シンデレラはガラスの靴を選ばない~魔法使いシンデレラ物語~   作:ヒトリゴト

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第15話

 トレメイン伯爵家。アッシュベリー王国内でも有数の金脈を有する領地を東南部に持つ、屈指の大富豪。その善政から領民たちからは特に不満の声も上がっていなかった。そう、過去形だ。

 

 年々引き上げられた税。引き上げなくてはいけないような領地の運営は行われておらず、懐は潤っていたはずだ。というか、金脈がもたらす莫大な利益を考えれば、領民に対しての税を引き上げる必要はなかったはずなのだ。

 

 それが変わったのは4年前。伯爵が再婚したということは領民の耳にも届いたが、しかしそれから夫人や伯爵が領地に戻ったことはなかった。領地の運営は本家の代行者に一任していたのだ。

 

 それでは伯爵がなにをしていたのか、と問われれば、それを知っている者はいなかった。爵位を持つ者が出席しなければいけない会議には出席し、顔を見せなければいけない場にもしっかりと出ている。だからなにか不備を指摘する者こそいなかったが、貴族たちの間では伯爵は変わってしまったのだと言われていた。

 

 最愛の妻を亡くし、彼女との間にいた娘も行方不明に。表面的には大丈夫でもこころが壊れてしまったのだと。

 そんな厄介者と関わろうとする者はおらず、貴族たちとの関わりは失せていった。

 

 一方で、主にお茶会——つまりは婦人の間で名を広げたのが再婚した伯爵夫人ベラとその娘たちだった。

 

 元々、トレメイン伯爵家の持つ莫大な財産を目当てに結婚したと言われていたベラだが、お茶会に出るようになるとその噂は一変した。

 品性のある所作、人を楽しませる話術、2人の子を産んだとは思えない美貌。

 これは伯爵が再婚するのも納得、という女性だとお茶会の間では一部を除いて広まっていった。

 

 問題だったのは娘たちだ。明らかに荒い金遣い、醜い所作、汚い言葉遣い、人の癪に障る話し方。容姿こそ母親であるベラの片鱗を感じさせるが、全体的に見れば豚とヤギがドレスを着ているような印象だ。

 

 しかし婦人や子女たちはそんなことを口にはしない。金払いのいい財布として扱うため、おべっかなど楽々とこなしていた。彼女たちにとっては、噓と建前は化粧以上に重視するものであり、それを見抜く知性こそが武器だった。

 故に、知性も持たない獣のような姉妹をいいように扱うのは朝飯前だ。

 

 優しく品性に溢れた母と、醜く知性に欠けた姉妹。それがトレメイン伯爵家の女たちに与えられた評価だった。

 

 

   ***

 

 

 伯爵家の屋敷は、シンデレラがいた時と比べれば綺麗に保たれていた。それは本業である召使いたちが仕事をこなしていたからであったが、屋敷の中には彼・彼女らの話声は一切なかった。

 人形にように働き、ただ屋敷の見栄えを保つためだけに生きる。

 

 【死操】イーリンが魔法陣によって『精神操作』を施し、領地より連れて来た人形たち。それがトレメイン伯爵家の屋敷で働く使用人たちだった。もはや、彼らは屋敷を構成する部品の1つといっても過言ではなかった、悪い意味で。

 

 整然としすぎて屋敷のなかで、伯爵夫人ベラにイーリンが報告をしていた。

 

「今ぁ、王都に西の『魔物の災禍』で活躍した【命名】の一派の3人が来てるねぇ」

「【命名】が? 1人はあの小娘だとして、もう1人は?」

「同じ【命名】の弟子だよぉ。2つ名はまだないけどねぇ」

「それなら大したことないのね」

「【命名】と【灰燼】に比べればねぇ。魔力量もそうでもなさおそうだったいしぃ」

 

 まだ昼まではあったが、ベラはワインを開けていた。イラつきを収めるには、ワインの芳香な香りが一番だと思っているからだ。50年物の高級品だったが、トレメイン伯爵家の財産からすれば、大した金額ではなかった。

 イーリンはお酒が飲めないので、代わりにトマトジュースを啜っていた。まるで生き血を飲んでいるようだと、ベラは不気味に思い目をそらす。

 

「それで、計画に支障はないのかしら?」

「う~ん。向こうもワタシに気がついて情報を探ってるみたいだからねぇ」

「ちょっと、大丈夫なんでしょうね? アナタには高い金払ってるのよ!」

「まあまあぁ、落ち着いてくださいよぉ」

 

 ねっとりとした口調がベラのことをいらだたせるが、それに気がつくことなくイーリンは話を続ける。

 

「さすがにぃ、【命名】と【灰燼】を同時に相手にするのはぁ、無理ぃ。だからぁ、彼女たちにはぁ、別々の問題にぃ、対処してもらうぅ」

「具体的には?」

「どちらかをぉ、トレメイン伯爵領のほうにおびき出すぅ。問題が発生すればぁ、やさしー魔法使いたちはほうっておかないでしょぉ。実力的にぃ、【命名】か【灰燼】どちらかがいくでしょぉ。まぁ、【命名】が行ってくれたほうが楽ぅ、だけどぉ」

「領民に被害は出ないでしょうね? 資金源なのよ」

「大丈夫大丈夫ぅ。あくまで一時的に引き離せればいいだけだからぁ、実際になにかを起こすわけじゃないしぃ」

「それならいいわ」

 

 満足したベラに、イーリンはしだれかかって耳元でささやく。

 

「まぁ見ててよぉ。面白いことになるだろうからさぁ」

 

 

 

 

 

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