マリアちゃん、推理の時間ですよ   作:虫野律

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 愛緒の客室に戻りドアを施錠するとマリアは、すぐに透明化を解除して彼に詰め寄った。

 

「カルマ判定の魔眼のことは話したでしょ!? 何で理久が真犯人だなんて嘘をついたの?!」

 

 信じて同窓会に送り出した同棲三年目の年下彼氏がちゃっかり朝帰りしてきたのを出迎えた三十路彼女のごとき剣幕であった──ギャオオオオン! ガウガウッ!

 

「嘘なんてついてないさ」しかし愛緒は悪びれた様子も動揺した様子もなく、しれっと答えた。「赤葉理久さんが実行犯というのは、間違いなく真実だよ」

 

「ガウガ……ガウ?」マリアは混乱する。「え、でも、理久は……」悪人じゃない。はず。

 

 白であり黒であるもの、なぁ~んだ? というクイズを出されたら誰でもこうなるだろう。シマウマしか思いつかない。

 

 愛緒はくすっと微笑を洩らした。

 

 マリアはむぅとむくれた。「馬鹿にしてないでちゃんと説明してよ!」

 

 あはは、ごめんごめん。愛緒はいなすように笑い、そして核心に触れる。「マリアは、『カルマ判定の魔眼は人間さんの罪を見ることができる』ってどや顔で説明してたよね?」

 

「うん」どや顔ではなかったと思うけど。

 

 よろしい。愛緒は教師のように鷹揚にうなずいて、「じゃあ、僕がさっきマリアにした質問は覚えてる?」

 

「うん、覚えてない」即答だった。

 

「あの質問はね……」そこで愛緒は言葉を止めた。「えっ、覚えてない? まだ三十分も経ってないのに?」

 

「うん、でも何か言ってたってことは覚えてるよ」褒めてくれてもいいんだよ?

 

「ああ、そう」愛緒の美麗なる眉目に疲れの色がにじんだ。「えー、僕は、『カルマ判定の魔眼が見ることができる〈罪〉というのは、形而上的(けいじじょうてき)には、ここ、日本の実質的意義の刑法における犯罪のことで、形而下的(けいじかてき)にはそれを数値化した〈悪行ポイント〉という形で視界に表示されるってことでいいんだよね?』って聞いたんだけど、思い出したかい?」

 

「あー、うん」マリアは曖昧模糊とした記憶の断片を発掘した。「難しい言葉使う人だなぁって思ったの思い出した」言い回しも理屈っぽくて疲れるし。

 

「それは悪かったね。わかりやすさより正確さや厳密さを求めてしまう癖があるんだよ」愛緒はむっとしたように言い、そして、「とにかく」と仕切り直すようにやや強く発した。「君はその質問にイエスと答えた──それがからくりだよ、〈悪行ポイント〉がゼロでありながら赤葉理久さんが犯人である、ね」

 

「????」マリアの眉間が疑問のしわでモコモコになった。

 

「つまりね、日本では十四歳未満の子供は刑事責任能力がないものとされていて、たとえ人を何人殺そうと刑法上の罪を犯したことにはならないんだよ」

 

「……」少し考え、「!?!?」マリアの目から鱗がぽろり。そうか、そういうことだったのね、とすべてを理解した。

 

「ようやくわかったようだね」ようやく、のところに妙に力が込められているように聞こえた。「そう、赤葉理久さんは八歳であり、犯罪者にはなりえず、無条件に〈悪行ポイント〉がゼロになるんだ──おかしいとは思わなかったかい? 信号無視でさえ〈悪行ポイント〉が加算されるのにゼロなんていうのは非現実的だ。この事実が導く真実は一つ、彼がそもそも加算されない種類の人間であるということ」そして愛緒は、「もちろん、ほかの証拠が姉弟の犯行を示唆していたというのも根拠になっているよ」とさらりと付け足した。

 

「はぁ~」マリアは長く太い感嘆の息を吐いた。「よくもまぁ、そうやっていろんなことを結びつけて考えられるねぇ」

 

 マリアにとっては物事Aは物事Aでしかなく、物事Aから物事Bを導いたり、物事Aと物事Cを見ていちいちその連関の可能性を考えたりはしない。無論多少の例外はあるが、基本的に見たものを素直に捉えるだけである。

 それなのに推理を要する仕事をしなければならないのだから、世の中、間違っていると言わざるを得ない。

 

 しかし、今回は愛緒がいてくれたおかげで何とかなった。やはり自分は幸運なのだろう。

 

「ありがとね」マリアは柔和にほほえんだ。「マリアだけだと詰んでたよ」

 

「どういたしまして」そして愛緒も、「それにしても、死神にほほえまれるというのは少し怖いね」なんて冗談めかして小さく笑った。

 

 

 

 

 

 

 そうして来た時と同じようにきらきら魔方陣で天界の会社に帰ったわけだが、マリアは上司のパロにあきれられていた。

 

「まさか肝心要の魂の回収を忘れて帰ってくるとは」デスクに着いたままパロは言う。「君のようなうっかりさんは初めてだよ」

 

「うう、ごめんなさい」一方のマリアは立ったまま縮こまっている。

 

〈輪廻ブック〉の記載事項のことで頭がいっぱいで、一番大切なことがすっぽり抜け落ちていたのだ。嘆かわしや。

 

 はぁやれやれだぜ、とばかりにあからさまな溜め息をついてパロは、指示を出した。「今すぐ回収してきなさい」

 

「はい……」マリアはしおたれた声で答え、オフィスを後にした。

 

 

 

◆◆◆

 

 

 

★輪廻ブック・赤葉茉莉★

〈犯人〉

 赤葉茉莉&赤葉理久

〈動機〉

 振られた悲しみ限界突破!

 不倫ヤリ捨て絶対許さない!

〈方法〉

 ショタにお任せ☆

〈担当者コメント〉

 同期のセラちゃんに話したら、「名付けるなら、おねショタ殺人事件ね」って言ってました。いいセンスだと思いました。




以上で一章完結です。
ありがとうございました。
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