机の上に乱雑に並べられたカードたち。
琴音はそれを1枚ずつ手に取り、希菜に見せては重ねて束にしていく。
その作業を繰り返し続けている。
「……出来ましたわ! ワタクシのデッキ!」
「や、やっと完成した……」
40枚のカードの束を掌の上に乗せて掲げる琴音。
その横で疲弊した様子で肩を落とす希菜。
「デッキ製作のアドバイス、ありがとうございます冬川さん!」
「ああ、うん、いいっていいって。……それにしても、本当にそのデッキでいいのか?」
希菜が琴音のデッキをジッと見つめる。
「何か問題でもあるの、キナちゃん?」
窓辺で未来と駄弁っていた侑芽が、2人の座っている席に近づく。
「問題あるわけじゃないけど、お嬢のデッキって初心者向きじゃないからさ」
「へ〜……?」
「でも、ワタクシはこのカードたちと一緒にデュエルがしたいのですわ!」
両手で握り拳を作り、目をキラキラと輝かせて背後から眩い光を放つ琴音。
「うんうん、お嬢の気持ちは分かる。ロマンって大事だもんな!」
「私はよく分かんないけど……コトネちゃんがどんなデッキを組んだのか気になるな〜」
「ならお嬢とユメでデュエルしたらいいさ! 初心者同士だし!」
「ユメ様とデュエル……!」
「私は構わないよ〜」
琴音は目をより一層、キラキラと輝かせ……侑芽もニコッと微笑む。
「よーし、それじゃあ屋上に移動だ〜!」
「お〜!」
「おー! ですわ!」
希菜が右手を大きくあげ、侑芽と琴音もそれに続くように右手をあげる。
「エルゼ、我らも行こうぞ」
「……エルゼって、わたし?」
「うむ」
「……………………」
理香子はジト目で未来を見遣りつつ、本を閉じて机の上に置き……2人は視聴覚室から屋上へ向かう皆の後ろに着いて行った。
*
「デュエルディスクの着け心地はどうだー、お嬢!」
「良好ですわ! 何から何まで……感謝してもしきれません!」
「在庫処分って言ってたし」
「それは忘れろぉ!!」
屋上でデュエルディスクを構え、対峙する侑芽と琴音。
そこから少し離れた場所で2人を眺める未来と希菜と理香子の3人。
「ルンぺルシュティルツヒェン、ラプンツェルのデッキはどの様な物なのだ?」
「……らぷんつぇる?」
「姫榊の事でしょ、多分」
「あー、なるほど……って順応早いな、リカコ!? ……まあ、見てのお楽しみってことで!」
希菜がニヤリと笑って侑芽と琴音に視線を向ける。
未来は首を傾げつつ、理香子は腕を組んで同様に2人へ目を向ける。
「よろしくお願いしますわ、ユメ様!」
「うん! こちらこそ!」
「「ラッシュデュエル!!」」
侑芽 LP:4000 vs 琴音 LP:4000
掛け声と共にホログラムフィールドが展開され、互いに4枚のカードをドローする。
ターンランプが点灯しているのは、侑芽のディスク。
「私のターン、ドロー!」
侑芽はデッキから1枚のカードを勢いよく引き抜き、それを手札に加える。
「ヴォルテクス・シューターとブライト・センチネルを召喚!」
ヴォルテクス・シューター(星4/ATK 1400)
ブライト・センチネル(星4/ATK 1500)
侑芽が召喚したのは2体の銀河戦士。
2体のモンスターが剣を構え、侑芽の前に立ち並ぶ。
「ヴォルテクス・シューターをリリースして、ヘヴン・ギャンゼルをアドバンス召喚!」
ヘヴン・ギャンゼル(星6/ATK 2100)
そしてその内の1体が姿を消し、新たに召喚されたのは……穢れを知らぬ気高き純白の霊竜。
「これがユメ様のモンスター……!」
「カードを2枚セット! ターンエンドだよ!」
「はっ……ワタクシのターン! ドローですわ!」
目をキラキラと輝かせていたところ、侑芽の言葉でハッと意識を引き戻し……琴音はデッキからカードを力強く引き抜く。
手札のカードをひと通り眺めた後……1枚のカードを手札から抜き出し、ディスクに差し込む。
「ワタクシのライフを1000ポイント支払い……魔法カード、サイコな埋葬を発動します!」
琴音:LP 4000→3000
「あのカードは……」
理香子はピクッと肩を跳ねさせ、ボソッと呟くようにそう言った。
「自分のライフポイントを大きく減らして発動するカード……?」
「そうですわ、ユメ様! これがワタクシの……デッキです!」
琴音はデッキに手を置き、大きく腕を振って2枚のカードを引き抜く。
そして引き抜いたカードを全て墓地スロットに差し込む。
墓地に送られたカードは、キャッチーボーディストとエレンジェル。
「デッキのカードを墓地に送った!?」
「サイコな埋葬は、デッキの上からカードを2枚墓地へ送るカードですわ!」
「ライフを減らして、デッキまで減らすなんて……変わった戦い方だね!」
「ふふっ、まだまだいきますわ! ロマンス・ピックを召喚!」
ロマンス・ピック(星1/ATK 500)
現れたのは、ヘルメットを被った小さな女の子。
髪飾りや耳の部分など、所々にギターのピックを思わせる意匠が見受けられる。
「……冬川、初心者にサイキックデッキを作らせたの?」
「だってお嬢が使いたいって言うんだから仕方ないじゃんか〜!」
「ロマンス・ピックの効果を発動! 相手よりもライフポイントが少ない時、自分のライフを500ポイント支払い……」
琴音:LP 3000→2500
「デッキの上からカードを3枚、墓地へ送りますわ!」
琴音は再びデッキに手を置き、3枚のカードを引き抜いて……墓地スロットへ差し込む。
墓地に送られたカードは、ドリームラマー、エレキッス、ハウリングバードの3枚。
全て、ロマンス・ピックと同じサイキック族モンスターだ。
「またデッキとライフポイントを!?」
「それだけではありませんわ! ロマンス・ピックの効果でサイキック族モンスターが墓地へ送られた時、墓地のサイキック族モンスター1体を手札に加えることが出来ます!」
琴音は墓地からドリームラマーのカードを手札に加える。
「自らの命とデッキを削る戦術。明らかに、初心者が扱うには難解なデッキと見受ける」
「その分、使いこなせれば強力。……使いこなせれば、だけれど」
「まあまあ、お嬢なら大丈夫でしょ、きっと!」
琴音は手札に加えたドリームラマーのカードを凝視する。
そしてそのカードを手に取り……
「いきましょう、ドリームラマー!」
ドリームラマー(星2/ATK 500)
ニヒルな笑みを浮かべた、ドラムスティックを持った少女が現れる。
「ロマンス・ピックをリリース! おいでませ、ベリーシスト!」
ベリーシスト(星6/ATK 1600)
ロマンス・ピックが消滅し、その代わりに現れたのは勝気な表情を浮かべるベーシスト。
「ベリーシストのモンスター効果、発動ですわ! このカード以外にサイキック族モンスターがいるとき、ワタクシのライフを500ポイント支払って……」
琴音:LP 2500→2000
「墓地にいる、レベル2のサイキック族通常モンスターを特殊召喚します! 出番ですわ、キャッチーボーディスト!」
キャッチーボーディスト(星2/ATK 700)
新たに現れたのは、あどけない表情ながらしっかりとショルダーキーボードを手に持って構える小柄な少女。
これで琴音のフィールドには3体のバンドモンスター……リズム隊が揃った。
「ベリーシスト、ドリームラマー、キャッチーボーディスト……姫榊のあのデッキ、ファンデッキね」
「エルゼ、ファンデッキとは?」
「勝敗よりも、好みや趣向に重きを置いたデッキのこと。差し詰め……
5人の少女からなる、有名なガールズバンド。
琴音のフィールドに存在するモンスターは全て、そのバンドメンバーを元にしたモンスターたちだ。
「コトネちゃん、
「はいっ! ワタクシもいつか、彼女たちのように大舞台でライブをするのが夢なんです!」
「ラプンツェルがルールを把握していないのにカードを持っていたのは、もしかして……」
「ファングッズとして観賞用に集めてた、ってわけだな!」
デュエルをしなくてもカードを集める人というのは一定数、存在する。
琴音もその1人だったのだ。
なお、
「でも、それで勝てるのかな〜? コトネちゃんのライフポイントはもう半分を切っちゃったよ?」
「まだまだ、ワタクシのパフォーマンスはこれからですわ! 墓地のエレンジェルをデッキに戻し、ドリームラマーの効果を発動します!」
琴音は墓地にあるエレンジェルを取り出し、デッキスロットに差し込む。
そして右腕を大きく前に突き出すと……ドリームラマーの前に忽然とドラムセットが現れた。
「ユメ様の墓地にあるヴォルテクス・シューターをデッキに戻して、ワタクシは500ポイントのライフを回復しますわ!」
琴音:LP 2000→2500
ドリームラマーが目にも留まらぬ速さでビートを刻み、発せられた音波が侑芽のディスクに当たる。
すると墓地スロットから1枚のカード……ヴォルテクス・シューターが排出される。
侑芽はそのカードをデッキに差し込み、オートシャッフル機能が作動してデッキがシャッフルされる。
「ライフポイントをリカバリーする手段も用意してあるんだね……!」
「いきますわよ! キャッチーボーディストとドリームラマーをリリース、アドバンス召喚!」
琴音はキャッチーボーディストとドリームラマーの2枚をディスクから取り出して墓地に送り、手札から1枚のカードを勢いよく叩きつける。
「マイフェイバリット、ギフトタリスト!!」
ギフトタリスト(星7/ATK 2400)
ギターを持った少女が現れ、琴音の前に立ち尽くす。
「攻撃力2400!? ヘヴン・ギャンゼルより上……!」
「ワタクシのステージはこれからですわ! デッキの一番上のカードを墓地に送り、ギフトタリストの効果! このカード以外のサイキック族モンスター1体につき、攻撃力を400ポイントアップですわ!」
ギフトタリスト(ATK 2400→2800)
「攻撃力……2800!」
「これが仲間と共に奏で、作り上げるステージ! カードを1枚セットして、バトルですわ! ギフトタリストで、ヘヴン・ギャンゼルに攻撃!」
ギフトタリストの放つ演奏がヘヴン・ギャンゼルを襲う。
雄叫びをあげて……力無く倒れながらヘヴン・ギャンゼルは消滅した。
「ぐぅ……!」
侑芽:LP 4000→3300
「ベリーシストで、ブライト・センチネルに攻撃ですわ!」
「この瞬間、罠カードを発動! トランザム・ライトニング!」
ベリーシストがブライト・センチネルに攻撃を放つ。
爆発が立ち上り……ブライト・センチネルは消滅した。
……と思われたが、爆発が晴れ、そこにはブライト・センチネルが健在していた。
侑芽:LP 3300→3200
「ブライト・センチネルが破壊されていない……!?」
「トランザム・ライトニングの効果だよ! このターン、私が指定したレベル4以下のギャラクシー族通常モンスターは戦闘では破壊されない! ……ダメージは受けちゃうけどねっ」
「なるほど、流石はユメ様……ターンエンドですわ!」
ギフトタリスト(ATK 2800→2400)
「なんとか1体は残せた……私のターン、ドロー!」
侑芽はデッキから5枚のカードを引き抜き、それを手札にする。
「お嬢、結構上手く回せてるじゃん!」
「ふふっ、冬川さんのアドバイスの賜物ですわ」
「……よし! ストレンジ・トラヴェラーを召喚!」
ストレンジ・トラヴェラー(星4/ATK 1100)
侑芽の前に宇宙服を身に纏ったような剣士が現れる。
「そして……光の刃が天の河を駆ける時、勇者来たりとその名を呼ぶ! トランザム・ライナック!!」
トランザム・ライナック(星4/ATK 1600)
「盟友ユメのフェイバリット!」
「強そうなカードですわ……なら! 罠カード、ラララバインドを発動します!」
琴音が1枚のカードをオープンする。
墓地のハウリングバードとエレキッスのカードを取り出し、デッキに差し込む。
するとラララバインドから音波が放たれ……トランザム・ライナックが跪き、地に伏せて姿を消す。
「トランザム・ライナックが!?」
「相手がモンスターを召喚した時、墓地のサイキック族モンスター2体をデッキに戻して……相手のモンスター1体を裏守備表示に変更します。これでトランザム・ライナックは封じ込めましたわ!」
「召喚されたモンスターは次のターンにならないと、表示形式を変更できないからな!」
「更に! 墓地からレベル2のサイキック族モンスターを特殊召喚できます! 戻ってきて、ドリームラマー!」
ドリームラマー(星2/DEF 0)
「やってくれるね。でも私だって! セットしていた魔法カード、メテオ・チャージを発動!」
侑芽もセットしていたカードをオープンする。
すると隕石が降り注ぎ……ギフトタリストが防御の姿勢をとる。
ギフトタリスト(ATK 2400→DEF 0)
「ギフトタリストが守備表示に!」
「更にこのターン、ブライト・センチネルの攻撃は貫通する!」
貫通。
本来なら守備表示モンスターを攻撃して破壊しても、相手のライフポイントにダメージは与えられない。
だが貫通効果を付与されたモンスターが守備モンスターに攻撃して、戦闘に勝利した場合……超過した分のダメージを相手に与えられる。
「
「そしてストレンジ・トラヴェラーの効果を発動! デッキの一番上のカードを墓地に送って、ベリーシストの攻撃力を500ポイント下げる!」
ベリーシスト(ATK 1600→1100)
「ベリーシストの攻撃力が、ストレンジ・トラヴェラーと並んだ!」
「カードを2枚セットして、バトル! ストレンジ・トラヴェラーで、ベリーシストを攻撃!」
ストレンジ・トラヴェラーがベリーシストに目掛けて斬りかかる。
ベリーシストはベースから放った音波で反撃するが……勢いは止まらず、ストレンジ・トラヴェラーの剣とベリーシストのベースがぶつかり合う。
そして2体のモンスターは同時に消滅していった。
「攻撃力が同じモンスター同士で戦闘を行なったら、両方とも破壊される!」
「続けてブライト・センチネルで、ギフトタリストに攻撃!」
防御態勢をとっているギフトタリストに、ブライト・センチネルが容赦なく襲いかかる。
ギフトタリストは抵抗する間も無く……あっという間に斬り伏せられ、爆散した。
「あぁぁっ……! ギフトタリスト……!」
琴音:LP 2500→1000
「ドリームラマーを残しちゃったなー……仕方ない、ターンエンド!」
「ワタクシのターン、ドローですわ!」
琴音は腕を大きく振り、5枚のカードをデッキから引き抜く。
あと1撃でも攻撃を食らえば負けかねない……琴音は、今まで感じたことのない《窮地》という感覚を味わっていた。
(一進一退の攻防、勝つか負けるか瀬戸際の戦い……これが、ラッシュデュエル!)
臆するどころか、琴音は燃えていた。
そして……デュエルを、この瞬間を……最高に楽しんでいた。
「ロマンス・ピックを召喚!」
ロマンス・ピック(星1/ATK 500)
「お嬢のヤツ、まだデッキとライフポイントを削る気か!?」
「最後の最後まで、命を燃やし続ける……それがワタクシの生き様ですわ! 自らのライフを500ポイント支払って……ロマンス・ピックの効果を発動!」
琴音:LP 1000→500
琴音がデッキの上から3枚のカードを引き抜き、それを確認して……墓地に送る。
墓地に送られたカードはアマ・リリス、ピース・ホールダー、プログレス・ポッターの3枚。
「サイキック族モンスターが墓地に送られたので、墓地のベリーシストを手札に加えますわ!」
「だが、ラプンツェルの命は風前の灯火……」
「ベリーシストを召喚しても、効果を発動できるライフは残ってないわ」
「……………………」
琴音は手札にある、1枚のカードを見つめる。
(このカードに全てが掛かっていますわ……どうかみんな、ワタクシに力を!)
琴音は意を決して、1枚のカードを魔法・罠スロットに差し込む。
「魔法カード、貪欲な壺を発動! 墓地のモンスター5体……ロマンス・ピックを2枚、アマ・リリス、ギフトタリスト、ピース・ホールダーをデッキに戻してシャッフルしますわ!」
「……ラプンツェルの墓地に2枚目のロマンス・ピックなぞ存在したか?」
「ギフトタリストの効果を発動した時に墓地に送られてたわ」
「成る程」
オートシャッフル機能が停止し、琴音はデッキに指を添える。
そして祈るように目を瞑り……ゆっくりと2枚のカードを引き抜く。
(……来ました!)
琴音は左手の拳を握りしめ、笑みを浮かべる。
「いいカードが引けたみたいだね!」
「はいっ! 魔法カード、レッド・ポーションを発動しますわ! この効果でワタクシのライフを500ポイント回復します!」
琴音:LP 500→1000
「なんとか持ちこたえた!」
「ロマンス・ピックをリリースして、ベリーシストをアドバンス召喚!」
ベリーシスト(星6/ATK 1600)
「ライフを500ポイント支払い、ベリーシストの効果を発動! 墓地のキャッチーボーディストを特殊召喚しますわ!」
琴音:LP 1000→500
キャッチーボーディスト(星2/ATK 700)
再び琴音のフィールドにリズム隊が勢揃いした。
まさしく、琴音のカードへの愛情が……この状況を作り上げたのだ。
「ドリームラマーの効果! ロマンス・ピックをデッキに戻し……ユメ様の墓地にあるストレンジ・トラヴェラーをデッキに戻します! そしてワタクシのフィールドにキャッチーボーディストがいることでライフを500ポイント回復ですわ!」
琴音:LP 500→1000
「うっ……」
侑芽は苦虫を噛み潰したような表情を浮かべながら、ストレンジ・トラヴェラーを墓地からデッキに戻す。
「地味にキツいでしょうね、遊見は」
「エルゼ、何故に?」
「ギャラクシーデッキは、墓地のカードをデッキに戻して発動する効果が多いから。ドリームラマーの効果が案外、刺さるのよ」
「……成る程」
未来の脳裏に1枚のカードが過ぎる。
ギャラクティカ・フォース……墓地にモンスターを3体要求する代わり、強力な効果を持っているカード。
デュエルはフィールドやライフポイントのやり取りだけではない、墓地のカードもまた……戦略の1つ。
「さあ、いきますわよ……最高のステージの始まりですわ!」
琴音は天高く、1枚のカードを掲げる。
太陽のような眩い光を放ち、そのカードをディスクに叩きつけるように置く。
「ベリーシストとドリームラマーをリリース!
刻め、魂のリズム! 怒りのビートで打ち砕け! 砕光のエスパレイド!!」
砕光のエスパレイド(星7/ATK 2500)
光の柱の中から現れたのは、蒼色のエレキギターを携えた女性。
「キャッチーボーディストをフィールドに残した……?」
「ラプンツェルのプレイングミスか?」
ベリーシストの攻撃力は1600、対しキャッチーボーディストの攻撃力は700。
ベリーシストではなく、キャッチーボーディストをリリースするのが定石……と、侑芽と未来は考えた。
「このカードを発動する為ですわ! 魔法カード、スターダムライト!」
琴音がスターダムライトを発動すると同時に、キャッチーボーディストにスポットライトが降り注ぐ。
その光の元に、キャッチーボーディストが吸い込まれて行き……キャッチーボーディストを飲み込んだ光の中から1体のモンスターが降り立つ。
「ワタクシのフィールドにいる通常モンスターを墓地に送り、手札からこのカードを特殊召喚します!」
琴音は再び天高く、1枚のカードを掲げる。
「いくよライブ、とことんダイブ! 我慢が限界、オーバードライブ!
彩光のプリマギターナ、満を持して初登場ですわ!!」
彩光のプリマギターナ(星7/ATK 2200)
スターダムライトの中から現れたのは、純白のギターを携えた可憐な女性。
プリマギターナ、エスパレイド……2人のギタリストが、琴音のフィールドという名のステージで最高の音楽を奏でる。
「そして、スターダムライトの効果でレベル2のモンスターを墓地に送ったことでワタクシのライフは1000ポイント回復!」
琴音:LP 1000→2000
「これがコトネちゃんの狙いだったんだ!」
「そういうことですわ! さあ、プリマギターナ! その命を燃やして最高のギグを披露しましょう!
エキサイト・オン・ステージ!!」
プリマギターナがギターを激しく掻き鳴らす。
炎のように熱く燃え滾り、稲妻のように全身を貫き、心を打ち震わせる……情熱的な演奏がフィールドを包み込む。
琴音:LP 2000→1000
彩光のプリマギター(ATK 2200→2800)
砕光のエスパレイド(ATK 2500→3100)
「コトネちゃんのライフポイントが減って、モンスターたちの攻撃力が上がった!」
「ワタクシのライフを1000ポイント燃やし、相手フィールドに存在するモンスター1体につき、ワタクシのモンスターの攻撃力を300ポイントアップさせる効果をプリマギターナは持っていますの!」
「ユメのフィールドにはブライト・センチネルと、裏守備のトランザム・ライナックの2体がいる! だから600ポイントアップだな!」
「そして、砕光のエスパレイドの効果も発動ですわ!
クライシス・ロック・リベンジ!!」
琴音が左手の握り拳を勢いよく前に突き出し、それと同時にエスパレイドがエレキギターを斧のように大きく振る。
その衝撃波で、侑芽のフィールドにいるブライト・センチネルとトランザム・ライナックが吹き飛ばされ……消滅した。
「ブライト・センチネル! トランザム・ライナック!」
「ワタクシのライフが1000ポイント以下の時、砕光のエスパレイドは相手のモンスターを2体まで破壊する効果を持ってますの!」
エスパレイドの効果により、侑芽のモンスターは全滅。
侑芽のライフポイントは残り3200。
プリマギターナとエスパレイドの攻撃を受ければ……0になる。
「はじめてでここまでやるなんて、やるなお嬢!」
「……ふんっ」
「ユメ……」
満足気に囃し立てる希菜、不満気に顔を背ける理香子、そして窮地に追い込まれた侑芽を不安そうに見つめる未来。
「カードを1枚セットして、バトルですわ! 彩光のプリマギターナで、ユメ様にダイレクトアタック!
旋律のリフレインショック!!」
プリマギターナがエレキギターから攻撃を放つ。
その攻撃は……ユメに直撃し、大きく後ろに吹き飛ばされた。
「うぅっ……!」
侑芽:LP3200→400
「ワタクシの勝ちです! 砕光のエスパレイドで……ダイレクトアタック!
戦慄のドレッドルフラン!!」
ドラゴンの頭部を象ったエレキギターのヘッド部分から、侑芽に目掛けてビームが放たれる。
そのビームが、プリマギターナの攻撃で倒れ、立ち上がっている途中の侑芽の目の前にまで迫り……
「ユメッ!!」
「罠カード、発動! デッド・オア・ライナック!!」
直前、体勢を元に戻した侑芽は罠カードを発動させた。
「私のライフを800ポイント回復させるよ!」
侑芽:LP 400→1200
「……ですが、砕光のエスパレイドの攻撃は止まりません!」
「デッド・オア・ライナックのもう1つの効果! デッキからカードを1枚ドローして……そのカードが攻撃力1600以上のギャラクシー族通常モンスターなら、砕光のエスパレイドの攻撃は無効になる!」
エスパレイドの放ったビームが止まる。
侑芽の、一か八かの大勝負。
当たれば生き残り、外れたら負け。
まさに……デッド・オア・アライブ。
「攻撃力1600以上の通常モンスターがあと何枚、デッキに残ってるかなんて覚えてない。だけど……引いてみせる!」
在りし日の光景が蘇る。
大好きだった……姉との記憶。
*
「私、トランザム・ライナックが一番好き!」
「へ〜、ユメはこのカードが好きなんだ」
「うんっ! だってカッコいいんだもん!」
「うふふっ、そっか。確かにカッコいいもんね」
「お姉ちゃんはトランザム・ライナック、好き?」
「私も好きだよ。でも、一番ではないかな」
「そうなの〜? 何が一番好きなの?」
「私が一番、好きなカードは……ね」
*
「……ドロー!」
侑芽の全身全霊の思いが込められた、一筋の光が……エスパレイドの攻撃をかき消した。
「砕光のエスパレイドの攻撃が、消えた……!?」
「私が引いたカードは……ギャラクティカ・オブリビオン! 攻撃力2500の通常モンスターだよ!」
「おぉー! いい引きだ、ユメ!」
「ユメ……よかった……」
「……ふーん」
「ターンエンド、ですわ。この攻撃まで凌がれるとは……やはりユメ様は凄い方です」
「コトネちゃんこそ、はじめてなのにこんなに戦えるなんて凄いよ!」
「ふふっ……でも、負けませんわ!」
「私だって! ……私のターン、ドロー!」
侑芽はデッキから3枚のカードを引き抜き、手札に加える。
そして即座に1枚のカードを魔法・罠スロットに差し込む。
「魔法カード、アドバンス・インパクト! 手札のコスモ・タイタンを墓地に送って……このカードと同じレベルの相手モンスター1体を、アドバンス召喚のリリースに使用できる!」
コスモ・タイタンのレベルは7。
そしてプリマギターナとエスパレイドのレベルも7。
「私は砕光のエスパレイドを選択するよ! そしてギャラクティカ・ジャメイヴュを召喚!」
ギャラクティカ・ジャメイヴュ(星2/ATK 0)
侑芽が呼び出したのは小さな竜。
そして墓地のメテオ・チャージとアドバンス・インパクトを、墓地から取り出す。
「この2枚の魔法カードをデッキに戻して、ギャラクティカ・ジャメイヴュの効果を発動! デッキからカードを1枚ドローするよ!」
2枚のカードをデッキに戻し、オートシャッフル機能が作動。
シャッフルが終わると、すぐにデッキに手を置き……1枚のカードを引き抜く。
「……………………」
その様子を、静かに……しかし、しっかりと琴音は目で捉える。
エスパレイドがこれからリリースされるというのに、その表情からは焦りは微塵も感じられない。
「ギャラクティカ・ジャメイヴュと、コトネちゃんの砕光のエスパレイドをリリース! アドバンス召喚!」
琴音はエスパレイドをディスクから取り除き、墓地スロットに差し込む。
侑芽はギャラクティカ・ジャメイヴュをディスクから取り外して墓地スロットに差し込み、1枚のカードを掲げる。
「記憶の舟が忘却の
ギャラクティカ・オブリビオン(星7/ATK 2500)
宇宙船の様な物体が彼方より飛来し、そこから手足や頭、尻尾が生えるように変形して……大型の龍へと姿を変えた。
侑芽の、姉との大切なカード。
思い出が詰まった、掛け替えのない1枚。
しかし……
「この瞬間、罠カードを発動しますわ!」
「えっ?」
「ピース&ロックンロール!」
琴音がセットしていたカードをオープンする。
するとプリマギターナがギターを搔き鳴らし、召喚されたギャラクティカ・オブリビオンはあっけなく消滅した。
「ワタクシのフィールドに、彩光のプリマギターナか砕光のエスパレイドが存在する時に召喚されたモンスター1体を破壊し、このターン中にワタクシが受ける全てのダメージを無効にしますわ!」
「ひ、酷いよコトネちゃん! せっかくの私のモンスターを!」
「デッド・オア・ライナックで強力そうなモンスターをドローしてましたし、それに対策を取るのは当然ですわ」
「うぅ、う〜……しくしく……」
両手で顔を覆って項垂れる侑芽。
その様子を見て、あたふたと狼狽える琴音。
「えっ、あ……もっ、申し訳ありません、ユメ様!」
「……なーんちゃって!」
「へっ?」
「罠カード、トランザム・アライブ! 破壊されたギャラクティカ・オブリビオンを復活させるよ! 蘇れ、ギャラクティカ・オブリビオン!!」
ギャラクティカ・オブリビオン(星7/ATK 2500)
「わっ……だ、騙しましたわね、ユメ様!?」
「えへへ〜、ごめんね?」
「むぅ〜!」
琴音が頬をぷくーっと膨らませる。
侑芽はクスクスと笑いながら、残りの手札2枚全てを魔法・罠スロットに裏向きで差し込む。
「カードを2枚セットして、バトル! ギャラクティカ・オブリビオンで、彩光のプリマギターナに攻撃!
ウォー・トゥ・ゼン! オウサム・トゥルー・グッナイト!!」
ギャラクティカ・オブリビオンの全身から解き放たれる稲妻が、プリマギターナを襲う。
プリマギターナの放つ音波とぶつかり合い……結果、ギャラクティカ・オブリビオンの攻撃が押し勝ち、プリマギターナは稲妻を浴びて消滅した。
「っ……ですが、ピース&ロックンロールの効果でワタクシはダメージを受けませんわ!」
「これでターンエンド。さあ、そろそろ決着をつけよう!」
「望むところですわ! ワタクシのターン、ドロー!」
琴音が5枚のカードを勢いよく引き抜き、それを手札にする。
その手札の中の1枚を見て……琴音の口元が緩む。
「魔法カード、オシキック・リリイベを発動しますわ! この効果で、墓地の砕光のエスパレイドを特殊召喚!」
砕光のエスパレイド(星7/ATK 2500)
再びエスパレイドが姿を現わす。
エスパレイドの効果を先のターン、身を以て味わった侑芽は……冷や汗を垂らす。
「攻撃力は同じとはいえ、こちらには効果がありますわ!」
「そうはさせないよ! 罠カード、マジカルテット・ショックを発動!」
侑芽は1枚のカードを表に返し、墓地にあるコスモ・タイタン、ブライト・センチネル、ヘヴン・ギャンゼル、トランザム・ライナックの4枚を取り出す。
「この4枚の通常モンスターをデッキに戻して、特殊召喚された攻撃力1500以上のモンスターを破壊する! 砕光のエスパレイドは破壊させてもらうよ!」
マジカルテット・ショックから魔方陣が浮かび上がり、そこから放たれた光線を浴びて……エスパレイドを消滅した。
「くぅ……ですが、まだ手は残されていますわ! ワタクシのライフを500ポイント支払い……魔法カード、メジャー・オーディションを発動!」
琴音:LP 1000→500
「まだワタクシたちの夢への道は終わってませんわ! ベリーシスト、ドリームラマー、キャッチーボーディスト!」
ベリーシスト(星6/ATK 1600)
ドリームラマー(星2/ATK 500)
キャッチーボーディスト(星2/ATK 700)
三度、琴音のフィールドを彩る
琴音の、夢や音楽への思いは……執念とも呼べるレベルだと、侑芽は感じ取った。
「彩光のプリマギターナをデッキに戻して、ドリームラマーの効果を発動しますわ! ユメ様の墓地にあるギャラクティカ・ジャメイヴュをデッキに戻して……ワタクシは500ポイントのライフを回復します!」
琴音:LP 500→1000
「ドリームラマーとキャッチーボーディストをリリース! 再びおいでませ、ギフトタリスト!!」
ギフトタリスト(星7/ATK 2400)
本日、2度目の登場となったギフトタリスト。
「貪欲な壺で戻したカードを引いたのか!」
「ベリーシストの効果を発動ですわ! ライフを500ポイント支払い……墓地のキャッチーボーディストを特殊召喚!」
琴音:LP 1000→500
キャッチーボーディスト(星2/ATK 700)
「そしてキャッチーボーディストをリリース! お待たせしましたわね、ロミックンローラー!!」
ロミックンローラー(星6/ATK 1700)
ディスクから放たれた光の柱から飛び出し、スタイリッシュに着地したのは……マイクロフォンを片手に持った男勝りな少女。
今ここに……
「さあ、ショータイムですわ! デッキの一番上のカードを墓地に送って、ギフトタリストの効果を発動!」
ギフトタリスト(ATK 2400→3200)
最初のステージとは違い、今はボーカルもいる。
ギフトタリストのパフォーマンスは、十全に発揮された。
「そして、ロミックンローラーの効果! ワタクシのライフが2000ポイント以下の時……相手モンスターの攻撃力を500ポイントダウンさせますわ!」
ギャラクティカ・オブリビオン(ATK 2500→2000)
ロミックンローラーの高まるビートを乗せた歌声が響き渡り、ギャラクティカ・オブリビオンの体が大きく蹌踉めく。
(ギフトタリストの攻撃力は3200までアップ、ギャラクティカ・オブリビオンの攻撃力は2000までダウン、そしてユメ様のライフは1200ポイント……ギフトタリストの攻撃が通れば、ワタクシの勝ち。ですが……)
琴音は、侑芽のフィールドにセットされた1枚のカードを見遣る。
そして、最後の1枚の手札に目を向ける。
(サイキック・ダイバージェンス……相手の魔法・罠カードを1枚だけ無力化できるカードですが、発動するにはライフポイントが足りませんわ。もし、ユメ様のセットしているカードが罠カードだったら……)
「……………………」
琴音は顔を上げ、侑芽と視線がぶつかる。
互いの視線がぶつかり合ったまま、数秒の時が経ち……
「……バトル! ギフトタリストで、ギャラクティカ・オブリビオンに攻撃ですわ!」
ギフトタリストがギターを搔き鳴らし、ギャラクティカ・オブリビオンに音の衝撃波を放つ。
「罠カード、発動! ヴァキュア ・アナイアレイション!!」
「っ……!」
「自分フィールドにレベル7以上のギャラクシー族通常モンスターがいる時に、相手が攻撃してきたら発動する罠カード! 私のフィールドにいる、ギャラクシー族通常モンスターの数だけ、相手のモンスターを破壊する! ギフトタリストは破壊させてもらうよ!」
巨大な爆発が起き、ギフトタリストの攻撃諸共、消滅していった。
琴音のフィールドに残されたモンスターはベリーシストとロミックンローラー。
そのどちらも、今のギャラクティカ・オブリビオンの攻撃力には届かない。
(ワタクシの負け……ですわね)
琴音は両手を下ろし、目を瞑って……大きく深呼吸する。
そして大きく目を見開き、力強く侑芽を見つめる。
「ターンエンドですわ! さあ、ユメ様……最後のバトルです!」
「うんっ! 私のターン、ドロー!」
侑芽は5枚のカードを勢いよく引き抜き、そのカードに目を向けず……右手を大きく突き出す。
「ギャラクティカ・オブリビオン! ロミックンローラーに攻撃!
ウォー・トゥ・ゼン! オウサム・トゥルー・グッナイト!!」
ギャラクティカ・オブリビオンの放つ電撃がロミックンローラーに直撃する。
その余波が琴音に襲いかかり……琴音は後ろに大きく吹き飛ばされた。
琴音:LP 500→0
「ふふっ……」
体が宙に投げ出される中、琴音は……静かに笑っていた。
ドサッと背中から屋上の床に叩き付けられ、琴音の装着しているデュエルディスクのライフカウンターは0を指し示した。
そしてホログラムフィールドが解除されると同時に、ギャラクティカ・オブリビオンとベリーシストのソリッドビジョンも消えていった。
「コトネちゃん!」
侑芽は琴音の元に駆け寄り、身を屈めて手を差し伸べる。
琴音は差し出された手を握り、ゆっくりと立ち上がる。
「してやられましたわ、ユメ様」
「私もコトネちゃんに翻弄されっぱなしだったよ〜。でも……」
2人の視線が再びぶつかり合う。
デュエルの時とは違い、近くで……そして、互いに笑顔で見つめ合う。
「すっごく楽しかった!」
「ふふっ、ワタクシもですわ!」
パチパチ、と手を叩く音が聞こえた。
2人はその音が聞こえる方へ振り返った。
「いいデュエルだったぜー!」
「……ナイスデュエル」
「うむ、白熱したデュエルであった」
ギャラリーの3人が拍手をしながら侑芽と琴音に歩み寄る。
2人は少し照れ臭そうに微笑んで、頭を掻いた。
「まだまだ、修練を積まなければなりませんわね」
「うかうかしてたら、あっという間に追い抜かれちゃいそうだよ〜」
「よーし、じゃあ次はアタイと……」
「あっ、申し訳ありませんけれど……そろそろ帰ってギターの練習をしませんと」
「なにぃ〜!?」
「我も、じきに門が閉まる故」
「私も帰ろうかな〜」
「……わたしも」
「それではまた明日! 顧問になってくれそうな方を連れて来ますので!」
ぞろぞろと屋上を後にする侑芽、未来、理香子、琴音の4人。
そして屋上に1人寂しく取り残された希菜。
「……なんなんだよもぅ〜!!!!!」
彼女の悲痛な叫びが夕暮れの空に木霊した。