

 

「……ひとまず人員の問題は後回し! とりあえずとりあえず! 活動拠点をこれから見に行くぞ!」

「「活動拠点?」」

 

 侑芽と未来が同時に首を傾げる。

 

「そう! アタイの調べでは、放課後の視聴覚室はどこも使ってないらしいからな! アタイたちの活動拠点にはうってつけ!」

 

 *

 

 3人が並んで廊下を歩く。

 1階の教室が並んでいる廊下、その端っこに視聴覚室がある。

 

「鍵を借りてあるなんて、用意がいいねキナちゃん」

「そうでしょう! そうでしょう! もっと褒めてもいいんだぜ〜?」

 

「あはは……」と侑芽は笑って受け流す。

 視聴覚室の前に到着し、希菜が鍵を差し込んだ……その時だった。

 

「…………ん?」

「どうした、ルンぺルシュティルツヒェン」

 

 希菜の動きが止まった。

 そして、鍵を捻って解錠することなく鍵を引き抜く。

 

「すでに開いてる」

「えっ? 誰かいるの?」

「多分な」

 

 中から人気は感じない。

 照明も点いていないし、物音一つ聞こえはしない。

 3人は固唾を飲み、ゆっくりとドアノブを捻る。

 

 キィィィ……と、扉の軋む音が静寂を包み込む。

 恐る恐る、扉を開き……そして、視聴覚室の中に足を踏み入れる。

 

「……………………」

「うわぁぁっ!?」

 

 窓辺で分厚い本を片手に3人を凝視する、眼鏡を掛けたミントグリーンの毛先にカールが掛かった髪の少女。

 その少女を見るや否、情け無い悲鳴をあげて侑芽の後ろに隠れる自称部長。

 

「……なに?」

「あっ、えっと……ここ、あなたが使ってるの?」

 

 侑芽が、眼鏡少女に問う。

 眼鏡少女は持っていた本に視線を落とす。

 

「わたしが勝手に使ってるだけ」

「文芸部とかってわけじゃないんだ?」

「うん」

 

 本に視線を落としたまま、淡々とした口調で侑芽の問いに答え続ける。

 ホッと一息つき、侑芽の後ろから前へ歩を進める希菜。

 

「よ〜し! ならよく聞け! 今日からここを、ラッシュデュエル部の活動拠点とする!」

「……ラッシュデュエル部?」

 

 眼鏡少女が本から視線を上げ、希菜を見遣る。

 

「そんな部活、存在しない」

「今日、設立したばっかりだからな!」

「つまり、非認可。あんた達にそんな権利は無い」

「なにをぉう!?」

 

 眼鏡少女は呆れ顔でため息をついて、本に視線を戻す。

 希菜は肩を怒らせ、眼鏡少女に詰め寄ろうとする。

 

「まあまあ、キナちゃん。この人の言う通りだよ」

 

 侑芽が希菜の肩を掴んで制止する。

 観念したのか、希菜はあっさりと引き下がった。

 

「確かにアタイたちはまだ非公式、だけどこれから申請して正式な部活動として認めてもらうんだ! その為の第一歩として、この部屋を……」

「部活動の設立には5人必要で、あんた達は3人しかいないみたいだけど」

「うわぁぁぁっ!!」

 

 眼鏡少女の正論パンチが、希菜の鳩尾にクリーンヒット。

 

「うぅ、う〜! うるさぁい! この場所を賭けて、アタイと戦え〜!!」

 

 突然の宣戦布告。

 そしてあまりに理不尽な要求。

 眼鏡少女はポカンとした表情で希菜を見つめる。

 

「ちょっとキナちゃん、いくらなんでも無理矢理……」

「いいよ」

「へっ?」

 

 思わず素っ頓狂な声を上げてしまう侑芽。

 眼鏡少女は本を閉じ、机の上に置いて立ち上がる。

 そして3人の方へ向き直り、一歩……前へ出る。

 

「あんたが勝ったら、この場所を使わせてあげる」

「言ったな!?」

「言った」

 

 眼鏡少女は左手の人差し指で眼鏡をクイっと持ち上げる。

 

「よーし、なら何で勝負する?」

「なんでもいい。どうせ私が勝つから」

「こ、こいつ……!!」

 

 ピキピキと怒りマークが希菜のコメカミに浮かび上がる。

 眼鏡少女は余裕綽々な態度を崩さない。

 

「大した自信だね、この人」

「うむ、まさに強き者の風格……」

「ならラッシュデュエル部らしく、ラッシュデュエルで勝負だ!」

「ラッシュデュエル」

 

 眼鏡少女が、希菜の左腕に視線を移す。

 視線の先にあるのは、デュエルディスク。

 

「やったことないなら、デッキとディスクは貸すぜ〜?」

「要らない」

 

 眼鏡少女はそう言うと、机に掛けていた鞄の中からデュエルディスクとデッキを取り出した。

 

「……お前、ラッシュデュエルするのか!?」

「しない生徒の方が珍しいと思うけど」

 

「ぐぬぬ〜!」と唸り声をあげる希菜を横切り、視聴覚室を後にする眼鏡少女。

 

「屋上でやるんでしょう、早く行こう」

「言われなくても!」

 

 スタスタと歩いていく眼鏡少女の後ろを、希菜は駆け足で追う。

 

「……キナちゃん、大丈夫かな?」

「前途多難」

 

 2人は顔を見合わせ、視聴覚室の扉を閉めて……ゆっくりと屋上へ向かった。

 

 *

 

「そういえばお前の名前、聞いてなかったな」

 

 屋上でデュエルディスクを構えて相対する眼鏡少女と希菜。

 双方のディスクにデッキは装填済み。

 

「1年3組、瀬名波(せなは) 理香子(りかこ)

「アタイは……」

「1年2組、冬川 希菜」

「えっ!?」

 

 自己紹介もしていないのに名前とクラスを言い当てられ、ビックリした表情を浮かべる希菜。

 そして眼鏡少女……もとい、理香子は2人しかいないギャラリーへ目を向ける。

 

「そして1年1組、遊見 侑芽と西条 未来」

「わ、私たちのことも……?」

「……………………」

 

 理香子の視線が、未来の視線とぶつかり合う。

 そのまま数秒が経ち……理香子が小さく口を開く。

 

「……この人が、あの人の……」

「ミク、あの人にめっちゃ見られてたけど……知り合い?」

 

 未来がフルフルと首を横に振る。

 

「なんでアタイたちの名前を知ってるんだ! まさかストーカー!?」

「全校生徒の顔と名前ぐらいは頭の中に入ってる」

 

 理香子は右手の人差し指で、自身の頭を軽く叩く。

 

「この人、すごい人なのかも」

「ルンぺルシュティルツヒェンの勝機が見出せぬ」

「こらこら〜! やる前から敗戦ムードを出すな! なんたる弱気、NG NG!!」

「いいから、さっさとやろう」

 

 理香子はため息を吐き出し、左腕を前に突き出す。

 

「目にモノ見せてやるからな、リカコぉ!!」

 

「「ラッシュデュエル!」」

 

 希菜 LP:4000 vs 理香子 LP:4000

 

「わたしのターン、ドロー」

 

 先攻は理香子。

 デッキからカードを1枚ドローし、慣れた手付きで手札に加える。

 そして即座に手札から3枚のカードを引き抜く。

 

「火葬犬ニトロを3体、召喚」

 

 火葬犬ニトロ(星2/ATK 400)

 

 理香子が呼び出したのは、警察犬のような見た目をした3匹の犬。

 強力そうなモンスターに見えない雰囲気や風貌……しかし、火葬犬ニトロと理香子は目を合わせると……3匹同時に尻尾や首回りに装着されている機械から炎を噴き出し、その炎が希菜に襲い掛かる。

 

「ぐわぁぁぁっ!!」

 

 希菜:LP 4000→2800

 

「ルンぺルシュティルツヒェンがダメージを受けた……?」

「そんな!? 先攻1ターン目は攻撃できないんじゃ!」

 

 足元がよろめくが、希菜はすんでのところ持ち堪えた。

 そして侑芽と未来の方へ目を向ける。

 

「いや、今のは……モンスター効果!」

「「モンスター効果?」」

「……あんた達、そんなのも知らないの?」

「えっへっへ……昨日はじめたばっかりで」

「右に同じく」

「……火葬犬ニトロは、召喚したターンに400ポイントのダメージを与えられる効果を持ってるの」

「なるほど! 最初のターンに戦闘はできないけど、効果でならダメージを与えられる!」

「これで1つ、学びを得たな」

 

 理香子は呑気に駄弁る2人を見てため息をつき、残りの手札を全てディスクにセットする。

 

「カードを2枚セット、ターンエンド」

「アタイのターン、ドロー!」

 

 ターンが変わり、希菜の番。

 1枚ドローし、5枚となった手札から2枚のカードを勢いよく抜き出す。

 

「手乗りドラコ、ドラゴンズ・セットアッパーを召喚!」

 

 手乗りドラコ(星1/ATK 0)

 ドラゴンズ・セットアッパー(星1/ATK 0)

 

 希菜が呼び出したのは2体の小さなドラゴン。

 火葬犬ニトロ以上に戦闘向きではない見た目。

 その証拠に、どちらのドラゴンも攻撃力は0。

 

「キナちゃん、頭に血が上ってプレイングミス?」

「まさかまさか! この2体をリリースして、アドバンス召喚!」

 

 手乗りドラコとドラゴンズ・セットアッパーが消え去り、希菜が新たなカードをディスクに設置する。

 

「今、アタイの銀河に7つの超新星がガンマ線バースト! やめろっと言われてももう遅い、やめろっと言われてももう遅い! 2回言ったのは意味がある! さあ出てこい、連撃竜ドラギアス!!」

 

 連撃竜ドラギアス(星7/ATK 2500)

 

 新たに現れたのは、水色の巨大なドラゴン。

 希菜の背後に陣取り、圧倒的な威圧感を放つ。

 

「すごい! カッコいいドラゴンだ〜!」

「でしょでしょ〜? しかも、カッコいいだけじゃない、ドラギアスは2回攻撃の効果を持ってるのさ!」

「……………………」

「へっ! どうやらビビっちまったみたいだな! ドラギアスの効果を発動、ギアスチャー……」

「ドラギアスをよく見てみなよ」

「え? ……なっ!?」

 

 希菜が振り返ると、そこには……全身氷漬けにされたドラギアスの姿があった。

 

「ドラギアスが凍っちゃった!」

「ま、まさか……!」

「罠カード、永久凍結。わたしのフィールドにいる火葬犬ニトロを1体、墓地に送り……ドラギアスをデッキの1番下に戻す」

 

 ドラギアスを覆っていた氷が砕け散ると共に、ドラギアスも消滅。

 希菜は苦虫を嚙み潰したような表情を浮かべながら、連撃竜ドラギアスのカードをディスクから取り出し、デッキボトムに差し込む。

 

「せっかく大型モンスターを呼び出したのに、すぐに対処されちゃったよ……」

「まだまだ! ザ・ファイアドラゴンを召喚!」

 

 ザ・ファイアドラゴン(星4/ATK 1500)

 

 希菜はめげずに新たなドラゴン、全身が炎に覆われたドラゴンを呼び出す。

 ドラギアスを召喚する為に呼び出したモンスターとは違い、こちらは戦闘向きのモンスター。

 

「カードを1枚セット! そしてバトル!」

 

 希菜が最後の手札をディスクにセット。

 そして大きく腕を振りかぶり、火葬犬ニトロを指差す。

 

「ザ・ファイアドラゴン! 火葬犬ニトロに攻撃!」

「この瞬間、罠カード発動」

「またトラップ!?」

 

 理香子の前に1枚のカードが現れ、ゆっくりと開かれる。

 

「ケミカライズ・デスパイズ。炎族モンスターが攻撃を受ける時に発動、その攻撃を無効にする」

 

 ザ・ファイアドラゴンから攻撃を受ける直前、ケミカライズ・デスパイズから放たれた青い炎が火葬犬ニトロを守護するように渦巻き、ザ・ファイアドラゴンから身を守る。

 攻撃を中断されたザ・ファイアドラゴンは引き下がり元の位置へと戻った。

 

「くそぅ……ターンエンド」

「わたしのターン、ドロー」

 

 理香子のターンに移り、カードを5枚ドロー。

 理香子のフィールドには火葬犬ニトロが2体。

 ザ・ファイアドラゴンの攻撃力には遠く及ばないが……手札は潤沢にある。

 

「なんだか……キナちゃんのやる事なす事、全部躱されちゃってるね」

「うむ、まるで全部読まれているかのような」

 

 理香子はディスクに置いてある火葬犬ニトロのカード2枚を取り除き、手札から2枚のカードを置く。

 

「2体の火葬犬ニトロをリリース。フレイム・ケルベロスを2体、アドバンス召喚」

 

 フレイム・ケルベロス(星6/ATK 2100)

 

 そして新たに召喚されたのは、全身が炎に包まれた3つ首の魔獣が2匹。

 

「攻撃力2100! ザ・ファイアドラゴンより上!」

「だが、2体の攻撃を受けてもルンぺルシュティルツヒェンの命は尽きぬ」

 

 未来の言う通り、攻撃力1500のザ・ファイアドラゴンが攻撃を受け、その後に直接攻撃を受けても……希菜のライフポイントは100残る。

 

「墓地の火葬犬ニトロをデッキに戻し、魔法カード……炎の天秤を発動」

 

 理香子は墓地から火葬犬ニトロを1枚取り出し、デッキに加える。

 そして現れた真紅の天秤。

 その4つの台座に真っ赤な炎が灯る。

 

「この効果でフレイム・ケルベロスの攻撃力は500ポイントアップ。そしてザ・ファイアドラゴンの攻撃力は500ポイントダウン」

 

 フレイム・ケルベロス(ATK 2100→2600)

 ザ・ファイアドラゴン(ATK 1500→1000)

 

「マズイ、このまま攻撃を受けたらルンぺルシュティルツヒェンの命が……!」

「っ……」

 

 希菜は冷や汗を垂らし、炎の天秤で強化されたフレイム・ケルベロスを見遣る。

 

「カードを2枚セット。バトル、炎の天秤の効果を受けたフレイム・ケルベロスで、ザ・ファイアドラゴンに攻撃」

 

 フレイム・ケルベロスがザ・ファイアドラゴンに全速力で接近し、3つの頭でザ・ファイアドラゴンを食い破る。

 

「ぐぅっ……!」

 

 希菜:LP 2800→1200

 

「意外と呆気なかったね。フレイム・ケルベロスで、冬川にダイレクトアタック」

 

 フレイム・ケルベロスが希菜に向かって急速接近する。

 希菜の眼前まで迫り来る……その瞬間。

 

「キナちゃんっ!!」

「このままやられて、たまるかぁ! 罠カード発動、手札増刷!!」

 

 希菜の前に伏せられていたカードが開かれる。

 するとフレイム・ケルベロスの動きが止まった。

 

「相手モンスターの攻撃宣言時に発動できる罠カード。手札が5枚になるようにドローし、全て公開。モンスターの数×200ポイントのライフを回復する」

「よく知ってるじゃん、リカコ」

「カードの効果を覚えておくのはデュエリストとして当たり前」

 

 希菜がデッキの上に手を置く。

 残りのライフポイントは1200、そしてフレイム・ケルベロスの攻撃力は2100。

 

「ってことは……ドローするカード全部がモンスターじゃないとキナちゃんの負けってこと!?」

「分の悪すぎる賭け……まさに藁にも縋る思い」

 

(頼むよ、アタイのデッキ……!)

 

 希菜は心の中で精一杯に祈る。

 そして……5枚のカードをデッキから一気に引き抜く。

 

「さあ、ドローしたカードを見せて」

「……ほらよ!」

 

 口元に不敵な笑みを浮かべながら、手札を全て見せつける。

 希菜がドローしたカードは……アタック・ボルケーノ・ドラゴンが3枚、トレジャー・ドラゴン、ジャスティス・ドラゴン。

 

「全部、モンスターカードだ! これでアタイのライフは1000ポイント回復!」

 

 希菜:LP 1200→2200

 

「やった! これでギリギリ耐えられる!」

「……攻撃続行、いけ、フレイム・ケルベロス」

 

 フレイム・ケルベロスが希菜に飛び掛かり、鋭い爪で引っ掻く。

 

「っ……へっ! これぐらい!」

 

 希菜:LP 2200→100

 

「ターンエンド。炎の天秤の効果が終わり、フレイム・ケルベロスの攻撃力は元に戻る」

 

 フレイム・ケルベロス(ATK 2600→2100)

 

「こっからアタイの反撃&反撃! ドロー!」

 

 希菜が勢いよく1枚のカードをドローする。

 

「手札が5枚以上でターンが回って来た時は1枚ドローなんだね」

「最低でも1枚はドローしなくちゃいけない」

「説明ありがとう、リカコちゃん!」

「……………………」

 

 ふいっと顔を背ける理香子。

 未来が侑芽の肩を軽く小突く。

 

「人誑しめ」

「えっ、なんのこと?」

「……………………」

 

 侑芽と未来の漫才を尻目に、希菜は真剣な表情で手札を眺める。

 今の手札は6枚。

 だが、その半分はレベル7のモンスター……強力な分、リリースが2体必要な重いカード。

 

「手札のカードが重くて、思うように動けないんじゃない?」

「っ……!」

 

 ギクリと希菜の肩が飛び跳ねる。

 

「図星、ね」

「……それはどうかな!」

「えっ……?」

 

 希菜が再び不敵な笑みを浮かべ、ドローフェイズで引き当てたカードをディスクに差し込む。

 

「魔法カード、ドラゴニック・プレッシャー!!」

 

 希菜は手札のアタック・ボルケーノ・ドラゴン2枚とトレジャー・ドラゴンの合計3枚を墓地へ送る。

 

「手札のドラゴン族3体を墓地に送り……フィールドに存在する全てのモンスターを破壊する!」

 

 フィールドに暴風が吹き荒び、フレイム・ケルベロスが回りながら空に打ち上げられ……消滅していった。

 

「リカコちゃんのモンスターを全部倒した!」

「更に、墓地のレベル4以下のドラゴンを守備表示で復活させる! こい、トレジャー・ドラゴン!」

 

 トレジャー・ドラゴン(星3/DEF 0)

 

 王冠を頭に被った小さなドラゴンが降り立つ。

 そして腕を構えて防御の姿勢を取る。

 

「よ〜し、これで形成逆て……」

「罠カード、発動。暴虐の報い」

「なっ!?」

 

 理香子が1枚のカードを発動する。

 周囲に薄暗い暗雲が立ち込め……

 

「多くの命を奪ったその報い、受けよ」

 

 フレイム・ケルベロス(星6/DEF 1800)

 

 景色がはっきりすると、破壊されたはずの2体のフレイム・ケルベロスが復活していた。

 

「な、なんで!? さっき破壊されたはずじゃあ……!」

「……複数のモンスターが同時に破壊された時に発動できる、罠カードだ! 墓地のモンスターを2体まで復活できる!」

「そんな……もしかして、こうなることもリカコちゃんは予測してたの……?」

 

 理香子は何も言わず、左手の人差し指で眼鏡をクイっと持ち上げる。

 

「まだアタイのターンは終わってないぜ! トレジャー・ドラゴンの効果! 特殊召喚したターン、デッキからカードを1枚ドローできる!」

 

 デッキから1枚のカードを勢いよく引き抜く。

 そしてトレジャー・ドラゴンを墓地に送り、手札のカードをディスクに置く。

 

「トレジャー・ドラゴンをリリースして、ジャスティス・ドラゴンをアドバンス召喚!」

 

 ジャスティス・ドラゴン(星5/ATK 1200)

 

 三又の槍を携えたドラゴンが出現。

 そして手に持っている槍を天高く掲げた。

 

「墓地の手乗りドラコとトレジャー・ドラゴンをデッキに戻し、ジャスティス・ドラゴンの効果を発動! このカードは2体分のリリースに出来る!」

 

 希菜は続けてジャスティス・ドラゴンをディスクから取り出し、新たなカードを置く。

 

「ジャスティス・ドラゴンをリリースして、アドバンス召喚! 全てを燃やし尽くせ、アタック・ボルケーノ・ドラゴン!!」

 

 アタック・ボルケーノ・ドラゴン(星7/ATK 2300)

 

 消滅したジャスティス・ドラゴンの上空から、灼熱の炎を身に纏ったドラゴンが舞い降りる。

 

「更に魔法カード、パラレルバース・ゲートを発動!」

 

 デッキトップのカードを墓地に送り、墓地から2枚のカードを取り出す。

 

「デッキの一番上のカードを墓地に送り、手札が0枚なら墓地の通常モンスター2体を復活させる事出来る! 蘇れ、アタック・ボルケーノ・ドラゴン!!」

 

 希菜の前に立ち並ぶ、3体の灼熱の炎を纏いしドラゴン。

 そのけたたましい咆哮に、フレイム・ケルベロスが身じろぎする。

 

「一気にレベル7のモンスターが3体も!」

「流石は自称部長」

「へっへ〜、バトル! アタック・ボルケーノ・ドラゴン、フレイム・ケルベロスを焼き払え!」

 

 2体のアタック・ボルケーノ・ドラゴンの放つ灼熱の光線を受け、2体のフレイム・ケルベロスは2度目の消滅を迎えた。

 守備の体勢を取っていた為、理香子にダメージは入らなかったが……これで理香子を守るモンスターは全て居なくなった。

 

「次はダイレクトアタックだ! いっけ〜!!」

「罠カード、発動。炸裂装甲(リアクティブアーマー)。攻撃してきたモンスターを破壊する」

「なぁっ!?」

 

 アタック・ボルケーノ・ドラゴンがブレス攻撃を放つ直前、理香子が発動した罠カードの効力でアタック・ボルケーノ・ドラゴンは爆散した。

 

「ま、またトラップ……! ターンエンドだ!」

「わたしのターン、ドロー」

 

 理香子はドローしたカードを確認した後、ディスプレイを展開。

 画面をひとしきり眺めて……ディスプレイを閉じた。

 

「リカコちゃん、何を確認したんだろう?」

「何をしようと、盤面はアタイの方が有利&有利!」

「SPアシスタント・アーチ、ドクター・レッドローブを召喚」

 

 SPアシスタント・アーチ(星1/ ATK 0)

 ドクター・レッドローブ(星4/ATK 1500)

 

 希菜の言葉など意に介さず、理香子は淡々とプレイを続ける。

 

「2体のモンスターをリリース。燃え盛る物質の理を超えて──今、炎より出でよ」

 

 仰々しく振り上げた腕を、ディスクに叩きつけるように振り下ろした。

 そして放たれた光の柱から、豪炎が噴き出す。

 

「アナライズ・フロギストン!」

 

 アナライズ・フロギストン(星7/ATK 2300)

 

 噴き荒れる豪炎の中から現れたのは、機械の翼を備えた蒼色の飛龍。

 対峙する2体の灼熱の炎を纏いしドラゴンと、蒼色の飛龍。

 互いに怯まずに睨み合う。

 

「だが、攻撃力は2300」

「アタック・ボルケーノ・ドラゴンと同じなら、負けないね!」

「……冬川のフィールドにはレベル7のモンスターが2体。よってレベルの合計は14」

 

 理香子は墓地から火葬犬ニトロと、フレイム・ケルベロス2枚、合計3枚のカードを取り出す。

 

「そしてわたしが選んだ3体のモンスターのレベルの合計も14。手札の死者への手向けを墓地に送ってこの3枚をデッキに戻し、アナライズ・フロギストンの効果を発動。アナライズ・オブ・デストロイ!」

 

 アナライズ・フロギストンが雄叫びを上げ、翼から灼熱の光線が放たれる。

 その光線は希菜のフィールド全域に降り注ぎ……2体のアタック・ボルケーノ・ドラゴンが引き裂かれ、消滅した。

 

「アタック・ボルケーノ・ドラゴンが……!」

「アナライズ・フロギストンは、レベルの合計が相手フィールドにいるモンスターの合計と同じになるように自分の墓地の炎族モンスターをデッキに戻して発動できる。そして、相手の攻撃表示モンスターを全て破壊する」

「ルンぺルシュティルツヒェンの身を守る者は居ない……!」

「バトル。アナライズ・フロギストンでダイレクトアタック」

 

 アナライズ・フロギストンが口を大きく開き、エネルギーを貯める。

 モンスターを全て失い、身を守るセットカードも無い希菜は……臆する事なく、堂々と佇んでいた。

 

「アッシュ・スラッシュ・ブリムストン!」

「っ……ぐわぁぁぁっ!!」

 

 希菜:LP 100→0

 

 アナライズ・フロギストンの放った攻撃を受け、希菜は大きく吹き飛ぶ。

 希菜のライフが0になり……理香子が勝者となった。

 

「キナちゃん!」

「く〜……負けたぁ〜!」

 

 侑芽と未来が、駆け足で希菜の元へ向かう。

 希菜は悔しそうに立ち上がり……ディスクを仕舞って自分の肩を叩いている理香子をしっかりと視線で捉える。

 

「言ったでしょ、わたしが勝つって」

「流石はアタイの見込んだヤツだ! よーしよし、お前を副部長に任命しよう!」

「……は?」

「活動拠点と部員ゲット! これであとは1人!」

「は?」

 

 そこで理香子はハッと気付く。

「希菜が勝ったら視聴覚室を明け渡す」とは言ったが「希菜が負けたら大人しく引き下がる」とは一言も言っていない事に。

 

「えっと……これからよろしくね、リカコちゃん!」

「……………………」

 

 理香子は観念したのか、深いため息をついて肩を落とした。

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