機動戦士ガンダムSEED Free……Dream ―ミカイが見た夢―   作:黒瀬夜明 リベイク

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PHASE-21 折れない想い

アグネスの部屋からレクリエーションルームへと戻ってきた深海は、部屋に集まっていた者たちを見て、一言詫びを入れた。

「すまない。遅刻だったか?」

「いえ、大丈夫ですよ。俺たちもさっき集まったばかりですから」

深海の詫びの言葉にアスランが落ち着いた口調で告げる。レクリエーションルームには、シン、マリュー、ヒルダ、メイリン、ノイマン、エリカ、そしてキラの全員が既に集まっていた。そして深海が到着したことで、アグネス以外のメンバーが揃い、話を始めても良いだろうと認識したアスランが最初に口を開いた。

「遺伝子で人を選別し、適正によって役割を定める「デスティニープラン」…デュランダルとアウラはその仕組みを管理し、人々を導く者たちを創った。それが「アコード」だ」

(アコード……それがあいつ等の俗称か)

アスランの話を聞いた深海は、今回の敵となるファウンデーションのブラックナイツたちが「アコード」と呼ばれていると、この時初めて認識した。恐らくはさっきの宣戦布告で世界中に堂々と宣言したのだろう。自分たちはコーディネイターを超えた究極のコーディネイターだ。とか、言ったんだろうな、と深海は笑いを堪えるのに必死だった。

「そして、彼らアコードの一番の要がオルフェ・ラム・タオ―――そして、ラクスだ」

「ラクス?」

俯いていたキラが驚いた様子でアスランに尋ねた。アスランは頷きながら返す。

「だから彼らはラクスをさらった。彼らのプランに必要だったからだ」

(なるほど、俺の予想は大方当たっていたようだな)

深海はエルドア地区での戦闘前、ミレニアムのブリーフィングルームでキラやシンたちに話した事を思い出しながら小さく頷く。アスランは、今度は別の情報を持ち出し、レクリエーションルームにいるメンバーに伝えた。

「情報によると、プラントでは現在、軍によるクーデターが発生している。詳細は分からないが、議長以下、評議会メンバーとの連絡が取れていない」

「えぇ!?」

アスランの言葉にシンが驚いて声をあげる。深海は思わず頭を抱えたくなった。

(何でそんな所まで、当たってしまうんだよ…俺の予想は……)

平静を装っているが、深海は内心自分の考えが的中しすぎて頭が痛くなっていた。元々、物事は悪い方向で考えておく。事を信条としている深海。過酷な戦場で勝手に身に着いた自身の考え方を少し呪いたい。そう思っていた。

(しかし、あのエルドアでの出来事を伝えることが出来るのは、今ここにいるメンバーだけだ。さて、どうすればいい?)

深海の考えにヒルダが気づいていたのかは分からなかったが、彼女は渋い表情で自分たちの現状を告げた。

「だが私たちは現状動きようがない。モビルスーツも(ふね)も無いしな」

「つまり、ここにいる私たちは死人も同然――てことよね」

マリューが横から一言付け加える。まさにそうだ。深海は2人の言葉を受け、思考を巡らせる。どうすれば、この現状を打開し「まやかしの核攻撃」を世界に公表できるのか。流石の深海もここまでは予想を立てることが出来ず、この場にいる全員と同じように頭を悩ませていた。するとアスランがアコードについて切り出して来た。

「もしミカイ大尉の推測通りなら、アコードたちは俺たちの心が読める」

「えっ?」

「恐らく、人の精神にまで影響を及ぼすことが出来るんだろう」

キラが俯いて、シンが驚きと確信に満ちた言葉で告げる。

「それで隊長がっ…」

(あの時に感じた、一瞬の殺気の正体がそれか…)

深海は口内で独り言ちた。エルドアでキラが突然軍事境界線の方向へ向かって行った答えがやっとわかった。だが、だとしたら厄介なことになりそうだ。心を読まれていれば、次に自分がどんな手を出してくるか、相手には筒抜けだ。深海は直感で戦った事で、1発の被弾もしなかったが、戦場でそれが出来る人間はそうそういない。深海は、今回の相手が普通には勝つことの出来ない相手だと、はっきり認識した。

「ラクスを救出しよう―――それしか方法が無い…この状況を打開しプラントを止めるには、彼女の言葉がいる」

アスランの言葉に皆がそれぞれに頷く。話はほとんど決まったようなものだ。深海も、まあ、そうなるな。と航空戦艦日向がよく言っていた台詞を拝借して口内で呟き、頷く。だが、それは唐突にやってきた。

 

無駄だよ

 

キラの口からそんな言葉が零れ落ちた。絶望感漂うその一言で、レクリエーションルームにいた全員が驚き、キラに視線を向ける。

「キラ君?」

マリューが思わずキラに尋ねる。キラは俯いたまま、弱々しく続ける。

「どうせ同じだ…僕らが何をやっても―――」

(キラ、それは―――)

「結局また繰り返しだ。あんなに苦しんで、迷って……戦って…戦って、戦って!」

弱々しかった言葉は、やがて怒りを含んだ強い語気へと変わった。キラは続ける。

「でも、何も変わらない……それは、僕が間違っているからなのか!?」

「キラ……」

キラの心の内に溜まっていた物だったのか、それとも苦悩の果てに導き出した答えだったのか、それは深海にはわからない。自分はアコードではないし、相手の心も読めない。だが、これだけは分かった。キラは苦しんでいる。と。そしてキラは吐き捨てるように言葉を続けた。

「だからラクスは僕を捨てて、彼を選んだ!僕じゃダメなんだッ!ラクスの望むもの、何1つあげられない!平和どころかッ、彼女を笑わせることも出来ない!僕には幸せに出来ない!!」

(お前が―――)

それを言ってどうするんだ!と思わず深海がキラにそう告げようとした時、アスランの足が動いた。

「だから彼女は、僕を裏切ったんだ―――」

キラがそう吐き捨てたのと、アスランの拳がキラの頬を殴ったのはほぼ同時だった。ガスッ!と鈍い打撃音が室内に響き渡り、キラはそのまま吹っ飛ばされて床に転げ落ちた。レクリエーションルームにいた全員が声をあげて驚くと、アスランがキラを叱責するように告げた。

「くだらない泣き言はやめろ!」

「っ!?」

「『自分が』『自分が』ばっかりで、彼女の気持ちなんか一つも考えてないだろ、お前はッ!」

キラは弱々しい紫の瞳でアスランを見据える。アスランの叱責は止まらない。

「もういい!そんなに戦うのが嫌なら、ここでイジイジ腐ってろ!!」

フラフラと立ち上がるキラに、アスランの言葉が突き刺さる。アスランの隣にいるシンは今にもアスランに飛び掛かってしまいそうな険しい表情をしている。

(お前もお前で落ち着けって!)

「何も分からないくせにっ―――君にそんな事、言われたくない!!」

そう言ってキラがアスランに向かって突っ走っていった。キラは明らかに冷静ではなかった、軍事訓練を受けている者と受けていない者が喧嘩になれば、結果は明らかだ。キラは完全に後者だ。故にアスランに向かって殴りかかるも、キラは簡単にいなされてしまい、拳と蹴りをもろに喰らってまた吹っ飛ばされる。

(いや、脚は駄目だろ)

深海は腕組をしながら思わず突っ込む。アスランが言う。

「自分だけが戦っているつもりかッ?」

「仕方ないだろ!君らが弱いから―――」

「ふざけるなッ!それで世界を背負った気になって、思い通りにならなきゃ放り出すのか!?大したヒーローだなッ!!」

違うッ!!

キラは今にも泣きだしてしまいそうな、だがそれでも必死になってアスランに食い下がる。深海からして見れば、ヘナヘナなパンチとしか言いようがないキラの拳がアスランに向かって飛ぶ。しかし、その全てが外れ、また吹っ飛ばされる。だがキラは諦めようとしなかった。再びアスランに向かっていく。すると、シンがとうとう我慢できなくなり、飛び出した。

「やめろアスラン!隊長はっ―――」

だが、割り込んだ直後にシンは2人から拳骨をくらって吹っ飛ばされた。テーブルに叩きつけられたシンは、諦めずに立ち上ろうとする。

「クッソォー!」

「やらせときな」

また飛び掛かろうとしたシンをヒルダが腕を回して止める。まだシンは悔しそうな表情を浮かべているが、こればかりは深海も内心で、ナイス、ヒルダ。と彼女に称賛を送っていた。深海は喧嘩をする2人から目を逸らさず、見届けることに決めた。

「ヘタレた野郎は修正してやるのが友達ってもんさ」

シンは唸り声をあげてまた突撃しようとしたが、ヒルダに襟を摘み上げられて完全に動きを封じられてしまった。

(シン、お前は犬か?)

今あげた唸り声と言い、キラに対する感情と言い、シンはまるで子犬……と言うよりは忠犬のようだ。深海は思わず吹き出しそうになるが、必死に堪える。目の前では依然、キラとアスランの喧嘩が続いていた。

「僕が!僕がやらなきゃダメなんだ!―――嫌だけど、必死でッ!」

必死に拳を振り回すキラ、それをいなすアスラン。だが、明らかにアスランの様子がさっきと違う。下手に否定しようとせず、キラに胸の内を吐き出させている様にキラの拳を避けている。

「何で言わないっ?頼まないっ?誰かに―――」

 

 

お前1人で何が出来る!!

 

 

アスランの放った強烈なパンチがキラの頬を直撃した。今の一撃が決め手になったのか、壁まで吹っ飛ばされて座り込んだキラは、もう立ち上がろうとしなかった。アスランの後ろではシンが相変わらずヒルダに抑え込まれているし、何故かノイマンまで前に出ている始末だ。そしてえぐついた言葉で、キラは言った。

 

 

ラクスに、会いたい

 

 

(やっと、言えたじゃないか)

キラの言葉に、深海は優しい笑みを浮かべる。お前が本当に言わなければならない言葉はそれだ。と深海は心の内でキラに投げかけた。他のメンバーは少し驚いて声をあげる。キラは続けた。

「ラクス…ただ隣で笑っていて欲しいだけなのに―――僕にはもう、どうしたらいいのか分からない!!」

それがキラの本心から出た言葉だと、深海はすぐに気づいた。2度の大戦を戦い、数多の出会いと別れを繰り返して来たと言っても、キラはまだ19歳だ。夢から覚めた現実の世界において、キラはまだ成人すらしていない。良くて社会人1年目と言ったところだ。これから人生経験を積んでいく年齢の青年に、戦争による出会いと別れは心に深い傷を負わせただろう。そしてキラ自身の優しさが、今の今まで自分自身を追い詰めていた。深海はそう感じてキラを見つめ、投げかける。

(よく頑張ったな、キラ)

すると、アスランがキラに不思議そうに語り掛けてきた。

「しばらく見ない間に、ラクスは随分変わったんだな」

「え?」

「こうしてやらないと幸せになれないとか、出来ないと駄目とか―――俺の知ってるラクスはそんな事言わなかった筈だ」

周囲が驚くようにザワついたが、深海だけは、確かに。と口内で呟く。彼等とは違う、外側から(アニメとして)見た視点があったからだ。そしてキラは今までの記憶を呼び起こすように口を開く。

「ラクスは…世界が平和になるよう望んでた……」

「でも、誰かに「平和」をポンとプレゼントしてもらおうと思ったわけじゃないでしょ?」

マリューが横から優しく言葉を添え、アスランが確信した表情でキラを諭すように、優しい言葉を投げかける。

「そこへ向かって共に歩む相手を望んでいたんじゃないのか?一歩一歩、例え小さくとも」

キラは打ちひしがれた様子で誰に言うでもなく、確かめるように呟いた。

「今でも、そう思ってるかな……ラクスは……」

「不安なら会って聞いてみろよ」

「え?」

アスランの言葉に俯いていたキラの顔が上を向く、そしてそこにはアスランの差し出した手があった。

「行こう、キラ。ラクスを助けようっ、俺たちで―――」

 

 

言葉にしないと伝えられないこともあるから

 

 

キラが一瞬だけ戸惑ったように見えた深海は、彼の名を呼んだ。

「キラ」

そしてキラと視線が重なる。深海は強く頷いてみせた。その場にいた他のメンバーも、強く頷いていく。

(大丈夫だ。ここには、お前を支えることの出来る仲間がいる)

「……うん!」

キラはアスランの手を力強く握り締め、2人で立ち上がった。すると―――

「近くを通りかかって騒がしいと思って来てみたら、何なのよ、今の茶番は?」

「っ!アグネス!」

レクリエーションルームの入り口の方から声が聞こえ、そこに立っていた人物に驚いて深海が声をあげた。そこにはジャージ姿のアグネスが立っていた。服装はジャージだが、髪はしっかりと整えられ、以前の高飛車さも戻っているように感じられた。そんな彼女の姿を見て、深海は少しだけホッとしていた。すると、アグネスはズカズカと深海に歩み寄って来て、人差し指を深海のおでこに突き立てた。流石の深海も突然の事に驚いたが、それはすぐに収まった。

「私を無理矢理焚き付けた責任!アンタにはしっかり取ってもらうからね!」

「…わかってる。責任なら、俺に全て擦り付けてこい………感謝する、アグネス」

深海が短くお礼を述べると、アグネスはフンッ!と鼻を鳴らして、そっぽを向いた。

「フンッ、私のことをコケにして裏切った奴らの鼻を明かしてやりたいだけよ」

「フッ、お前らしいな」

深海は口元に笑みを浮かべ、アグネスへの感謝の気持ちを抱くのであった。

 

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