機動戦士ガンダムSEED Free……Dream ―ミカイが見た夢―   作:黒瀬夜明 リベイク

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PHASE-24 反抗の宇宙(そら)

港を出たミレニアムは、速度を増していく。巨大な船体は波による揺れは殆んど無く安定した航跡を引きながら、ミレニアムは薄明の海を進んでいく。ブリーフィングルームを出た深海たちはそのままパイロット待機ルームへ向かった。シンたちが椅子に座って待機する中、深海はエレベーターに乗り込み格納庫へと向かう。

「ミカイさん、もう格納庫に行くんですか?」

「ああ、エリカ主任が回してくれたムラサメストライクの追加装備。それの調整を今の内にしておこうと思ってな」

深海はシンたちの返事を待たずエレベーターの扉を閉じた。エレベーターはあっという間に格納庫に到着し、扉が開く。深海は真っ直ぐムラサメストライクの元へと向かう。目の前まで来たところで顔を上げると、ムラサメストライクの両肩に水色をしたアーマーパーツが取り付けられていた。ソードストライカーパックの肩部装備であるビームブーメラン「マイダスメッサー」が追加装備された。以前まで装備していた肩部装着型のエールストライカーの主翼は撤去され、これで大気圏内を飛ぶことは出来なくなっただろうが、これから向かうのは宇宙だ。余り気にすることもないだろうと思い、深海はエリカに調達をお願いしたのだ。

「肩部追加装備の調整はどうだ?」

深海はムラサメストライクの足元で作業をしていた整備員に声を掛けた。

「肩部への装着は完了しました、後はOSとシステムの調整だけです」

「わかった、始めよう」

深海はそう言ってムラサメストライクの固定具の真下にある昇降機でムラサメストライクのコックピットへと向かい、そのまま中へ入った。早速システムを立ち上げ、ムラサメストライクを起動状態にする。コックピット右側に設けられたキーボードコンソールを下ろし、システムと装備、OSの調整を始めた。モビルスーツのOS調整などやったことが無い深海だったが、やはり今が夢の中だからか、手は勝手に動くし目がモニターに表示される映像を追って右往左往する。一緒に上がってきた整備員と何度か会話をしながら、深海はキーボードを叩く。すると、何処からともなく通信が飛び込んできた。

〈ファウンデーション、聞こえるか?〉

(この声は…キラか?いったいどこから?)

深海は通信の回線を開いた。どうやら、国際救難チャンネルの回線のようで、どうやらミレニアムのブリッジから発信されているようだ。画面にはミレニアムのブリッジとキラの顔が映し出されている。

〈こちらはミレニアム、キラ・ヤマト〉

「なかなか考えたじゃないか、キラ」

深海は呟きながら、キーボードを叩いていた。今この状況でキラはファウンデーションに自分が生きていることを証言した。ましてや、全世界に向けて言葉を伝えることの出来る通信回線「国際救難チャンネル」で、だ。この行為は、全世界の人間の耳に届くだろう。そう、ファウンデーションが数日前に行った核の自作自演の真実が。キラは真剣な表情だったが、その内側にはこれでもかと皮肉を込めたのであろう口調で言い放つ。

〈残念だったね、僕はまだ生きている。自分の国民を犠牲にしてまで殺そうとしたのにね〉

(フッ、ついでにナチュラルのパイロットに傷一つ付けられなかったのにな……って、付け加えてやりたいな)

深海はそんな事を考えながら、キラの発する言葉に耳を傾ける。手元のキーボードを叩く手は止まらないが、口元には憎たらしい笑みを浮かべていた。

〈君たちは人類を導く者なんかじゃない。ただの殺戮者だ!僕たちは真実を知っている。証拠もある。世界中にその事を訴える!〉

(……ん?ちょっと待てよ、これってもしかして………)

そしてキラは宣言した。

〈君たちの負けだ!アコードか何か知らないが、虐殺者の企みは絶対に潰す!〉

(やばい!レクイエムがこっちに来るかもしれない!)

深海がそう考えを巡らせた時、深海は思わず整備員に向かって叫んだ。

 

今すぐ何かに摑まれっ!!

 

「え―――」

深海の言葉を聞いた整備員が聞き返そうとした時、突如ミレニアムが激しく揺れた。深海は咄嗟に手を伸ばし整備員の腕を強く握り締めた。それと同時に、ミレニアムの格納庫は垂直に近い角度に変化した。格納庫のあちこちから次々に悲鳴と絶叫が上がってくる。

(先に何か一言言ってくれぇ、ラミアス艦長ぉ!!)

深海は整備員の腕を必死に掴みながら、絶叫したい思いを押し殺して口内で叫ぶのだった。それからしばらくの間、ミレニアムの格納庫は同じ状況が続くのだった。

 

 

(はぁ…酷い目にあった)

格納庫が無重力空間となったことを確認した整備員の腕を離した。お陰でムラサメストライクの調整は全然進んでいない。そして宇宙に来たという事は、深海はすぐにラクス救出作戦に向かわなければならない。深海はため息を一つ吐くと、コックピットから身を乗り出す。

「すまないが、俺は別任務があるからまた後でな」

「あ、はい!お疲れ様ですクロノ大尉!」

深海はその足でアスランのズゴックの元へと向かって行った。格納庫のあちこちにはさっきの出来事の余波で無茶苦茶な状態だ。整備員たちが慌ただしく右往左往して、片づけをしている。そして格納庫の床の方を見下ろせば、シンたちがそれぞれの乗機へと向かっていくのが見えた。深海は、何を思ったか、ズゴックの手前で方向を変え、シンの元へと向かった。シンは既にデスティニーの元へと到着して、ハッチを開く寸前だった。

「シン!」

深海がシンに声をかけると、シンが深海の方を振り向く。深海はデスティニーのコックピットの右側にいたシンの反対側、左側に手を伸ばして動きを止めた。

「どうしたんですか、ミカイさん?」

「いや、用事がある訳じゃないんだが。一言、お前に伝えておこうと思ってな」

深海は、シンの赤い瞳に一瞬視線を重ねると、一言だけ彼に伝えた。

「必ず全員で帰って来いよ」

「え?」

「お前がルナマリアやアグネス、ヒルダの命を背負っている訳でもある。今のお前なら大丈夫な事は分かっているが、これだけは言っておきたくてな」

「……あの、ミカイさんは何でそんなに俺の事、気にかけてくれるんですか?」

すると、シンから不思議そうに深海に尋ねてきた。自分でもわかっている。深海はシンに対して、かなり面倒を見ていた。そしてそれが、自身の境遇と少し重なる部分から来ているものであることも、わかっていた。

「俺もお前とよく似た境遇だからな。放っておけなかった、それだけだ」

戦争で親兄弟を失ったシン。深海も戦争で父を軍に処刑され、母と妹と生き別れた。今はそんなことは無いが、それでも、一度は深海もシンと同じ境遇となったのだ。だから、放っておけなかったのだ。

「じゃあ、ミカイさんも……」

「俺は大丈夫だ。だからお前は自分と、自分の大切なものを最後まで守り続ければいい。そうしていれば、家族も、思い出の中の彼らもきっと喜んでくれる。お前は彼らの―――」

深海は笑みを浮かべてシンに告げた。

 

 

生きた証なのだから

 

 

シンはそこでハッとした様な表情になった。深海はそんなシンの顔を見て満足感を抱いていた。シンにはこの先、自分と同じように幸せを手にして貰いたい。自分も苦しんだが、今の現実では幸せに過ごせている。例えこれが夢の世界だったとしても、彼には幸せに生きてほしい。深海は素直にそう思ってやまなかったのだ。深海はデスティニーから離れると、そのままズゴックの方へと向かって行った。少し振り返ると、シンは深海の方を向いたまま、しばらく立ち尽くしていた。

 

 

「じゃ、マリューさん。行ってきます」

〈ええ。必ずラクスさんを〉

キャバリアーのコックピットでキラがブリッジにいるマリューに向かって言った。マリューも温かい言葉でキラを送り出す。深海はそんな姿を傍らから見ていた。

(うちのバカ母もあれだけお淑やかだったらなぁ)

などと、自分の母親である空母水鬼に対する愚痴が口内でこぼれる。深海の母親である空母水鬼は深海に対する愛情表現が悉く過剰なのだ。何度あの行為に呆れ、投げ飛ばしてきたのか、数える気にもならない。だが、いざという時はとても頼りになるし、最近では航空母艦翔鶴の装甲空母改装型の艤装を纏って、共に海を護っている。だが深海はそこまで考えた所で、思考を現実に引き戻す。するとキラが、シンのことを呼んだ。

「シン」

キラに呼び出されて、シンがキョトンとした表情をモニター越しに見せた。が―――

「ミレニアムを頼むよ」

キラの言葉に一瞬驚いたシンだったが、モニター越しの表情ははち切れんばかりの笑顔にすぐに変わった。

〈ハイッ!〉

(俺にも、あれくらい素直で可愛い息子が欲しいものだ)

深海はそんな事を口内で独り言ちていた。そして通信を切ったキラが、背後のシートに座っているアスランに向かって尋ねた。

「変だったかな?」

メイリンが笑顔で首を振り、アスランも笑みを浮かべて口を開く。

「良いんじゃないか?」

キラは憮然として椅子を元に戻す。その表情は何故か膨れっ面だった。たぶん、アスランの言った通りになったのが、少し釈然としなかったのだろう。そしてズゴックはミレニアムの甲板から飛び立った。すぐにミラージュコロイドが展開され、その姿はあっという間に闇の中へと消える。深海は正面モニターへ向き直り、広大に広がる黒い宇宙空間。その先にあるアルテミス要塞を見据えていた。

 

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