機動戦士ガンダムSEED Free……Dream ―ミカイが見た夢― 作:黒瀬夜明 リベイク
アグネスの部屋へ行く前に、深海は食堂へと足を運び、そこでワンプレートの食事を受け取った。エルドアでの戦闘からこの海底ドックに帰還した日から、アグネスはずっと部屋に引き籠ったまま、出てこない。どういう理由で部屋から出てこないのかは分からないが、それでも深海は彼女のことが気がかりだった。エルドアでムラサメストライクとブラックナイトスコード・シヴァの戦闘中にライジングフリーダムを撃破し、更にとどめまで刺そうとしたアグネス。深海はそのアグネスの行動がずっと、引っかかっていたのだ。そして深海はアグネスの部屋の前まで来ると、扉の隅に設けられた呼び出しのボタンを押した。
「アグネス、食事を持ってきたぞ」
深海はしばらく待ったが返事は無かった。だが代わりに自動扉が開き、深海を室内へと招き入れた。部屋の中は真っ暗で、小さな明かり1つもない。開いた自動扉から入り込んでくる廊下の明かりが、ほんの少しだけ室内を照らしていて、ベットの上で蹲っている髪を解いたアグネスが薄っすらと見受けられた。
「大丈夫か?」
室内へ入った深海は、食事の乗ったプレートを部屋の隅にあったテーブルの上に置きながらアグネスに尋ねた。無論返事は返ってこない。精神にかなりのショックを受けたのかもしれない、と深海は感じながら部屋の照明、部屋を薄く照らす間接照明を付けた。蹲ったアグネスの姿がよりはっきりと深海の目に映り込む。
「そろそろ食事を摂らないと、餓死することになるぞ?食べられそうか?」
間接照明を付けた深海は、ベットの上にいるアグネスの元へ向かうと、先程起きたファウンデーションの宣戦布告をアグネスに伝えた。
「さっき、ファウンデーションが地球に対して宣戦布告をした。レクイエムを使ったユーラシアへの報復と共にな。俺たちはそれを阻止するために、動くことになると思う―――」
「わざわざそんな事を伝えに来たの!?」
唐突にアグネスが反応して顔を見上げる。その目元には涙が浮かんでいて、怒りと悲しみを同時に含んだ表情で、深海を睨みつけてきた。唐突に声をあげたアグネスには驚いたが、深海は平静を装い、アグネスの言葉に答える。
「そうだ。あいにく、今の俺たちは戦力と呼べるものは無いに等しい状態だ。コンパスは凍結され、増援も補充も期待できん。となれば、お前と、損害軽微なお前のギャンは貴重な戦力だ。ファウンデーションの企みを阻止するためにな」
「………」
一通り話を終えた深海は、黙って話を聞いていたアグネスの返答を待った。するとアグネスは、俯きながら弱々しい声で答えた。
「そんなのもう、いいわよ……どうせ私の事なんて、誰も見ていないんだから…」
「……ファウンデーションで何かあったのか?」
「っ!?」
深海の指摘にアグネスの肩が思わず震えた。どうやら図星か、と深海は思い、深海はアグネスに告げた。
「話くらいなら、聞いてやるぞ?」
「五月蠅い!アンタなんかに、私の何がわかるって言うのよ!」
アグネスの狼狽に深海は動じなかった。それが、図星を突かれ、苦し紛れの行動であるとすぐに分かったからだ。
「アンタは何も分かっていない!分かる訳ない!私の気持ちなんか!」
「………」
「分かったのなら、出ていって!どうせアンタだって、私の事、心の中では馬鹿にしてるんでしょ!」
アグネスは大声で捲し立てる。その言葉は、苛立ちと自身への失望から来ているように深海は感じた。自分の隣に並び立てる者として、キラを求めていた彼女の心境は、深海もよくわからない。だが、深海には1つだけ言えることがあった。
「なら、俺から1つだけわかっている事を伝えておく」
深海は短く前置きすると、俯いたままのアグネスに向かって告げた。
ライジングフリーダムの撃墜任務、見事だった。感謝するよ
深海はそうアグネスに告げると、更に続けた。アグネスは驚いた様子で、ゆっくりと顔を上げた。
「あの時俺は、クライン総裁からライジングフリーダムの撃墜命令を受けていたが、結果は見ての通り、失敗だ。だが、お前が代わりにライジングフリーダムを撃墜してくれた。俺の代わりにな。どういう理由で、ライジングフリーダムに止めを刺そうとしたのかは知らないが、お前はクライン総裁の命令を忠実に守り、そしてこなした。その事実だけは変わらない。誰も見ていなくても…俺はあの時、お前が「クライン総裁の命令通り、ライジングフリーダムを撃墜する姿」をハッキリと見ている」
「………」
沈黙したアグネスに、深海は真剣な眼差しを向ける。視線がぶつかり、アグネスが視線を外したが、構わず深海は続けた。
「確かに俺は、お前の心境など知る訳がない。だがお前は「命令通り、ライジングフリーダムを撃墜した」この事実だけは分かる。心境など知らなくても、お前は確かな「結果」を残した。例えそれが、ヤマト隊長への恨みを含んでいたとしても、俺やコンパス上層部からしてみれば、その「結果」だけで十分だ。お前はよくやった」
深海は「結果」と言う言葉をことさら強調してアグネスに告げた。アグネスは黙って深海の言葉に耳を傾けていたが、返答はない。上手く伝えられたのかは分からないが、深海は少しの間思考を巡らせて、予想から導き出した言葉を紡ぐ。
「…もし、ブラックナイツの誰かと何かあったのなら、あんな奴らは忘れておけ。あいつらは、ナチュラルの俺に傷一つ付けることの出来なかったどころか、逆に傷をつけられた雑魚だからな。そんな奴らが、命令を忠実に守って結果を出し、無事に帰還したお前の隣に立てる訳ないからな」
「………」
以前アグネスはだんまりだ。だがこれ以上言えることが無い深海は、そのまま部屋を出ていった。部屋を出た深海は、アグネスに一言だけ伝言を伝えた。
「俺たちはレクリエーションルームにいる」
深海がそう言い切った所で、部屋の扉は音を立てて閉じた。深海はそのまま、レクリエーションルームへと足を向けた。アグネスが部屋を出てくるのかどうか、その結果だけは、まだ判然としなかった。