機動戦士ガンダムSEED Free……Dream ―ミカイが見た夢― 作:黒瀬夜明 リベイク
パーティー会場を後にし、王宮内の廊下を歩いていた深海。廊下は明かりがついていて明るく、煌びやかな装飾が朝と同じように輝いている。だが、深海は視線を逸らすことなくひたすらミレニアムへと足を向けて歩き続ける。パーティーに興味が無かったのもそうだが、単純に飽きてしまった為だ。そしてとある十字路に差し掛かり、そのまま通り過ぎようとした深海は突然足を止めた。深海は1秒だけその場に静止すると、やがて口を開いた。
「そこにいるのはわかっている。出て来い」
深海は少しだけ声の音量を上げて言い放った。すると、正面の柱の影から2人。背後の十字路の左右の道から2人、黒ずくめの者が現れた。
(やはりブラックナイツか…)
現れたのはシュラ・サーペンタインを除いたブラックナイツのメンバー、グリフィン・アルバレスト、リュー・シェンチアン、ダニエル・ハルパー、リデラード・トラドールの4人だった。深海がこの4人の存在に気づいたのは、やはり僅かに彼等から流れている殺気だった。
「なんだよ。後ろから脅かしてやろうと思ったのに、つまらない奴だな」
グリフィンがそう言いながら正面から歩いてくる。何処かこちらを見下しているように見えるその表情から、深海はグリフィンの事を本能的に敵と判断していた。深海は警戒を示しながら口を開いた。
「本当に脅かすつもりだったのなら、お前たちから流れている殺気を消すことだ」
「アハハハハ!面白いじゃないアンタ!」
「あんなちっちゃい殺気感じ取れるんなら、少しはすげぇんじゃね?」
深海の右後方にいるリデラードと、左後方にいるダニエルがそれぞれに感想を口にした。やはりこの2人も、何処か上から目線で言葉を発してくる。そして今度は右前方に立っていたリューが口を開いた。
「しかし、シュラが弾いた私のサーベルを空中で更に弾き返した。ダニエルの言う通り、少しは凄いのでしょうね」
丁寧な言葉遣いだが、やはり何処か上から目線。深海は、これがこれから同じ戦線を張る相手なのか。と呆れていた。深海は聞き返す。
「何が言いたい?」
するとグリフィンが口元に嫌な笑みを浮かべて言い放った。
「調べたところによれば、お前はナチュラルらしいが。ナチュラルにあんな芸当が出来るとは思えないからな―――」
(あ、俺ってナチュラルなんだ)
グリフィンの話を聞きながら、1人深海は納得していた。シンたち同じ赤基調の軍服を着ているから、自分もてっきりコーディネイターだと思っていたのだ。グリフィンは更に言葉を続ける。
「そんなナチュラルのお前が、何であんな曲芸じみたことが出来るのかと思ってな。なに、ほんの興味ってやつだ」
そこでグリフィンは言葉を切った。深海はそこで思案を巡らせた。
(うーむ、どう言えばいいんだ?俺は確かに現実世界じゃナチュラル…でもこれって、深海棲艦である
深海は海軍提督だった「
(とは言え、あのサーベルを弾き返したのは海上で敵急降下爆撃機の投弾コースを読んで避ける時にやってる方法の延長線上だし……いやそもそも、この世界じゃ航空爆弾を使った急降下爆撃なんて言っても、伝わるかどうか怪しいだろうな。と言うか、大前提として人間サイズに向かって急降下爆撃って普通ならあり得ない話じゃないか?……さて、どう答えたらいいものか……)
それがサーベルを弾き返すことが出来た理由だ。しかし、時代が進み航空爆弾を使った急降下爆撃など完全に廃れたこのガンダムSEEDの世界で、どう説明すればいいのか分からない。爆撃機による水平爆撃なら戦術として残っていることもあり得るかもしれないが、急降下爆撃とは命中率や攻撃方法まで全てが違う。深海は知らない間に深くその事を考えてしまっていた。
「お、おい。どうなんだよ?」
と、グリフィンの言葉に思考が戻ってきた。ハッとした深海は思わず嘘を口にした。
「訓練だ。訓練を繰り返していたら、出来るようになった」
「ほぉ、それは凄いですね。ナチュラルでも訓練だけであのような事が出来るとは」
リューが納得した様な、していない様な様子で深海の言葉に反応する。だが、反応を見る限り信じているように見えた。咄嗟に出した突拍子もない答えだったから、嘘だと分からなかったのかもしれない。そんな考えが深海の頭の中をよぎったが、すぐに消え去っていた。
「すまないが、俺はミレニアムに戻る途中なんだ。そこを通してくれるか?」
「まあいいだろう。さっさと行けよ」
「ああ」
深海は短く受け答えすると、その場を後にした。背後からは依然として4人のブラックナイツたちの視線を感じていた。そしてしばらく王宮内を歩き、外に出たところで不意に思っていた言葉が口を突いて出てしまった。
「そう言えばあいつら、何で少し混乱している様に見えたんだ?」
王宮の方を振り返りながら深海は先程の状況を整理した。
「……まさか、俺の考えていることがわかったからなのか?だとしたら―――」
面倒なことになるかもな。と言葉を紡ごうとした時、不意に港の奥から声がした。
「彼女を追う資格が君にあるのかな?」
「ん?」
深海が振り返るとそこにはキラとオルフェの姿があった。どうやら2人で話しているようだが、どうも内容は芳しくないように感じられた。先程のオルフェが放った台詞が正しくそれを物語っている。
「失礼だが、君は彼女に相応しくない」
深海はそこまで聞いた所で2人の方へと歩みを進めた。どうやら、一方的な会話のようだ。キラは反論することなくその場に立ち尽くしている。
「破壊、憎しみ、そして死―――君が生み出すのはそんな物ばかりだ。違うかい?」
「なっ…」
キラが絶句した所で深海は口を開いた。
「確かにその通りなのでしょうね。タオ宰相閣下」
「っ!?ミカイさん!」
突然現れた深海に、キラは驚きの声をあげた。深海はキラを護る様にオルフェとの間に割って入った。そして言葉を続ける。
「だからどうだと言うんですか?…そんな物しか生み出せないから、ヤマト隊長はクライン総裁との恋愛を諦めろ。と?」
「その通りだ。戦うことしか出来ない彼が、彼女の傍にいる資格なんてないのだよ。私なら、彼女の望む世界―――戦いの連鎖もない。安定と調和の世界を創り出すことが私には―――」
(先程のブラックナイツと言い、この国の連中はとにかく上から目線だな)
深海は思わずそんな事を思ってしまった。この国に来てからというもの、本当に変な事ばかり起こる。
「ヤマト隊長の事を、随分甘く見られているようですね。タオ宰相閣下」
「なに?」
だが、深海は思わず口元に笑みを浮かべた。オルフェの放った言葉が、余りにも恋愛事とかけ離れていたからだ。
「恋愛にそんな壮大な物は必要ない。必要なのは、相手を思いやり、支え合って行く気持ちだ。安定と調和の世界を創り出せる?だから?それで?そんな事を言われて振り向く女性なんて、この世には1人もいませんよ……例え、平和を願うコンパス総裁のラクス・クラインだとしてもな」
「―――っ」
オルフェは何かを言おうとしたが、深海は許さなかった。
「そうじゃないのかキラ?ラクスは何をしてあげた時にお前に笑いかけた?何をしてあげた時に喜んでくれた?安定と調和の世界が欲しい。なんて言った事があったのか?」
「っ!?」
キラが深海の言葉に大きく身震いをした。口にはしないが、ハッキリと思い出したような表情を浮かべているのが深海にはわかった。そしてオルフェはと言うと、まるで動物から馬鹿にされたかのような険しい表情で深海を睨んでいた。深海はそんなオルフェにニヤリと笑みを浮かべてみせた。
「お前が本当に甘く見ているのはクライン総裁の方だ。彼女は、そんな簡単なことで落ちるような女性ではないぞ?行こうキラ、ラクスを探していたんだろ?」
「え?あ、はい」
そう言ってキラを促し、深海はキラの背後を護りながら港を後にした。
(オルフェ・ラム・タオ……こいつもまるで、あの時のあいつとそっくりだ)
そんな事を考えながらキラと2人で港を歩く深海。そして今度は先程の王宮廊下でのブラックナイツと、たった今のオルフェの挑発とも取れる行動に思考が向けられた。
(ブラックナイツと言い、オルフェと言い、本当にミケールの逮捕に協力する気はあるのか?)
初対面の―――それも、これから共同戦線を張る相手に対する態度とはとても思えなかった。まるで―――
(まるで最初から、協力も共同戦線もしない。と言っている様だな)
深海がそこまで考えたところで、再び口から言葉がこぼれた。
「この国でマトモなのはイングリットだけなのか?」
「?ミカイさん、何か言いました?」
「いや、何でもない。冷える前に、ラクスを探し出すぞ?」
「はいっ」
(何だよ、このめんどくさい夢は?)
深海はそんな愚痴をこぼさずにはいられなかった。
続く