機動戦士ガンダムSEED Free……Dream ―ミカイが見た夢― 作:黒瀬夜明 リベイク
自分たちの愛機を受け取ったキラとシンは、ウエットスーツに着替えるため、更衣室にいた。勿論深海もである。深海棲艦と人間のハーフである深海は水中でもかなり長い時間息を続けることが出来るが、この世界でそんな事をする訳にもいかないので、大人しくウエットスーツを着ていく。すると、着替えながらシンが深海に尋ねてきた。
「そう言えばミカイさんの予想、かなり正確に当たってましたよね…」
「ん?ああ、あの時のブリーフィングルームで言った事か?」
深海は何のことか思い出すとシンは、不思議そうな顔で深海に尋ねる。
「何であんな正確に予想を当てられたんですか?俺、ずっと気になってて」
「あ~……なんて言えばいいんだろうな?」
深海はウエットスーツの袖に腕を通しながら考えた。あれは「新機動戦記ガンダムW Endless Waltz」の劇中で起こった事件から予想したことだ。しかし、そんなアニメ映画がこの世界に存在しているとは思えないし、どうした物かと深海は頭を捻る。そして、苦し紛れに言い放った言葉が―――
「昔読んだ小説で、そんな内容の奴があってな…それを元に予想しただけさ」
であった。表面上はいつも通りに話していたが、内心では、苦し紛れにも程がある。と思っていた。これで上手く誤魔化せるか?と深海は期待したが、シンから意外な言葉が返ってきた。
「あ、もしかしてそれ「カドヤマ書店」出版の「敗者たちの翼 終わりなき円舞曲」ですか!ミカイさんも、あの本読んだことあるんですね!」
「えっ!?…あ、ああ!も、勿論だ!」
(なんでエンドレスワルツそっくりな物が実際にあるんだよ!)
深海は内心でツッコミまくっていた。そして思い出した、シンはああ見えて文学少年だったことを。その事を思い出した深海は、咄嗟に先手を打った。
「だ、だが、それくらいしか覚えていないからな!登場人物についてもよく覚えていないから、お前の話には合わせられないかな!」
大嘘だ。この世界に存在するのであろう「カドヤマ書店」出版の「敗者たちの翼 終わりなき円舞曲」なる小説など、読んだことある訳がない。なので、「深海全身全霊のはぐらかし」である。
「そうだったんすね…なら、この戦いの後、また読んでみてくださいよ!」
「あ、ああ……覚えていたらな」
深海はやっとシンが引き下がってくれたことに、安堵するのであった。内心では大きなため息が盛大に零れ出ていた。
ミレニアムが停泊している港まで海中を泳ぎ、その舷側の海面から次々にウエットスーツを着込んだ者たちが顔を出し、手にしたフックショットで舷側の壁に取りつく。その内の1人が壁のプレートを外し、そこに伸びているケーブルに小型の端末を取りつける。それを確認したウエットスーツを着た者たちは、頷き合って別々の方向へと散っていく。
ミレニアムのハイジャック
これがマリューの考えた
(相変わらず、とんでもないことをする艦長だ…)
深海はそんな事を思いながら、艦橋の方へと向かっていくウエットスーツ数人を追いかける。深海は、キラ、マリューらと共にブリッジを制圧しに向かうのだ。シンやアグネスたちとは別行動となっているが、あちらにはヒルダが付いてくれている為、ひとまずは安心だ。すると突然、アラートと艦内放送が鳴り響いてきた。
〈乗組員は速やかに退艦してください。繰り返す、緊急警報!緊急警報!艦内Bデッキに有毒ガス発生!〉
(メイリンのハッキングは上手くいったみたいだな)
先のケーブルに取りつけた小型の端末は、言ってみればハッキングツールである。このハッキングツールを使い、外部から…今回はズゴックに取りつけられた円盤状のユニット「キャバリアーアイフリッド2」に乗り込んでいるメイリンがミレニアムにハッキングを仕掛けたのだ。故に、今流れている警報は偽物だ。そして深海たちは、艦橋後部の屋根にあるハッチを開け、そこから艦内へと潜入した。腰のホルスターから自動拳銃を取り出し、マリューの合図でブリッジに飛び込んだ。そして、飛び込んできた自分たちに気づいたアーサーが驚くように立ち上って振り返る。
「動かないで!」
「は、はいー!」
そんなアーサーに向けて拳銃を突きつけたマリュー。キラの後に続いて深海もブリッジに突入し、周りを警戒する。だがそこへ、ハインラインの早口が飛んできた。
「僕の計算より2分遅かったですね。ヤマト隊長」
その言葉にキラが振り向くと、艦長席に座っていたコノエがシートを回転させてマリューたちの方を振り返った。余裕を見せるコノエの表情を見て、マリューが小さく驚いているのが深海にはわかったし、真っ直ぐ向けられた拳銃を握る腕がゆっくりと下された。
「コノエ艦長……?」
「出港準備は終わっていますよ、ラミアス大佐。その物騒な物は必要ありませんな」
「やれやれ、一杯食わされたのはこっちって訳ですか」
深海はそう言ってウエットスーツのゴーグルとニットを脱ぎ捨てた。
ウエットスーツから制服へと着替え終わった深海たちはブリッジでこれから先の作戦についてコノエたちに説明をしていた。
「僕たちはアルテミス要塞に潜入して、ラクスを救出」
「ミラージュコロイドを使って敵の探知をくぐり接近する―――ニコルの戦術だな」
「ラクス救出には、ミカイさんとオーブ軍からキサカ一佐含めた4名の協力を得られることになっています」
キラはラクス救出に参加するメンバーについて説明する。深海はこのラクス救出作戦に加わることになっていた。これは個人的に、深海からキラとアスランにミレニアムハイジャック前に救出作戦に参加を願い出た為だ。理由は今は話すことが出来ない、と頼み込んだ時には目的を伏せており、それは作戦説明をしている今でもそうだった。
「我らは主力艦隊を突破して月へ」
「囮になる―――と言うことね」
「はい」
そこで簡単な説明は終わりだ。深海はそれを確認すると、コノエ艦長に願い出た。
「コノエ艦長、ヤマト隊長とザラ一佐を除いたパイロットをブリーフィングルームに集めてもらえませんか?今の内にパイロット全員に伝えておきたいことがあるので」
「わかった、すぐに手配させよう」
「ありがとうございます」
深海はそう言って敬礼するとブリッジを出ていった。
パイロットスーツに着替えた深海は、その足でブリーフィングルームへと向かった。艦内は慌ただしく人が右往左往している様子はなく、先程コノエが言ったように、いつでも出航できるように準備がされていたのだろう。そして深海がブリーフィングルームに到着すると、既にシン、ルナマリア、アグネス、ヒルダの4人が集まっていた。シンだけは何故か頬が少し赤くなっているように見えたが、深海は気にせず口を開いた。
「すまない。待たせてしまったな。ではこれから、ブラックナイツの対策を伝えさせてもらう」
「え?じゃあ、この召集はミカイさんが?」
ごもっともな返事がシンの口から飛び出してくる。深海は、そうだ。と言って話を始める。
「全員がもう知っていると思うが、ブラックナイツの使用するモビルスーツにビームは効かない。これについての対策として、オーブから「試製35式改レールガン」が供与された。今回の出撃で敵艦隊及び敵部隊に対する攻勢はシン、ルナマリア、アグネスの3人に努めてもらい、以上3名の搭乗機は必ずレールガンを持って出撃するように。ハーケン大尉のゲルググは、ミレニアムの上空直掩をお願いしたい」
「なるほどね。確かに私が乗ることになったルナマリアのゲルググは、あの3機に比べたら対多数においての突破力に乏しい。なら、上空直掩でミレニアムを護るって訳かい」
「はい。最終的にはクライン総裁を収容することになります。ミレニアムの上空を丸裸には出来ません」
「いいだろう、あんたの話に乗ってやろうじゃないか」
自分の話を聞いて、ヒルダが賛成してくれたことに深海は感謝した。最初は受け入れてもらえないかもしれないと思っていたが、どうやら杞憂だったようだ。そこで深海はもう1つのブラックナイツ対策について話し始める。
「そして次が最も重要になってくる内容だ。ブラックナイツのモビルスーツ隊が現れる前に、出来うる限り、多くの随伴機を撃墜すること。ブラックナイツのモビルスーツ…特に同型タイプの4機は、これと言って抜きん出た性能的特徴がフェムテク装甲くらいしかない。火力も並の量産型モビルスーツより少し上と言ったところだろう、その火力を補っているのが随伴機のジンやディンだ」
深海は説明をすると、ムラサメストライクで出撃した時のカメラ映像をモニターに流した。自身の前方を塞ぐように展開するジンとディンの群れが、一斉にミサイルを放ってくる光景がそこにはあった。エルドアでの戦闘でムラサメストライクは被弾しなかったが、ミサイルの波状攻撃の光景は凄まじく、圧倒されそうだった。それを深海は伝えたのだ。
「そしてこの随伴機狩りは、ルナマリア、アグネスにお願いしたい。ルナマリアのインパルス……特にブラストインパルスは言うまでもなく、高い火力がある。ギャンは得意の格闘戦で敵陣を撹乱しつつ、敵機を墜としてほしい。これは、ルナマリアとアグネスのコンビネーションが物言うだろう、よろしく頼むぞ」
「了解です、ミカイ大尉」
「良いじゃない。あいつ等の敷いたレール、ボロボロにしてやるわ」
ルナマリアはいつも通り生真面目に答え、アグネスはこれから鼻を明かされるブラックナイツたちの顔を思い浮かべているのか、ニヤリと小さく笑っていた。
「そしてシン。お前は積極的に前へ出てくれ。そしてブラックナイツたちが来た時は、お前があいつ等を相手取ってほしい。お前と
深海が口元に笑みを浮かべてシンに告げると、シンはつい先ほどデスティニーガンダムSpecⅡと再会し、その後に見せた自信に溢れる笑みを浮かべた。
「ヘヘッ!任せてくださいよ!もうあんな奴らに負ける気なんてありませんからね!」
「任せたぞシン、お前なら出来ると信じているからな」
「はい!」
シンが元気のいい返事をしたのと時を同じくして、ミレニアムが大きな鼓動を打つように揺れた。深海はその揺れが、ミレニアムの出航した合図だとすぐに分かった。