大いなる意志の魔術の一つ、黄金樹の祈祷の原型となった魔術。
使用者の体力を膨大に回復し、一度だけ死から守る。
かつてこれを生み出した少女は、この魔術によって不死を得た。しかしそれは、終わりなき苦悩の始まりだった。
×月△日 最後に日記を書いてから随分と長い時間がたったらしい。
マリカがいなくなってから、どうも時間感覚がくるっていていけない、やはり外に出るというのはそこそこ重要な行動だったらしい。
あの弟子がいなくなってから外にも出なくなってしまったからな。魔術はからっきしなあの弟子も、それなりに私の役に立っていたようだ。
それはそうと、魔術の簡略化は順調だ。最近は私が大いなる魔術と名付けた魔術のうちの一つ、大いなる回復から不死性を取り除いた祈祷の開発に成功した。しかし研究して分かったが、癒しの力を与えるものを作る場合は祈祷のほうが便利らしい。というか指の文字が癒しの力に最適化されすぎている。元をたどれば大いなる意志が作ったのだろうが、大いなる意志は何を考えてこのような文字を作ったのだろうか。あれらは外から来たという話だったが、やはり人に取り入ることを狙っているのか...?
まあそんなものは学者連中に任せておけばいいだろう。どうでもいい話だ。
×月□日 急に家の戸口をたたかれたので若干イラつきつつも出てやったら、村長(とはいえ顔は知らんやつ。私の知っている村長はずいぶん前に死んだらしい。)とよくわからん被り物をした魔術師が何やら言い争っていた。
やかましくてかなわないのでとりあえず家に招き入れ話を聞いたところ、この魔術師(ゴライアスというらしい。知らない名前だ。)は私が通っていた学院の学生らしく、卒業のために自分なりの魔術を作ろうといろいろ模索していたところ風のうわさで私の存在を聞いてやってきたらしい。そして魔術師らしく常識をわきまえずに戸口をたたいたところで村長に見つかり、私が見た状況になったとか。そしてゴライアスはふてぶてしくも魔術をいくつか見せてくれと言ってきやがった。若干面倒くさかったが、奴のかぶっているフードが中々イカしていたのでそれと同じものをよこすという交換条件のもといくつか魔術を見せてやった。
そしたらゴライアスは一通り興味深そうに眺めた後、そのまま急ぎ足で帰っていった。
どうも研究意欲がわいたらしい、まったく面白いやつだ。
とはいえ久しぶりにリフレッシュできたからか、すがすがしい気分で研究に打ち込めた。よい時間だったのかもしれない。とはいえゴライアスにとってもそうだったかは知らないが。
奴が置いて行ったフードはなかなかかっこよかったので、自分なりに改造してから家に飾っている。
×月☆日 今日も今日とて研究の日々。今日は大いなる魔術と名付けた魔術のうちの一つ、大いなる隕石雨の簡略化をしてみた。とはいえ重力の要素がなかなか調整しづらく、簡略化はできたものの威力がだいぶ弱くなってしまった上に扱いにくくなった。少しでも動くと座標がずれるからか当たらなくなるのだ。とりあえずメテオライトと名付けたが、果たしてこれを使うやつはいるのだろうか。それこそ重力魔術の達人くらいにしか使えなさそうだが。
×月××日 今日も今日とて研究だ。今日は私が作った魔術の一つである大いなる黒宇宙の簡略化をした。だがこちらは暗黒を呼び出すからか調整が難しく、途中で飽きたのでお蔵入りにした。正直吸い込むだけとかつまらん。
×日○日 今日も今日とて...
...
......
..............
☆月×日 なんかうちの前にやばそうな馬車が止まってるんだが。私なんかしたかな?
♢
家の扉をあけ放ちつつ、思わず叫ぶ。
「な、なんだお前らぁ!?でかくないかぁ!?」
そう。私の前に馬に乗りながらたたずんでいるのは、黄金の鎧を付けた騎士たち。ただそれだけだったらよかったのだが、でっかい。とにかくでかいのだ。なんか巨人の血引いてるんじゃないかと思うくらいには。いやお前らデカすぎるよ。人じゃないだろ、マジで。
そんな客観的にみるとバカみたいなことを考えていると、叫んだせいか馬上の騎士と目があう。
(ふ、普通に怖いんだけど!?)
鎧の隙間から若干見えそうで見えない目と合うことの怖さと言ったらもう。しかも相手は得体のしれない大きさを持つめちゃくちゃに強そうな騎士なのだから怖さは倍増だ。
そんな騎士が二人揃って馬から降り、こちらに向かってくるとなれば体の震えは止まらなくなるものだろう。
しかしここで逃げては天才魔術師として名折れ。何とか震えを隠しつつ、やってきた黄金の騎士たちと向かい合う。
「な、何か用か?さ、ささ叫んだ非礼は詫びるが、その...わ、わたし、何かしたかなぁ?」
「...御身は、魔術師ルーン様で間違いありませんか。」
「え、あ、ま、まあその通りだが。」
そう答えると、二人の騎士はそれぞれ刀礼に臨む騎士のごとく跪き、そして言った。
「あなたを、探しておりました。我らが女王、マリカ様がお待ちです。宜しければご同行願えますよう。」
「...ま、待て。今マリカといったか?」
「は。」
私の言葉に騎士は淡白に是と答えた。
...いや、さすがに本人なわけないだろう。マリカ違いなはずだ。一応確認しておくか。
「...そのマリカって、すんごい光輝いてる金髪持ってて指の言葉がわかる子供だったり、するか?」
「...子供、と呼ぶのは無礼ですが、貴方のおっしゃる通りです。」
「そ、そうか...そうかぁ...」
どうやら私の弟子は王になっていたらしい。なんの冗談だこれ。
...まあともかくだ、こんなところでまごついていても仕方ないだろう、一度会ってみるというのも手だ。
「...分かった。ついていこう。ここで抵抗したところで何も生まないだろうしな。...村長!」
「は、はい!何でしょうか。」
「あー...顔を合わせて数日もたっていないところ悪いが...私の家を頼んでもいいか。」
「は、はい!わかりました!」
「ありがとう。」
さて、これで後顧の憂いは断つことができた。あとは流れに身を任せるとしようか。
騎士たちに案内され、私が彼らが守っていた馬車に乗り込むと、馬車は緩やかに走り始める。
忘れたらまずいものは...ないはずだ、あそこには研究書しかないし。
騎士たちにビビり散らかして目線を合わせなくていいようにフードかぶってきたのも偶然だが結果的に良かっただろう。
「はてさて、どうなることやら。」
私のその小さな独り言は、誰に届くこともなくそっと虚空に消えていった。
ルーンのグレートフード
細やかな装飾に青の下地を持つ、巨大なフード。源流の魔術師、ゴライアスから彼の心の師に贈られた魔道具。知力、信仰、神秘を大幅に上昇させる。
ゴライアスにとって、ルーンは憧れであった。彼女がそれに気が付くことはなかったとしても、彼の魔術には常に師の導きがあったのだ。