少女たちのラッシュデュエル・ストーリー   作:高科奈紗

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第3話「ロックンロールお嬢様(前編)」

 

 朝の日差しが降り注ぐ5月。

 日傘を撐す人が疎らに見受けられる中、2つ結びの髪を揺らして鼻歌交じりで登校する1人の少女……遊見 侑芽。

 

「あぁ……どうしましょう……どこにいってしまったのか……」

 

 もうそろそろ学校に到着する頃だ、と思ったその時だった。

 声が聞こえて、道の端っこに目を向けると……侑芽の視界に、困った様子で地面を眺めている小柄な少女が映った。

 侑芽と同じ制服を着ているあたり、同じ学校の生徒なのだろう……そして、自身も小柄な方ではあるがそれよりも背の低い少女……おそらく、同級生なのだろうと推測する。

 

「あの、どうかしたの?」

 

 後ろから話しかけられ、小柄な少女はビクリと肩が跳ね上がり……黒い長髪をたなびかせて振り返る。

 紫色の瞳に、幼いながらも整った顔立ち、額を出した振分髪……まさしくお嬢様という言葉がピッタリな少女。

 

「あっ、いえ……お構いなく」

 

 小柄な少女は、背負っていた大きな鞄を持ち直して侑芽に背を向け、再び地面に視線を落とす。

 

「もしかして、落し物でもしたの? 探すの手伝うよ?」

 

 小柄な少女は再び振り返り、驚いた様子で大きく目を見開く。

 

「いっ、いえ! お手を煩わせるほどでも……」

「なんだか必死に探してるみたいだし。2人で探した方が見つかりやすいでしょ?」

「あ……ありがとうございますっ!」

 

 小柄な少女が、真っ直ぐに伸ばした腕を前に置き深々と頭を下げる。

 

「お礼は見つかってからにしてよ。それで、何を探してるの?」

「えっと……指輪ですわ。銀色の古い指輪で……チェーンが括り付けてあるので、一目見れば分かるかと」

「なるほどね」

 

 侑芽も視線を地面に落とし、周囲を歩いて見渡す。

 しかし、いくら探せど……それらしき物は見つからず。

 時間と他の生徒だけがただただ過ぎていった。

 そして……

 

 キーンコーンカーンコーン……

 

「よっ、予鈴が鳴ってしまいましたわ……!」

「……………………」

 

 侑芽はチャイムの音なんて気にも留めずに、指輪を探し続ける。

 その様子を見て、小柄な少女はアタフタと取り乱しながら侑芽に詰め寄る。

 

「も、もう充分ですわ! このままでは、貴女が遅刻してしまいます!」

「キミの失くし物を探す方が大事だよ」

「っ……」

「大事な物は、手放しちゃダメ」

 

 侑芽は真剣な目を小柄な少女に向け、再び地面に視線を移す。

 地面一帯が視界に広がる。

 

『こっちだよ』

「えっ?」

 

 声が聞こえた。

 ウィスパーな……女の人の声。

 

『こっち』

「……? どうされました……?」

 

 侑芽はその声に導かれるように、ゆっくりと歩を進める。

 小柄な少女は不審に思いながらも、侑芽の後ろに着いて行く。

 そして、街路樹の植え込みの前に立ち……姿勢を低くし、樹木の根元に生い茂った野草の中に腕を突っ込む。

 

「……あった!」

 

 草葉の中で、金属らしきナニカを掴む。

 そして腕を引き抜く。

 侑芽の掌に握られていたのは……チェーンの括り付けた古ぼけた小さな指輪。

 

「あ……それですわ!」

「見つかって良かった〜。はい、もう失くさないようにね?」

「はいっ! 本当にありがとうございます! このご恩は一生忘れませんわ!」

「大げさだよ〜」

 

 小柄な少女は指輪を受け取り、手慣れた手付きでネックレスのように首元に身につける。

 

「……あっ、頭に葉っぱが付いてますわ」

「えっ、ほんと?」

「はい。……っと、取れましたわ」

 

 小柄な少女は背伸びをし、侑芽の頭に付いていた葉っぱを掴み、地面に落とす。

 ひらりはらりと宙を舞い、そして風に吹かれて何処へと舞い飛ぶ。

 

 小柄な少女は首に掛けた小さな指輪を左手で握り締め、柔らかな笑みを浮かべる。

 

「本当に大切な物なんだね、それ」

「はい。大事な人から貰った……大切な物です」

 

 大事な人から貰った、大切な物。

 侑芽は自分の鞄に目を向ける。

 今の自分の……大切な物。

 姉が残した……デッキ。

 

「そういえば、どうしてあんな所に指輪が落ちてると分かったのです?」

「えっ? あ〜……えっと」

 

 キーンコーンカーンコーン……

 

 侑芽があたふたと視線を逸らして頬を掻いていると、2回目のチャイムが鳴り響いた。

 

「わっ! 本鈴だよこれ! 急がないと!」

「え、ぁ……は、はいっ!」

 

 侑芽は小柄な少女の手を取り、全速力で通学路を駆ける。

 手を引かれ、後ろから追うように足を走らせる小柄な少女の胸の内は高鳴り、頬は……ほんのりと赤みを帯びていた。

 

 *

 

「リカコの加入により、ラッシュデュエル部の設立に必要な人員はあと1人!」

 

 放課後。

 侑芽、未来、希菜、理香子の4人は視聴覚室に集まっていた。

 希菜はホワイトボードの前に陣取り、侑芽と未来は椅子に座って机に腕を置いてその様子を眺めている。

 理香子は窓辺で本を読みながら我関せず。

 

「そこで新入部員を募る為にはどうしたらいいか……はい、ユメ!」

「えっと、ビラを配るとか?」

「そんな感じそんな感じ! 宣伝する必要がある! ってわけで……」

 

 希菜は鞄の中を漁り、1枚の用紙を取り出す。

 それを広げ……ホワイトボードにマグネットで貼り付ける。

 

「ポスターを作ってきた!」

「……なにこれ?」

 

 小学生……いや、幼稚園生レベルのイラストに、ふにゃふにゃの文字。

 黒色の鉛筆しか使っていないのか、モノクロで彩りなんて一切ない。

 

「ポスターだよ、ポスター!」

「……その描いてあるクリーチャーは?」

「ドラギアス!」

「ドラギアス」

 

 昨日のデュエルで見た、ドラギアスのソリッドビジョンを脳内で思い返す侑芽。

 そしてポスターに描かれているクリーチャーに目を向ける。

 

「好きな惣菜発表ドラゴンにしか見えないよ?」

「ドーラーギーアース!!」

 

 すると未来はペンを取り出して立ち上がり、ポスターの前に立つ。

 そして……クリーチャーの口元に吹き出しを書く。

 そして吹き出しの中に文字を書いていき……

 

 唐揚げ

 

「ミク、唐揚げ好きだもんね」

「こらこら〜! 勝手に変なの書くな!」

「私はメンチカツが好き」

 

 未来が再びペンを走らせる。

 

 メンチカツ

 

「聞いてない! っていうか書き足すな〜!」

「わたしはエビフライ」

 

 理香子が本から顔をあげ、未来をジッと見つめてそう言った。

 

 エビフライ

 

「なんで好きな惣菜発表会になってるんだよ!?」

 

 そんなこんなで巫山戯あっていると……ガチャリと視聴覚室の扉が開いた。

 4人が同時に入り口へ目を向ける。

 

「あの……部員募集のポスターを見て来たのですが」

「……あっ!」

 

 侑芽が大きく声を上げる。

 部室(?)に入って来たのは……今朝、侑芽が助けた小柄な少女。

 小柄な少女が侑芽を見捉えると、急ぎ足で駆け寄り……両手を握り締めた。

 

「今朝のお方! やはりこのラッシュデュエル部にいらしたのですね!」

「えっ、うん、まあ……ね?」

 

 押しの強さに若干、引き攣った表情を浮かべる侑芽。

 

「……冬川、あのポスター飾ったの?」

「おう! さっき1階中にバーっと!」

「生徒会の許可は?」

「取ってない!」

 

 呆れた表情でため息をつく理香子。

 

「っていうかお嬢、ユメと知り合いだったのか」

「今朝、助けてもらったのですわ」

「……キナちゃんと知り合い?」

 

 お嬢と呼ばれた、大きな鞄を背負った小柄な少女は、侑芽から手を離し……希菜の隣に立つ。

 

「冬川さんとは同じクラスです」

「へ〜、そうだったんだ。……もしかして、ラッシュデュエル部に入ってくれるの?」

「はいっ! 入部希望ですわ!」

 

 目をキラキラと輝かせ、背後からピカーっと光を放つ小柄な少女。

 

「あれ? お嬢ってもう他の部活に入ってなかったっけ?」

 

 清栄中学は部活動の兼部は禁じられている。

 そうなると、小柄な少女はラッシュデュエル部に入ることは規則で出来ない。

 

「確かに軽音楽部に入っておりましたが……もう退部済みです。これなら問題はありませんわね?」

「ならよし! ようこそラッシュデュエル部へ!」

 

 希菜が大きく拍手をする。

 侑芽と未来もつられて拍手をする。

 理香子は我関せずのまま。

 

「自己紹介がまだでしたわね、ワタクシは1-2、姫榊(ひさかき) 琴音(ことね)と申します。将来の夢は世界一のギタリストですわ!」

 

 小柄な少女……琴音はそう言うと、背負っていた大きな鞄を置き、中からギターを取り出す。

 

「その中に入ってるのギターだったんだ。……あっ、私は遊見 侑芽。1-1だよ〜」

「我は西条 未来。盟友ユメとは古よりの縁である」

 

「ユメ様……と、西条さんですわね」

「ゆ、ユメ様って」

「ユメ様はワタクシの恩人です! この身、この心、貴女に捧げる覚悟は出来ておりますわ!」

 

 苦笑いを浮かべる侑芽の肩を、未来が軽く小突く。

 

「やはり人誑しめ」

「違うって!」

「んで、そこに座って本を読んでるのは……」

「……………………」

 

 理香子は無言で本に視線を落としたまま。

 

「3組の瀬名波さん……ですよね?」

「お嬢、リカコとも知り合いだったのか?」

「直接お話しした事はありませんでしたが……名前と顔は知ってますわ」

「……………………」

 

 琴音がゆっくりと、理香子の座っている席へと近づく。

 

「これからよろしくお願いしますわ、瀬名波さん」

「……………………」

 

 理香子は一瞥することもなく、本ページを1つ捲った。

 その様子を見て、琴音が不満気な表情で頬を膨らませる。

 

「とりあえずとりあえず! これでラッシュデュエル部設立の条件は2つ揃った!」

「後は顧問の先生だけだね」

「顧問……ですか。それならワタクシに任せてもらえますか?」

 

 琴音が胸元に手を置き、希菜と侑芽を見遣る。

 

「心当たりがあるのか!?」

「はい、明日にでも連れて参りますわ」

「よーしよーし! これでオッケーオッケー!」

「意外とすんなり決まったね」

「うむ、順風満帆」

 

 琴音がホワイトボードに目を向ける。

 視線の先にあるのは……希菜が用意して、未来が各々の好きな惣菜を書き足したポスター。

 

「……好きな惣菜でも発表していたのですか?」

「うむ」

「違うからな?」

「コトネちゃんは何が好き?」

「おい、人の話を聞け」

「ワタクシは切り干し大根が好きですわ」

 

 切り干し大根

 

「書き足すなって!!」

 

「あはは……」と笑う侑芽。

 ドヤ顔を希菜に向ける未来。

 その様子を見てクスクスと上品な微笑みを浮かべる琴音。

 我関せずを続ける理香子。

 

 少女たちがこれから、様々な困難や強敵に立ち向かう事になるとは……まだ誰も知る由はなかった。

 

「そういえばお嬢、ラッシュデュエルするんだな? 知らなかったよ」

「いえ、した事ありませんわ。でも……」

 

 ギグバッグとは別に持っていた、通学用の鞄の中をガサゴソと漁る。

 そして……

 

「デッキは持ってますの!」

「お〜! ……お〜?」

「んっ……ん〜?」

「んむ……?」

「……………………」

 

 琴音が鞄の中からカードの束を取り出し、机の上に置く。

 それを見て、他の4人は絶句する。

 我関せずを決め込んでいた理香子でさえも、大きく目を見開いて琴音のデッキを見ているのだ。

 

「いや、お嬢……これ、なに?」

「デッキですわ?」

「……何枚のカードでデッキ組んだ?」

「100枚です」

 

 琴音が用意したデッキは、みんなのデッキの2倍以上の厚みがあったのだ。

 

「デッキは! 40枚から60枚の間!!」

「そ、そうなのですか!?」

 

 希菜が琴音のデッキを手に取り、ペラペラと1枚ずつ確認していく。

 

「……しかもこれ! 同じカードが5枚も6枚も入ってるじゃん!!」

「ダメなのです?」

「同じカードは3枚まで!!」

「し、知りませんでした……」

「……私たち以上の初心者みたいだね」

「然もありなん」

 

 侑芽と未来は互いに顔を見合わせ、理香子は深くため息をついて本に視線を戻した。

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