機動戦士ガンダムSEED Free……Dream ―ミカイが見た夢― 作:黒瀬夜明 リベイク
「待てキラ!」
深海が遠ざかっていくライジングフリーダムに呼び掛けるが、ライジングフリーダムは止まることなくユーラシア連邦領内への境界線へと向かっていく。
〈隊長?〉
通信機越しにもキラの異変に気づいたシンが声をあげる。深海は一瞬だけ先程までの進行方向に視線を向けた。既に新しい戦場がそこには形成されており、イモータルジャスティスやムラサメ改、ギャンシュトロームが105ダガーと交戦している。
〈隊長、どうしたんですか!?〉
シンがキラに向かって問いかけた。しかしキラから返ってきた言葉は奇妙なものだった。
〈ミケールを確保する!シン、援護を!〉
〈は?だって……え?〉
〈奴が逃げる!〉
キラの言葉は深海の耳にも届いていた。深海はキラの放った言葉に一瞬だけ正気を疑ったが、キラの切迫した様な声色が、キラはいたって正気。なのだと直感させた。先程、深海を貫いて通り過ぎていった殺気と何か関係があるのかもしれない。と深海は予想した。
〈どうしたキラ!境界線に近づいてるぞ、何してる!?〉
(なんであれ、見過ごすわけにはいかないな!)
ムウの警告ともとれる言葉がキラに向かって投げかけられたが、ライジングフリーダムは止まらない。深海はライジングフリーダムの後を追うようにムラサメストライクをモビルアーマー形態に変形させて境界線の方へと向かって行った。
〈え!?ミカイさん!〉
「俺がキラをどうにかする!シン、そっちは任せるぞ!」
モビルスーツ形態でありながら、ライジングフリーダムは脅威のスピードで境界線の方へと向かっていく。モビルアーマー形態でなければ追いつけないかもしれない。と深海の額に汗が滲んだ。
〈どうしたのキ――ヤマト隊長!〉
通信機からマリューの声が聞こえてくる。どうやら、アークエンジェルでも同様の混乱が起こっているようだ。マリューがヤマト隊長ではなく、キラくん。と呼ぼうとしたことが何よりの証拠だろう。
〈ミケールを発見!捕獲する!〉
〈え!?〉
マリューの驚いた声が聞こえてくる。マリューは続け様にムウに対して状況報告を求めた。
〈フラガ大佐、状況を報告!〉
〈俺にもわからん!ヤマト隊長がミケールを発見したと言ってるが、くそっ、どうなってやがるんだ!〉
深海はそこでムウとマリューの通信に割り込んだ。
「ヤマト隊長は俺が何とかします!アークエンジェルとモビルスーツ隊は作戦の継続を!」
〈っ!クロノ大尉!?〉
「ヤマト隊長を新しい戦争の着火点にさせる訳にはいかない!」
深海は更にライジングフリーダムを追って行く。ライジングフリーダムとの距離は縮まりもしなければ開きもしないが、このままではライジングフリーダムが境界を越えてしまう。その前に何としても止めなければならない。深海は操縦桿をグッと力強く握り締めた。すると、戦略情報室に詰めているラクスからライジングフリーダムのキラに向けて通信が入った。
〈フリーダム、直ちに引き返してください!キラ!〉
だが、キラからの返答は無かった。続け様に聞こえてきたのは、警告射撃開始を告げるユーラシア連邦通信兵の言葉だった。ラクスが、待ってください!と叫ぶが、それは無意味に終わることとなった。目の前のライジングフリーダムに向け、眼下の地上から無数の光条が放たれたのだ。
〈まだ抵抗するのか!〉
ライジングフリーダムを駆るキラがその程度の攻撃で止まる筈もなく、キラは吐き捨てるように口を開く。
〈隊長!〉
〈キラ、やめろ!〉
〈駄目よキラくん!〉
シン、ムウ、マリューが必死の形相でキラを制止させようとした。しかし―――
終わらせる―――ここで!
そのキラの言葉と共に、ライジングフリーダムは持てる火器全てをユーラシア連邦のモビルスーツへと放った。その光景を目にした深海は思わず、怒りの言葉を吐いた。
「あいつ、やりやがった!」
〈キラ!キラ!聞こえないのですか!?〉
ラクスの叫びが耳に聞こえてくる。するとキラは冷たく言い放つ。
〈ミケールだ!ここであいつを逃がすわけにはいかない!〉
言葉は熱くなったように聞こえるが、深海はその言葉に中身があるようには聞き取れなかった。すると、今度はオルフェの声が聞こえてきた。
〈これは当方の意思ではない!ヤマト隊長の独断です!〉
(チッ!面倒な奴が!)
ここにいたり、深海は確証の無かったファウンデーションの企みを感じ取った。あまりに現実離れしてはいるが、先程ファウンデーション軍がエルドア地区に立ち入りを許可された時、奴ら―――恐らくはブラックナイツがキラに対して
「クライン総裁!ライジングフリーダムの撃墜許可を願います!」
〈っ!?〉
深海の言葉に驚きを隠せないラクスは押し黙ってしまったように見えたが、構わず深海は続ける。
「錯乱状態のヤマト隊長を放っておけば、より多くの犠牲が発生します!早く撃墜許可を!」
〈待ってくださいミカイ大尉!必ず訳がある筈です、ヤマト隊長は―――〉
ラクスの言葉に深海は胸が痛くなった。自身の命令一つで愛する者の命を奪ってしまうかもしれない。そんな身を引き裂かれるような命令が出せる筈がない。だが、その愛する者が間違った方向へ向かった時、それを止めるのもまた愛している者の役割の筈だ。と深海は感じていた。すると横から、またしても邪魔な奴の声が聞こえてきた。
〈コンパスが事態を収拾できないなら、我らにお任せを―――これまでの外交努力が全て無に帰すのですよ!〉
オルフェだ。深海は、昨晩の港での出来事を思い起こす。キラに対して、君は
「これはコンパスの問題です!ファウンデーションは介入を控えていただきたい!」
平静を保っている様に深海は叫ぶ。内心では堪忍袋の緒が切れそうではあったが、深海はそれを抑え込んだ。だが、どういう訳かオルフェは引き下がろうとしなかった。
〈人的被害が出てしまっては本末転倒!だからこそ、我らも協力を―――〉
オルフェが、協力。と言う言葉を使った瞬間。深海の中にあった堪忍袋の緒が切れた。深海は怒りを露わにして叫んだ。
ヤマト隊長の恋人であるクライン総裁を寝取ろうとした宰相は黙ってろッ!!!
〈ッ!?〉
現場の状況には何も関係ない言葉だと、深海は自身でもわかっていた。しかし、昨晩の港で見せたオルフェの行動やブラックナイツたちの態度から深海は、ファウンデーションは協力など最初からする気はない。と睨んでいた。図に当たっているかはさておき、そんな奴らに協力を依頼すれば、本当にキラの命を奪うことになりかねない。深海はそれを何とか回避しようとしたのだ。そして、戦力情報室内はと言うと深海の放った言葉で混乱が生じているのか、誰も口を開いてはいなかった。深海はその隙をついて、戦略情報室との回線を切り、ラクス個人に対しての通信回線を開いた。
「クライン総裁、ライジングフリーダムの撃墜許可を願います!」
深海は、余裕の笑みを添えて言い放った。その顔を見たラクスは、ハッとした表情を一瞬浮かべたが、すぐに険しい表情に戻り、言い放った。
〈…わかりました。止めてください、キラをッ〉
(よく言ってくれたな、ラクス)
深海は内心でラクスに対して称賛の言葉を投げかけた。そして短く、了解しました!と返答し、深海は通信を切った。
(他のコンパスメンバーに反対されるかと思ったが、良かった良かった)
深海は前方で放火を放つライジングフリーダムの味方識別信号を切った。
続く