機動戦士ガンダムSEED Free……Dream ―ミカイが見た夢―   作:黒瀬夜明 リベイク

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PHASE-18 敗走

突然現れた赤いズゴックを見た深海は、戸惑いを隠せずにいた。「劇場版 機動戦士ガンダムSEEDFREEDOM」の事前公開情報でゲルググメナースとギャンシュトロームの存在は知っていた。そのデザイン元となったのは、初代「機動戦士ガンダム」に登場したモビルスーツ「ゲルググ」と「ギャン」だ。情報が公開された当初、深海は至極当然な感想を抱いた。「ザクウォーリア」、「グフイグナイテッド」、「ドムトルーパー」この3機が、前作である「機動戦士ガンダムSEEDDESTINY」に登場し、それぞれが「ザク」「グフ」「ドム」をデザイン元としているのだから、劇場版では「ゲルググ」か「ギャン」が来るだろうと思っていた。それは案の定、図に当たった。しかし―――

(ズゴックまで登場するなんて、誰が予想出来るんだよッ!!)

ズゴックは意外過ぎにも程があった。ましてやその恰好も、頭頂部の白い角と両腕部にある小型のシールド、背中のフライトユニットを除けば、諸に「シャア・アズナブル専用ズゴック」なのだ。あらゆる物事に動じることがない深海でも、これは驚き戸惑うしかなかった。現れたズゴックは水上を滑りながら、両腕部のビーム砲と、頭頂部のミサイル、フライトユニットのビーム砲の全門を斉射しながらこちらへ向かって来た。その波状攻撃はまずアグネスのギャンシュトロームを襲った。円形のシールドである程度は防いだものの、数ヵ所に被弾を受け、体勢を崩した。一方のブラックナイトスコード・シヴァは、ズゴックが砲撃をした直後にその場から大きく飛び退くと、背面のスラスターを全開にしてその場から飛び去っていった。地上で片脚を損傷した状態では不利と見て、撤退したように深海の目にはその光景が写っていた。

「なんとか凌いだか……」

深海は大きく息をつき、ムラサメストライクを立ち上らせた。正面モニターを見ると、大破したライジングフリーダムの元にズゴックが着地した。モニターが自動でズームされ、ライジングフリーダムのコックピットから這い出てきたキラの姿も見受けられた。するとズゴックの頭に別の円形状のユニットが被さった。するとキラはズゴックの元へと駆けていった。まるでズゴックのパイロットに心当たりでもあるかのような急ぎ足だった。すると、深海のコックピットにズゴックのパイロットから通信が入った。通信の相手は青みがかった黒髪に緑の瞳の青年だった。

〈聞こえますかクロノ大尉!〉

「アスラン・ザラか!すまない、助かった!」

それがレーザー通信であることに深海が気づくことはなかったが、アスランが味方であることはすぐにわかった。

〈急いでこの場から離脱してください!奴らは核で、この周囲一帯を吹き飛ばす気だ!〉

「…やはりかッ」

深海が吐き捨てるように唸る。この場に来る前に見た巡航戦術核ミサイル。それが2発だけとは限らない。ましてや、電波妨害までかけてこの周辺一帯を空白地帯にしたのだ。証拠を何1つ残す事無く、全て消し去る。単純だが、恐ろしい手段だ。だが、奴らがそれをやらないか。と言えば答えはノーだ。いきなり、コンパスに襲い掛かってきた連中ならやりかねない。深海はギリッと歯ぎしりをしていると、右モニターに佇むアグネスのギャンシュトロームが目に入った。どういった理由でライジングフリーダムに襲い掛かったのかは分からないが、これ以上戦闘を続ける様子ではなかった。その場に呆然と立ち尽くしている。深海はギャンシュトロームに通信を繋いだ。

「アグネス、無事か!?」

〈………〉

すぐにアグネスからの返事は無かった。だがしばらくして、ええ。と短く返事が返ってきた。彼女の返事に覇気はなく、かなり弱々しい声だった。だが今は時間がない。深海は用件を伝える。

「ここはもうすぐ核で吹き飛ぶ!ギャンはまだ動くか!?」

〈……ええ、動くわ〉

再度、アグネスが弱々しい声で返事をする。深海は、何かにとてつもないショックを受けたのだろうと思ったが、一刻を争う現実に、そのアグネスの態度は何の救いにもならない。深海は怒りを抑えながら、彼女を奮い立たせようと声をあげた。

シャキッとしろ!自分の命が係っているんだぞッ!!

だが、それ以上アグネスからの返答はなかった。通信を切られたのかはわからなかったが、ギャンが1歩、その足を動かした。

(バックパックは既に破壊されていて、空を飛ぶことは出来ない。ムラサメストライクでの牽引も難しい……どうする…)

深海がそこまで考えた所で、またアスランの声がムラサメストライクのコックピットに響いた。

〈こっちだ!急いでくれ!〉

アスランのズゴックに従うように、ムラサメストライクは川の中へと飛び込んだ。なるほどな。と深海は感心していると、ギャンシュトロームが続けて水中へ飛び込んできた。その光景に安堵してからしばらくすると、水上から強烈な衝撃波が押し寄せてきたのだった。

(こんなことをして、ファウンデーション(奴ら)は何をするつもりだ……)

深海は振動に揺られながら1人、口内で呟いた。

 

 

エルドアでの戦闘から数日後、深海の姿はオーブ連合首長国のアカツキ島、その海底ドックに設けられたレクリエーションルームにあった。深海だけではない、私服姿のマリューやジャージ姿のヒルダ、制服姿のアークエンジェルの元操舵士、アーノルド・ノイマンの姿もそこにあった。深海はヒルダとほとんど同じの白地に赤の差し色が入ったジャージ姿で椅子に腰掛け、テレビのニュースを聞いていた。

〈……ファウンデーション、エルドア地方を含め、死者5万、負傷者、行方不明者は10万人以上と推定され、ユーラシア軍は報復に備えて全軍に出動待機を要請。全国民へ――〉

そこまでニュースキャスターが言ったところで、キラとシンの2人がジャージ姿でレクリエーションルームに入ってきた。マリューがテレビを消すと、心配した様子で尋ねる。

「2人共、もういいの?」

「あ、はい」

シンが短く答えると、キラが手でスイッチアクションを起こして再びテレビが点けられる。ニュースの映像が映し出され、瓦礫と化した街並みと、母親を呼んで泣く子供の姿が映った。キラは咄嗟に目を伏せると、再びニュースキャスターの声が語りだした。

〈既にコンパスの活動は、当分の間凍結とされ―――〉

「えぇ!?」

シンの言葉に遮られたところで、テレビは消された。すると、キラとシンの背後から2人の人物が入室してきた。1人は先日救援に来てくれたズゴックのパイロット、アスラン。もう1人は、ルナマリアの妹のメイリンだ。シンの憤った言葉が室内に響き渡る。

「本当なんですか!コンパス凍結って!?」

「そうだ。カガリは頑張ったようだが、今は世界中の非難が集中してるからな」

アスランが感情を抑えた口調でシンの質問に答える。

(そうか、コンパスは大西洋連邦とプラント、オーブが共同で作り上げた組織だからな…)

深海は、ここには居ない金髪の人物の顔を思い浮かべていた。カガリ・ユラ・アスハ。現在のオーブ連合首長国の代表を務める少女だ。芯の通った、真っ直ぐな性格をした彼女も、自分たちの知らない所で戦っていたのかと思うと、とても嬉しく思えた。

「あいつら…クソォッ!」

深海が1人思考を巡らせていると、シンがプランターの淵を拳で叩いているのが見えた。言葉から伝わってくるシンの怒りと虚しさは相当な物だろう。しかし、これで分かったことがある。先のエルドアの惨劇は全てコンパスの責任だ。それが現在の世界の考えのようだ。勿論、そんな訳がないとこの場にいる全員が理解している。

(しかし、今はそれを訴える手段がない。さて、どうした物か……)

深海は思考を巡らせる。ここで黙って世情に流されることを深海は心の内で酷く嫌悪していた。今回の一件は、簡単に言ってしまえばファウンデーション…と言うよりは、ブラックナイツからの責任転嫁だ。

(こんな感情を抱くのは、今の鎮守府に流れ着いた時以来か……)

深海はふと昔の事を思い出した。夢から醒めた現実の世界で、深海は「深海棲艦との戦争を終わらせた英雄」として扱われている。しかし、世間の華々しい風潮と打って変わって、深海が深海棲艦との戦争を終結させた動機は「軍上層部の連中に、嫌がらせをしてやりたい」だ。つまりは、嫌がらせである。母である空母水鬼からは「自分たちの復讐をしないで欲しい」と言われていたが、やはり胸の内にくすぶる物があった深海は「復讐」ではなく「嫌がらせ」という行為で戦争を終結させたのだ。そして今、このSEEDFREEDOMの夢の世界でも、深海は同じ気持ちに至っていた。

「唯一残ったミレニアムは、現在オーブに入港している。こちらの状況は伝えていない…」

アスランが放った言葉に、深海は少しだけ安堵した。ミレニアムが無事なら、まだ手はありそうだ。そう思ったからだ。するとキラが、弱々しく呟いた。

「……ラクスは?」

しばしの沈黙の後、アスランが言いにくそうに告げる。

「彼女はファウンデーションのシャトルで脱出したらしい」

(……やはりか)

深海は自分がこの数日の間に予想していた事が的中したことに頭を抱えたくなった。嫌な予感は当たる物だ。深海は苛立ちを覚える。だが、その苛立ちも、キラの言葉によって掻き消された。

「…彼女は……僕らを裏切った」

「………」

この海底ドックに辿り着くまでの数日の間、深海はキラに、自身がラクスから「ライジングフリーダムの撃墜命令」を受けた事を話した。最初は黙っておこうかとも思ったが、キラ当人から、教えて欲しい。と頼まれた為、黙っておくことが出来なかったのだ。深海はその事を少し後悔していた。それはたった今、キラの口から弱々しく発せられた言葉が全てを物語っていた。深海俯きながら―――

(すまない…キラ)

と、心の内で目の前の青年に詫びることしか出来なかった。

 

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