少女たちのラッシュデュエル・ストーリー   作:高科奈紗

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第8話「うなれ!友情の幻撃」

 

「あれ……こんなところにゲーム屋なんてあったんだ?」

 

 宇宙軒からの帰路の途中、侑芽と未来の2人で自転車を漕いでいると……1軒のお店が目に入った。

 普段は通らないルートで帰っているからか、見慣れない景色に物珍しさを感じていた。

 

「まだ門限には時間があるし……寄っていくか、ユメ?」

「うん! 行ってみよう!」

 

 駐輪場に自転車を止め、鍵とチェーンの二重ロックを施し……ゲーム屋の前に立つ。

 

『ゲームショップ 龍屋』

 

「なんか、レンタルビデオ店みたいな名前のお店だね」

「……ビデオってなんだ?」

「あははっ、ミクは知らなくてもいいよ」

 

 未来は首を傾げる。

 侑芽はそんな未来に構わず、店内に足を踏み入れる。

 

「ほほっ、いらっしゃーい」

 

 カランコロン……と入店を知らせるドアベルが鳴り響く。

 そしてレジカウンター席に座っている1人の老人……いかにも好々爺といった感じの男の人が2人を出迎えた。

 

「こんにちは〜」

「はい、こんにちは。礼儀正しいお嬢ちゃんじゃの」

 

 未来も続いて店内に足を踏み入れる。

 そこそこの広さの店内、様々なゲームソフトやボードゲームが陳列された商品棚、そしてラッシュデュエルのカードが入ったガラスケースやフリーデュエルスペース。

 スタンダードなゲーム屋といった雰囲気の店内だ。

 ちょこちょことお客も入っていて、見たところ小学生から高校生ぐらいの男子が客層の殆どに見える。

 

「やっぱりこういう場所は男子が多いね」

「うむ、然もありなん」

 

 かと言って、臆せずに、アウェーな気持ちにはならず普段通りな様子の2人。

 

「お嬢ちゃんたち、中学生かい?」

「はい、そうですけど」

 

 このお店の店長……らしき好々爺の老人に侑芽は目を向ける。

 

「ワシの孫も中学生でな」

「へぇ〜、お孫さんが」

「お嬢ちゃんたちと違って、男勝りなワンパク盛りでな……もうちょっとお淑やかになって欲しいもんじゃわい」

「あはは……それは……」

 

 侑芽と未来の脳内に、1人の少女が浮かび上がる。

 

《ああああああぁぁぁぁ〜〜〜〜!!!!》

《アタイは冬川希菜! 1-2!》

《そうでしょう! そうでしょ〜う!》

 

「……大変ですね〜?」

「まったくじゃ。店の手伝いを積極的にしてくれるのはありがたいのじゃがな」

 

 会話はそこで途切れ、2人で並んで店内を見て回る。

 見た事のない、古いゲーム機やボードゲームが棚の中に所狭しと並んでいる。

 

「こういうの、骨董品って言うのかな?」

「レトロゲームの方が適切かと」

「何か気になるゲームでもあるのかい?」

 

 再び老人に話しかけられた。

 

「気になるっていうか、私たち普段からゲームってあんまりしないから……珍しく感じて」

「ほ〜、じゃがラッシュデュエルはしてるんじゃろ?」

 

 老人の視線の先にあるのは、左腕に装着されているデュエルディスク。

 

「あっ、はい。1週間ぐらい前に始めたばかりです」

「ほっほっ、なるほどのぅ。孫も、最近ラッシュデュエル友達が増えて喜んでおったしの〜」

「へ〜……?」

 

 侑芽の中で、1つの疑惑が浮かび上がった。

 

(あれ、もしかして……この人って……?)

 

「そうじゃ、お嬢ちゃんたちにこれをプレゼントしよう」

「えっ、あ……?」

 

 老人の言葉で思考から現実へと引き戻された。

 侑芽と未来の前に差し出されたのは……1つの箱。

 

「なんですか、それ?」

「ラッシュデュエルのパックが入った箱じゃよ」

「えっ、いいんですか!? カードパック1箱って、結構な値段がするんじゃ……!」

「構わんよ、売れ残りじゃからな。それに初心者はまずカードを集める事から始める、それが強くなるコツじゃ」

「ふむ、一理ある」

「いや、でも……タダで貰うわけには……?」

「ほっほっ、これからもウチにやってきてくれればそれで良いわい」

 

 それって実質的にタダと変わらないのでは……と思考を巡らせている横で、未来が遠慮なく差し出された箱を受け取る。

 

「ミク!?」

「厚意を無碍にする方が失礼ってものだ」

「もう〜……本当にありがとうございます!」

「感謝致します」

 

 侑芽と未来が揃って大きく頭を下げる。

 

「よいよい、ラッシュデュエルを存分に楽しんでくれればの」

「じいちゃーん、バックヤードの整理終わったぜ〜」

 

 侑芽と未来の肩がビクッと跳ね上がる。

 聞き覚えのある声が聞こえたからだ。

 

「お〜、希菜。ありがとうの」

「あ〜!」

「あっ、お前ら!!」

 

 お店の裏手から歩いてきた1人の少女……ラッシュデュエル部の部長、冬川 希菜が現れ……侑芽と未来を見るなり、指をさして大声を上げた。

 

「ルンぺルシュティルツヒェンではないか」

「おや、希菜の知り合いじゃったか?」

「アタイが言った、部活仲間!」

「あはは……世の中って狭いね……」

 

 その後、デュエルディスクを戴いたお礼を希菜の祖父にして……侑芽と未来と希菜の3人で、デュエルスペースで開封の儀を行う事になった。

 机の上にはハサミが2つ置いてある。

 

「これより、開封の儀を行いますっ!」

「「わ〜」」

 

 パチパチと軽く拍手をする侑芽と未来。

 

「……ところで2人って、パック剥いた事あるの?」

「ないよ」

「同じく」

「ほんっとに初心者なんだな! お前たち! 

 ……じゃあ、デッキの強化もまともにしたことないんだよな?」

「全く無いね〜」

「我はブラック・マジシャンを入れようと少しだけ弄った」

「ふむふむ……まあとりあえず、パックを開けていこうぜ〜! 

 パックを剥くのはデュエリストの醍醐味だからな!」

 

 希菜が2人にカードパックとハサミを差し出し、2人はそれを受け取る。

 

「中身も一緒に切らないようにな〜」

「はーい、キナ先生」

「うむ」

 

 チョキチョキ……とパックの端をハサミで切り、パックの口を開く。

 そしてゆっくりと中に入っている5枚のカードを取り出す。

 

「ふんふん……色々なカードがあるんだね〜」

 

 ペラ……ペラ……と1枚ずつ、カードを捲って確認していく。

 確認し終えたカードをきちんと束ね、横に退ける。

 そして次のパックを手に取る。

 

 そうこうして、何個かのパックを開けたところで……

 

「あっ!」

 

 未来が1枚のカードを見た瞬間、大声を上げた。

 

「なんだなんだ、何が当たったんだ〜?」

 

 希菜が未来に近づいて、カードを覗き込む。

 すると表情が一変した。

 

「おまっ! それ当てたのかよ!?」

「えっ、なになに〜?」

 

 未来が持っていたカードを表にして、侑芽に見せつける。

 

「ブラック・マジシャン・ガール……ブラック・マジシャンの弟子だよね、確か」

「うむ、早速デッキに入れ……」

「ちょちょちょ! 待て〜い!」

 

 未来の手を慌てて静止する。

 

「ルンぺルシュティルツヒェン、なんぞや?」

「あのな、そのブラマジガールは……ORR(オーバーラッシュレア)って言ってな!」

「オーバーラッシュレア?」

「超・超・超・低確率で封入されてるレアカードなんだよ!」

「「へ〜」」

 

 理解していない様子で相づちを打つ2人。

 

「イラストが他のカードと違うだろ?」

「うむ、枠からはみ出ていて迫力がある」

「……それ、10万は軽く超える値段するからな?」

「「じゅっ、じゅうまん!?」」

 

 事の大きさを理解して、大きな声をあげる2人。

 

「うひゃ〜……凄いレアカード当てちゃったね、ミク」

「だ、大事にしなければ……」

 

 カードを持っている腕がプルプルと震えている。

 まるで生まれたての子鹿の足のように。

 

 パックを全て開け終え、後片付けを済ませる。

 

「結構、使えそうなカードが当たったな〜」

「うむ、有意義な儀式であった」

「じゃあ次は、デッキの強化だ!」

 

 未来が自分のデッキを取り出す。

 

「……おーい? ユメ?」

 

 侑芽はデッキを取り出す素ぶりを見せず、2人を眺めていた。

 

「お前、デッキ弄らないのか?」

「うん、私はいいや」

「なんで〜!?」

「……………………」

 

 未来は目を逸らし、虚空を見つめた。

 侑芽がデッキに手を加えたがらない理由を知っているから。

 

「とにかく。このデッキはこのままがいいの」

「まあ、お前が言うのならそれでいいけど……当たったカードは持って帰れよ?」

「分かってるよ〜」

 

 カードをケースに仕舞い、ポーチに入れる。

 未来はデッキのカードを机の上に広げ、パックで当たったカードと交互に見遣る。

 

「……なあ、ユメ?」

「ん? ……なーに、キナちゃん」

 

 未来が真剣な面持ちでデッキ組んでいる最中、希菜は侑芽の隣に座って耳打ちをした。

 侑芽も、他人に聞こえないような声量で返事をする。

 

「ミクって、さ……普段はキャラ作ってるよな?」

「そうだね、いつもの変な口調は演技だよ」

「だよな〜……」

「……なんでそんな事、私に聞くの?」

 

 侑芽の言葉を受けて、希菜はバツの悪そうな表情を浮かべる。

 

「いや、なんでかな〜って。黙ってれば美人の類いだろうに」

「本人に直接、聞けば?」

 

 あっけらかんと侑芽は言い放つ。

 

「お、お前……時々、容赦無いよな」

「だって私がペラペラと話す事じゃないし」

「うぐっ……」

 

 ぐうの音も出ない正論を叩きつけられ、黙るしかなかった。

 希菜がぐぬぬ……と口を紡ぎ、未来が黙々とデッキを整え、侑芽がその様子を見ている。

 ……そんな折、平穏は突如として破られた。

 

「おっ、嬢ちゃん。いいカード持ってんじゃん」

「あっ……」

 

 高校生ぐらいの男子2人組に、未来が絡まれた。

 

「アニキ! こいつ、ORRのブラマジガール持ってるぜ!」

「ほ〜、すげぇじゃん」

「……………………」

 

 未来は冷やかな視線を2人組に向ける。

 

「ミっ……!」

「ユメ」

 

 飛び出そうとする侑芽を、希菜は静止する。

 

「ああいう輩は刺激すると何するか分からん、暫くは黙って見てろ」

「キナちゃん、でも……」

「いいから、いざとなったらアタイがどうにかする!」

「っ……わ、わかった」

 

 希菜の気迫に押されて、侑芽は引き下がった。

 

「なあ嬢ちゃん、そのカード交換してくれよ」

「……………………」

 

 明らかに不良な風貌をした男子が差し出したのは、なんの変哲もないノーマルカード。

 素人目から見ても釣り合わないトレードを持ちかけている。

 

「おいおい、アニキがこう言ってるんだ。素直に交換した方がいいぜ〜?」

 

 ケラケラと、いかにも不良の舎弟と言った感じがする小柄な男子が笑う。

 

「なんてったって、アニキは銀河騎士団(ギャラクシー・ナイツ)の次期幹部候補なんだからな!」

「……銀河騎士団(ギャラクシー・ナイツ)?」

「だっせぇ名前だな〜」

 

 侑芽が首を傾げ、希菜が率直な感想を口にする。

 

「ははっ! あんまりビビらすなよ、嬢ちゃんが萎縮するだろ?」

「……失せろ」

「あぁ……?」

 

 未来がボソッと呟いた言葉に、不良はコメカミをピクッと動かした。

 

「なんて言った、てめぇ……?」

「失せろ。邪魔だ木偶の坊」

「こいつ……!」

 

 コメカミに青筋を浮かべ、怒りの表情を露わにした不良が……未来の腕を無理矢理に掴む。

 

「きゃっ!?」

「やっちまいましょうぜ、アニキ!」

「ストーップ! やめろ、そいつから手を離せ!」

 

 希菜が大声を出して2人組の前に飛び出した。

 

「キナさん……」

「店内でのトレードは禁止、貼り紙にそう書いてあるだろ?」

 

 希菜が壁に貼り付けある1枚の用紙を指差す。

 

「……へっ、知ったことかよ。オレがルールだ!」

「救いようねぇな〜……デュエリストなら、ルールとマナーを守れっての」

 

 やれやれ、といった様子で呆れ顔を2人組に向ける。

 

「ガキ共が偉そうに……!」

「……ふん!」

「あっ!」

 

 希菜と不良が問答している一瞬の隙をついて、未来は掴まれていた腕を振り解く。

 

「ミク! 怪我してない!?」

「大丈夫、なんとも無い。……助かった、ルンぺルシュティルツヒェン」

「いいって事よ。ってか、すぐに助けてやれなくてごめん」

「気にするな」

 

 ワナワナと、明らかに気が立っている2人組。

 年下の、しかも女子にコケにされ……怒りのボルテージは限界まで達していた。

 

「おうガキ共! よくも舐めてくれたな……!?」

「舐めるもなにも、吹っかけてきたのはそっちだろ」

「こうなりゃ、俺たちとデュエルしろ! 勝ったら……さっきの嬢ちゃんのカードを貰うぜ!」

「はぁ? なんでそんな条件を飲まなきゃ……って、ミク?」

 

 希菜の言葉を遮るように、未来は上着の袖を引っ張る。

 

「構わない、我のカードを賭けても」

「いやいや! そんな条件、飲む必要なんてないんだぞ!?」

「構わない」

「ミク、お前……」

 

 希菜と未来の視線がぶつかり合う。

 いつものおちゃらけている目と違い……真剣な、熱の篭った目。

 その目に……希菜は心を揺さぶられた。

 

「……分かった。絶対にブラマジガールのカードは守ってやるから」

「うん、信じてる」

「さあ、受けて立つぜ!」

 

 希菜がデュエルディスクを取り出し、左腕に装着する。

 

「へっへっへ、俺たちに刃向かった事を後悔させてやる!」

「いきましょうぜ、アニキ!」

 

 2人組もデュエルディスクを装着し、構える。

 

「ま、待って! 2対1!?」

 

 その様子を見て、侑芽が飛び出す。

 

「これぐらい、ハンデにもならないって」

「……私も戦う! 一緒にミクのカードを守らせて!」

 

 侑芽もまた、デュエルディスクを装着して構える。

 

「ユメ……分かった。

 お前ら、タッグデュエルでいいな?」

「ガキが1人増えようが、変わらねぇさ!」

「よし、じゃあ外に出るぞ!」

 

 *

 

 店外の広場に移動し、対峙する侑芽と希菜、そして2人組の男子。

 

「ルールはバトルロワイヤル方式。

 ライフポイントはそれぞれ4000、フィールドと墓地の共有は無し、1巡目は全員攻撃不可能。……これでいいな?」

「ああ、いいぜ」

「目にモノを見せてやりましょうぜ、アニキ!」

「……ユメ、やれるな?」

「うん! 頑張るね!」

「おう、頼りにしてるからな!」

 

「「「「ラッシュデュエル!」」」」

 

 侑芽:LP 4000&希菜:LP 4000 vs 不良:LP 4000&舎弟:LP 4000

 

 掛け声と同時にホログラムフィールドが展開され、辺り一帯を覆う。

 

「ユメ……キナさん……頑張って……」

 

 祈るように両手を握り、侑芽と希菜を見つめる。

 

「アタイのターンからだ、ドロー!」

 

 希菜がデッキから1枚のカードを引き抜き、手札に加える。

 手札を一通り眺めた後、3枚のカードを手札から抜き出した。

 

「ザ・ファイアドラゴン! シルフィードラ! レイ・ドラゴンを召喚!」

 

 ザ・ファイアドラゴン(星4/ATK 1500)

 シルフィードラ(星4/ATK 1500)

 レイ・ドラゴン(星4/ATK 1500)

 

 希菜が呼び出したのは3体のドラゴン。

 どれも戦闘用のモンスターで、高い攻撃力を備えている。

 

「カードを2枚セット、ターンエンド!」

「僕のターン、ドロー!」

 

 次は舎弟のターン。

 1枚のカードをデッキから威勢良く引き抜き、手札に加え……2枚のカードをモンスターゾーンに置く。

 

「モンスターを2体、セット! そしてコイツらをリリースして、新たなモンスターをセット!」

 

 2体のセットモンスターがフィールドに現れ、即座に消え去り……別の正体不明なセットモンスターが舎弟の前に出現した。

 

「セット状態でアドバンス召喚……?」

「そういう戦術もあるのさ!」

「……ぷぷっ」

 

 舎弟がクスクスと、小馬鹿にするように微笑む。

 

「アニキ! こいつ、初心者っぽいですぜ!」

「へっへっ、みてぇだな!」

「むぅ……!」

「っ……!?」

 

 侑芽はムスッと頬を膨らませ……希菜は肩をビクッと震わせる。

 

(ヤバイ……ユメが初心者だってバレた! タッグデュエルの定石は、1人を集中攻撃する事……ユメが狙われちまう!)

 

「カードを2枚セットして、ターンエンドだ!」

「私のターン、ドロー!」

 

 侑芽にターンが回り、デッキからカードを1枚引き抜いて手札に加える。

 

「トランザム・ライナック、サテライト・ペガサス、インターステライムを召喚!」

 

 トランザム・ライナック(星4/ATK 1600)

 サテライト・ペガサス(星4/ATK 1300)

 インターステライム(星1/ATK 1000)

 

 侑芽も3体のモンスターを一斉に召喚。

 そして即座に2枚のカードを盤上から取り除く。

 

「サテライト・ペガサスとインターステライムをリリースして、アドバンス召喚! 

 記憶の舟が忘却の宇宙(そら)を廻る時、天に渦巻く星々が、胸にその名を呼び覚ます! 飛来せよ、ギャラクティカ・オブリビオン!!」

 

 ギャラクティカ・オブリビオン(星7/ATK 2500)

 

「よーし! いい感じだユメ!」

 

 侑芽の前に立ち並ぶ、トランザム・ライナックとギャラクティカ・オブリビオン。

 最も信頼するカードたちの背中を眺め、柔らかな笑みを浮かべる。

 

「……カードを1枚セットして、ターンエンド!」

「俺のターン、ドローだ!」

 

 ターンが変わり、不良男子が力強く1枚のカードをドローする。

 

「単純な初心者ほど、扱い易いってもんだ!」

「え……?」

 

 不良は2枚のカードを手札から引き抜き、叩きつけるようにモンスターゾーンへ置く。

 

「貿績蚕フィブロンと、夢中のランビリスを召喚!」

 

 貿績蚕フィブロン(星1/ATK 100)

 夢中のランビリス(星2/ATK 800)

 

 不良が呼び出したのは、羽の生えた巨大な蚕の成虫と、蝶の羽を持った少女。

 貿績蚕フィブロンはのそのそと地面を這い、夢中のランビリスは不良の周囲を華麗に飛び回る。

 

「虫のモンスター……?」

「やべっ、あのモンスターは!」

「貿績蚕フィブロンの効果を発動! デッキの上からカードを2枚、墓地に送って……いけぇ!」

 

 貿績蚕フィブロンがギャラクティカ・オブリビオンに飛びかかり、張り付く。

 そして口器から糸を吐き出し、その糸がグルグルとギャラクティカ・オブリビオンの全身を覆うように絡みつく。

 貿績蚕フィブロンは不良の元へ飛び戻り、ギャラクティカ・オブリビオンは巨大な繭に包まれてしまった。

 

「な、何が起きてるの……?」

 

 困惑して身じろぎする侑芽。

 

「さあ……新たな生命(いのち)の誕生だぁ!」

 

 巨大な繭が眩い光を放ち、徐々にヒビ割れていく。

 そして繭が破れ、中から飛び出してきたのは……蛾のような翼を携えたギャラクティカ・オブリビオン。

 

「ギャラクティカ・オブリビオンが、虫になった!?」

「貿績蚕フィブロンの効果を受けたモンスターは、このターンが終わるまで昆虫族になるのさ!」

 

 変わり果てた姿になってしまったギャラクティカ・オブリビオンを、茫然自失といった面持ちで侑芽は眺める。

 姉との絆の象徴ともいえるカードが、見るも無残な姿に変えられた。

 そのショックは計り知れない。

 

「はっはっは! まだ続くぜ! 夢中のランビリスの効果! 

 自身と手札の昆虫族モンスターを墓地に送ることで……相手のフィールドにいる、昆虫族モンスターのコントロールを得る! 

 お前のギャラクティカ・オブリビオンは、俺が貰ったぁ!!」

 

 不良は手札を1枚とモンスターゾーンに置かれている夢中のランビリスを抜き出し、墓地スロットに差し込む。

 すると、昆虫へと成り果てたギャラクティカ・オブリビオンは苦しむような呻き声をあげ……その咆哮が収まると、侑芽の前から不良の前に飛び移った。

 

「あ……あぁ……!」

 

 侑芽は瞳に涙を溜め、膝から崩れ落ちる。

 大切なカードを虫に変えられただけでなく、相手の手の中に奪われる……自身の心の内がぐちゃぐちゃに掻き乱れる。

 

「はぁっ! こりゃあ傑作だ!」

「メンタル弱すぎっすよ!」

 

 嘲笑うように大声で笑う2人組の男子。

 希菜は食いしばって、力いっぱいに拳を握り締める。

 

「ユメ! 立ち上がれ!」

「……………………」

 

 希菜の声が届いていないのか、手を地面について項垂れたままの侑芽。

 

「コントロールを奪われただけだ! あいつらから……お前の大切なカード、取り戻してやろうぜ!」

「っ…………」

 

 侑芽の肩がピクッと小さく震える。

 だが、立ち上がる闘志は残っていない。

 

「……ユメーッ!!」

「っ!?」

 

 未来の言葉で正気を取り戻したのか、顔を見上げる。

 

「こんなので、あなたとヒカリさんの絆は断ち切られたりはしない……そうでしょ!?」

「っ……そうだ、私は……私と姉さんの絆は、こんなので……!」

 

 握り拳を作り、ゆっくりと立ち上がる。

 腕で涙を拭い、再びデュエルディスクを構える。

 その目には闘志と光が戻っていた。

 

「立ち上がってきたか、まあこれで終わったらつまらねぇもんな! もっと甚振ってやるよぉ! 

 カードを1枚セットして、ターンエンドだ!」

 

 不良は悪態をつきながら手札のカードを1枚抜き出し、魔法・罠スロットに裏側で差し込む。

 

「……………………」

 

 威嚇して怯ませる算段だったのかもしれないが、未来の言葉で立ち直った侑芽には通用していない。

 

「アタイのターン、ドロー!」

 

 1巡目が終わり、希菜の2ターン目。

 手札が5枚になるようにデッキからカードを引き抜く。

 

「キナちゃん。ギャラクティカ・オブリビオン……遠慮なく、破壊しちゃって!」

「おう! お前の覚悟……しかと、受け取った!」

 

 希菜は意気込んでそう言うと、盤上に置かれているザ・ファイアドラゴンとシルフィードラのカードを取り除く。

 

「2体のモンスターをリリースして、アドバンス召喚! 

 今、アタイの銀河に7つの超新星がガンマ線バースト! やめろっと言われてももう遅い、やめろっと言われてももう遅い! 2回言ったのは意味がある! さあ出てこい、連撃竜ドラギアス!!」

 

 連撃竜ドラギアス(星7/ATK 2500)

 

「出た! キナちゃんのエースモンスター!」

「この瞬間! 俺のフィールドにいる貿績蚕フィブロンと手札1枚をデッキの下に戻し……罠カード、夢中の誘いを発動!」

「なっ!?」

 

 不良男子が1枚のカードを発動すると、暗闇が渦巻きそのカードの中に貿績蚕フィブロンと手札のカードが吸い込まれていく。

 そして、夢中の誘いのカードから光り輝く蝶の群れが現れ……連撃竜ドラギアスの周りを飛び回る。

 

「もしかして、あのカードも……!」

「お前のドラギアスも、俺が貰ったぁ!」

 

 侑芽の予感は的中してしまった。

 蝶の群れが霧散すると同時に、ドラギアスはゆっくりと不良男子の前へ飛び去り……希菜と侑芽に対峙する。

 

「くっそぅ……!」

「はーっはっは! 苦痛で歪んだその表情、サイッコーだ!」

「キナちゃん……」

 

 万事休すか……そう思い、侑芽は希菜を見遣る。

 

「ユメ、諦めるには早すぎだぜ。

 アタイは、友達との約束を破った事は人生で一度もない! 

 ……ここからが本番だ、しっかりと見てろよユメ!」

 

 希菜は侑芽にニコッと笑顔を向ける。

 

「っ……! うんっ!」

「アタイはセットしていた、強欲な壺を発動! デッキからカードを2枚ドローする!」

 

 希菜の目の前に不気味な壺が現れる。

 そして独りでに壺が爆散、希菜はデッキからカードを2枚、勢いよく引き抜く。

 

「レイ・ドラゴンをリリースして、ジャスティス・ドラゴンをアドバンス召喚!」

 

 ジャスティス・ドラゴン(星5/ATK 1200)

 

「墓地のザ・ファイアドラゴンとシルフィードラをデッキに戻し、ジャスティス・ドラゴンの効果を発動! このカードは2体分のリリースに出来る!」

「こいつ、まだ最上級モンスターを……!?」

 

 不良男子が身じろぎし、希菜はニヤリと口角を上げる。

 

「ジャスティス・ドラゴンをリリース! 

 冷たき世界を熱き炎で燃え上がらせろ! 超幻影の超ドラゴン! 超・超アドバンス召喚! 超・超・超……出てこい! 

 幻撃竜ミラギアス!!」

 

 幻撃竜ミラギアス(星7/ATK 2500)

 

 希菜が新たに呼び出したのは、ドラギアスに似た黒色の巨大な竜。

 友の意思を受けた希菜の思いに呼応するかのように、けたたましく吠え猛る。

 

「ドラギアスそっくりなモンスター!」

「手札のアタック・ボルケーノ・ドラゴンを墓地に送って、連撃竜ミラギアスの効果を発動! ファントム・チャージ!!」

 

 ギャラクティカ・オブリビオン(ATK 2500→1000)

 連撃竜ドラギアス(ATK 2500→1000)

 

「俺のギャラクティカ・オブリビオンとドラギアスの攻撃力が……!?」

「お前のじゃねぇ、アタイとユメの、だっ! 

 ミラギアスは相手のレベル7以下のモンスターの攻撃力を1500ポイント下げて、更に2回攻撃が行える!」

「凄い効果! これなら相手のモンスターを一掃できる!」

「まだだぜ、輝岩竜(ドラゴライト)を召喚!」

 

 輝岩竜(ドラゴライト)(星4/ATK 1500)

 

 希菜は更に別のドラゴンを呼び出した。

 岩のように強固な意思を感じさせるような……逞しい竜。

 

「2体のドラゴンの攻撃が通れば……!」

「カードを2枚セットして、バトル! 

 幻撃竜ミラギアスで、ギャラクティカ・オブリビオンに攻撃! 爆裂覇道暗黒弾!!」

 

 ミラギアスがギャラクティカ・オブリビオンに向けて、黒色の火球を放つ。

 その攻撃は真っ直ぐに向かっていって……

 

「罠カード発動、地縛霊の誘い!」

「っ!?」

 

 舎弟が1枚の罠カードをオープンする。

 すると、舎弟のフィールドにセットされていたモンスター……鋼鉄装甲蟻(メタルアーマードアント)がギャラクティカ・オブリビオンの盾となり、ミラギアスの攻撃を代わりに受けた。

 

 鋼鉄装甲蟻(メタルアーマードアント)(星7/DEF 2500)

 

「このカードは自分のモンスターが攻撃を受ける時、別の自分のモンスターで身代わりになれるのさ!」

「そんな!? ギャラクティカ・オブリビオンのコントロールはあの人のじゃないのに、なんで自分のモンスターかのように……!?」

「……これがタッグデュエルの特色、パートナーのフィールドは相手フィールドでもあり、自分フィールドでもあるんだ!」

「「へっへっへ……!」」

 

 2人組男子が気味の悪い笑みを浮かべる。

 

「それじゃあ……まるで、あの2人は最初から連携するのを前提に……」

「ああ、おそらく……タッグデュエル用のデッキと戦術を組んでこのデュエルに挑んでる」

鋼鉄装甲蟻(メタルアーマードアント)の守備力と、ミラギアスの攻撃力は同じ! バトルは無効だぜ〜」

 

 ミラギアスの攻撃を受けても、鋼鉄装甲蟻(メタルアーマードアント)の分厚い装甲には傷一つ付いていない。

 攻撃を受けきった鋼鉄装甲蟻(メタルアーマードアント)は、舎弟の前にのそのそと戻った。

 

「でも! ミラギアスの2回目の攻撃がまだ……!」

「……輝岩竜(ドラゴライト)で、ギャラクティカ・オブリビオンに攻撃!」

 

 攻撃命令を受けて、輝岩竜がギャラクティカ・オブリビオンに目掛けて飛びかかる。

 

「えっ!? キナちゃん、なんでミラギアスで攻撃しないの!?」

「モンスターを破壊出来ないと、2回目の攻撃は行えないんだ」

「墓地のゴキボールをデッキに戻して、カウンター・シールドを発動!」

「っ……また罠カード!?」

 

 舎弟が再び罠カードを発動。

 その瞬間、輝岩竜に巨大なシールドがブーメランのようにぶつかる。

 

 輝岩竜(ドラゴライト)(ATK 1500→500)

 

輝岩竜(ドラゴライト)の攻撃力が!?」

「返り討ちだ、ギャラクティカ・オブリビオン!」

 

 カウンター・シールドをくらい、よろめいていたところを……ギャラクティカ・オブリビオンが電撃を浴びせる。

 

「ぐわぁぁっ!」

 

 希菜:LP 4000→3500

 

 輝岩竜は爆散し、希菜のライフカウンターが減少する。

 

「コイツら……片方が防御に専念、片方がコントロール奪取と……隙がねぇ」

「どうすれば……」

「……ターンエンド」

「僕のターン、ドロー!」

 

 舎弟のターンに変わり、デッキから5枚のカードを引き抜いて手札にする。

 

(さて、ドラゴン使いのガキはそこそこやるみたいだけど……ギャラクシー使いのチビはド初心者……コンビネーションのカケラもない連中、なら狙うべきは……!)

 

 舎弟は1枚のカードを手札から引き抜き、モンスターゾーンに置く。

 

「夢中のパピヨンを召喚!」

 

 夢中のパピヨン(星2/ATK 800)

 

「また蝶のモンスター……?」

「夢中のパピヨンを守備表示に変更して、効果を発動! 相手フィールドのモンスター1体を、昆虫族に変更する!」

 

 夢中のパピヨン(ATK 800→DEF 1200)

 

「昆虫族に変更……?」

「僕が選ぶのは……アニキのギャラクティカ・オブリビオン!」

 

 舎弟がギャラクティカ・オブリビオンを指さすと、夢中のパピヨンが光の鱗粉を撒き散らしながらギャラクティカ・オブリビオンの周囲をグルグルと飛び回る。

 そして再び、ギャラクティカ・オブリビオンは蛾のような見た目に変貌した。

 

「ま、また姉さんのギャラクティカ・オブリビオンをあんな姿に……!」

「そして1枚ドロー! ……へっへっ」

 

 ドローしたカードを見遣り、舎弟は笑みを浮かべる。

 

「夢中のランビリスを召喚だ〜!」

 

 夢中のランビリス(星2/ATK 800)

 

「あのモンスター……!」

 

 侑芽が、夢中のランビリスを鋭い目で睨みつける。

 その目には怒りの感情が込められていた。

 

「夢中のランビリスと、手札のゴキボールを墓地に送って……アニキ! ギャラクティカ・オブリビオンを借ります!」

「おう! 存分に使え!」

 

 夢中のランビリスが光の粉となって消滅し、その光の粉がギャラクティカ・オブリビオンを包み込む。

 そして、不良男子の前から移動して、舎弟の前に立つ。

 

「アイツら、ユメのカードを我が物顔で使いやがって!」

 

 希菜の目にも、明らかに怒りの炎が宿っていた。

 

「へっへ〜! 鋼鉄装甲蟻(メタルアーマードアント)を攻撃表示に変更!」

 

 鋼鉄装甲蟻(メタルアーマードアント)(DEF 2500→ATK 100)

 

「守備力2500のモンスターを攻撃表示に?」

「何か仕掛けてくるぞ! 気をつけろ、ユメ!」

「魔法カード、右手に盾を左手に剣を発動! フィールド上のモンスターは全部、攻守逆転だ〜!」

 

 鋼鉄装甲蟻(メタルアーマードアント)(ATK 100→2500)

 夢中のパピヨン(DEF 1200→800)

 トランザム・ライナック(ATK 1600→0)

 連撃竜ドラギアス(ATK 2500→1500)

 幻撃竜ミラギアス(ATK 2500→1500)

 

「トランザム・ライナックの攻撃力が!?」

「しかも、ギャラクティカ・オブリビオンは守備力も2500ポイントだから……右手に盾を左手に剣をの効果を受けても攻撃力が下がらない!」

「カードを2枚セットして、バトル! 

 鋼鉄装甲蟻(メタルアーマードアント)、トランザム・ライナックを喰らい尽くせ!」

 

 鋼鉄装甲蟻(メタルアーマードアント)がトランザム・ライナックに飛びかかり、バリバリと咀嚼音を立てて貪り食う。

 

 侑芽:LP 4000→1500

 

「う……グロい……!」

「ギャラクティカ・オブリビオン、ダイレクトアタックだ〜!」

「うぅ……!」

 

 先程の光景を見て、吐き気を抑えるように口元を両手で覆い被せて俯く。

 クオリティの高いソリッドビジョンが与える印象は、現実のものと遜色ない……いや、現実以上のリアリティを引き出していると言っても過言ではない。

 

「ユメ! デュエルに集中しろ!」

「っ……そ、そうだ! 罠カード、トランザム・アライブ! 

 トランザム・ライナックを復活!」

 

 トランザム・ライナック(ATK 1600)

 

 ギャラクティカ・オブリビオンの放つ電撃が侑芽に直撃する瞬間、復活したトランザム・ライナックが咄嗟に割り込み……身代わりとなって消滅した。

 一度、墓地に行ってから特殊召喚されたトランザム・ライナックは右手に盾を左手に剣をの効力の対象外、本来の攻撃力で受け止めた。

 

 侑芽:LP 1500→600

 

「っ……間一髪だった……」

「よく持ち堪えた、ユメ!」

「んっ……ありがとう、キナちゃん。それに、トランザム・ライナックも……」

 

 自分のディスクを見遣る。

 墓地スロットの中に眠る、トランザム・ライナックに想いを馳せて……再び瞳に闘志を宿す。

 

「しぶといな〜、ターンエンド」

 

 鋼鉄装甲蟻(メタルアーマードアント)(ATK 2500→100)

 夢中のパピヨン(DEF 800→1200)

 連撃竜ドラギアス(ATK 1500→2500)

 幻撃竜ミラギアス(ATK 1500→2500)

 

「私のターン、ドロー!」

 

 右手に盾を左手に剣をの効果が解け、フィールド上のモンスターの攻撃力と守備力が元通りになる。

 次は侑芽のターン……大きく息を吸い込み、そして吐き出しながら力強くカードを5枚ドローする。

 

「攻撃力の低い鋼鉄装甲蟻(メタルアーマードアント)が攻撃表示になってる今がチャンス! 

 ブライト・センチネル、シャドウ・センチネル、ヴォルテクス・シューターを召喚!」

 

 ブライト・センチネル(星4/ATK 1500)

 シャドウ・センチネル(星4/ATK 1500)

 ヴォルテクス・シューター(星4/ATK 1400)

 

「この瞬間! 罠カード、転倒無視!」

 

 ブライト・センチネル(ATK 1500→DEF 100)

 鋼鉄装甲蟻(メタルアーマードアント)(ATK 100→DEF 2500)

 

 舎弟が罠カードを発動した途端、鉄鋼装甲蟻が守備の態勢をとり……ブライト・センチネルもつられて防御姿勢となってしまった。

 

「ブライト・センチネル!?」

「転倒無視の効果で、自分の昆虫族モンスターは守備表示になったのさ! 

 そして自分フィールドに守備モンスターが2体以上いれば、相手のモンスター1体も守備表示にできる!」

 

 今の舎弟のフィールドには鋼鉄装甲蟻(メタルアーマードアント)と夢中のパピヨンが守備表示となっている、条件は整っていた。

 

「それでも……! ギャラクティカ・フォースを発動! 

 墓地のトランザム・ライナック、サテライト・ペガサス、インターステライムをデッキに戻して……私のモンスターの攻撃力を1500ポイントアップ!」

 

 シャドウ・センチネル(ATK 1500→3000)

 ヴォルテクス・シューター(ATK 1400→2900)

 

「きたか、ギャラクシーデッキの必殺カード!」

「……………………」

 

 これで侑芽のモンスターは、相手の従えるモンスター全ての攻撃力を上回った。

 

(問題は、どれに攻撃するか……ギャラクティカ・オブリビオンを早く解放してあげたいけれど……)

 

「ユメ! 夢中の誘いで奪ったモンスターは攻撃と効果の発動は行えない、ドラギアスは無視して遠慮せずにギャラクティカ・オブリビオンを倒して助けてやれ!」

 

 侑芽はギャラクティカ・オブリビオンを見つめ……そして目を瞑り、深呼吸する。

 

「……カードを1枚セットして、バトル! ヴォルテクス・シューター、連撃竜ドラギアスに攻撃して!」

「お、おい、ユメ!?」

 

 ヴォルテクス・シューターが両腕の円盤を勢いよく投げつける。

 2つの円盤がドラギアスの両腕を切断し、爆散する。

 

 不良:LP 4000→3600

 

「ちっ……こいつ……!」

「ユメ、そのままギャラクティカ・オブリビオンに攻撃だ!」

「シャドウ・センチネル、鋼鉄装甲蟻(メタルアーマードアント)に攻撃!」

「おいっ、ユメ!?」

 

 シャドウ・センチネルが鋼鉄装甲蟻(メタルアーマードアント)の分厚い装甲を一刀両断、守備モンスターへの攻撃ではプレイヤーにダメージを与えられないが守りは着実に崩れている。

 

「ターンエンド!」

 

 シャドウ・センチネル(ATK 3000→1500)

 ヴォルテクス・シューター(ATK 2900→1400)

 

「ユメ! お前……!」

「キナちゃん!」

 

 食ってかかろうとした希菜を、侑芽はジッと見つめる。

 

「確かに、ギャラクティカ・オブリビオンは大切なカード……今すぐにでも助けたい。

 でもね……怒りや憎しみに囚われて視野を狭め、勝機を逃すのは……本末転倒でしょ?」

「お、お前……」

「それに、キナちゃんがちゃんと、ギャラクティカ・オブリビオンを救い出してくれるでしょう?」

「……ああ、任せろ!」

 

 離れた場所から、互いの握り拳を突き合わせる。

 

「涙ぐましい友情ごっこだなぁ! だが、そんなのは……無価値! 

 俺のターン、ドローだ!」

 

 不良が5枚になるように、手札を補充する。

 

「モンスターを2体、セット! そしてリリース!」

「エースモンスターが来るぞ、ユメ!」

「うんっ!」

 

 侑芽と希菜が身構える。

 不良男子は1枚のカードを掲げ、乱暴に振り下ろして盤上に叩きつける。

 

「来いっ! 昆虫族最強モンスター……アングラード・ディグラ!!」

 

 アングラード・ディグラ(星7/ATK 2400)

 

 不良男子が召喚したのは、鋭い触角を持った巨大なムカデ型モンスター。

 ドラギアスに負けず劣らずな体躯や威圧感を放つ。

 

「おっ、おっきい……!」

「デカいだけじゃねぇぞ! アングラード・ディグラの効果を発動! 

 デッキの上からカードを2枚、墓地へ送る!」

 

 不良男子は乱暴にデッキから2枚のカードを引き抜き、それを墓地スロットへ差し込む。

 

「墓地の送られたカードは、夢中のランビリスと夢中のパピヨン! よって攻撃力は800ポイントアップ!」

 

 アングラード・ディグラ(ATK 2400→3200)

 

 アングラード・ディグラが更に巨大化し、影がフィールドを覆い尽くす程までになった。

 

「攻撃力3200……!」

「カードを2枚セットして、バトル!」

「「っ……!」」

 

 侑芽と希菜が息を飲む。

 

「ドラゴンのガキはまだ3500ポイントのライフが残ってるが、チビのライフポイントは風前の灯火……なら、どっちを狙えばいいかは明白だよなぁ!」

「くっ……!」

 

 侑芽が身構え、身じろぎする。

 セットしたカードを見遣るが……

 

(ダメ……このカードじゃあ、攻撃は防げない……!)

 

「アングラード・ディグラ! チビの命を刈り取れぇ!!」

 

 アングラード・ディグラが、ヴォルテクス・シューターに目掛けて突進する。

 鋭利な触角で体を突き刺すつもりだ。

 

「ユメーッ!!」

 

 未来の悲痛な叫びが虚空を舞う。

 アングラード・ディグラの触角が、ヴォルテクス・シューターに突き刺さる……その瞬間だった。

 

「いけ、ミラギアスッー!!」

 

 ミラギアスがヴォルテクス・シューターに体当たりをかまし、吹き飛ばす。

 そしてアングラード・ディグラの触角はミラギアスの腹部に深々と突き刺さる。

 

 希菜:LP 3500→2800

 

「み、ミラギアス……どうして……?」

「へっ……罠カードを発動させてもらったのさ!」

 

 自分のフィールドにオープンされたカードを指差す。

 

「竜の二呪葬……?」

「このカードの効果で、攻撃対象をアタイが選び直した!」

「あ、あのガキ……僕と似たような罠カードを!」

「……ふぅ、助かった〜!」

 

 侑芽が安堵のため息を溢し、地面にへたり込む。

 

「チッ、命拾いしたか……ターンエンド!」

 

 アングラード・ディグラ(ATK 3200→2400)

 

「アタイのターン、ドローだ!」

 

 希菜が威勢良くカードを5枚ドローする。

 相手のフィールドには、アングラード・ディグラとギャラクティカ・オブリビオンが佇んでいる。

 

「……ユメ、勝つぞ!」

「っ……うんっ!」

 

 へたり込んでいた侑芽は、飛び跳ねるように立ち上がり、デュエルディスクを構える。

 

「ドラゴニック・ガイスト、トレジャー・ドラゴンを召喚!」

 

 ドラゴニック・ガイスト(星1/ATK 0)

 トレジャー・ドラゴン(星3/ATK 1100)

 

「ドラゴニック・ガイストの効果を発動! 自身とトレジャー・ドラゴンを墓地に送って……復活しろ、幻撃竜ミラギアス!!」

 

 幻撃竜ミラギアス(星7/ATK 2500)

 

「はんっ! まーた性懲りも無くミラギアスか!」

「ミラギアスの効果を発動! 手札のアタック・ボルケーノ・ドラゴンを墓地に送って……ファントム・チャージ!!」

 

 アングラード・ディグラ(ATK 2400→900)

 ギャラクティカ・オブリビオン(ATK 2500→1000)

 

「これでアングラード・ディグラとギャラクティカ・オブリビオンを倒せる!」

「いいや、まだだ! ツインエッジ・ファントム・ドラゴンを召喚!」

 

 ツインエッジ・ファントム・ドラゴン(星3/ATK 1000)

 

 希菜が新たに召喚したのは、ミラギアスと同じ色をした小さなドラゴン。

 

「ツインエッジ・ファントム・ドラゴンの効果! 自身を守備表示にして……ミラギアスの攻撃力を500ポイント上げる!」

 

 ツインエッジ・ファントム・ドラゴン(ATK 1000→DEF 0)

 幻撃竜ミラギアス(ATK 2500→3000)

 

「攻撃力3000!」

「だが、もうテメェは殆ど手札を使い果たした!」

「まだまだまだまだ! セットしていた2枚の魔法カード、ザ☆パワーアップとドラゴニック・フォースを発動!」

「ダブルマジックだと!?」

 

 希菜は墓地からアタック・ボルケーノ・ドラゴン2体、トレジャー・ドラゴン、ドラゴニック・ガイスト、レイ・ドラゴン、輝岩竜の6枚を取り出して、デッキスロットに差し込む。

 

「ザ☆パワーアップの効果でミラギアスの攻撃力を500ポイント、ドラゴニック・フォースの効果で900ポイント上げる!」

 

 幻撃竜ミラギアス(ATK 3000→4400)

 

「こ、攻撃力……4400!?」

「……キナちゃん、私の力も受け取って! パワー・ショック!!」

 

 侑芽が魔法・罠スロットに裏側で差し込んであるカードを抜き出し、表に返して再び差し込む。

 

「相手が魔法カードを発動した時、自分のモンスターの攻撃力を1000ポイントアップさせる! 

 ……でもこれはタッグデュエル、パートナーのフィールドは相手フィールドでもあり、自分フィールドでもあるんだよね?」

「「ま、まさか……!」」

 

 2人組男子が狼狽え、後退りする。

 侑芽の言葉が意図するところを即座に読み取ったからだ。

 

「相手……キナちゃんが発動した魔法カードの力を吸収し、自分……キナちゃんのミラギアスの攻撃力を1000ポイントアップ!」

 

 幻撃竜ミラギアス(ATK 4400→5400)

 

「「攻撃力5400だとぉ!?」」

「バトルだ! いけ! ミラギアス、アングラード・ディグラに攻撃! 爆裂覇道暗黒弾!!」

 

 幾多ものカードの力を受けたミラギアスが闇色の光弾を放つ。

 その光弾の色は深い闇色に染まりきっていて、最初に放った時よりも桁違いの大きさだった。

 

「と、罠カード! 聖なるバリ……」

「ドラゴニック・フォースの効果を受けたモンスターが攻撃を行う時、相手は罠カードを発動出来ない!」

「ぐうぉぉぉぉぉぉー!!!」

 

 不良:LP 3600→0

 

 ミラギアスの攻撃がアングラード・ディグラに直撃。

 かつてない程の衝撃が周囲に伝わり、不良は体勢を崩して後ろに大きく吹き飛ばされる。

 

「アニキーッ!!」

「次は……お前だ!!」

「ひぃっ!?」

 

 希菜が舎弟にビシッと指をさす。

 舎弟は尻餅をつき、逃げるように振り向く。

 

「ギャラクティカ・オブリビオンを縛る呪縛を解き放て! 滅殺覇道幻王撃!!」

 

 ミラギアスの胴体や翼に埋め込まれているオーブが怪しく光り輝く。

 そしてそのオーブからパワーが溢れ……闇色の光線を放つ。

 

「あああああぁぁぁぁっー!!!」

 

 舎弟:LP 4000→0

 

 闇色の光線がギャラクティカ・オブリビオンを飲み込み、消滅していった。

 そしてその余波で生じた衝撃が、逃げ惑うように這いずり回っていた舎弟を襲い……大きく吹き飛ばし、顔面から地面に叩きつけられた。

 

「ユメッ! キナさん!」

 

 ホログラムフィールドが解除され、ミラギアスやブライト・センチネルたちのソリッドビジョンも消滅した。

 そして未来が2人に駆け寄り、飛び付くように抱きしめる。

 

「よかった……2人が無事に勝てて、本当によかった」

「えへへ〜、応援ありがとう。ミク」

「ざっとこんなもんさ!」

 

 侑芽と希菜が、未来の頭や背中をポンポンと優しく叩く。

 

「くっ……くぅ……!」

「て、テメェら……!」

 

 2人組男子がフラフラとよろめきながら立ち上がる。

 3人はハッとなり、その方向を見遣って身構える。

 

「こうなりゃあ、実力行使だ!!」

 

 不良男子が怒りに身を任せ、突進してこようとする。

 

「ユメッ! 私の後ろに下がって……!」

「ミク!?」

 

 未来は侑芽を背後に追いやり、戦闘態勢に入って身構える。

 一触即発……かと思われた、その時だった。

 

「あら? 皆さま……こんなところで何をしているのですか?」

「お嬢!?」

 

 偶然、通り掛かったギグバッグを背負った少女……姫榊 琴音の声を聞いて、そこにいた全員が目を向ける。

 

「いや、まあ……ちょっと、ね?」

 

 侑芽は苦笑いを浮かべ、頬を指先で掻く。

 

「あ、ぁ……アニキ、あの人……!」

 

 舎弟がワナワナと全身を震わせ、琴音を指差す。

 

「な、なんで《ビショップ》がここに居やがる……!」

「ビショップ? チェスの駒ですか? それが何か……? 

 

 琴音がキョトンとした表情で首を傾げる。

 

「さっさと逃げるぞ!」

「ま、待ってくださいよアニキ〜!」

 

 2人組男子はスタコラサッサと背を向けて走り出した。

 

「アイツら、お嬢の顔を見た瞬間に様子が変わったな」

「ラプンツェル、知り合いか?」

「あんな柄の悪そうな輩なんて、知り合いにいませんわ!」

「あはは……とりあえず、助かったよコトネちゃん」

「どういたしまして……ですわ?」

 

 *

 

 そんなこんなで、無事に事態は終息し……4人で店内で休憩し、そして帰る時間となった。

 

「今日は色々あったけど……ありがとうね。キナちゃん、コトネちゃん」

「おう!」

「ワタクシ、何もしてませんけれど……ユメ様に讃えられるのなら本望ですわ」

 

 侑芽はみんなから視線を外し、希菜の祖父に目を向ける。

 

「お爺さんも、カードパックありがとうございました」

「ほっほっほ、律儀な子じゃのう」

「……あっ! そうだ、ちょっと聞きたいことがあるんですけど……」

 

 そう言うと、侑芽はポーチの中から1枚の写真を取り出す。

 ヌードル宇宙子に見せた写真と同じものだ。

 

「この人……見たことないですか?」

「んっ? ん〜……ん〜?」

 

 希菜の祖父は顎に手を置き、考え込む仕草をする。

 

「……あぁ! 見たことある」

「本当ですか!? いつ、何処で!?」

 

 侑芽は食い気味ににじり寄り、カウンターに身を乗り出す。

 

「おっ、落ち着かんかい。……確か、2年ぐらい前にこの店に来たことあったのう。

 女の子の客は珍しいからの、印象に残りやすいんじゃ」

「2年前……」

 

 希菜と琴音も身を乗り出し、写真を覗き込む。

 

「誰だ? これ?」

「ユメ様に何処と無く似ていますわね……姉妹か親戚ですか?」

「なっ、なんでもないよ!」

 

 侑芽は慌てて写真をポーチの中に仕舞う。

 明らかに狼狽している様子を見て、2人は首を傾げる。

 

「ミクは知ってるだろ? ユメの幼馴染なんだし」

「知らん」

「えっ? 流石にそれはウソ……」

「知らん」

「……まあ、いいや」

 

 希菜はため息をついて顔を背ける。

 

「見たのはあの日だけじゃからの〜……その子の詳しい事は分からんのじゃ」

「いえ、それで充分です……ほんとに、ありがとうございました」

「ふむ……?」

 

 侑芽は深々と、真剣な面持ちで頭を下げる。

 未来はその様子を見て……訝しみながら侑芽から目を逸らした。

 

 *

 

 店内から出て、帰路に就こうと駐輪場に足を運んだら……事件は起きた。

 

「あぁ〜!? な、ないっ!?」

「どうかしました……って、なんですのこれ!?」

 

 侑芽が自分の自転車を見て、驚愕の声を上げる。

 そして琴音もそれを見て、同じように大声を上げた。

 

「ない? 何が?」

「サドル! サドルだけ盗まれてる!」

「えぇ〜……?」

 

 未来が引き攣った表情を浮かべる。

 目の前にあるには、サドルを失った24インチの自転車。

 

「どうやって帰りますの……?」

「押して帰るしかないかな……はぁ〜」

 

 深くため息をつく。

 龍屋から自宅までの距離を考え……憂鬱な気分に叩きのめされた。

 

「お〜い、ユメ〜!」

 

 遠くから希菜の声が聞こえた。

 なにかを持ってこちらに走ってきている。

 3人の視線が希菜に向けられる。

 

「そこの道端でコレ拾ったんだけどさ、お前のか?」

 

 希菜が差し出したのは、黄緑のサドル。

 

「さ、サドルが落ちてましたの?」

「私のじゃないな〜、私のは茶色だし」

「そっか、じゃあ誰のだろ?」

「そもそも、ユメのサドルを盗んだのは誰ぞや」

「……………………」

 

 4人が考え込む仕草をする。

 

「……さっきの2人組が腹いせに?」

「だとしたら、狡いな〜……」

「まあいいや、背に腹は変えられないし……これを代わりに使おう」

 

 希菜からサドルを受け取り、座席に嵌め込む。

 

「おっ、ぴったり!」

「よかったですわね、ユメ様!」

「それじゃあ……っと」

 

 鍵を解除し、サドルに腰かけた……その時だった。

 

「んっ?」

「どうした、盟友ユメ?」

「いや、なんか……サドルがモゾモゾと動いたような気が」

「サドルが独りでに動くかよ」

 

 希菜のごもっともなツッコミが炸裂した。

 

「だ、だよね? じゃあ……みんな、またね!」

「また」

「おう、またな〜!」

「さようならですわ!」

 

 別れの挨拶を告げて、自転車を漕ぎ出す。

 帰路に就いている最中、侑芽は臀部に違和感を覚えながら……ペダルを踏み続けた。

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